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4話 姉

とある少女の視点で。

思ったより長くなってしもた。

冗長な気がするけど気のせいだよ多分。

私は走る。

あらん限りの力を振り絞り、小さく短い息を果てしなく繰り返し、木の根や地面の窪みに何度も足を取られながらも決して転ぶ事なく、私は走り続ける。

捕まる訳にはいかない。

一定の距離を空けてどこまでもついてくる、この人狼どもに。

私はこの春15才になり成人したが、その気になれば冒険者でもない小娘の駆け足など彼らにとっては、欠伸がでるような速さだろう。

彼らは楽しんでいる。

いたいけな獲物の儚い抵抗を楽しみ、嬲り尽くし、その顔が絶望に染まる時を待っているのだ。



-妹のマウラが、日が昇ってもベッドから起きてこなかったのは、3日前の朝だった。


朝の日が昇る前にはベッドから起きて、一緒に川に水汲みに行くのが私たちの日課だった。

私は珍しい事もあるものだと、可愛い妹のたまの寝坊を笑って許し、一人で水汲みに行った。

瓶は一人で持つには重かったが、たまにはこんな日があったって良い。

私たちはこの世にたった二人しかいない姉妹で、私はマウラにとってたった一人の家族でありお姉ちゃんなのだから。


朝ご飯の時間になっても、マウラは起きて来なかった。

せっかくあの子の大好きな自家製の花蜜をパンにつけて待っているのに。

花蜜は私たちが住むデイン村の特産品で、私たち姉妹の生活を支える大切な収入源であり、また一番の大好物でもある。

村の周りには花蜜が沢山とれるラウラシアの花が群生しており、私たちは幼い頃からお父さんにその採取法を教わって手伝っていた。


滅多にできない贅沢だけれど、こんな日があったっていいじゃない。

お姉ちゃんは、マウラの嬉しさで驚く顔が見たいのだ。

花蜜とパンの匂いを嗅いだら、30ミール先にいたって飛んでくるのに。

昨日はそんなに夜更かししたかしら?

少し心配になってきた私は、マウラのベッドを覗きにいく。



-お父さんとお母さんは2年前、近くの森に移り住んできた人狼の群に襲われて死んでしまった。

家族でピクニックを兼ねて、花蜜の採取に行った日の事。

お母さんの作ってくれたサンドイッチを頬張っていた私たちはいつの間にか周りを3匹の人狼に囲まれていた。

私と妹は、人狼の凶暴そうな牙と爪、睨みつける眼光にすっかり怯えお母さんの両腕にしがみついた。

お父さんは小さなナイフを構えて、お母さんに子供たちを連れて逃げなさい、と言った。

お母さんは無言で頷いて、私たちをぎゅっと両脇に抱え込んだ。

そこから先の事はよく覚えていない。

微かに覚えているのは「愛しているわ」と言う言葉と抱きしめてくれた温もり。

気がつけば私は妹の手を引いて村まで辿り着いていた。

村の大人たちが武器を手に手に携えて現場に向かったけれど、二人の姿は既に無かったそうだ。

当時はそれどころじゃなかったけれど、帰ってきた大人たちの色のない表情を鑑みるにおそらく凄惨な痕跡が残されていたのだろう-



マウラはウィール熱病に冒されていた。

この熱病はウィール地方だけに群生する植物が原因と言われていて、抵抗力の低い10歳頃までの子供がかかりやすい熱病だ。

かかれば一か月もの間、ひどい高熱にうなされた挙句に喀血を繰り返して亡くなる。

治療には金貨2枚もする高価な薬が必要であり、貧しい平民の子供がかかればまず助からないとされている。

だけどいつだって救いの手は残されている。

それが、意地悪で狡猾な悪魔(ディモン)の救いだったとしても。


このウィール地方の真ん中には面積の3割を占める、大きくて深い森がある。

魔の大森林と呼ばれるそれは、一度迷い込めば冒険者でも生きて出て来るのは難しいとされ、沢山の危険な魔物の棲み家となっている。

(私たちの両親を…した人狼たちが2年前から棲みだした森でもある)。

森の深きには熱病の原因となる植物が自生している。

熱病から助かるには、その植物の根を煎じて飲むほかない。

冒険者でも生きて戻るのが難しい森の奥深くにある植物の根を。


迷いは無かった。

ほんの少しでも、風が吹けば切れるほど細い糸でも、マウラが助かる可能性があるなら私は行かなきゃ。

私はマウラのたった一人の姉なのだから。


女神の導きか、息をひそめて森の中深くまで潜り込んだ私は無事に奇跡的に植物を得る事ができた。

後はこれを持ち帰るだけ、そうすれば私の妹は助かる。

はずだった。


帰る道の最中、私は鼻をつく獣の匂いと舐る(ねぶる)様な視線を感じた。

気付いた瞬間、私は全速で駆けた。


邪悪な、両親の仇、狡猾で、獲物を嬲るのが何よりも好きな。

人狼たちは嘲笑を浮かべて私を追い立て始めた。



私は走る。走る。走る。

身も世もなく。形振りも構わず。

不格好に。無様に。

全速で。全力で。

妹の元へと、薬を届ける為に。


人狼たちが距離を詰めてきた。

私の真横を並走して、あたかも羊に吠え立てる牧羊犬の様に、ヴォウ!ヴォゥ!と吠えてくる。

もう2~3キールで森から出られる。

ぎりぎりまで私に希望を持たせて、味わえる最大限の絶望を喰らうつもりなのだろう。


ふざけるな。

諦めてなんてやるもんか。

例えどんなに希望が薄くたって!

足を止めたらそこでお終いなのだ!

最後の最後の最期まで!

諦めてなんてやるもんか!

絶望なんてしてやるもんか!!

お前達を楽しませてなんてやるもんか!!!


両足が千切れても。

両腕が砕けても。

私は薬を口に咥えて、這いつくばってでも妹の元に辿り着いて見せる。


だから、女神さま。

お願いします。

どうか、どうかどうか。

この身はどうなっても。

妹の命だけはどうか助けて下さい。



気が付くと私は地面に倒れていた。

横を走る人狼に足を引っ掛けられたらしい。

森の出口はもう目の前。

人狼たちは愉しげに声を上げて嗤っ(わら)ている。

キャキャキャッ、キャッキャッ。

薬は。植物は。

あった。

1ミール前に落ちている。

毛深い獣の足がそれを踏みにじった。

キャキャキャキャキャッ。


「返せっ!」

殴りかかった私の手は人狼に届きすらしない。

私の頭に手を押し当てて近づかせない。


「返、っっ!」

お腹を蹴られたらしい。

私の体は軽く5ミールも吹っ飛ぶ。


お腹の中がもんどり打つ苦しみに胃液を吐きながら、目を開くと。

沢山の人狼が私を見下ろして、舌なめずりしている。

ここまで、なの?

お父さんとお母さんを人狼に殺されて。

今、私と妹までもこいつらの所為で死なないといけないのか。


絶望がじくりじくりと私の心を蝕む。

涙の粒がじわりじわりと両目に滲む。

人狼たちの嗤い声が最高潮となる。


お父さん、お母さん、マウラ、ごめんなさい。

カリナはマウラを助けられませんでした。

ごめんなさい。ごめんなさい。

どうかこの不甲斐ない娘を、姉を許して。


せめて父と母と妹の顔を瞼の裏に浮かべて。

これから来るであろう恐ろしい痛みに耐えようと、私は眼を閉じて。





…果たして、救いの手は現れん。

大ピンチ!

主人公登場!

全開でテンプレ。すみません。

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