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第16話 メイドNPCホルンと不可抗力

 アックスは悪質なプレイヤーキラーを倒した後、当初の目的どおり装備を修理してもらうために魔狼の森にいる知り合いに会うために冒険者居住区に向かった。


 アックスの知り合い――オウカはメインクラスがサモナー。そしてサブクラスの全ての生産職のレベルをカンストしているマイスターの称号持ちのプレイヤーである。


 魔狼の森はモンスターがポップする戦闘フィールドなのだが、森の奥にある冒険者居住区はセーフティーゾーンとなっており、モンスターがポップしない仕組みになっている。

 冒険者居住区と呼ばれるこの区画では土地を購入すれば、その土地の上にプレイヤーハウスを建てることが可能だ。

 しかし、この魔狼の森の冒険者居住区はホームタウンである王都から離れており、不便で人気がなかった。


 オウカはこの不便な森の奥で武器防具店を経営している変わったプレイヤーであった。


 オウカは以前アックスが所属していたクランのメンバーで、アックスがクランを抜けた後も交友を続けていた。

 あまりフレンドがいないアックスと今でも交友が続いている理由についてだが、オウカはDTOの世界で鍛冶屋になりきったロールプレイヤーであり、リアルの話をゲーム内に持ち込むプレイヤー嫌い。

 ゲームの世界のロールになりきりたいアックスとは何かと気が合った。


「着いた……」


 アックスは深い森を抜けて冒険者居住区に到着した。

 煙突のある茜色の屋根の家がオウカのプレイヤーハウスである。

 煙突からは煙が出ており、オウカが作業中なのは間違いない。

 入口の扉の上には「オウカの武器防具店」と書かれた看板が下がっている。

 プレイヤーハウスをアイテムショップにするとバザーと違い、販売の際に手数料がかからないというのが利点なのだがこんな辺鄙な場所に店を構えて、わざわざ武器を買いに来る客はいるのだろうか?

 アックスは疑問に思いながら扉を開けて店に入った。

 店内には様々な武器や防具が並べられている。


「いらっしゃいませっ! オウカの武器防具店にようこそっ!」


 店に入ると元気な入店挨拶で迎えられた。

 声の主はカウンターにいるエプロン姿の亜麻色の髪の少女だ。

 DTOではキャラクターの頭の上のカーソルの色でプレイヤーなのかNPCなのか判別可能だ。

 例えばプレイヤーならば白か黒、NPCならば青、モブならば緑か赤という風になっている。

 亜麻色の髪の少女の頭の上に浮かぶカーソルの色は青色。

 この少女はプレイヤーではなくオウカが雇っているホルンという名前のメイドNPCである。


「これはこれは、アックス様ではありませんか。お久しぶりです。今日はどんなご用件でしょうか?」


 ホルンはニコリと笑みを浮かべながらアックスに話しかけた。

 その笑みに不自然さはなく、カーソルが青色でなければNPCだとは分からないくらいだ。

 まぁ、もし現実世界でアックスのような腰に動物の皮を巻いただけの半裸の男が店に入ってきたら、生身の人間であれば平然と笑みを浮かべたりはしないだろうが……

 メイドNPCは自分好みにエディットすることが出来るのだが、ホルンの胸はとても大きい。

 オウカの女性の好みが分かるというものだ。


「久しぶりだな。オウカに用があるんだがいるか?」

「オウカ様は奥の鍛冶場にて作業中です」

「呼んで来てもらえるか?」

「申し訳ございません。オウカ様から気が散るので作業が終わるまで誰が来ても呼びに来るなと言われております」


 ホルンは申し訳なさそうに言った。

 メイドNPCは基本的にマスターの言うことを忠実に守るので、何度お願いしても結果は同じだろう。

 しょうがないな。

 アックスは実力行使に出ることにした。

 カウンターを乗り越えて、アックスは奥の鍛冶場につながる扉のドアノブを掴んだ。


 ガチャガチャ


 扉は鍵がかかっていて開かない。


「オウカー! 俺だー! 出てこーい!」


 ドンドンと扉を乱暴に叩きながら大きな声でオウカを呼んだ。


「オウカー! 俺だー! アックスだー! 装備を修理してくれー!」

「アックス様、おやめくださいっ!」


 ホルンはアックスの腕を引っ張って鍛冶場の扉から引き離そうとするがビクともしない。

 アックスはホルンの制止を無視して大きな声で呼びかけを続けた。


「アックス様、オウカ様の作業の邪魔をしてはいけません!」


 ホルンは両腕でアックスの太い腕を抱え込むようにして必死になって引っ張っている。

 胸が……ホルンの豊満な胸の柔らかな感触が腕を通して伝わってくる。

 これは色々とヤバい。


『ノンプレイヤーキャラへのハラスメント行為は禁止されています。今すぐノンプレイヤーキャラに触れるのをお止めください。やめなかった場合、あなたのアカウントは停止されます』


 NPCへのハラスメント行為は禁止されているのだが、これは不可抗力だ。

 このままではアックスのアカウントは停止されてしまう。

 これではMPKならぬNPKである。


「ちょっ! ホルン、腕を放せ! ハ ナ セ!」

「嫌ですーっ!」


 アックスはホルンを両腕を掴んで引き剥がしたが、ホルンはオウカからの命令を守ろうとアックスにしがみつこうとして暴れた。

 そしてもみ合いになり、二人はバランスを崩して倒れこんだ。


「うおっと!?」

「きゃっ!?」


 倒れた状態でアックスはホルンに声をかける。


「ホルン、すまん。大丈夫か?」

「はい……でもアックス様、その……手をお放しください……」


 アックスは左手に柔らかい感触があるのに気づいた。

 左手はホルンの右胸に添えられ、右手はホルンの左手首を掴んだ状態で床に押し付けている。


『ノンプレイヤーキャラへのハラスメント行為は禁止されています。今すぐノンプレイヤーキャラに触れるのをお止めください。10秒以内にやめなかった場合、あなたのアカウントは停止されます』


 警告アラームとシステムメッセージが再び流れた。

 その時だ、鍛冶場に続く扉が突然開いた。


「うるさーい! お前ら何をしていっ……!?」


 出てきたのは作業着姿のアックスに勝るとも劣らない筋骨隆々とした肉体の赤毛を逆立てた外見年齢20代半ばの大男――アックスの目的の人物、オウカであった。

 そしてオウカが扉を開けて最初に目にしたのは自分のメイドNPCが半裸の顔見知りのプレイヤーに押し倒されている光景であった。

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