第六章 古代文明と移民
早川たちは、道なき道を走り続けた。すでに何者かがこの星に降り立って行動しているはずである。そして、キャンプ地を見て、何を思ったのだろう。もしかすると、友好的な相手かもしれない。そんな風にポジティブに考えてもみたが、言葉も通じない、感情表現も理解できない可能性が高い。そうなると、遭遇しても、どう対応すれば良いのか想像もつかない。
やはり危険と考えた方が自然なのかもしれない・・・。そんな危険な方向へ進んでいる。少しでも気を緩めば不安に押しつぶされそうだ・・・。10分くらい走っただろうか。先頭を走るレイニーが止まった。
「ここにバイクを隠せそうな茂みがあります。ここからは徒歩で進みましょう。」
そう言うと、レイニーはバイクを手で押しながら茂みに隠した。
「まだまだ進めそうだぜ?」
たしかに、悪路と言うほどの悪路ではなく、このバイクなら問題なく進めそうだ。安藤が聞くと、
「ここならバイクを保管したまま充電が可能です。いざと言う時にバッテリーが無くなってはどうしようもありません。」
そう言って、空を指差した。ちょうど木々の間からマドラスの光が差し込んでいた。
「なるほど。そういうことか。わかった。言われた通りに・・・」
安藤以外はすでにバイクを移動させていた。
「お兄ちゃん、急いでよ!」
真由が急かす。
「あ、ああ、すまん・・・」
安藤も慌てて茂みに隠した。
「それだと充電出来ないよ!発電口をマドラスに向けなきゃ!」
真由がバイクの充電口をマドラスに向けた。
「わりぃ・・・よし!行こうか。」
「万が一、何者かが、そのまま森を進んできたなら、もう遭遇してもおかしくない距離です。ここからは十分警戒して行動してください。また、他の生物が襲ってくることも考えられます。足元なども十分注意してください。」
皆、黙って頷いた。早川たちは出来るだけ離れないように距離をつめて歩いた。手には皆、麻酔銃を持っている。足元は枯葉のようなものが落ちているため、パリパリと音を立てる。地球の森ほど生物は生息していないように感じられた。何かの鳴き声らしきものは、聞こえてきたが、それほど多くは感じられない。昆虫らしきものも、まだ見かけていない。地球なら蚊や蛾なんかが飛んでいてもおかしくない環境だったが、やはり地球とは全く異なるのだろう。
しばらく進むと、左手に、軽重力地帯が視界に入った。
「何者かが襲ってきても、あちら側には逃げれませんね。」
早川が言うと、
「地形的には、逃げにくい状況ですから、森へ入ってこないことを祈りましょう。白兵戦になっても、麻酔銃だけでは、太刀打ちできないでしょうからね。」
「でも、見た所ロケット1機だったし、その後別の機体が降りてくる様子もなかった。遠くからだったが、そんなに大きな機体にも見えなかったし、人数は多くはないと思いたいね。」
安藤が自分に言い聞かせるように言う。皆も同じ気持ちだった。
―――その頃青柳たちは、岩山の切れ目を見つけ、その切れ目を進んでいた。
「教授!」
倉本が大声で青柳を呼び止める。それに反応して青柳がバイクを停車させた。他のメンバーもそれに合わせてバイクを停車させた。
「どうした?倉本?」
青柳が後ろを振り返り倉本に聞き返す。
「この切れ目は一本目。こっちで良かったんですか?もし追跡してくると、まず、ここから追跡を開始するのでは?」
「しかし、相手も同じ事を考えてやり過ごすかもしれない。それなら、確実なこの道を進む方が、より遠くへ進めるだろう。」
「そこまで考えてましたか。」
「それに、ここ以外に抜けられる道が無ければ、どの道見つかってしまう。それより、東君、大杉君大丈夫かね?少し休むか?」
「いいえ、大丈夫です!」
「私も大丈夫。」
「とにかく、今は一本道。この先に開けた場所が見つかれば、その周辺で、どこか隠れるのに適した場所を探して、休憩しよう。」
そう言うと、再び走り始めた。10分ほど走ると両側の山肌が低くなり、やがて一面、青い草原に出た。
「あ、青い!」
思わず佐々木が声をあげる。原色に近い青だった。そんな一面青の中、所々に白い花のようなものが咲いていて、それはそれで、綺麗な景色だった。しかし、青柳たちには景色を楽しんでいる余裕は無かった。一本道を抜けた後、右側に進路を変え、走り続けた。マドラスの光が常に充電してくれているおかげで、バッテリーが減る心配はなさそうだった。
左手に青い草原、右手には土手という景色を更に進むこと10分ほどで、正面に川が見えてきた。そして、右側はそこで終わりを告げており、その土手は川と平行して、右側に延びていた。
今度は、川と土手の間を走り、しばらく進むと、土手の部分が大きくくぼみ、そこに、さっきよりは少し小さな洞穴のようなものがポッカリと口を開けていた。一行は、その穴の前でバイクを止めた。
「よし、ここも中はうっすら明るい。なんとか、ここで明日まで持ちこたえられるといいのだが。とりあえず、バイクを押して、中に入ろう。」
バイクの電源をOFFにして、一行は洞穴に入っていった。中はやはりしばらく一本道が続き、100メートル程進んだところで、10メートル四方程度の空間に出た。その先にも道らしきものが続いており、奥のほうから水が流れるような音が聞こえた。
「ひとまず、休憩にしよう。」
皆、さすがに疲れたのか、バイクのスタンドを立てると、その場に座り込んだ。
―――一方早川たちは・・・
「ここは、この前探索に来た場所ですね。ということは、キャンプ地はかなり近い。」
ちょうど、青柳たちが探索に来た地点まで早川たちは進んでいた。もうA-1までは目と鼻の先立った。皆の表情にも緊張の色が走った。
「もし、何者かがまっすぐ僕たちのほうへ進んできていたのであれば、すでに遭遇していたはずなので、森を逆の方向へ進んだのか、あるいは、最初の洞窟側へ向かったか・・・もちろん、追跡などせずに、違う行動をしているかもしれません。とにかく、ここは二人くらいで、森の入り口付近まで近づき、キャンプ地の様子を伺いましょう。」
レイニーが四人の顔を見ながら言うと、早川が、
「俺が行きましょう。」
と、名乗り出た。
「陸、大丈夫?」
友香が不安そうに早川の顔を見る。
「大丈夫。足は速いし、自信がある!」
頼りない返答だったが、早川なりに精一杯の強がりだった。
「よし、友香ちゃんと真由は俺が引き受けた!レイニーと早川、くれぐれも慎重にな!」
「安藤さん、ちょっと顔が嬉しそうですよ・・・。」
「そ、そうか?どうも俺が一番役に立たないようだし、ここは若い早川と、こういうことに詳しいレイニーにお願いするのがベストだろう!」
「安藤さん、もし、誰かに見つかりこちらに逃げ込んできた時は、奇襲攻撃をお願いします。この辺りで隠れて、いつでも戦闘に備えてください。」
レイニーはそれだけ伝えると、早川に手で合図を送り、二人静かにキャンプの方へ進んでいった。
百メートルほどで森を抜けるという所で、二人は茂みに体を隠し、茂みの隙間からキャンプの方へ目を凝らした。そこには、早川たちが乗ってきたロケットとほとんど変わらない機体があった。
「あ、あれは・・・地球の機体ですよ!」
思わず早川が声をあげた。
「本当ですね・・・一体これは・・・しかし、地球からの到着は明日以降で、それより前に到着する部隊はいないと・・・」
「とにかく、地球からであれば、何も問題ありませんね!」
そういって、立ち上がろうとする早川の腕をレイニーが掴んで、もう一度座らせた。
「レイニーさん?」
早川は何故引き止めるのかわからず、レイニーを見る。しかし、レイニーの表情は真剣だった。
「まだ、油断は出来ません。地球との最後の交信で、たしかに明日以降と・・・ということは、あの機体はプロジェクトのプランから外れた行動を取ったということです。問題ないと信じたいですが、かといって、このまま、のこのこと出て行って良いものか、少し検討してみる余地はあります。」
「なるほど・・・俺には何の問題もないと思いますが、そこまで言うのであれば、もう少し様子を見てみましょう。」
それから、しばらくキャンプ地を観察した。特に目立った動きもなく、また、人の気配もない。
「おかいしですね。あそこに間違いなくロケットが1機着陸してきて、人の気配が感じられないと言うのも・・・。一度安藤さんたちと合流して、相談してみましょう。」
そう言って、腰を上げようとしたとき、今度は早川がそれを制した。
「あれ!見てください。」
大きくなりそうな声を出来るだけ抑え、キャンプの方を指差した。
「人ですね・・・。2人・・・いや3人いますね。あっ!あれは・・・早川統括!何故ここに!?」
「統括がここへ来るのであれば、連絡があってもおかしくないですよね・・・。」
「たしかに・・・不思議です。それに、統括の隣にいる二人の男達は見たことがありません。が、只者ではありませんね。服の上からでも鍛え上げられた肉体がわかります。これは、何か様子がおかしい・・・とにかく、一旦、安藤さんたちと合流しましょう!」
「そうですね。急ぎましょう。」
タケルが何故、この星に降り立ったのか、早川には見当もつかなかった。ただ、これはあくまでも勘だが、悪い予感がした。とにかく、安藤たちと合流してこのことを伝えて、どうするか、相談しよう・・・そんな事を考えながら立ち上がった瞬間、迂闊にも細い根のようなものに足が引っかかり転倒してしまった。
「大丈夫ですか!?」
レイニーが慌てて手を差し伸べ、引っ張り揚げる。幸いにも怪我は無かったが、その時の音で、タケル達がこちらに気づいた。振り返ると、遠くで、タケルガこちらを指差して、なにやら屈強な男二人に指示をしている。そして、男たち二人はライフルのようなものを肩に担いだままこちらへ向かってきた。
「し、しまった!早川さん!急いで!」
そう言って二人は駆け出した。すでに男たち二人は早川たちの存在に気づいているようで、まっすぐこちらに向かって走ってくる。
「とにかく全力で逃げましょう。うまくいけば安藤さん達が、奇襲攻撃をしてくれるはずです!」
がむしゃらに木々を避けながら走った。もう少しで安藤たちのいる場所だ。頼む!なんとか麻酔銃で・・・そう祈りながら二人はひたすた走る・・・。
ところが、男達は異常なスピードで迫ってくる。
「駄目だ!追いつかれる!仕方ありません。応戦しますよ!」
走るのを止め、振り返りザマに銃を構えるレイニー。早川も急いで振り返る。すでに正面に大柄な男達が、銃は構えず、じわりじわりと迫ってくる。
「あんたたちは何者だ?」
しかし、その質問に答えることなく、ゆっくりと、一歩一歩近づいてくる。
「質問に答えなければ眠ってもらうことになる。」
そう言って銃口を左側の男にレイニーが向ける。それを察知した早川は右側の男に向けた。しかし、なおも、男達は迫ってくる。
「打ってください!早川さん!」
レイニーはそう言うと自分が先に打った。早川も狙いを定め打った。レーザー光は男たちの体に見事命中した・・・が、男達は何事もなかったかのように、さらに迫ってくる。
「だ、だめだ・・・麻酔銃が効かない。どうやら防弾チョッキのようなものを着ているようだ。ならば素手で戦うまで!」
レイニーが左側の男に飛び掛った。早川も少し躊躇したが、身構えた。レイニーは胸倉を掴み、足払いをして男を倒そうとしたが、びくともしない・・・。逆に体ごと持ち上げられ、投げ飛ばされた。
「う・・・うっ・・・ゴホッゴホッ・・・」
「大丈夫ですか!!」
しかし、早川にももう一人の男が迫っている。力では勝てそうも無い。ならばスピードでかく乱するしかなさそうだ。まっすぐ向かって行き、直前で右にステップを踏みすばやく後ろ側に回りこむ・・・はずだったが、それを読まれていたのか、男の左の拳が早川の頬にカウンターで入る・・・一瞬意識が飛んだ・・・
数秒ではあるが目を開けると、木々と空が見えた。頭がクラクラする。何が起こったのか理解できない。
「早川さん・・・早川さん・・・」
レイニーも倒れこんだまま起き上がることが出来ない。そして、目の前が一瞬真っ白になり、また元に戻る・・・意識を失いそうになりながらも、なんとか意識を保とうとレイニーも必死だった。
今度は男達が、肩にかけたライフルらしきものに手をかけた。
だ、だめだ・・・殺される・・・
早川もレイニーも死を覚悟した。
その時だった。目の前に迫り来る大男の背後に黒い影がどこからともなく回り込み、首の辺りに何かを射した。レイニーの方にいた大男にも、同じように黒い影が一瞬で近づき、首の辺りに黒い影は何かを射した。すると、大男二人は糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちた。
「大丈夫かい?」
初めは、安藤たちが駆けつけてくれたのだと思ったが、目の前にいた、明らかに人間らしき男が手を差し伸べながら、たしかに地球の・・・いや、日本語で話しかけてきた。
一瞬、自分は意識でも失い、夢でも見ているのかとさえ感じた。
しかし、それは紛れも泣く現実で、横を見ると、レイニーの方にも人間らしき男が歩み寄り、声をかけていた。
何が起こっているのか状況が全く把握出来なかったが、とにかく、男の手を借りて、どうにか体を起こした。まだ、頭がガンガンする。耳鳴りも時々聞こえた。
「どうして我々が地球のしかも日本語を話せるのか?と疑問のようだが、話せば長くなる。まずは、君たちの仲間と合流し、その後、違う仲間たちとも合流してから詳しくお話しよう。」
何度も見ても人間にしか見えない。もしかすると、地球からの後続部隊が早く着いたのか?それより、統括は?
そして、あの大男たちは一体・・・
わからないことが多すぎて、ますます混乱する。それに、体のあちこちが痛む・・・
ようやく立ち上がると、レイニーも状況がよく理解できないようで、ただ、目の前にいる男をじっと見つめていた。
「大丈夫か!早川!レイニー!」
「陸!大丈夫?」
「レイニーさん大丈夫ですか?」
今度は聞きなれた声が聞こえてきた。安藤たちだった。
「とにかく助かりました。有難う御座います。」
早川とレイニーは二人の男に頭を下げたあと、倒れている大男のほうを見た。
「大丈夫だ。気を失っているだけだ。直に目覚める。」
いくら襲ってきたとはいえ、殺されたのだとすればいい気はしない。少しほっとした。そして、ようやく意識がはっきりしてくると、あることを思い出した。
「そうだ!統括は?」
早川が慌ててキャンプの方へ駆け出す。レイニーもそれに続く。安藤たちは状況が理解できずにいた。
「いない・・・」
すでにタケルの姿は見当たらなかった。ただ、ロケットはその場所にあった。ということは、この星のまだそう遠くない場所にいるはずだった。
「追いますか?」
レイニーが早川に追いついて問いかけた。すると、後ろのほうで声がした。さっきの二人組みだった。
「彼の事は、我々も良く知っている。今は放っておいても大丈夫だ。その件についても、君たちの仲間と合流してから詳しく話そう。とりあえず、仲間に連絡して、合流しよう。」
片方の男が言うのを聞いて、耳元でレイニーが早川に、
「助けてもらったのはありがたいですが、あの人たちが何者かもわからないのに、このまま信用して大丈夫だと思いますか?」
「たしかにタイミングも良すぎますし、これは罠かもしれませんね・・・しかし、安藤さんたちはイマイチ状況を飲み込めてませんし、俺たちだけが逃げるわけにもいきません。どうすれ良いのか・・・」
と、言いかけた所で、もう一人の男が、
「我々を疑うのも無理はない。しかし、信じてもらうしかない。今言える事は少なくとも君たちの敵ではないこと。そして、君達が束になりかかってこようとも、我々を倒すことは不可能だという事。ならば、今は我々の指示に従ってもらうのが賢明だと思うが・・・」
すると、今度は聞こえるようにレイニーが、
「たしかにその通りですね。ここは彼らに従いましょう。きっと彼らが現われなければ、僕たちはどうなっていたかわかりません。安藤さんたちに事情を説明させてください。」
「では、我々の車の中で説明してくれ。あと、仲間に場所を確認して欲しい。」
「わかりました。」
早川も、ここは彼らの指示に従うことにした。安藤たちは何がなんだかわからないまま、車に乗り込んだ。早川は青柳に連絡を取った。なんとか通信出来、場所を確認した。青柳には、とりあえず、何も無かったとだけ伝え合流する旨を伝えた。
車は軽重力地帯とは逆の方へ歩いていくと、止めてあった。ちょうど最初の洞窟へ向かう道だった。車は、特に変わったところも無ければ武装されているわけでもなかった。地球で慣れ親しんだ車とそれほど変わらないワゴンタイプのものだった。タイヤだけは悪路でも走行できるようにと大き目のオフロードタイプで、ボディ全体から充電できるタイプのようだ。
男達は車に向かう途中で、早川たちに自分たちの名前を伝えた。
「私の名は、ウォーレン、隣にいる彼が、ロジャーだ。よろしく。」
「こちらこそ、よろしくです。」
ウォーレンと名乗る男は身長165センチくらいの小柄で痩せ型、ロジャーの方は180センチくらいで、こちらも見た感じは痩せ型だった。地球人であれば、白人に近い。瞳はどちらもブルーだった。しかし、流暢に日本語を話している。
とにかく、何故日本語を話せるのか?彼らは地球から来たのか?偶然、早川たちを助けたのか?疑問があふれ出す。それは、レイニーも同じようだった。一方で安藤たちには「危ない所を助けられた。まだ、危険なので、彼らが教授たちの下へ送ってくれる」と説明してある。
友香と真由は何か引っかかる感じだったが、早川たちの心中を察してか、一言も喋らなかった。安藤は、送ってもらえるならありがたいとばかりに、上機嫌だった。
車は、見た目以上に早かった。どんどんスピードを上げるが、車内には揺れはほとんど感じない。静か過ぎて、逆に気分が悪い・・・酔いそうだった。あっという間に、教授に聞いた場所までたどり着いた。
「それでは、皆さんに集まるように伝えてください。」
早川は車から降りると、青柳たちを呼びに、洞穴へ入っていった。しばらくすると青柳たちが外に出てきた。そして、見たこともない男達に驚きを隠せない。思わず佐々木が、
「おい、こいつら誰やねん!まさか、地球からの後続部隊が到着したんか?」
相変わらずせっかちな口調で捲くし立てる。
「佐々木さん、落ち着いて下さい!彼らが今から説明してくれるそうです。僕たちにも何がなんだか、よくわかっていません。」
「どうゆうこっちゃ!」
佐々木はとにかく、状況が理解できずイライラした様子だった。そこへ青柳が現われ、
「どうゆうことか説明してもらうか?」
と、ウォーレンたちに詰め寄った。
「では、お話しましょう。長くなりますので、質問などは最後にまとめてお願いします。座って聞いて頂いて構いません。」
そういうとウォーレンが話し始めた。
「まず、最初に我々は元々は地球人です。皆さんも地球で、地球の歴史を習ったと思います。しかし、地球では約1億年前に恐竜が巨大隕石の衝突で絶滅、その後、約6500万年前に哺乳類が誕生し、約30万年に現代の人に近い猿人、旧人と呼ばれた人が出現したと思っているはずです。
しかし、実際にはもっともっと太古の昔、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀よりもっともっと以前から人類は存在したのです。
では、何故地球の歴史上では、その記録が残っていないのか・・・
ひとつには、そこまで遡って過去を調査できるだけの科学力が今尚、現代においても存在しないということ。
そして、一番致命的なのは、現代人は、今が一番地球の歴史で進化を遂げたと思っているということ。そういう考えから、古代文明は原始的で、ちょっとした装飾品を発見しただけで、当時としてはすごい技術だとか、当時の人々はどうやってこんなものを作ったのかと、そういった発送にしか目が向かない。結果、地球の歴史を大きく見落としてきた事。
実際には、現代の地球以上に文明が栄えた時代はいくつも存在した。そして、氷河期など、生命の危機に瀕した時、人類は他の星へと移住したのです。
その後、他の星でこれまでの技術を生かし、発展を続ける一方で、祖先の星を懐かしむ連中が再び地球へと帰還する。そういったことを幾度となく人類は繰り返してきたのです。
その際、文明の痕跡は残さぬようにと、当時の文明品は他の星へと移送されました。ところが、移送できないものや、その当時の手違いなどで、いくつかの痕跡はそのまま地球へ残してしまうこととなりました。
その代表とも言えるのがギザのピラミッドだったり、マチュピチュだったり、コロッセオだったり・・・実際には数多くの文明品が現代まで残ってしまうこととなりました。ピラミッドなどは、当時、最新の技術力で、1ヶ月程度で完成させたと、わが星の記録には残っています。地球では多くの人で力だけで積み上げたと勘違いしてますが、現代でも1ヶ月で機械を用いて作るのは不可能でしょう。
簡単に説明すると、地球の歴史とは、地球での人類の生活が危険と判断した際に、他の星に移住、無事生活可能な環境に戻れば、再び帰星するという繰り返しの歴史だったのです。しかし、全ての人類が地球へ帰星するわけではなく、更なる星を目指すもの、その星に留まるものと様々です。我々は、最初に移住した星、アポリスで生活しております。そして、常に地球やその他の移住星に監視員を送り込み、その星々の調査などを行っております。
つまり地球にもアポリスの人間が常に暮らしており、絶えずアポリスと交信を続けているのです。それは決して悪い意味ではなく、地球人だけの蚊学力ではどうにもならない時、再び地球が危機に瀕した時に、我々の科学力で救いの手を差し伸べるために行っているのです。元々祖先を辿れば、我々も地球人です。
そして、今回惑星ポールマンの接近に伴い、新たにそれに対処出来る人員を地球に送り込んだのですが、青柳教授の発明が、我々の力を借りずとも乗り切れるのではと、しばらく様子を見ることにしました。つまり、最初の医療目的の段階で、我々にはポールマンの接近はわかっていました。やがてFTSが地球を救うことになると。その為に少しだけ導きのきっかけが必要だと判断した我々は、セルゲスという男を地球に送り込みました。それが、あなた方もご存知の早川タケルと名乗る男です。」
そこで、一度話を止めた。皆、あまりにも話が大きすぎて、質問すら出来ないでいた・・・。
更にウォーレンが続けた―――。
「セルゲスは当初の予定では、地球人の発明したFTSをうまく活用し、ポールマン衝突までに新たな星への移民計画を実行させるという使命の元、地球に送り込まれましたが、どうやら、地球での自分の地位とアポリスでの自分の地位を比較し、今の存在を維持したいと言う欲望から、当初の目的を放棄し、自由に地球人を操り始めてしまいました。しかし、不覚にも我々もその事に最近まで気づかなかった・・・。地球にはさっきも言ったように、各国の様々な場所にわが星の調査員や監視員を送り込み、地球の動向や、セルゲスの様に星の存続に関わる派遣員の監視などを行ってきましたが、セルゲスはそれらをもうまく欺き、うまく立ち回ってきたようです。しかし、ちょっとしたセルゲスのミスから、彼の野望が判明し、我々がその野望を阻止しようと、地球に向かいましたが、地球からの連絡で、ZZO-Wにあなた達が向かい、そして、セルゲスがその後を追ったという事から、急遽、こちらへ進路を変更し、なんとか、あなた方を、ひとまずお守りすることが出来たというわけです。」
そこまで、話して・・・早川が、
「しかし、俺の子孫だと・・・」
「そんなものはDNA検査でもしない限り、たとえ家計図を見せられても、事実かなんてわからない。」
すると、大杉が、
「じゃあ、順平は?彼もあなた達の星の人間?」
「いや、彼はあなたの子孫なのかは別として、現地球人だ。彼はなかなか優秀で、薄々、セルゲスの行動に不信感を抱いていたはずだ。しかし、セルゲスという男は、とにかく警戒心も強く、頭もかなりキレる。そして、用心深い。まず、現地球人では、太刀打ち出来る人間は少ないか、もしくはいないだろう・・・。」
今度は青柳が、問いかける。
「しかし、何故我々が狙われたんだ?それに、もし始末したいのであれば、地球で何度でもチャンスもあったはず・・・。」
「さっきも言ったように、セルゲスは用心深い男だ。今は地球をテリトリーに自分の権力を振るいたい。しかし、地球には地球の、日本には日本のルール、法律が存在する。むやみに地球内であなた方を始末すれば、疑いの目がセルゲスに向く可能性は否定できない。そういうわずかな危険も冒さないのがあの男のやり方だ。ここでなら、不慮の事故と言って片付けられる。」
「しかし、二人の護衛は地球人・・・足がつくのでは?」
「いや、彼らは現地球人ではない。その辺りも用意周到な男でね。他に散らばった地球人、多分フィラデウス辺りと交信を取って、宇宙で合流したに違いない。現地球人が考えるより、他の星では宇宙での行き来ははるかに身近なものなんだよ。」
「そうか、色々と地球の歴史の謎が解けた気がするね。しかし、何故、私たちなのかという問いにはまだ答えてもらっていないが?」
「その点は、推測ではあるが、青柳さん、あなたの発明は、我々の星のレベルでも素晴らしいものだ。実際に仮死状態から復帰させる、時間、温度など、見事と言うしかない。それを脅威と感じたのかもしれない。FTSは間違いなく地球を救えるし、応用すれば、さまざまな分野で活躍できる。セルゲスは、あなた達が仮死状態の間に、データを分析、きっとある程度、自分のものにしたのだろう。そうなると、今度はあなた方が邪魔になった・・・おおよそ、こんな感じかと推測しているがね・・・。」
「素直に喜んでよいのかわからんが、なんとなく輪郭は理解できた。しかし、一度に地球の歴史から、色々言われては、混乱しているのも正直な感想だ。」
青柳は、少し自分の発明に誇らしげな表情を浮かべたが、すぐに難しい顔になった。再び、しばしの沈黙が続き、ずっと何かを考え込んでいる様子だったレイニーが、今度は質問する。
「ということは、ロケット付近で気配を感じたのはあなたがただったというわけですね?」
「そうだ。セルゲスがいつ到着するかはっきりと把握できなかった我々は、ロケットにレーダーを取り付け、観察することにした。君達にセルゲスの事を先に伝えるかどうか、悩んだが、下手に情報を流す、勘の鋭いセルゲイ、有無も言わさず、君たちを攻撃しかねない。もう少し時間に余裕があれば、我々の仲間を向かわせることも出来たが、間に合わなかったので、申し訳ないが、その点では君たちを利用させてもらった。」
「しかし、そんな用心深いセルゲスが何故、地球のレーダーで感知できる機体でこっちへ向かったのでしょう。そもそも、あなた方でも、直前まで気づかなかったのでは?」
「推測ではあるが、フィラデウスの連中と合流の際に、何かトラブルがあって、仕方なく、地球の機体でここへ来る羽目になったのだと我々は考えている。事実、一度は我々のレーダーからも補足出来なくなった・・・しかし、突然レーダーが捉えた。その間に何かあった可能性が高い。」
「なるほど。それで、この先どうすればいいのでしょう?もうセルゲスは諦めて、襲ってこないのでしょうか?」
「アポリスにはすでに伝え、指名手配したので、地球にはもう戻れない。しかし、その程度の事で、諦めるヤツではない。また、他の星と交信して、体制を建て直し、なんらかの形で、報復してくるはずだ。それが逆にヤツの欠点でもある。そのまま逃げれば、捕まらない可能性もあるのだが、用心深さにも勝って、執念深い。きっと、本来は関係の無い君たちを逆恨みし、襲ってくる可能性が強い。しかし、その点は我々が責任を持って守り抜いてみせる。君たちは、引き続きポールマンからの危機を脱するため、移住計画を進めてほしい。」
「しかし、すでにここへ来ているではありませんか。後は地球からここへい面する段取りを各国の政府間で調整するだけでは?」
「いや、我々が本来導くべき星はここではなく、惑星ZZO-Xだった。それをセルゲスが君たちを葬るために、勝手に変更したのだ。ここは見ての通り、地球とは環境が違いすぎる。昆虫の類もあまり生息していないし、動植物も今の地球の人口を考えると少なすぎる。その点、惑星ZZO-Xはほぼ地球と同じ環境なのだ。しかし、そこは地球からは遠い。そして、我々の科学でも、到達するまでに寿命が尽きてしまう。そこで、FTSの出番なのだ。今のように一人一人が搭乗出来るタイプでは、間に合わない。もっともっと大型のものが必要だ。我々の科学力もそちらへ注ぐつもりだ。その為にも、一度、地球に帰還してと言いたいところだが、今、地球に戻れば、セルゲスの攻撃は避けられない。まず、我々と共にアポリスに来て貰う。そこで、最新の科学を学んでもらう。その間に、我々がセルゲスを捕らえる。危険が去った後、地球に戻り、アポリスで学んだことを生かして、FTSとうまく融合させてくれれば、移民計画は完了というわけだ。地球の政府機関には、われわれの監視員がうまく説明する。とにかく、まずは我々の星へついて来てもらうことになる。」
もう、これ以上早川たちの手に負える事ではないと実感した一行はウォーレン達の提案に従うしかなかった。まず、地球にいるウォーレンの仲間と連絡を取り、本来、明日到着予定だった後続のチームの乗ったロケットはプログラムを変更して、地球へ進路を変えた。
そして、早川たちは、ウォーレン達の乗ってきた、楕円形をした、ロケットというより、これまで地球人がイメージしてきたUFOと言う方が近い感じの、その乗り物に乗り込んだ。
「この機体は、地球の最新のロケットの1000倍以上の速度で移動が可能だ。その速度を持ってしても、ZZO-Xには200年近くの時間が必要なのだ。しかし、青柳教授のFTSの理論を取り入れれば、更に100倍以上の速度以上の速度を得る事が可能と言うデータが最近になってわかり始めたのだ。」
青柳は首をかしげた。
「私の発明したのは、人体を生きたまま、急速に冷凍し、それを、解凍する技術だ。速度に影響を及ぼす技術など持ち合せていないのだが・・・」
「地球の現在の科学レベルでは、理解しがたいだろうが、教授の理論を応用すれば、わが星ではそれが可能なのだ。とにかく、まずは我々の星へ来てもらえば、理解してもらえると考えている。」
「よくわからんが、今は君たちの指示に従うことにする。」
早川にはその距離すらも、想像出来なかった。途方も無い距離であるという事以外は・・・。
「この機体にはFTSは当然搭載されていない。通常の状態での移動となる。アポリスまでは、地球の時間の概念では10日程度到着する。それまでは少し窮屈な生活になると思うが我慢してくれ。」
と、言っても、その機体は十分すぎるほど大きかった。早川たち10人には、ちゃんと一人一部屋の空間も与えられた。寝るだけなら十分の広さだった。何より驚いたのは、設備などは地球のものと、ほとんど変わらなかった。やはり元々同じ遺伝子から進化した人間は、どんな環境で暮らしても、同じような結果をもたらすのかもしれない。ただ、地球の方が、その進化の度合いが、彼らアポリスより、遅れてしまっただけの事で・・・。それも宇宙の歴史からすれば、似たり寄ったりなのかもしれない。
やがて、早川たちを乗せた、その機体は、地球でのロケットのように大量の燃料を噴射することもなく、静かに宙に浮いたかと思うと、一気に上昇し、あっという間に眼下には、今までいた惑星ZZO-Wの丸い形となり、そして、それは白い点となり、やがて見えなくなった・・・。
一行は、手荷物をあてがわれた部屋に置くと、司令室へ集合するように命じられた。全員が揃った所で、ウォーレンが今後のプランをもう少し詳しく話すと言う。
司令室には大きなテーブルに16人が腰掛けられる椅子が並べられていた。本来ならロケット内は無重力のはずだが、ここでは、地上と同じように歩けた。どうやらアポリスでは重力さえコントロール出来るだけの技術力があるようだ。
皆、適当に席に着いた。
ロジャーは、なにやら、操縦席と思われる所で、忙しなく、交信を続けていた。耳にした事もないような言葉で話している。
「あれは、アポリスの公用語。地球で言う英語のようなものだ。アポリスでは地球の言葉も使われているし、他の星の言葉も使われている。いくつかの星とは貿易も行っている。現在、地球には先ほど話したように、あくまでも監視と調査以外、基本的にはかかわっていない。やはり、その星々で独自の発展を遂げるのが望ましい。我々にとっても地球と言うのは特別な星。遠い祖先の故郷なのだ。だからこそ、地球での言葉は常に取り入れている。時間の概念や習慣なども、大体は同じだ。ただ、ああやって他の星や地球で言う政府などとやり取りする時は、独自の言葉を使用する。」
「なるほど。見た目は同じ種族に見えても、こうやって、不思議な言葉を話しているところを見ると、改めて、実感するものだな・・・異星人なのだということを・・・」
青柳が感心した様子で、耳を澄ましてロジャーの話し言葉に聞き入った。早川たちも理解は出来ないが、不思議な感覚で、聞いていた。
「それでは、今後の予定だが・・・」
と、話し始めた直後に、
「大変だ!セルゲスのヤツ・・・よりによって・・・」
突然、ロジャーが叫んだ。ウォーレンがどうしたのか、聞いた。
「どうやら、宇宙ギャング、ノレッセと手を結んだようだ。これはやっかいなことになったぞ!」
聞きなれない言葉に早川たちには何が大変なのかが理解できなかった。思わず早川が、
「どういうことですか?わかるように説明してください。」
しばらく考え込んだ後、ウォーレンが話し始めた。
「まず、宇宙ギャングとは、宇宙をテリトリーにする海賊のような集団だ。しかし、宇宙は広い。海賊のように、行き交うロケットなどを襲うような集団ではなく、様々な惑星の技術などを転売する事を生業とする集団だ。当然、その為には荒っぽい事も平気で行う連中だ。そういった宇宙ギャングは数多く存在するが、その中でもトップクラスの少数精鋭集団がノレッセだ。人数は20人。代表を務める男はジアーノ・セシル。惑星フェイズ出身で、現在は各星々を転々としている。惑星フェイズは、元々地球誕生以前から人型生命体が存在しており、一説には、地球人とは、ここから移民してきた者が地球に住み着いたのが始まりではないかと、唱える学者もいる。そのくらい、我々に似た生命体だ。」
「それで、セルゲスがそいつらと手を結んだとして、どうやっかいなんだ?」
いまいち状況を理解できない安藤が聞いた。しかし、理解できないのは早川たちも同じだった。
「あくまでも、ここからは推測だがセルゲスは青柳教授の研究成果を地球から持ち出したはずだ。それらの資料・・・つまりFTSの技術をノレッセに譲る代わりに、我への復習に協力するように交渉していると思う。」
それに対し、レイニーが疑問を呈した。
「しかし、ギャングといっても20人足らず、いくら精鋭揃いでもあなた方の星で対応できるのでは?」
「ノレッセの機動力は我々の星の技術力を上回る。我々が行動するより早く手を打ってくる。目的が我々への復習ということであれば、尚更だ。」
「つまり、すでにこちらへ向かっている可能性があるということです?」
「そうだ。」
皆の表情が一気に凍りついた。
「こいつは機動力は高いが、攻撃には弱い。そういったことを想定していなかったからな。何よりも、攻撃できる類のモノを装備していない。」
「ということは、もし襲われたら一溜まりもないということですか?」
「そうだ。なすすべもなく、宇宙の塵となってしまうだろう。」
「では、このまま黙ってやられるのを待つという事ですか?」
ますます不安が高くなる。まさか、移住計画の調査のはずが、こんなことになるとは、誰も予想だにしなかった。話だけを聞いていると、このまま逃げ切る事も難しそうだ。これが地球であれば、警察なり、軍なりに協力を仰いで守ってもらう事も出来そうだが、ここは宇宙、どこにでも逃げれそうなくらい広い一方で、地上のような自由が皆無である。限られた行動しか取れない。そして、威嚇や反撃できる装備も搭載していないとなるれば、ただただ、やられるのの待つということになる・・・。
しばらく、考え込んでいたウォーレンは、まずロジャーに何かを指示した後、早川たちに向かってこう言った。
「ZZO-Wに引き返す。宇宙空間では不利過ぎる。かと言って、アポリスや地球に戻るだけの時間もない。再び、地球と交信して、本来到着する予定だった後続部隊をUターンさせる。それにアポリスからの援軍も大至急要請する。間に合うかどうかはわからんが、早ければ一週間程度で到着出来る。」
「それまで、我々だけで凌ぐということですか?」
「地球からの舞台は今軌道修正をかければ、当初の予定より数時間程度の遅れだけで到着出来るはずだ。セルゲスは、まだZZO-Wのどこかにいて、ノレッセと連絡を取り合っているはずだ。特殊に暗号化されているので、傍受しても解読には時間がかかりすぎるが、少なくとも連絡を取り合っていると言う事実が把握できるだけでも、こちらとしては動きやすくなる。」
「たしかに、このままこの機体で移動しても、ただの的ですね。ハチの巣にされてお終いだ・・・。ここは僕もウォーレンの提案に従った方が良いと思います。」
レイニーが同意を得ようと、皆の顔を見回す。誰も異論、反論は無い様子だった。やがて、機体は宇宙空間を旋回し、再び惑星ZZO-Wに着陸した。着陸地点は、早川たちが最初に降りた場所だった。見つかりやすい場所ではあったが、使えるものが、まだあったからだ。
機体から降りた一行は、まず、早川たちの乗ってきたロケットやキャンプから使えるものを集めた。一方でウォーレンとロジャーは機体から、大型の車と小型のスクータータイプの二輪車を4台下ろした。車には8人しか乗車できないので、4人がスクーターに乗って移動という事なのだろう。
「さて、このスクーターは君たちのバイクより早いし、使い勝手がいい。ロジャーには車のほうの運転を頼むので、私と後三人はスクーターで移動してもらう。まず、先ほどの青柳教授達が待機していた洞穴まで荷物などを移動させる事にする。通信の電波などから推測すると、セルゲスはまだ、一人でこの島のどこかにいるはずだ。君達が移動手段に利用したバイクと同じようなもので移動しているはずだ。そして、洞穴とは逆の方向へ逃げた事だけは確認している。まさか、再びこちら側に戻ってきたとは考えにくい。が、ノレッセ達が移動手段に使っているロケット、AMZ-150はとにかく速い。予測では後数時間でZZO-Wへ降り立ち、セルゲスと合流を図るだろう。」
「それまでにセルゲスを見つけ出して、捕らえるということは出来ませんか?」
レイニーが尋ねた。
「それも考えたが、この星は知ってのとおり地球の約4倍。惑星の中ではそんなに大きな部類ではないが、今いる人数と情報量では、発見するには時間がかかりすぎる。」
「しかし、この星は見た感じ、それほど遮蔽物があるようにも見えません。上空からの追跡では駄目でしょうか?」
レイニーが食い下がる。
「それは、この星の本の一部しか見ていないからだ。川の方向をまっすぐ進むと、まず、森があり、その先には標高4000m級の山々が連なっていて、上空からでは非常に追跡は困難になる。それにこの星は海抜の差が激しく、高地と低地が入り組んでいたり、とにかく複雑な地形なのだ。そういう意味でも、ここに移住するのは、はっきり言って地球での環境に慣れ親しんだ者には過酷を極める。とにかく、今は急いで洞穴のほうへ向かう。あそこは、奥に行けば入り組んではいるが、とにかく広い。食料も確保できるし水も豊富にある。何よりも入り口がひとつでは無いため、追い詰められる心配がない。拠点にするには最高の環境だ。」
そう言いながら、ウォーレンは独断で、車へ乗る人物を押し込んだ。スクーターには早川、レイニー、佐々木とウォーレンが乗る事になった。他のメンバーが車に乗り込むと、何も言わず、出発した。
「我々も行くとしよう。操作は跨って、スタートを押せば自動で走行する。充電はマドラス光で十分補える。とにかく、今は急ごう。」
当然ながらエンジン音は聞こえない。そして、動物の鳴き声なども聞こえず、森のほうからかすかにわずかな風に揺れる木々の音が聞こえた。早川たちも急いでスクーターに跨ると、すばやくウォーレンに続いた。なにやら通信機器らしきものがハンドルの間に装備されているようだったが、使い方がわからなかった。今はそれも必要ないのだろう。レイニーと佐々木も同じように早川の後をついてきた。
スクーターは、早川達が移動手段に利用したバイクとは比べ物にならない程速かった。きっと、東さんや大杉さんには、運転は難しいかもしれない。時速で言うと軽く100km/hは出ているだろう・・・。転倒防止の補助輪らしきものが前輪を囲うカバーのようなものの中に見えた。きっと、バランスを崩したりすれば瞬時に飛び出す仕組みなのだろう。
それでも、怖いと感じるスピードだった。一体、こんな小型のスクーターのどこにそんなパワーが秘められているのか、想像もつかなかった。地球だったら、確実にスピード違反で切符を切られていただろうと、そんな事を考えながら、運転していると、あっという間に、最初に発見した岩山の洞窟まで来ていた。一行はそのまま右折し、岩山に沿ってさらに進む。すぐに岩山の切れ目が見えてきた。
そこを今度は左折して、ひたすら走る。やがて、川が目の前に見えてきた。そこを右に曲がりしばらく進むと、先に出発したロジャーたちがすでに車から降りて、荷物を洞穴へと運び込む姿が目に飛び込んだ。
早川たちも、車の近くにそれぞれスクーターを止めた。
先に着いていたウォーレンが、ロジャーに車をどこかに隠すよう指示していた。
「スクーターは洞穴の中へ移動させてくれ。車は、目立たぬよう、この先の森に隠してくる。青柳教授たちはすでに中にいる。合流して待機していてくれ。私はロジャーに同行する。すぐに戻る。」
そういうとすばやく車に乗り込み、車はあっという間に走り去った。
「とにかく、中へ入りましょう」
早川がレイニーと佐々木に言う。黙って頷き、早川たちは、スクーターを押して洞穴を奥へと進んだ。
「ウォーレンとロジャーはどうしたのかね?」
細い通路を抜けた広い空間に青柳たちがいた。早川の顔を見るなり、青柳が聞いてきた。
「車を入り口に置いておくのは目立つという事で、森のほうへ停めてくると言ってました。」
「そうか。あまりにも目まぐるしい出来事に、さすがに我々も少々疲れたようだ。一体この先どうなってしまうのか、不安も拭えない・・・私の発明が、こんな事になるとは・・・こんなことになるのがわかっていれば、発明なんてしなかった方が良かったのかと、ここにきて思う。」
青柳は落胆した様子で、ため息混じりにそう漏らした。
「そんなことはありません。教授のお陰で真由さんや東さん、大杉さん助かったじゃなりませんか!それに、まだ、これと言った被害も受けてませんよ。ウォーレン達の話だって、まだ、本当かどうかもわかりません。もしかしたらセルゲスも諦めて、どこかへ姿を消すかもしれません。すでのFTSの技術は盗まれてしまいましたが・・・」
「とにかく、我々の無力さ・・・にはため息が出る・・・ウォーレン達に従うしかないのだからね・・・とにかく、早川の言うように、セルゲスが復習など馬鹿げた考えを捨て、大人しくどこかへ消えてくれることを願っているよ。」
青柳はFTSの発明に責任を感じているらしく、言葉にも精気が感じられなかった。早川は話題を変えようと、問いかけた。
「ところで教授。俺たちはここへ来るのは初めてですが、この先には何かあるんですか?」
「いや、わからん。東君や大杉君も疲れていたので、佐々木君が一人で探索に行くと言い出したが、危険なので止めたよ。だから、この先には誰も足を踏み入れていない。」
「ウォーレンの話じゃ、この先はかなり広いみたいですね。食料や飲料水など資源も豊富だとか・・・地球では、水以外は地底や洞窟には口に出来るものはあまりないんですが、やはり、その辺は地球とは全く違うと言うか・・・」
そんな話をしていると、ウォーレンとロジャーが走りながら戻ってきた。その表情から察するには、何か良くない出来事が起こったに違いないと、そこにいた誰もが感じた。
「君たちには申し訳ないが、援軍は来ない・・・というより、交信が出来なくなった・・・」
一瞬、機器のトラブルなのかと思い、青柳が、
「修理は出来ないのか?」
と、その程度なら、なんとかなるだろうと、科学者らしく切り返した。
「いや、機器にトラブルは見当たらない。」
「では何故?」
「ノレッセの連中が妨害電波で、交信を妨害している・・・こちらへ再度軌道修正をした、君たち、地球からの後続部隊のプラグラムも、どうやら書き換えが出来なかった・・・。」
となると、もうこの星に誰も助けに来ないことになる。いや、早川たちとの交信ができない事に気づけば、あるいは地球で調査にあたると思うが、それがいつになるのか見当もつかなかった。つまり、ここから逃げるか、ノレッセと戦うかの選択肢しか無くなったのである。
さすがにウォーレンの表情にも焦りが見える。そんな中、友香が、
「私たちだけでは、きっと話から推測すると、ここにいる人たちだけでは、まともにやりあっても勝ち目は薄そうですし、地球やあなた方の星とも交信が出来ないのであれば、誰かを地球に向かってもらって、助けを求めるしか方法はなさそうね。あなた方の期待なら地球までは短時間で行けるのでは?」
すると、ウォーレンが、
「たしかに地球まで、1週間程度で着くだろう。しかし、危険も伴う。もし、ノレッセの奴等が、そちらを先に追跡されては、あっという間に迎撃されてしまうだろう。命を賭けた選択となるが・・・」
そう言われ、友香も返す言葉が見当たらなかった。しばらく、沈黙が続く・・・。
最初に口を開いたのは大杉だった。
「私が行くわ。どうせ、ここへ残っても足手まといになるだけだし、交信が出来ないのであればオペーレーション担当の私は不要だしね・・・。」
「一人では行かせないわよ。」
にっこり微笑みながら東が大杉の手を握ってそう言った。
「し、しかし大杉さん、東さん・・・」
早川が、何かを言いかけるが、大杉が、
「心配しなくても、大丈夫よ。このままここに居ても、危険なのは一緒。それなら、少しでも可能性の高いほうを選択するのは常識でしょ?あなたも科学者の端くれなら、そのくらいわかるはずよ?私たちは十分生きたわ。それに私たちの夫や子供たちも幸せな人生を歩んだみたいだし、何も思い残す事は無いわ。もし、死んだとしても、きっとあの世で夫や子供たちに会えるし、そう考えたらどちらに転んでも怖い事なんてひとつも無い。」
早川はそれ以上何も言えなかった・・・。怖くないはずはない。精一杯強がっているのは感じ取れた。
「そうと決まれば、膳は急げよ!操作は得意だから、任せて!」
東も精一杯の笑顔でそう言うと、ウォーレンに歩み寄った。
「決意は固そうだな・・・。操作は自動なので、特に必要はない。私が責任を持って地球までのデータをインプットしよう。出来る限り相手に気づかれぬよう、最善のルートでな・・・。そうと決まれば時間がない。私は、彼女たちを再びキャンプ地まで運ぶ!ロジャーと共に、君たちは奥へ進んでくれ!」
ウォーレンは大杉と東を連れて足早に出口へ向かって歩き出した・・・。その背中に向かって早川が、
「大杉さん!東さん!必ずご無事で!」
と、叫んだ。大杉と東は何も言わず、ただ、笑顔で応えた。他のメンバーも代わる代わる、別れの言葉を言った。
「本来なら私が・・・私が行くべきだった・・・しかし、ここに残った連中の面倒を見るという使命も残っている・・・すまん、大杉君、東君・・・。」
青柳は唇を噛み締めながら、ウォーレンたちが見えなくなるまで、その場を動けずにいた。
「教授!大丈夫です!きっと二人が地球から援軍を呼んでくれますよ!」
早川の言葉に、青柳も、
「そうだな。きっと大丈夫だ・・・。」
と、自分に言い聞かせるように小さく頷いた。