表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

日本列島保護委員会

作者: 湯気

熱気が漂う社内で、キーボードを叩く。ただただ無心に、給料を得るために叩き続ける。残業をはじめてから既に2時間経過していた。

俺は、この仕事が嫌いだった。就職活動で一番最初に内定が出たからという理由だけで職を決めてしまった見返りがこのやりがいの無さであった。

それでは、俺の夢は何だったのかと言えば、競輪の選手であった。大学時代までその夢を追い求めて努力して来たのだが、人間関係にいざこざがあったために、その夢は実現することがなくこんな会社に就職したのであった。

「課長。今日はこれで失礼します」

「ああ、お疲れ」

自分の仕事を終えた俺は課長に軽く会釈し会社を出た。課長はまだ残業を続けるのであろう。役職が高くなればなるほど残業時間が長くなるのも理不尽な話であった。

「とはいっても生きるためには給料は必要だからな……」

そんなことを考えているうちに自宅のあるマンションまでたどり着いていた。いつもどおりポストから郵便物を取り出し、エレベーターに乗り込んだ。

2,3通の郵便物が今日は届いていた。そこに見慣れぬ宛先からの封筒があることに気づいた。

「『日本列島保護委員会』?なんだこの胡散臭い会社は……」

そうはいったもののいつも届く、請求書や広告とは違ったその封筒に俺の興味は一気に惹かれていった。

自宅に帰り着き、スーツを脱ぐこともせずその封筒を鋏で開封する。

「これでたいした物じゃ無かったら笑いものだな」

半ば自虐的に笑い、封筒に入っていた手紙を開いた。

「なになに……『おめでとうございます。あなたは日本列島保護委員会の一人になる権利を得られました。2月17日、午後10時に使いの者を向かわせますのでご準備ください』……か。あれ?今の時間は……」

時計を見るとちょうど10時になる所であった。直後、家のチャイムが鳴り響く。インターフォンを見るとどこにでもいそうなスーツを来た男が立っていた。一瞬、躊躇ったが『受話』ボタンを押した。

「はい。どなたでしょうか?」

「私『日本列島保護委員会』の者です。お時間よろしいですか?」

「は、はい。ちょっと待ってください」

俺は玄関に向かい、男を迎えた。ドアを開けるとまず男は名刺を差し出してきた。

「貴重なお時間をありがとうございます。とりあえず『日本列島保護委員会』がどういった所か説明させてもらいますね」

名刺を軽く見ると名前と役職らしきものが書かれていた。役職には『調査員』と書かれてあった。

調査員は『日本列島保護委員会』について話し始める。

「『日本列島保護委員会』とは、文字通り日本列島を保護している機関です。そして、何から保護しているのかというとズバリ『沈没』からです」

「沈没?日本列島が沈むって言いたいんですか?」

「その通りです。昔から日本は私たちの保護によって沈没することから免れてきました。保護の具体的な内容は今のところお教えすることはできませんが、私たちは貴方にその仕事をして頂きたいと思いこうして参りました」

「仕事……ね。確かに今の仕事にやりがいを感じているかと言えば感じてないけど、今さらやめる気もないしな……」

「分かっております。そこで私たちは貴方に今の会社の倍。給料をお支払いすることを約束いたします。ただしこの仕事のことは誰にも明かさないで欲しいのです」

「今の倍……ですか?しかし、そんなおいしい話があるようには思えないんですが……」

「日本列島を救うためですからね。それに、近年守秘義務を守らない人が多く、クビにせざるを得ない状況になっていまして……私たちは政府直属の機関ですから貴方の給料の倍額支払うくらいはしますよ」

「そうですか……」

「まあ、今日のところはこれで失礼させていただきます。考える時間も必要でしょうし。もし、前向きな答えが頂けるようでしたら今週の日曜日にこちらの方まで来てください」

調査員は、地図の書かれた紙を渡してきた。

「それでは忙しいところ失礼いたしました。私はこれで……」

調査員は会釈をし、立ち去っていった。取り残された俺は、ドアを閉めることもせず、名刺を見つめていた。


日曜日。考えた挙句、俺は地図の場所に足を運んでいた。その地図が指し示す位置には見るからに普通のビルが立っていた。

「こんな所に『日本列島保護委員会』があるのか……?やっぱり怪しい所かもな……」

俺は踵を返しその場から立ち去ろうとする。振り向いた所に調査員が立っていた。

「良かった。きてくれたんですね。ささ、どうぞ此方へ」

「え……?いや。俺は……」

慌てて止めようとするが、調査員は半ば強引にビルの方へ押していった。

連れてこられた先はビルの3階であった。

「こんな所でどうやって地球を沈没の危機から救ってるんですか?」

「いえ、ここはあくまでダミーの部屋です。本当の仕事場は此方です。」

そういうと調査員は部屋に備え付けられていたエレベーターの方へと案内してきた。俺は、渋々それに従う。

エレベーターは、下に向かって動き始めた。しかし、3階から下に降りるにしてはやけに時間が長く感じられた。

「一体どこに向かってるんですか?下に下りるにしてはやけに長いような……」

「ええ。仕事場は地下にありますからね。ほら、つきましたよ」

エレベーターの扉が開き、俺たちは仕事場と呼ばれている所に出た。そこでは、数人の若者たちが自転車を漕いでいた。

「ま、まさかこれって……」

「はい、そうです。これが『日本列島保護委員会』の活動です。現在、日本列島の下にはエンジンが搭載されています。そして、昔からそのエンジンを使い日本を沈没から救ってきました。しかし、エンジンを稼動させるためには電気が必要になるんです。民間の電力を使うわけにはいかない我々は、こうして自力で電気を作るためにこうして地道な発電を続けているのです」

「こんな古典的な方法で日本を救っているなんて……けど……」

学生時代の競輪魂が燃え上がってくるのが感じられた。

「この仕事引き受けましょう!」

俺は、ペダルに足をかけ全速力で漕ぎ始めた。


病院のベッドで俺は一生を思い返す。俺の人生は充実していたといえるだろう。

学生時代には競輪で『怪物』の異名で呼ばれるほどの活躍を見せていた。そして、それを活かすことのできる仕事を定年まで続けることができたのだ。

社会人になりたての頃こそ、不満の多い仕事をしていたがあの時『日本列島保護委員会』に入ることができて良かったと思える。

あまりにもやりすぎで問題になったこともあったが、結果的に丸く収まりあの仕事を続けることができて幸せだった。

窓から外を見下ろす。遥か遠く、下方には海や大陸が見えていた。

満足な心地だった。空を飛び続ける日本列島で俺は深い眠りに落ちていった。

ありがとうございます。

久々の投稿だけあって、手探り気味に書いていきました。

突っ込みどころが多いだけに作風をコメディーにしようかとも考えたのですが主人公のキャラが固くなったしSF風味なオチにしました。

こうした、馬鹿げた作品を真面目に書くのもなかなか楽しめます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やりがい+自分が希望する仕事につけた彼はとっても幸せだったと思うし、正直羨ましい!って思いましたよ!
[良い点] 発想が面白かったです。 まさか自転車をこいで日本を救っていたなんて思いもよりませんでした。 意外性があるのに、なぜか納得できる内容でした。 [気になる点] 悪いとは思いませんが、やや後半が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ