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FTS  作者: くきくん
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第七章 地底

ウォーレンたちが立ち去るのを見送った後、ロジャーが皆に集合するように指示した。


「彼女たちの勇気に感謝したい。私とウォーレンでとも考えてはいたが、ここでの行動やノレッセの事を考えると、やはり我々はここに残る方が、賢明だと判断した。なんとしてでも、彼女たちが地球へ無事たどり着き、援軍が到着するまで持ちこたえなくてはならない。しかし、ノレッセの連中は勘も鋭い。必ず、近いうちに対峙する事になるだろう。その為にも、我々は地の利を活かして、戦うより他ない。幸いにもこの先には複雑に入り組んだ、相手をかく乱するには適した環境が広がっている。ウォーレンも彼女たちを送り終えたら、合流する。とにかく、我々は先に進んで、来るときに備えよう。あまり、モタモタしている時間もない。行くとしよう。」


誰も何も言わなかった。先頭を歩き始めたロジャーに、遅れまいと、黙って歩き始めた。現在居る空間からは奥へ伸びる通路が二本あった。ロジャーは迷うことなく、左側の通路を進み始めた。


やはり、光る植物らしきものは、奥まで伸びていて、周囲をやさしく照らしていた。しかし、今は、それがどういう性質なのかという事に、誰も触れようとはしなかった。


しばらく一本道が続く。かなりのペースでロジャーは先頭を行く。青柳と倉本は年のせいもあってか、息があがっていた。そんな二人に早川が、


「大丈夫ですか?少し休みますか?」


と、問いかけたが、二人は黙って首を横に振るだけだった。ここにいる皆の為に地球へ向かった二人に報いるためにも、なんとしてでも生き延びねばならなかった。弱音は吐けない。それは、表情から読み取れた。


どれくらい歩いただろうか・・・。


前方に、三叉路が見えてきた。そこで、ようやくロジャーが立ち止まった。


「我々の調査時の情報では、ここを右側に進むと、広い空間に抜ける。そこには我々の星ではザグと呼ぶ、地球で言う魚の一種が生息している地底湖がある。水質調査では飲料水として飲めるし、ザグは生のままでも食べる事が可能だ。見た目は君たちには少し抵抗があるかもしれんが、この際文句も言えまい。そこで、ウォーレンと合流する。もう少し歩くが、我慢してくれ。」


そう言うと、再び歩き始めた。


やがて、目の前に開けた空間が見えてきた。頭上には赤く輝く鍾乳洞のようなものがいくつも乱立しており、先端の水滴が洞窟を照らす植物の光と融合して、一際不思議な光を放っていた。


左手には、地底湖が広がっており、先のほうは天井が低くなっており、先は見えなかった。ここの水は青白く、水の底まで見える透明度だ。その地底湖から、川のように一本、広い空間を横切る形で流れており、その先は、反対側の岸壁を貫いてどこかへと流れているようだった。つまり、右側に向かって下流ということになる。


その、小さな川には、ロジャーの言う、ザグと呼ばれる魚らしきものが、大量に泳いでいた。この洞窟には光が存在するために目のようなものがついているが、ひとつしか見当たらない。地球の魚で例えるには、少々無理はあったが、佐々木がザグを見て、


「カサゴに近いですな・・・。塩焼きにしたら美味そうや!とゆういても、ここでそないな贅沢は言えまへんけどな・・・。」


そのまま、川へと近づいた佐々木は素手のまま、ザグを捕まえた。人に恐怖を感じないのか、ザグは逃げる様子もなく、警戒心はゼロだ。


「すまん!」


佐々木はザグに詫びると、一思いに首をへし折った。彼なりの食に対する、そして生命に対する思いがあるのだろう・・・。一礼すると、身の部分を指で千切って、口の中へ入れた。


「思った通り、淡白な味や。淡水魚やから、若干臭みでもあるかと思ったけど、臭みは全くありませんわ。皆さんも召し上がってみたらどないでっか?」


そういえば、今日はまだ、何も食べていなかった。この先、まだまだ体力を必要とするだろう。まず、早川が、川からザグを手に取り、佐々木の見よう見真似で食べてみた。


「意外にいけますね。」


他の連中も、川に近づき、空腹を満たした。火を通していないのに、骨から綺麗に身が離れるので非常に食べやすかった。大きさはアジくらいだろうか・・・。皆、5~6匹食べた所で、それなりの満腹感が得られた。ふと、ロジャーを見ると、食べ終えたあと、何かを取り出して、川に投げ入れた。疑問に思ったレイニーが、近づいてロジャーに聞いた。


「何をしているんですか?」


「ザグの背骨の先にある、この部分を川に投げ入れると、そこからザグが誕生する。だから、皆も、この部分は川に戻してくれ。中核と我々は呼んでいるが、この中核からザグは何度でも再生する。基本的にはザグは増える事もなく、減る事もない。地球では想像も出来ないだろうが、他の惑星ではよくあることだ。とにかく、違う惑星で行動する場合は、地球を基準に考えるのは、危険だ。根本的に地球とは違う。その事だけは肝に銘じておいてくれ。」


もう、早川たちには何が起こっても不思議と言う感覚は無かった・・・。ロジャーの言うとおり、ここは地球とは無縁の世界。地球と同じ感覚で行動すれば命取りになりかねない。と、言っても、これまで地球を出た事のない早川たちには、一日や二日で気持ちを切り替えられる次元の話でもないのだが・・・。


食事を終えて、しばらくすると、足音が聞こえてきた。


早川たちは、きっとウォーレンだと思い、その場に座ったままだったが、ロジャーはすばやく立ち上がると、足音の聞こえる方向へと身構えた。


「何をしている!」


ロジャーが怒鳴る。その声に、ようやく早川たちは立ち上がった。


足音は近づき、やがて人影が見えた。ロジャーは身構えたままだ。早川たちも麻酔銃を構えた。


「大丈夫だ!私だ!ウォーレンだ!」


人影の方向から大声で叫ぶ。人影はウォーレンだった。すると、ロジャーが、


「ウォーレンの可能性が極めて高いと感じても、こういう場合は必ず身構えて、いつでも戦闘態勢を整えるよう心がけたまえ!もし、ノレッセの連中だったら、私以外は確実に殺されていたぞ!」


ロジャーの言うとおりだった。早川たちの脳裏には、ウォーレンがまず合流するということしか無かった。どこかで、まだノレッセは来ない・・・いや、このままノレッセやセルゲスは現われないので?という思いさえあった。


「申し訳ありません。油断してました。たしかにノレッセがいつ襲ってきてもおかしくない・・・心構えが足りなかった・・・」


レイニーは唇を噛んだ。一番悔しそうにしていた。どこかで彼にも油断があったのだろう・・・。


「とにかく、今後は気をつけてくれ!我々には応戦できる武器すら、麻酔銃と我々が持つ、銃が3丁ずつ、ウォーレンと合わせても6丁。この銃もレーザー式で、足止め出来る程度だ。殺傷能力には乏しい。扱いも難しい為、君たちには渡す事も出来ないし、出来ればこのまま逃げ延びるのがベストだ。」


早川たちは、改めて自分たちの無力さを感じる。ノレッセの連中はきっと武装しているに違いない。それに、こういう戦闘に慣れた集団なのだ。どこかで他人事のような気持ちだった早川たちは、気持ちを引き締めなければならないと感じた。


そんな中、追いついてきたウォーレンは、


「彼女たちは無事、地球へ向かったよ。出来る限りノレッセからは追跡できないルートで地球へ向かうようにプログラムした。後は無事を祈るより他無い。今は我々の安全を確保する事に集中しよう。」


そう言い終えると、背負っていたリュックから、小型の端末を取り出した。


「ここからは二手に分かれる。こいつは端末同士での通信しか出来ないが、その分、傍受される心配もない。電波は一度拡散され、端末まで飛ぶ。だから、こういう場所でも通信が可能だ。ロジャーは、青柳さん、倉本さん、レイニー、佐々木さんと行動してもらう。残った者は私と行動してくれ。」


そう言って、取り出した3個の端末を、ひとつはロジャーに、もうひとつはレイニー、最後のひとつを早川に手渡した。


「私のと合わせて4個ある。この先、バラバラに行動せざるを得ない状況に陥る事も考えられる。人数分あれば良かったのだが、生憎、これだけしかない。単純に番号を押せば、相手に繋がる。私は1、ロジャーが2、レイニーが3、そして早川君が4だ。私たちのチームはこの先を左に下る。ここからは更に地底へと続いている。ロジャーのチームは右側をしばらく進んでから地底に下ることになる。その先は、我々も調査していない未知なる領域だ。地上からの調査でで、いくつか地上へ繋がる道が存在している事だけはわかっている。では、検討を祈る。」


先にロジャーたちのチームが歩き始めた。それを見送ると、早川が、


「もう、すでにノレッセは到着しているんでしょうか?」


と、不安な様子でウォーレンに聞いた。


「私がキャンプに到着した時に、レーダーで調べた時には、まだ、捕捉出来なかった。幸いにもノレッセは遠くにいたと考えるべきだろう。しかし、前にも言ったがやつ等の移動速度は速い。油断は出来ない。とにかく先を急がねば・・・」


それまで黙っていた友香が、歩きながら、


「この先はどうするんですか?内部調査も行っていないという事だけど・・・」


「とにかく、地上では不利だ。地球からの援軍は早くても二週間。それまでを乗り切るためには、やつらをやり過ごせる空間を確保しなくてはならない。その場所探しというわけだ・・・。なんとも頼りない作戦ではあるが、それ以外に方法が無い。我々もこんな状況に陥る事は予測できなかった。許してくれ・・・本来、この星は、徹底調査する許可が下りなかった。それ故に、簡単な地上からの調査しか行っていない。予算をかけてまで調査するに値しない星だと、我々の星では判断したのでね。」


「ということは、ここからは先は手探りで進むと言うわけね?こうなったら腹をくくるしかないわね。そうと決まれば急ぎましょう。」


相変わらず心強い発言に、少し早川も勇気付けられた。そうだ、前に進むしか道はない。考えるよりまず行動だ。安藤と真由の表情からも決意のようなものが読み取れた。足早に一行は歩を進めた。しかし、かなり下りの勾配はきつく、思うように進めない。


「結構キツいな・・・大丈夫か?真由。」


安藤が妹を気遣う・・・が、


「危ない!お兄ちゃん!」


安藤の方が足を滑らせた。


「安藤さん!大丈夫ですか!?」


早川が駆け寄って、安藤の腕を掴んで起き上がらせた。


「わりぃ・・・。油断しちまった。」


「血が出てますよ!?」


「大丈夫。かすり傷だ。」


左の肘から血が滲んでいた。真由がハンカチを取り出して、すばやく巻き付けた。


「有難う。こんなの大したことはない。」


再び、歩き始めた。30分近く、急勾配は続き、今は地上からどのくらい下にいるのかもわからなくなった。水のせせらぎがどこからともなく聞こえる。壁にはキノコのような植物が毒々しい色で咲き乱れている。その植物をよく見ると、所々にトカゲのような爬虫類らしき生物が這っていた。大きさは大人の小指くらいだろうか・・・。早川たちが歩く音に反応して、その生物は、植物の陰に身を潜めた。


ようやく、急勾配を抜け、平坦な道が現われた。


その平坦な道を数百メートル進んだところで、目の前が急に明るくなった。


「綺麗!」


友香と真由が同時に声をあげた。


目の前に広がる開けた空間の壁面は足元を除き、一面が乳白色で、角度によって虹色に輝いていた。そう、真珠のような輝きだった。


「これは凄い・・・」


さすがにウォーレンも驚いた様子でしばらく周囲を眺めていた。


「これを地球に持ち帰れば高値で売れそうだぜ!」


「お兄ちゃん!」


「それにしても、本当に綺麗だ・・・」


ほんの一瞬、疲れも忘れ、その景色に酔いしれた。そんな時、ウォーレンの端末が鳴った。


「ロジャーからだ・・・。」


そう言って、ウォーレンは何やら話している。早川たちは、一瞬にして現実に引き戻され、一気に緊張が走った。ロジャーたちに何かあったのだろうか?不安が過ぎる。皆、ウォーレンの会話に集中していた。


「・・・わかった。引き続きそちらを頼む!」


「何かあったんですか?」


待ちきれず早川が聞く。


「ああ、どうやら青柳さんが倒れたらしい。疲労からだろう。幸いにも、身を隠せそうな場所を発見したようなので、そこでしばらく休息を取るようだ。」


「だ、大丈夫なんですか?教授は!」


「心配ない。数時間休めば大丈夫のようだ。レイニーが診てくれたそうだ。ただ、足止めは食らうが、ずっと歩き続けるわけにもいかない。それは我々とて同じだ。どこかで休息ポイントを見つけなければ、いずれ体力の限界が訪れる。」


「この場所では、目立ちますね。」


「そうだな。それに、ここまではほぼ一本だ。追跡される可能性が高い・・・」


と、その時だった。早川たちの背後に気配を感じた。気配というより、殺気だ。振り返る暇もなく、背後から声をかけられた。


「これはこれは地球の皆さん。はじめまして。それに、そちらはアポリス人。」


「き、貴様はジアーノ!まさか、こんなに早く・・・」


ウォーレンの一言に一斉に振り返った早川たちの目の前には、白い宇宙服のような、しかし、薄型のスーツに身を包んだ男たちが10人、いや、20人はいるだろう。それに見覚えのある人物もいた。


「あなたは!早川タケル・・・いや、セルゲス!?」


「ふふふ、まさかウォーレンたちが私の計画に気づくとはとんだ誤算だったね。それに見たところ、全員揃っていないようだが・・・」


そう言ってジアーノの方を見た。


「問題ない。まず、こっちを片付けて、すぐに他の連中も仕留める。」


「別に心配はしていないが、一番仕留めたい青柳教授の姿が見当たらなかったのでね。こんなことはさっさと終わらせたい性質なんでね。」


セルゲスとジアーノが好き勝手言ってる隙にレイニーが麻酔銃に手をかけた。


「おっと、動くなよ。地球人ごときに我々を倒すことなど出来ない。それにそんなおもちゃの銃で何をしようと言うんだ?」


後ろの男たちが一斉に銃を構えた。レイニーは銃にかけた手をゆっくりと離した。


「それが利口だ。どうせ殺される運命。下手に手出ししようものなら苦痛を味わいながら死ぬことになる。抵抗しなければひと思いにあの世へ送ってやろう。」


そう言って、後ろに男達になにやら合図を送った。


「くそ!こんな所で・・・」


早川は、死を覚悟した。抵抗できる状況でないことは誰の目にも明らかだった。ウォーレンもただただ悔しそうに・・・いや、右手で端末のボタンを押す姿が目に入った。せめて、この状況をロジャー達に伝えようとしているのだろう。


「さて、せめて同時に仕留めてやろう。な~に、痛みも苦しみもない。お前たち地球の武器とは違って、一瞬で確実に息絶える。では、さらばだ。」


と、


「な、なんだ!」


目の前に一瞬、激しい閃光が走る。その瞬間、早川たちは何者かに手を引っ張られた。さっきの閃光で目がくらみ、何が起こっているのかわからなかった。ジアーノたちも、ふいを突かれ、視界を失い、その場から動けないようだった。


「ち、ちくしょー!誰だ!?他の連中か!?味な真似をしてくれるじゃないか!」


早川たちは何者かに手を引かれ、全力でひたすら走った。ジアーノは大声で怒鳴り続けている。徐々にその声も遠くに聞こえるようになった。しかし、まだ、目が見えない。とにかく数分、走り続けると、


「ここへ入れ!急げ!」


聞き覚えのない声だったが、今は言われる通り、わずかに見えるようになった目を精一杯見開いて、支持された穴のような所に飛び込んだ。


遠くで、まだジアーノの叫び声が聞こえていた。


全員飛び込んだのか?早川は他のメンバーが無事なのかもわからないまま、飛び込んだ穴らしき空間を滑り落ちていった。


やがて、視力が回復した。そして、目の前の光景に驚いた。


「こ、ここは?」


そう言いながら、まずは友香を探した。


「陸・・・無事だったのね!?」


友香が早川の姿を見て、胸に飛び込んできた。


「友香こそ、無事でよかった!みんなは?」


改めて周囲を見回すと、そこには、ウォーレン、安藤、真由、そしてレイニーの姿があった。皆、無事のようだった。


「よかった!皆、無事だったんですね!」


「あ、ああ、さすがに死んだと思ったよ。」


安藤が、まだ目をショボショボさせながらそう言った。


「間に合ってよかった。」


すると、さっきの声の主と思われる小柄な生物が目の前にいた。身長にして140センチくらいだろうか。人間ではないとひと目でわかるその風貌に一瞬驚いたが、


「ありがとうございます。本当に助かりました。」


と、まず、礼を言った。よく見ると、目の前にいる生物と同じ生物が早川たちの周囲を取り囲んでいた。


「ホルキンス人!滅んだと聞いていたが・・・」


ウォーレンが呟いた。


「ほう。我々のことを知っていたかね?私の名はサジ。この一帯の長を務めている。」


「何故、私たちを助けてくれたんだ?」


と、ウォーレンが聞いた。早川たちには、何の事だかさっぱりわからない。そもそも、ウォーレンやロジャーは元々地球から移住したいわば、同じ種族、人間なのだ。しかし、目の前にいるサジと名乗る男、いや、男らしき生物は、明らかに早川たち人間とは見た目から異なる。


何故地球の言葉を話せるのか?


疑問と困惑に戸惑いを隠せない。ウォーレンの話ではホルキンスという星の生物ということらしいが・・・。


サジは、その場にいた早川たちを見渡すと、話し始めた。


「我々は、元々は惑星ホルキンスで誕生し、ずっと生活を続けていた。数万年前までは・・・。かつて、我々は近星との交易も盛んで、色々な星を行き来しておった。特にホルキンスで取れる、マビアスという鉱石は高値で取引され、50以上の星で構成されたナルビア系の中でも一番栄えていた。」


「アポリスの国立図書館の資料で読んだことがある。今でもマビアス鉱石を欲しがる連中は宇宙に数多く存在し、現在の価値は、、地球の価値に置き換えると1グラムで1億円はくだらない。」


「そう、当時も現在と同等の価値があった。お陰でホルキンスに住む人々は皆、裕福だった。しかし、そんなマビアス鉱石を我が物にしようと、乗り込んできた連中がいた。アジェンモシュカと呼ばれる惑星の連中だ。そして、あっという間にホルキンス人は滅ぼされた。しかし、貿易に出向いていた30人あまりのホルキンス人たちは、なんとか難を逃れ、這う這うの体で燃料の続く限り遠くの星へと逃げた。それが、ここZZO-Wだ。」


「なるほど・・・しかし、何故、地底で生活を・・・」


「なんとかZZO-Wに辿り着いたホルキンス人達は、周辺を捜索した。しかし、ホルキンス人が生活するには適さない環境だと気づいた。だが、もう他の星へ移動するだけの燃料も残っていなかった。途方に暮れ、自分たちホルキンス人は滅んでしまう・・・そう覚悟を決めた。そこへ、偶然にもZZO-Wを調査に訪れた、当時の地球人達と遭遇したのだ。」


「地球人!?」


思わず、早川は声をあげた。そして、助けられた理由や、何故地球の言葉を話せるのかを理解した。更にサジは続けた・・・。


「その地球人達は言葉も通じぬホルキンス人達の姿を見て、状況を理解したらしく、ホルキンス人達が暮らせる環境を調査してくれたのだ。その後、彼らは地底なら暮らしていけるだろう事を発見し、地球と何度も行き来して、我々の生活の基盤を整えてくれた。やがて、30人あまりだったホルキンス人も次第に数を増やし、ホルキンス人だけで生活できる事がわかると、地球人達は去っていった。その後地球という星がどうなったのかは知る由も無かったが、まさかこんな形で出会うことになるとはな・・・」


サジは始めて目にする地球人の姿をまじまじと見つめながら、そう言った。


当然、早川たち、現在の地球人には、そんな歴史があった事など知る由もなく、ただただ驚くばかりだった。一方で地球から移住していった子孫に当たるウォーレンは、それほど驚いた様子もなく、


「とにかく、本当に助かった。有難う。」


と、一礼した。そこで、ウォーレンは何かに気づいた様子で、慌てて端末を取り出した。


「そうだ!教授たちは!」


早川もその行動に、ようやく青柳たちの事を思い出した。こちらを襲うことが失敗に終われば、あちらに向かう可能性も高い。


「心配ない。お前たちの仲間の方にも、何人かを向かわせた。直に合流できるだろう。問題はこれからだ・・・。」


サジは、難しい顔をしている。見た所、ここだけでも、数十人のホルキンス人がいる。早川はこれで助かったと思ったのだが、サジの様子ではそうもいかないようである。しばらく何かを考えていたサジは、


「残念な事に、今回は奴らの油断もあり、お前たちをここへ導く事に成功したが、次からはそうもいかんだろう・・・。というのも、我々ホルキンス人は、この星に着てからは、他の星との交流も無く、ひっそりとこの地底で暮らしてきた。元々争いを好まない種族でもあるため、武器を持たぬ。お前たちが居た場所より下層に位置するここは、すぐに発見される事はないと思うが、奴らは見た所、戦闘に慣れた集団のようだ。いずれ、ここも発見されるだろう。それも、そう遠くない内に・・・。」


サジは周囲にいたホルキンス人達に、きっと彼らの言葉と思われる言葉で指示を出した。


「とにかく、すぐに発見される事は無い。まずは、我々ホルキンス人の事と、この地底の事は話しておくとしよう・・・」


そう言うと、先ほど指示を出したホルキンス人が、何かを持ってきて、早川たちの前に広げた。どうやら地図のようだった。


「我々ホルキンス人は、現在、この星に約二千人が生活をしている。」


「他の人たちは、ホルキンス星に戻ったんですか?」


レイニーが聞くと、


「いや、ホルキンス星がその後どうなったのかは、ここにいる誰も知らないし、知りたいとも思わない。我々は今の生活に満足している。これ以上のことは望まない。」


「では、何故、それほど少数なのですか?」


「まず、ホルキンス人は寿命が地球人と比べれば遥かに長い。千年は生きる。一人辺りが生涯消費する食事などを考えれば、人数が増えるだけ、自給自足で賄えなくなってしまう。そういう事からも、あまり繁殖しないのだ。」


「なるほど、そうでしたか。」


「地図を見てもらいたい。この星は地球の約四倍と言われているが、ほとんどの部分は未開拓。この地底には、ここを含めると八つの集落が存在する。八つは全てこの下層で繋がっていて、各集落に私のように長が存在する。一つの集落には200人から300人程度のホルキンス人が、生活をしている。この星の地底には、我々の食料となる、動物、植物が豊富なので、ほとんど地上へ出る事は無い。集落の名は、その時の長の名をそのまま使用するので、ここは当然、サジと言う。ここから繋がる集落は二つ。一つはリージャ。もう一つはエメラン。このエメランにお前たちの仲間を導くよう、伝えた。すでにこちらへ向かっているはずだ。」


「有難う御座います。」


「さて、リージャの先の集落、コペンは直接地上と繋がっておる。この地底にも、かつて地球人が授けてくれた技術を応用して、地上や上層の様子を探ることくらいは出来る設備はある。残念ながら、他の星などとの交信は出来ぬが、奴らの動きをある程度なら知る事が可能だ。但し、知る事が出来るだけで、攻撃は出来ん。それだけは理解しておいてくれ。」


「これだけの人数がいれば、作戦次第では、倒せませんか?」


レイニーが、聞くと、


「少数相手なら、あるいは、可能だが、あれだけの人数では、難しいだろう。」


レイニーは少し考えて、


「もし、このまま、ノレッセが乗り込んできては、関係の無いあなた方まで巻き込んでしまう。ここは、迷惑をかけぬうちに立ち去る方がいいかと・・・どの道戦っても勝ち目が無いであれば、被害は最小限に抑えるのが、もっとも得策かと思いますが、皆さん如何でしょう?」


早川たちを見て言う。その目には決意と覚悟が感じられた。ウォーレンの話や、対峙した時に感じた雰囲気からも、彼らは容赦はしないだろう。関係の無い者たちであっても、自分たちの任務遂行の妨げとなる者は、排除する・・・。そう考えれば、ここに居ても、ホルキンス人を巻き込んでしまうだけだ。


ひっそりと暮らす彼らを巻き込むのはレイニーには耐えられなかった。そして、それは早川たちも同じ気持ちだった。


「俺もそう思います。教授たちと合流できれば、早々にここを出て、我々だけでなんとかしたいと考えます。」


すると、サジが、


「策はあるのか?むやみに右も左もわからぬ星で、行動するのが得策とは思えんが・・・。それならば、この星を知り尽くした我々の指示に従う方がよほど得策と思うが。」


「し、しかし・・・」


レイニーも早川もそれ以上返す言葉が無かった。黙って聞いていたウォーレンは腕を組んだまま、


「サジの言うとおりだ。しかし、レイニー達の言う事ももっともだ。関係ないホルキンス人を巻き込むことは申し訳ないと思うが、すでに奴らはホルキンス人達も始末するだろう。そういう連中なのだ・・・ノレッセは。いや、ノレッセ自体は必要最低限の行動しか取らない・・・問題はセルゲスなのだ。ヤツはさっさと片付けたかったはず。それを邪魔されたとなると、邪魔した連中も排除しろと命じるはずだ・・・。」


「気にする事はない。我々は地球人がいなければ滅んでいた。いつかきっと、何かの形で・・・そう思い続け祖先たちは暮らしてきた。そして、その時が今、訪れたのだ。いわば待ち望み続けた瞬間。ここで滅びようと、微塵の悔いも残らん。それに、まだ望みはある。」


「望み?何かあるんですか?作戦が!?」


「お前たちの仲間が地球に向かった。そして、さっきノレッセの連中はあの場所に全員がいた。ということは地球に向かった仲間には手出しをしていないということだ。つまりお前たちの時間で二週間耐えることが出来れば、なんとかなりかもしれん。」


「でも、それまでに見つかる可能性が高いと・・・」


「それは、このまま何もしなければ・・・という話じゃ。ノレッセの連中もこの星は始めてのようじゃし、打つ手はある。」


そう言うと、サジは地図を指差した。


「さっきも言った通り、コペンから地上に抜ける事が出来る。ノレッセの連中はレーダーによると、お前たちを見失った後更に奥へと進んでいるようじゃ。」


「しかし、俺達がここへ来た穴を発見されれば、すぐに見つかってしまうのでは・・・」


早川が疑問をぶつけた。


「閃光で、目がくらんでいる隙に引き込んだし、見つかったとしても、すでに扉は封鎖した。奴らでも簡単には破る事は出来ぬ。それにこの辺り一体の上層と下層部分には、早々貫く事が出来ぬ岩盤が覆い尽くしていて、元々空いていた穴だけが、ここへと通じているが、全ての穴は封鎖できるようになっておる。しかし、全てが覆われているわけではない。三日も歩き続ければ、下層へと進入可能な領域に足を踏み入れる事になるじゃろう。話を戻すが、コペンへは、ここから半日程で移動できる。そこから、まず地上に抜けるのじゃ。そこは、岩山に覆われた山岳地帯。地理がわからぬものは、そう簡単には抜ける事は出来ん。」


そこで、ウォーレンが何かに気づいたように頷いた。


「そうか。ホルキンス人は地理を知り尽くしている。うまくそこへ誘導できればあるいは・・・というわけか。」


「その通りじゃ。やつ等とて自然の驚異には勝てぬはず。あわよくば、そこで力尽きよう。そして、生き延びたとしても、十分に時間稼ぎは出来るはずじゃ。すでに、他の集落には避難命令を出した。我々とて、無駄死にだけは避けたい。コペンから地上へ抜けると、まず、東の方角に見える山々、ベスク山脈に、かつて地上での生活を行っていた、比較的我々が生活できる環境の場所が存在する。もっとも、ここに比べれば豊かな暮らしは望めぬ場所。もう数百年以上、誰も近づいておらぬが、今はそこへ移動するしか方法がなさそうじゃ・・・丁度良い所に、お前さんたちの仲間も到着したようだ・・・」


サジの視線の先には青柳たちの姿があった。皆、困惑した表情のままだった。


「青柳教授!ご無事でしたか!」


早川達が駆け寄ると、ようやく、表情が和んだ。


「ロジャーの端末が鳴り、応答しても返事もない。しかし、どうやらノレッセと遭遇してしまったようで、我々も君達がやられていないか心配していると、ホルキンス人と名乗る人たちが、君たちを助け出したから安心するようにと・・・そして、合わせるから着いてきてほしいと・・・何故地球の言葉を話せるのか、疑問だったが、ここへ来る途中に教えてもらったよ。今後のプランも聞いたところだ。」


「さて、今は時間が無い。そちらの仲間たちもプランは理解しているようだし、早速、コペンを目指そう。」


そう言って、周囲のホルキンス人達に何かを言うと、一斉に周囲に居たホルキンス人達は、足早に奥へと姿を消した。


「我々も行くとしよう。ほとんど一本道だ。やがてはノレッセもここを通る事になるだろう。それまでに、なんとしてでもベスク山脈の廃集落を目指さねば・・・。」


ついてこいと、手招きのしぐさをすると、サジは足早に歩き始めた。早川たちも急いでそれに続いた。


1時間ほど歩いた時だった。サジは立ち止まり、二人のホルキンス人に何か合図を送った。すると、早川たちとは逆の方向に二人は走っていった。早川たちには、何をしているのか理解できなかった。そんな光景を1時間おきに早川たちは目にした。ウォーレンは何かに気づいたようだったが、一言も話さなかった。もう、どのくらい歩いたかもわからなかった。足は棒のようになり、何度も休みたいと思ったが、自分たちのために危険を犯しているサジたちの姿に、なんとか歯を食いしばりながら歩き続けた。そして、サジが立ち止まった。


「よく頑張った。ここがコペン。あそこの通路から地上に上がることが出来る。私はレーダーで奴らの位置を確認してから向かう。今は、あそこにいるシーバの指示に従って行動してくれ。」


その時、早川たちは嫌な予感に襲われた。しかし、サジに押される形で、地上への通路を進んだ。


地上に出ると、ここへきて初めての夜だった。しかし、地面が薄っすら光っているお陰で、周囲は見渡せた。サジが言った東の方向を指差して、シーバが言った。


「ここからは私に従ってもらいます。今は暗く、はっきり見えませんが、あちらの方向に進むとベスク山脈です。今日はこの場所で少し休みます。6時間ほどで、また明るくなります。」


「サジさんは?それに、ここへ来る途中、何人かのホルキンス人が、俺たちと逆方向に行きましたが、その人たちは?」


すると、シーバは、


「サジが言った事、三日は見つからない・・・というのは嘘なのです。数時間であの場所は見つかってしまったでしょう。しかし、下層には、地点地点に防護壁が備わっていて、そこを閉鎖すれば、パスワードを入力しない限り、抜け出す事は不可能です。サジや他の連中は、下層に残り、防護壁で閉鎖する事によって時間稼ぎをしたのです。」


「ちょ、ちょっと待ってください!そんな話聞いてません!」


早川は、慌てて引き返そうとする。しかし、ウォーレンに腕を掴まれて、身動きが取れない。


「何をするんです!離して下さい!あの人たちを見殺しにするんですか!?」


早川は腕を振りほどこうと必死に抵抗する。しかし、ウォーレンの顔を見て、抵抗するのをやめた。その頬には涙が光っていた。ウォーレンも辛いのだ。ウォーレンは黙って首を横に振るだけだった。早川は大声で叫んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


シーバはそんなやりとりをみて、


「気にしなくても構いません。あそこに残った連中はもう寿命。未来ある我々のために、少しだけその寿命を縮めてくれたに過ぎません。私が逆の立場なら同じ事をしたでしょう。これはホルキンス人の誇り。そして、祖先が想い続けてきたあなた方地球人への恩を返すともなれば、これほど栄誉ある死はありません。防護壁は全部で8つ。一つを解析するのに少なくとも8時間はかかります。約二日と半日程度の時間は稼げます。今はまず、疲れを取る事に専念してください。」


そう言うと、他のホルキンス人に合図を送り、しばらくすると、食事が運ばれてきた。しかし、誰もなかなか食べようとしない。それを見かねたシーバが、


「あなた方がサジ達の行為を無駄にするのですか?ここで、体力を温存し、いち早くベスク山脈に行かなくては、サジ達の行為は無意味に終わる。とにかく、今は体力回復に専念してください。まだ危険が回避できたわけではありません。」


「食べよう。サジはん達の分まで生きなあかんやろ?ここはシーバはんの言う事聞いて食べるんや!」


佐々木はそういうと、出された食事を急いで食べ干した。そんな佐々木の姿を見て、皆もようやく食事に手をつけた。


味なんてわからなかった。今もあの地底で、ノレッセが来るのをただただ待っているサジたちの姿がどうしても頭から離れない。


決して長い時間を過ごしたわけではない。むしろ、わずか半日足らず。それでも、どこか親近感があった。特にサジの目は優しかった。しかし、現実にはノレッセは確実に一歩一歩、早川たちに近づいている・・・。そう考えると、今はシーバの指示に従うより他無かった。


皆、食事の後は仮眠を取る事となった。早川は地球と変わらぬ星空を見上げたまま、気づけば眠りに落ちていた・・・。


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