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プロローグ

 斧使い。漫画やアニメなどの物語において斧を使う登場キャラが主人公になることは滅多にない。

 理由は諸説あるが物語で主人公になるのは騎士などの剣を使うキャラがほとんどである。

 伝説の聖剣の神話は世界各地にあるが、伝説の聖斧なんて話はあまり聞かないのも理由の一つだろう。

 斧を使うキャラのだいたいが主人公に倒される山賊や盗賊のようなポジション、もしくは主人公を引き立てるための脇役だ。

 斧を装備しているキャラは髭面のムキムキのおっさんばかりでハンバーガー大好き国なら大人気だろうが、スシ大好き国では筋肉モリモリのガタイのいいおっさんよりも美形ホストのような外見のキャラが好まれるのだ。

 それは、彼――小野冬馬がプレイしているVRMMORPG「ドラゴンテイルオンライン」においても例外ではなかった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 アックス、それがドラゴンテイルオンライン――DTOでの小野冬馬の名前だ。

 選んだメインクラスの武器が斧だったことと、自分の苗字である小野から連想して安直にアックスと名前をつけたのである。

 DTOのキャラクターエディット機能は自由度が高く、冬馬は自分の理想のタフガイを作り上げた。

 黒い髪に黒い瞳、設定した外見年齢は30歳だが無精髭のせいで設定以上に歳をとって見える。

 ざんばら髪から覗く両眼は鋭い眼光を放ち、2メートルを越える身長と頑強な肉体は野性味に溢れていてまるで熊のようだ。

 現実の冬馬とは似ても似つかないが、これがDTOにおける冬馬の分身であった。


 冒険者広場――それはプレイヤーがパーティーメンバーを募る場所である。

 冬馬――いや、アックスは一緒にインスタンスダンジョンに行ってくれるプレイヤーを探すために冒険者広場に向かった。


「今日は人が多いな」


 プレイヤーのホームタウンであるフレース王国は王城を中心に栄えており、街は堅固な石の壁に囲われて守られている。

 冒険者広場は王城のすぐ北に位置しており、アックスが広場に着くといつも以上にプレイヤーで賑わっていた。

 これならお目当てのダンジョン攻略パーティーの募集があるに違いない。

 アックスは期待に胸を膨らませた。


「黄金迷宮、タンク1、遠隔アタッカー2、ヒーラー2募集中! だれか一緒に行きませんかー?」

「鉄壁要塞、タンク1、弓1、ヒーラー1募集中! お気軽にお声かけ下さい!」


 広場の中央には掲示板が置かれており、そこでパーティーメンバー募集の登録、確認が出来るのだが早くパーティーメンバーを集めたいプレイヤーが声を張り上げて呼び込みを行っていた。


「深紅の絶望、アタッカー1募集中!」


 自分のお目当てのインスタンスダンジョンだ。

 アックスはすかさずパーティーメンバー募集の呼び込みを行っていたナイトのプレイヤーに声をかけた。


「深紅の絶望、参加希望だ」

「……参加希望っておっさん、そのキャラでか?」

「ああ、よろしく頼む」

「いやぁ……ちょっと……おっさんのその装備……」

「何か問題があるか?」


 アックスはボロボロのくたびれたマントを羽織り、巨大なバトルアクスを背中に背負っている。

 このマントは一見ボロボロに見えるが敵視を下げる効果があり、敵に見つかりにくくなる。ソロプレイをすることが多いアックスはこのマントを重宝していた。

 隠れていて見えないが、マントの下には最高級の素材を使って製作された黒革のキュイラスを装備している。

 しかし、一見しただけではアックスは世紀末の旅人にしか見えない――


「問題って……問題大有りだよ。おっさんのクラスはウォーリアだろ? 募集してるのはアタッカーでタンクは募集してないんだ」

「俺はステータスをSTRに振ってあるからアタッカーとして参加するつもりだ」

「は?」


 本来、ウォーリアはタンクであり、アタッカーではない。

 ステータスをSTRに振ったところで本職であるアタッカーには火力が劣る。


「俺たちはクリア目的の本気パーティーなんだ。遊びなら他を当たるか自分でパーティー募集をしたらどうだ?」


 そう言われてアックスはパーティーへの参加をぞんざいに断られてしまった。

 別に遊びのつもりはないんだが。

 そう言い返そうとしたその時だ。


「アタッカーがまだ決まってないなら俺をパーティーに入れてくれないか?」


 銀色のローブを装備したソーサラーが横から現れ、アックスと話していたナイトに話しかけてきた。

 まだ交渉中だというのに横から割り込んでくるとは失礼な奴だ。

 いかにも女受けしそうな王子様然とした美形の優男である。

 ソーサラーはDTOで一番人気の遠隔アタッカー職だ。


「ソサ様待ってましたー! それじゃ、そういうことだから失礼するよ」

「悪いね、おっさん。アタッカーやりたいならキャラ作り直したらどうだ? ははは」


 そう言ってソーサラーとナイトはアックスを馬鹿にするように笑いながら広場から去っていった。

 アックスの装備は特注品であり、そこらのアタッカーの火力と比べても引けを取らないのだが、パーティーに入れてもらえないのでは実力を見せることも出来ない。


「クソッ、斧がアタッカーでも別にいいだろ。それに、なんだあの失礼な態度は……」


 断られるのはしょうがないとして、初対面の相手におっさん呼ばわりは常識がなっていないとアックスは思った。

 たしかにアックスの外見はどこからどう見てもボロを着た無精髭の生えた汚いおっさんでしかなかったが――

 アックスは不快な気分が腹のそこから沸きあがりそうになるのを必死に抑えた。


「……しょうがない。自分でパーティーメンバーを募集するか」


 気を取り直して自分でパーティーメンバーの募集を出すアックスであったが……


「見ろよ、あのおっさん斧だぜ。まだ絶滅してなかったのか。ぷっ」

「斧とかダサ過ぎ」

「装備も酷いよな。なんだよあのボロマント。タンクが敵視下げる効果の装備つけてどうするんだっていう。斧はどうしようもないにしても、せめてフルプレートで固めろよな」

「だよな。最初、なんで山賊モブが街にいるんだと思ったぜ。くくく……」

「うわー……よく見たらこのパーティー募集出してるのあのおっさんだぜ。タンクかと思ったら斧がアタッカー? 常識考えろよ……タンクとして居場所がないから気が狂ったか?」

「どう見てもアイツは地雷だろ……」


 耳を澄ませば聞こえてくるのはアックスの外見とクラスを馬鹿にするヒソヒソ声と笑い声ばかり。

 パーティーメンバーは集まらず、時間だけが無常に過ぎてゆく。


 DTOでプレイヤーの役割を簡単に分けるとアタッカー、ディフェンダー、ヒーラーの3種類だ。

 アタッカーはグラップラー、ランサー、アーチャー、ソーサラー、サモナーの5クラス。

 ディフェンダーはナイト、ウォーリアの2クラス。

 ヒーラーはクレリックの1クラス。

 合計8クラスが用意されている。


 アックスはゲームを始める時にこの中からウォーリアを選んだのだが――

 このウォーリアというクラス――


「どいつもこいつも斧を馬鹿にしやがって!」


 DTOにおいて絶滅寸前の不人気職なのであった。

修正しました。

大きな変更点は主人公がタンクではなくアタッカーとしてパーティーに参加しようとしていたところです。

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