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第11話 ウォーリアの誇りにかけて

 森の奥に消えたミントという名前のソーサラーを追いかけたアックスであったが……


「見失った」


 あのソーサラーのプレイヤーはどれほど森の奥に進んでしまったのか。

 後を追いかけて探したのだが見つけられなかった。

 もしかしたらモンスターとエンカウントして死に戻りしてしまったのかもしれない。

 まあ、初心者が死に戻りを経験するのも経験の一つだろう。

 よく考えたら初心者を森の外に連れ戻してやる義理もない。

 探すのを諦めて魔狼の森の知り合いのプレイヤーハウスに向かうとするか。

 アックスがそう思ったその時だ――


「あはは、逃げろ逃げろー……」


 男の笑い声がアックスの耳に聞こえてきた。

 探していたソーサラーは女であって男ではないのだが……

 とりあえずアックスは草木を掻き分けて声のした方に進むことにした。

 声のした場所に到着したアックスであったが――


「あはは、ミントちゃーん、もっと上手く逃げないと殺されちゃうよー?」


 アックスの目に飛び込んできた光景は吐き気をもよおすものだった。

 ペロというアーチャーが探していたミントというソーサラーに弓を向けて矢を放ち、追いたてるその醜悪な光景はまるで人間を動物に見立てた狩りだ。

 ミントは泣きながら逃げ惑い、メニューを開いてログアウトしようとしているのだが、ここは街中とは違って即オチすることが出来ない戦闘フィールドである。


「ログアウト出来ない……どうして……」


 戦闘フィールドでは転移、ログアウトは10秒の時間を要し、また攻撃を受けるとキャンセルされてしまう仕様だ。

 理由としては即落ち、即転移を利用したMPK防止のためである。

 ミントは攻撃による妨害を受けてログアウト出来ないでいる。


「プレイヤーキラーか……」


 DTOではプレイヤーを殺すと魂罪という数値が増え、数値に応じてキャラネームの色が黒くなっていくのだが、ペロの頭の上に浮かぶキャラネームの色は真っ黒である。

 魂罪が溜まった状態のペナルティーとして街や駐屯地の兵士に見つかると攻撃を受ける仕組みになっている。

 街への出入りが難しくなるため、魂罪が溜まるようなプレイをするプレイヤーは少ない。

 いったいどれだけのプレイヤーを殺せばこんなにも黒くなるのか……

 プレイヤーキルを嫌うプレイヤーは多い。DTOのフォーラムにはシステムの改善要求スレッドが立てられ、プレイヤーキラーから他のプレイヤーを守るためのクランまで存在しているくらいだ。

 アックスはというとプレイヤーキラー自体はロールプレイの一環として認めており、同等レベルの者同士が殺しあうことについては特に思うところはない。

 しかし――

 アックスは腰のハチェットを抜き放ち、投擲スキル「トマホーク」を弓を構えているペロに向かって放った。

 ハチェットは高速回転しながら飛んでいきペロの頭に突き刺さる。


「ギャッ!?」


 ヘッドショット。クリティカルだ。

 ペロのヒットポイントバーはクリティカルによって数ドット削れるが、トマホークは牽制用のスキルであり大したダメージにはなっていない。


「てめー不意打ちかよふざけやがって。びびったじゃねーか」


 攻撃をされてからアックスの存在に気づいたペロはアックスを睨みつける。そして頭に刺さったままのハチェットを抜いて地面に叩きつけた。

 アックスはその間にペロとミントの間に割り込み、ペロの射線を遮った。

 ミントはというとアックスを新たなプレイヤーキラーの登場だと思ったのか頭を抱えてしゃがみ込んで震えている。


「おい、そこのお前。もうそれくらいにしておけ」


 ペロのやっていることはただの初心者狩りだ。これ以上見過ごすことは出来ない。

 アックスは背中のフリンストーンアクスを抜き放ち、戦闘態勢に入った。


「邪魔すんじゃねーよ。ふざけた格好しやがって。原始人のくせに正義の味方のつもりかよ」

「初心者相手に恥ずかしいと思わないのか? プレイヤーキルしたいなら同じレベルでやれチキン野郎。相手なら俺がしてやるよ」

「んだと、不人気斧雑魚が俺に勝てるとでも思ってんのか?」


 ダイバージェンスギアは使用者の感情を読み取り、プレイヤーの表情に反映させる。

 初心者狩りを邪魔されたこととアックスの挑発によって、ペロは怒りで額に血管を浮かび上がらせながらスキル「クイックショット」を発動させた。

 クイックショットは発動すると身体が自動で動き、敵に向けて高速射撃を行うスキルだ。

 ペロは背中の矢筒から素早く矢を抜いて弓につがい、アックスに向けて矢を放った。


「おっと」


 身を逸らして間一髪で矢を避けたアックスであったが、このまま立っているのは危険だ。


「きゃっ」


 地面にしゃがみ込んでいるミントを抱き抱えてアックスは木の陰に隠れた。


「転移石だ。使え。使えば街に戻れる」


 アックスはまだ状況を理解してなさそうなミントに転移用のアイテムを渡した。


「あ、あなたは……?」

「俺はこれからあいつを倒さないといけない」


 ペロのレベルはおそらくカンスト、装備もそれなり。

 それに対してアックスはというとシーズナルイベントのサーフパンツを履いただけのほぼ半裸だ。


 勝てるのか?――


 正直言って圧倒的不利は否めない。

 しかし、初心者狩りをするようなクズに負ける訳にはいかない。


 絶対に倒す――

 ウォーリアの誇りにかけて――


 こうして斧使いアックスとプレイヤーキラーペロとの戦いの火蓋は切られた。

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