第13話 VSプレイヤーキラーペロ その2
DTOの世界においてアーチャーはステータスのDEXを上げることで命中率が上がる。
現実に弓を扱ったことがある人間はごく少数だろう。
いきなり仮想世界のアバターを操作して弓を扱えと言われても無理な話だ。
そこで考えられたのがセミオートアタックというシステムだ。
DEX:技量 遠距離武器攻撃力に影響を与える。セミオートアタック照準補正アップ。
照準補正――
矢を弓につがえて弦を引くと勝手に体が動き、姿勢制御された状態で敵をロックオンしてくれるのだ。
つまりプレイヤー側は弓を引くだけで攻撃が当たる。
このシステムアシストはプレイヤー側がON・OFFを選択出来るのだが――
アックスは背中のフリントストーンアクスではなく投擲武器であるハチェットを両手に握り締めて木の陰から飛び出した。
弓の種類は大別して短弓と長弓の二種類があり、ペロの装備している弓は短弓だ。
短弓は速射性能に優れるが射程が短く、長弓は速射性能は短弓に劣るが射程が長く命中率が高い。
ペロはニヤリと笑ってアックスに矢を連続して放った。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ
アックスを追いかけるようにすぐ後ろを矢が掠めていき、地面や木に突き立つ。
それを横目に見ながらアックスは確信した。
やはり、思ったとおりだ――
ペロはセミオートアタックをONにしている――
モブ相手の戦闘ならばそれでいいだろうが、これは対人戦闘である。
プレイヤーの動きを先読みして矢を放たなければ命中しない。
初心者を狙うようなことをしているあたりからもしやと思ったのだが……
このペロというプレイヤーキラー……
「お前、格下としか戦ったことないだろ?」
「くそ、どうして当たらないッ!」
ペロは苛立ちながら矢を放つがアックスには当たらない。
アックスは右手のハチェットを投擲スキル「トマホーク」でペロに向かって投げつけた。
トマホーク使用後のスキルウェイトタイムは1秒。
ウェイトタイムが終わり次第、間髪入れず「トマホーク」を再度発動させて左手のハチェットを投げつけた。
スキルによって加速された二本のハチェットは高速回転しながらペロに向かって飛んでゆく。
一本目のハチェットは身を引いたペロにかわされ、後ろの木に突き刺さった。
しかし、二本目のハチェットはかわすことが出来ず、ペロの腕にヒットした。
ヒットポイントバーが数ドット削れるが決定打にはならない。
「そんなショボイ攻撃、蚊ほども効かねーんだよ!」
ペロは飛び道具使いである自分よりも先にアックスに飛び道具で攻撃を当てられたことでプライドを傷つけられ顔を歪めた。
「近接斧が飛び道具でアーチャーに勝てるわけないだろうがァ!」
ペロは怒鳴りながら範囲攻撃スキル「アローレイン」をアックスに放った。
降り注ぐ矢の雨の中、アックスはハチェットを何度も投擲しながら森を駆け抜ける。
アックスは木の陰に隠れては飛び出し、ハチェットを投げつけるヒットアンドランを繰り返した。
「くっ」
流石のアックスもペロのアローレイン全てをかわすことは出来ず、足を見ると矢が一本突き刺さっていた。
一発被弾したくらいでは大したダメージにはならない。
「原始人が、隠れてないで出て来いよォ」
ペロはアックスを見失ったのかアローレインを周囲にばら撒いている。
森に隠れながら回り込むように移動してペロの背後から攻撃するか――
アックスは刺さった矢を抜いて低級ポーションでヒットポイントを回復させた後、静かに移動を開始した。
「くそ、見失った……」
ペロは周囲をキョロキョロと見回してアックスの姿を探している。
攻撃の絶好の好機である。
アックスは背中のフリントストーンアクスを静かに抜き放ち、ペロの背後に忍び寄った。
攻撃を仕掛けようと思ったその時だ――
「なーんてな」
ペロはアックスの隠れている方向にくるりと振り返る。
しまった――
隠れている場所がバレていた?――
そう思った時にはもう遅い。
ペロはいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべて高速射撃スキル「クイックショット」をアックスに放った。
ズドン
アックスは光る矢に胸を貫かれて吹き飛んだ。
そして吹き飛びながら空中に浮かぶそれを見て、隠れている場所がバレた理由を理解した。
空中に浮かぶカメラ――
あれは実況動画を撮影するためのドローンだ――
ペロはドローンのカメラの映像からアックスの隠れている位置を把握していたのだ。
アックスはヒットポイントを3割ほど失い、地面に転がった。




