第15話 VSプレイヤーキラーペロ その4
アックスがペロとの戦闘で実行した作戦は二つ。
一つは森の木に隠れながらペロに近づき背後から攻撃。
もう一つはアックスのサブクラス「木こり」のメインアームである伐採用ハチェットで木を叩きながらの移動だ。
アックスはあと一発叩けば木を切り倒せる状態にしながらヒットアンドランを繰り返していた。
木を切り倒してトラップとして利用すれば相手をかく乱することが出来る。上手くいけば押し潰すことでトラップ死を誘うことも可能だ。
攻撃を避けながらペロにバレないように木を叩くのは至難の業だったが、ハチェットの投擲による牽制攻撃を隠れ蓑に上手く騙すことが出来た。
しかし、ペロはどうやら実況するためのドローンを監視カメラ代わりに複数設置していたようで、下手をしたら気づかれていたなとアックスは冷や汗をかいた。
あくまで二つ目の作戦は一つ目の作戦が失敗した時の保険として考えていたのだが……
「くそっ、てめぇ、トラップ仕掛けるなんて卑怯だぞッ!」
ペロは木に潰されながらもまだ生きており、ギャーギャーと喚いていた。
ゴキブリ並みにしぶとい奴だ。
ジタバタともがいているが木と地面に挟まれて抜け出せないでいる。
「初心者狩りをしたり、ドローンを監視カメラ代わりに使ってる奴に言われたくないな。これは頭脳プレイってやつだ。お前は敵が目の前にいるのに余所見して、トラップにも気づけないただのマヌケだ」
「うるせー。お前絶対殺してやるからな。覚えてろよ」
「いや、俺はお前のつまらない実況なんて興味ないし、覚えられねーよ」
「つまらないだと? 殺す殺す殺す殺す」
うるさいな。
自分は悪趣味なプレイヤーキルをしておきながら、否定されたとたんこれだ。
まるで自分の思い通りにならなくて癇癪を起こすガキだ。
もしまた襲ってきたとしても返り討ちにしてやるまでだ。
「用事もあるんでな。そろそろ終わりにさせてもらう」
アックスは背中のフリントストーンアクスを抜いてスキル「メテオストライク」を発動させた。
斧は真っ赤に燃える炎のように光り輝き、スキルのシステムアシストに誘導されて振り上げられる。
「ちょ、待て、やめっ……」
「お前は今までプレイヤーキルをやめてほしいと言ったプレイヤーのお願いを聞いたことはあるのか?」
「そ、それは……」
続きの言葉を待つつもりはないし、聞いてみたはいいが興味もない。
アックスはペロの言葉を無視してこん身の力を込めてペロの頭部に斧を振り下ろした。
ドガァアアアン
爆発音が響き、ペロの頭部は粉砕されてポリゴンの粒子となって消滅した。
ペロのヒットポイントバーはゼロになり、首なしの灰色の死体が出来上がった。
仮想世界において痛みは発生しないが頭部にあれだけの衝撃を受けたのだ。
安物のダイバージェンスギアを使用していればログアウトして現実世界に戻った後、フィードバックで酷い頭痛と吐き気に襲われることになるだろう。
特に罪悪感はない。自業自得だとしか思わない。
数秒後、蘇生可能時間が過ぎて、死体の周囲にこの世界の通貨であるシュテルと赤い弓がばら撒かれた。
DTOではプレイヤーキルされるとペナルティーとして経験値の減少、所持金額の半分と装備をランダムで一つドロップとしてロストするシステムになっている。
アックスがシュテルと赤い弓に触れるとシステムメッセージが流れる。
『214シュテルを入手しました』
『紅蓮の短弓を入手しました』
214シュテル……
シケてるな……
アックスはガックリと肩を落とした。
しかし、入手した武器の方はそれなりのレアリティーであり、良い金額で売却出来るかもしれない。
「貰っていくぞ」
アックスはペロの首なし死体に話しかけた。
死ねば言葉を話すことが出来なくなるがプレイヤー自身はまだそこにいる状態であり、視覚もあれば聴覚もある。
頭がないのに視覚も聴覚もあるというのはおかしな話だが、アックスの声は聞こえているはずだ。
通常、蘇生可能時間が過ぎた状態で一分経過するとプレイヤーは街の教会で生き返ることになる。
しかしプレイヤーキラーのような魂罪の数値が高いプレイヤーは別だ。
アルバトロス監獄島という隔離されたエリアに飛ばされ、魂罪の数値に応じて一定期間内はそこから出ることが出来ないようになっている。
一分後、ペロの死体は消え、宙に浮かぶドローンも消えた。
これでペロはアルバトロス監獄島に飛ばされたはずだ。
別アカウントのキャラでも持っていない限り、しばらくの間は仕返しにやって来ることもないだろう。
「さてと……」
防具を修理するために知り合いのところに向かうだけのはずが、面倒ごとに巻き込まれて時間を食ってしまった。
そういえばあのプレイヤーキラーに襲われていたミントというプレイヤーはどうしただろうか?
少しだけ気になったがDTOではフレンド登録していないと連絡を取る手段がない。
ゲームを始めて早々にプレイヤーキラーに襲われたのではトラウマになってもうログインしないかもしれない……
DTOの楽しさを知る前に嫌な思い出だけが残ってしまったとすると残念だとアックスは思った。
ペロのやっていたログアウトの妨害はハラスメント行為に抵触するだろう。
動画撮影についても他のプレイヤーが映る場合、プレイヤーの承認が必要なはずだ。
プレイヤーキルの動画撮影も禁止されている。
それにペロのドローンは明らかにおかしかった。
通常は一つしか所持出来ないはずなのに複数所持しており、自分のいる場所からある程度近くの距離までしか飛ばせないはずなのに、ドローンはプレイヤーから離れ過ぎていた。
違法ツールで改造されていたのかもしれない……
アックスはメニューを開き、サポートデスクからGM宛に迷惑行為と不正行為の報告のメールを送った。
「これでよし……」
ペロのようなプレイヤーキラーが果たして処罰されるのか分からないが、何もしないよりかはマシだ。
プレイヤー間のトラブルがなくなることはないだろうが、システム側が改善することによって未然に減らすことは出来るだろう。
プレイヤーの声を運営が聞き、ミントのような被害者が減ることを願う。
アックスはメニューを閉じ、本来の目的である知り合いのプレイヤーハウスに向かった。




