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FTS  作者: くきくん
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第五章 惑星ZZO-W

目の前の扉が、「プシュー」と、音を立てて開いた。その数は12枚。そこから、人々は降りてきた・・・。


「相変わらず、一日普通に眠った感じだな・・・今は、何年だ・・・」


背伸びしながら、安藤が言った。そのまま、周囲を見回し、


「おや?かなりFTS制御室の構造が変化したな・・・とりあえずは外へ・・・」


と、言いかけた所で、タケルが大声で叫んだ。


「そのまま外へ出ると死んでしまうかもしれません!!とにかく、部屋からは一歩も出ないで下さい!!」


あまりの大声に何が起こったのか理解できないものもいた。


「とにかく、一度中央へお集まりください。青柳教授も、まずはこちらへ。」


タケルは以前会った時より10歳は老けて見えた。FTSから降りた面々は指示された通り中央に集まった。そこには早川たちが見たことも無い人物もいた。集合したのを見ると、タケルが話し始めた。


「お話する事が多すぎますので、最重要事項からお話します。細かい点は後ほど資料をデータ化したものを、これからお渡しする端末に転送しますので各自、チェックして下さい。」


そういうと、デスクに置かれた端末を皆に配り始めた。


「使用方法は前回とそれほど変わってませんので、前回、操作に詳しかった森本さん、申し訳ありませんがフォローをお願い致します。」


「わかりました。」


「まず、先ほど部屋から出ないで下さいと言ったのは、現在は早川さんたちがFTSに搭乗してから329年が経過しており、その間に、大気中の成分などにも変化が現れた結果、まずは、免疫力や抗体をつけるための注射を打たなくては、活動できない可能性があるということです。」


「329年!?」


早川たちにざわめきが起こった。自分たちが暮らしていた時代から500年以上の月日が流れているのだ・・・無理もない。


「次に、皆さんの中に、初めてお会いする人がいると思いますので、自己紹介をして頂きます。」


「はじめまして、皆さん。佐々木 真、言います。歳は25歳。大阪出身です。細かい紹介はいらん思いますさかい、今後ともよろしゅうたのんますわ!」


関西人らしい、独特の関西弁で手短過ぎる自己紹介だった。タケルが補足する形で、


「彼は、今から190年前に生まれ、京都の有名大学を卒業した後、FTSプロジェクトに参加しました。その後、彼の能力はこのプロジェクトに必要不可欠との判断により、本人の承諾を得て、参加してもらうこととなりました。大杉さんと東さんは、青柳教授たちが搭乗して半年後にFTSに搭乗してもらい、順平君と私は1年半後に一度搭乗し、全部で10年ほど、各時代で活動してきました。そして、54年前に、宇宙チームが惑星ZZO-Wを発見、この星が人類を移住させても問題のない成分で構成された惑星という事が判明し、翌年、ロケットにFTSを搭載し、宇宙チーム30人が26年をかけてZZO-Wに向かいました。向こうで1年間調査を行い、地球へ帰還。明日には到着の予定だったので、本日、皆さんに帰還して頂きました。」


すると、青柳教授が、


「では、われわれもZZO-Wに向かう事になるんですか?」


「それも明日には判明すると思います。全人類を移住させるには、相当の時間と労力が必要になりますし、動植物もかなりの種類を移住させることになると思われます。ZZO-Wに水や植物、その他の生命体などが生息しているそうですが、人間のような存在は確認できなかったということです。それらも明日には詳しく説明されると思います。」


「なるほど。では、今の所、明日までは待機ということで、構わないでしょうか?」


「329年という歳月を各自、おおまかにだけチェックして置いて頂ければ、特に問題はありません。まもなく、現代のサポートチームの医療スタッフが、到着します。皆さん注射を終えましたら、自由に行動して下さい。何かあればご連絡致します。」


数分後、三重構造の大きな扉が開いき、白衣を纏った3人の医療スタッフが入ってきた。手には見たこともない注射器とは到底思えない小型の物を12個持っていた。


「あれが、この時代の注射器なのか?」


安藤が不思議そうに眺めていた。先端に針のようなものは見当たらない・・・。


「針がないのにどうやって注射するんだろう・・・。」


極々当たり前の疑問を呟いた。すると、少し笑って友香が、


「まさか、怖いんじゃないでしょうね?」


「ま、まさか・・・」


早川はうろたえた。本当は注射が苦手なのだ。注射が好きだとか得意という人もなかなかいないと思うが、早川は特に苦手だった。しかし、針がないのは、早川にとっては、少しでも恐怖心が和らいだのが唯一の救いだった。


「どなたからでも、どうぞ。右腕をまくって、前にお越しください。」


三人の医療スタッフは、そう言うと、持ち場に着いた。まず、倉本が腕をまくって、


「針がないのだが、大丈夫なのか?」


と、言った。


「ええ、今はレーザーでわずかな穴を開けると、そこへ薬品を噴射して投与します。痛みもありません。最後には、開いた穴も、現代の薬品で瞬時に塞ぎます。」


そういうと、手際よく、倉本の腕に、注射器らしきものを近づけて、ボタンを押した。


「・・・・・・・・・ん?もう終わったのか?」


「はい、大丈夫です。」


「何も感じない・・・あの頃の子供たちも、こんな注射だったら、怖くなかっただろう。」


そういうと、袖を元に戻し、先に部屋を出て行った。痛くないと聞くやいなや、早川はすぐさま、並んだ。


「やっぱり怖かったのね・・・男のくせに情けない・・・」


友香も早川の後ろに並び、他のメンバーも次々に注射を済ませた。早川は、デスクに置かれた端末を手に取った。


「あれ?」


早川が声をあげると、友香が、


「どうしたの?」


と、近寄ってきた。


「今度は、端末に画面がついてる。前は空間に表示されていたのに・・・」


と、言うと、順平が近づいてきて、


「実は、空間に表示する機能は不評だったんですよ。まず、周囲に見られてしまう危険性、というより、確実に見られます・・・そして、端末同士が近いと、空間に重なって映し出されるため、他の人と、わざわざ感覚を開けなくてはいけなかったり、狭い場所では使えないといった点も指摘され、その後も改良は加えられたようですが、結局は、この形で落ち着いたようです。」


「これなら、俺にも使えるよ・・・」


「良かったわね。私は、以前のも、真新しくて好きだったけどね~」


「そういえば、順平さんは10年程度、色々な時代を見てきたんですね。」


「そうです。皆さんを帰還させるより、少人数で行動する方が、色々な面でロスが少なくて済みますし、やはり仮死状態を繰り返せば繰り返すほど、人体になんらかのリスクはあるかもしれません。多い時で3年程度生活しましたが、ほとんどは1週間程度を転々としました。全員が一気に時代を進みすぎると、何かと不便ですしね。」


たしかに、全員が300年以上、タイムスリップすれば、まず、その時代に順応するだけでも大変だろう。現に300年前の肉体では、耐えられない環境に変化していた。


「では、僕はタケルさんに呼ばれてますので、行きますね。何かあれば連絡してください。端末には全員の連絡先が登録されてますから。」


「わかりました。何かあれば連絡します。」


軽く頭を下げ、出て行った。


「なんだか、私たちだけ、寝てばかりで申し訳ないわね・・・」


友香が、ため息混じりに漏らした。


「たしかに、寝ているのと変わりないわけだもんな・・・でも、俺たちはまだ、若い。きっとこれから役に立てるさ。その為に、今は温存しておかなくちゃ。精神的にも、肉体的にも!」


「そうよね、活動できる年数で言うと、私たちにはまだまだ先があるわ。いつまでも他の人たちに任せっぱなしには出来ないし・・・」


言いかけた所で、後ろから青柳が話しかけてきた。


「その通り。君たちは誰よりも若い。私より確実に長く活動できる。その分、この先、辛いこともたくさんあるだろう。だから、今は指示通り、動いていれば良い。私や倉本は年齢的にも活動できる時間は限られている。とは言っても、まだ20年は頑張るつもりだがね。」


珍しく青柳の表情から笑みがこぼれた。


「まだまだ、お若いですよ!今後ともよろしくお願い致します!」


「お世辞を言えるようになったとは、君も成長したね。ところで、今日はこれからどうするつもりかね?思うに、外の世界は、きっと我々の想像もしないような世界になっているんだろうか・・・それとも、変化してないんだろうか・・・。私は立場上、なかなか研究室から離れることが出来ん。もし、これといった用事が無ければ、少し外の様子を見てきてくれんか?」


「わかりました。早速、市街地に繰り出してみます。」


「すまんが、頼んだよ。くれぐれも気をつけてな。」


「はい!」


早川と森本が研究室を出ようとした時だった・・・。


「早川!どこへ行くんだ?」


安藤に呼び止められた。


「少し、市街に出て、外の変化を体感して来ようかと思いまして・・・。」


「ちょうど良かった。俺と真由も一緒に行ってもいいか?」


すると、友香が、


「もちろんです。多いほうが楽しいですしね、心強くもあります。」


「よし、決定!早川の車で行こう!」


安藤は早川を押すように急かした。相変わらずテンションの高い安藤とは正反対に、真由は黙ってついて来る。それを察知した友香が、真由と何か話し始めた。エレベーターを降り、B3Fにつくと、そこは500年以上、ほとんど変化していなかった。部屋に着くと、扉は自動で開いた。


「もう、この時代にはプライバシーなんてないんだろうな・・・」


安藤が苦笑した。どこで、チェックをしているのだろう。ここへ来るまで何かIDなどを要求されることもなく来れたのだ。


「本当に見当もつきませんね・・・指紋認証なんて、この時代にはないのかもしれません。とりあえず、皆さんどうぞ。」


そういって早川は三人を導きいれた。


「ここは本当に変わってないな・・・俺たちの次代で言う武家屋敷のような作りなのかもしれないな・・・さて、車はどんな進化を遂げたのか、見ものだな。」


「部屋に用もないので、すぐに行きますか?」


皆頷いた。


四人はそのまま、奥の扉から駐車場に出た。そこには、見た目にはそんなに変わらない車があった。すると友香が、


「ちょっと待って。今、調べてみるから・・・」


そういうと、端末を忙しなく操作し始めた。


「おい!早川・・・彼女、本当に俺たちと同じ時代の人間なのか・・・」


驚いた様子で聞いてくる。


「俺も正直、最初は驚きました・・・どうも、こういうのが得意みたいで・・・」


「それにしても、凄すぎるだろ・・・」


なにやら、友香は真由と話しながら、端末とにらめっこを続けた。数分後・・・


「なんとなくだけど、わかったことを説明するわね。基本操作は、昔の車と変化はないわ。ただ、大きな道路、国道や県道、幹線道路なんかは、レールが埋め込まれていて、その上を走行するみたい。200年前よりも、こっちの方がさらに安全みたいだし、それ以外の道路は前回と同じく、非接点で充電しながら、道路に埋め込まれたチップからの情報で走行するみたい。」


「なんだか、よくわからんが、要するに自動で目的地に到着するって事か?」


不思議そうに安藤が尋ねた。


「そうみたいです。とりあえず、乗り込みましょう。」


そういうと、今回は友香が運転席に乗り込んだ。そうなると、男たちは後部座席へ自然と座り込むことに・・・真由が助手席に座り、車は走り始めた。


「とりあえず、市街地にセットしたから、後は突発的な何かが起こらない限りは自動で到着するはず。この時間だと20~30分もあれば到着するわ。」


「便利な世の中になったもんだな。」


「本当に前回もそう感じましたが、ますます、進化してますよね・・・」


・・・30分後、市街地に到着。四人はただただ、驚くしかなかった。そこに広がる光景は、やはり自分たちの暮らした時代とは大きく異なっていたからだ。前回はまだ、それほど、変化もなかったし、イメージでは超高層ビルが立ち並んでいる感じがしたが、建物自体はそれほど高層のものは見当たらなかった。


この辺りは東京や大阪などに比べれば、田舎ではあったが、この辺りで、これほど変化しているという事は、大都会では、一体どうなっているのか、ますます想像がつかなかった。


「おいおい、どうなってるんだ・・・これは・・・」


安藤が何度も何度も見回した。


「ほんとに凄い・・・」


真由も思わず声を漏らす・・・


「ここへ来る途中、ざっとこれまでの歴史を調べてみたけど、多くの人は地下に住居を構えている事が多いみたい。オフィスなんかも地下に設置するケースが多く、地上には店舗が中心みたい。上に建設する建築は流行らないそうよ。しっかり地下に耐震など最新の技術を使っているから、高層ビルなんかより、はるかに安全みたい。もっとも、皆が皆そういうわけでもないから、あそこみたいに高層ビルも存在しているけどね。」


何より、形が球体だったり、多角形だったり、そして、色も原色系をはじめ、とにかく様々で、壁自体が発行して、色々な模様などが変化して、見ていても飽きない。


空を見上げた早川は、さらに驚いた。


ところどころに、煙突のように上空に伸びるパイプのようなものがあるのだが、友香が調べてみると、それは、地上の熱を上空に放出すると共に、大気中の水分を取り入れて、湿度を調整できるシステムらしい。先端は遥か上空だが、クモの巣のようなものがついていて、夜には発行して、花火のような景色を上空に浮かび上がらせるという。


また、地上の課程や店舗などから出た熱や湿気をうまく大気中に逃がしながら、雨を降らせることも可能だという。そして、地下にもパイプは伸びていて、その冷機で、電化製品などは冷却され、そこから廃棄された暖かい空気も上空に逃がしたり、夏は地下の冷機で温度を維持。冬場は、更に深い地表の暖かい空気を利用して建物内を暖めるという。


とにかく、エコは大幅に進化を遂げた。ただ、石油などは枯渇の危機に直面しており、海底調査で新たな燃料の調査にどの国も力を注いでいるという。


「きっと、夜は華やかな夜景が広がるんでしょうね。」


友香が、ため息混じりに呟いた。


「自転車も自分でこいでいる人はほとんど見当たらないな・・・レールに乗って、自動で動いている・・・バイクでもなさそうだし、自転車なんて言わないのかもしれない・・・」


安藤が歩道と車道の真ん中にあるレールを行きかう、自転車ともバイクとも違う乗り物を指差して言った。


自動車もレールを走るようになっているが、自転車らしき乗り物も、基本はレールの上を自動で移動する乗り物と化したようだ。


「ちょっと乗ってみたい気もしますよね。」


早川が言う。


「あれなら、転倒する事もなさそうだし、車との事故も、ほとんどなさそうね。何より、自動制御の技術も飛躍的に進化を遂げたようだし・・・ただ、いつの時代も改造したり、無謀な運転をする人もいるようだけど・・・」


その後、車を駐車場に止めて、四人は市街地をブラブラと歩いてみた。


―――その頃、青柳は倉本と、タケルの元を訪れていた。


「青柳教授、ずいぶんと当初のプランからは反れてしまってますが・・・」


倉本が不安そうに青柳を見る。


「まあ、世の中、自分たちの意図した方向へと、進まないのが世の常だよ。医学も科学も思っていた以上に進化を遂げた。特に宇宙という分野においては、我々の想像もできない次元の研究が行われ、結果、地球の危機を察知した。あの時代のまま進んでいては、きっと気づかなかった事だろうし、そうなると、数千年後には地球は滅びたのかもしれない・・・。」


「たしかに、そうですが、あまりにも目まぐるしい変化に正直戸惑いを覚えます。」


「思っている以上に人間の順応力は高いものだよ。時期に慣れる。と、言っても、慣れる暇もなく、次に時代に進むかもしれないがね・・・まさか、プロジェクトを降りるなんて言わないだろうね?」


笑いながら青柳が聞くと、倉本は、


「こんな時代に一人放り出されても、一年もしないうちに孤独死しそうですよ・・・若い連中なら、うまくやっていけるんでしょうけど、私のように不器用な男には到底・・・行き着くところまでお付き合いしますよ。教授。」


「ふふふ、君らしい答えだ。」


そんな話をしていると、会議室に着いた。すでにタケルは順平と何かを話していた。


「失礼します。」


「お待ちしておりました。」


タケルが二人を座るように勧めると、現在の状況と、今後のプランを話し始めた・・・。


「惑星ZZO-Wへ向かったチームは仮死状態で帰還しているため、こちらへ到着するまでは詳しい事は聞けません。が、向こうでの活動中のレポートは逐一、中継衛星を通じて送られてきました。結論から言うと、明日、宇宙チーム帰還後、青柳教授のチームは惑星ZZO-Wに向かって頂きます。現在の最新のロケットを使えば、3ヶ月程度で惑星ZZO-Wに到達できます。」


「さ、三ヶ月!?」


青柳と倉本は同時に声をあげた。


「ええ、実際には三ヶ月もかからないかと思われます。というのも、極秘にロケット開発は進められており、地球外の物質を活用することで、速度、耐久力、そして、今回それらを制御、コントロールするシステムの開発に成功、3年の実験結果、実用レベルまで進歩し、今回、青柳教授たちに搭乗して頂く結果となりました。」


「し、しかし、我々は元々医療チームだったはず・・・そんな我々が、想像もつかない遠い星に向かい、そこで何かの役に立てるんですか?」


たしかに、青柳教授はFTSを開発したが、宇宙の分野においては一般人と大差ないレベルの知識しかない。それは倉本も同じである。


「向こうでも、青柳教授の知識が確実に必要になります。順平君は、宇宙の分野においては、今のプロジェクトの一員の中ではトップクラスです。そして、レイニーと佐々木君も、かなりの知識をお持ちなので、向こうでの専門的な事は彼らでサポートします。また、惑星ZZO-Wにある物質や大気の成分、生物などに関しては、同時に専門分野のチームを組んでおりますので、別の機体で向かってもらいます。さらに、未知なる生物が襲ってきた場合なのどの安全面からも、各国の軍に所属するエキスパートを集結させました。彼らはあなたたちを確実に危険から守ってくれるでしょう。」


「なるほど・・・とにかく、私の知識が役に立つというのであれば、断る理由も見当たりません。あとは、早川君たちに伝えたいと思います。」


「彼らなら、快く引き受けてくれると思いますよ。向こうでのプランなど細かな点は、1時間ほどのズレは生じますが、通信可能なので、随時やりとりをしたいと思います。」


「わかりました。では、失礼します。」


タケルに一礼すると、二人は、第四研究室に戻った。そこには、外出を終えた早川たちの姿があった。


「君たち帰ってたのか。どうだった?外の世界は?」


青柳が、自分の席に座りながら聞いた。早川たちは代わる代わる、町の様子などを伝えた。倉本も驚いた様子で話を聞いていた。


「そうか、そんなに変化していたのか・・・。しかし、これから、もっと変化に富んだ景色を目の当たりにするかもしれない・・・」


そういうと、タケルとの会話を早川たちに告げた。


皆、しばらく沈黙していた・・・。


「もちろん、参加しますが、俺たちが行って、何かの役に立てるんでしょうか・・・特に俺は宇宙の分野には・・・」


と、安藤が言いかけるのを制して、青柳が、


「それは皆同じ気持ちだろう。私だって同じだ。何故、我々なのかと思う。しかし、統括の話では、我々が必要だという事以外は、わからないと・・・。とにかく、明日出発する。今回は地球外での活動となるため、これまで以上にリスクも大きい。一度、このプロジェクトに参加した以上、後戻りが出来ないのは承知の上とは思うが、気が変わればいつでも言ってくれ。今、ここにいないレイニーと佐々木には統括がすでに話しているそうで、彼らは快諾したそうだ。」


「参加に異論はありません。どんな状況の変化であれ、最後までプロジェクトに参加するつもりです。」


早川がそう言うと、皆も同じ決意だと告げた。


「では、明日だが、この研究室からでは、ロケットを発射できない。別の研究施設に移動して出発することになるから、まずは、会議室に集合してくれ。午前九時、時間厳守で頼む。」


そういうと、青柳は端末に向かい、作業し始めた。早川たちは、研究室をあとにした・・・。


―――翌朝


早川たちは会議室にいた。すでに、青柳以外全員が集まっていた。時計は8時55分を指していた。皆、落ち着かない様子で、ウロウロしている。無理もない。外国へ行くのとは訳が違う。例え、安全にZZO-Wに着いたとしても、そこは未知なる世界なのだ。


そして、そこは人間の常識などまったく通用しないであろう場所なのである。何から何までわからない事ばかりで、想像を絶する不安に押し付けられる。しかし、一方で好奇心もある。これまで、生命が存在する星が存在するなど、早川たちは想像もしなかった。


限りなく広い宇宙で地球にだけ、生命体が存在するという事の方が、ありえない話でも、これまで歩んできた人類の道のりを考えると、到底想像の出来ない次元の話なのだ・・・。


数分遅れて、青柳教授が入ってきた。数分でも遅れること自体、青柳教授には珍しいことである。いや、早川の知り限り、これまで青柳教授が遅れる場面を見たことがなかった。


「すまない。惑星ZZO-Wから期間予定だった機体の到着が遅れてしまい、打ち合わせに手間取った。彼らの話では、人型の生物は存在しないようで、地球で言う所の動や昆虫、植物しか確認できていないそうだが、地球の約4倍あるそうだから、くまなく捜索は出来ていない。拠点となる場所にはキャンプ地を設営してきたそうだし、我々が食料となる成分の植物などは調査済みなので、味はともかく、生きていくだけの水や食料は現地でも調達可能だということだ。」


「地球から、時々食料を送ってもらえると助かりますね。きっと。地球の食べ物が恋しくなると思いますし、行く前に、掛け合ってみたらどないですか?」


佐々木が言う。


「それは、すでに手配済みだ。だが、そう頻繁に送ってもらうわけにもいかないからね。一回ロケットを飛ばすだけで、どれだけの予算が必要か・・・それを考えると、贅沢は言えん・・・。」


「まあ、しゃあないですわ・・・。それやったら、昨日買い込んでおくべきでした。」


笑いながら佐々木が頭を掻いた。


「さて、早速出発するが、他に何か質問はあるかね?」


全員の顔を見回しながら青柳が尋ねたが、皆、首を横に振るだけだった。


「では、発射台に向かう事にする。すでに直通の移動機が地下五階で待機している。発射台までは3分ほどで着くそうだ。とりあえずB5Fのターミナルへ向かってくれ。私は統括に連絡後、すぐに向かう。」


早川たちは、B5Fに向かった。


「三分で着くなんて、そんな近いのか?」


早川が知っているこの辺りの地形を考えると三分ほど移動した距離では、到底ロケットの発射台が設置できるような場所はないはずだった。すると、友香が、


「太平洋、500kmの沖合いに埋め立てられた施設があるわ。今の時代のリニアなら三分で到着出来るわよ。」


「500kmを三分?ちょっと信じられないな・・・」


とにかくものすごい速さである。時速に換算すれば、10000km/hという事になる。今の時代は飛行機よりもリニアの方が早いという。磁力の増幅技術、そのスピードに耐え得るボディー。そして、車内にかかるGの制御・・・


ただ、レールを敷くためには、かなりの建設費用と、歳月を要し、大都市同士が結ばれているだけで、その先は政府でどう予算を組むかなど、今も国会で審議が続けられている。またゼネコン大手との癒着問題で、大物政治家が連日ニュースでトップを飾っており、どの時代にも、政治と金の問題は尽きないようだ。


やがて、一行はB5Fターミナルに到着した。


「こんな所にターミナルが出来ていたなんて・・・まあ、500年以上そのままのB3Fの方が不思議なんだろうけど・・・」


早川たちの目の前には流線型・・・というより銀色の卵を大きくしたような乗り物が、3台停車していた。扉はすでに開いていた。扉に近づきながら早川が、


「乗り込んで待っていたらいいのかな?」


すると、中から人が出てきた。


「うわっ!」


一瞬、驚いて、後ろに倒れそうになった。


「あっ!すいません。驚かせるつもりはなかったんですが・・・出発に向け車内を最終チェックしていたもので・・・と、言っても形式だけで、すでに整備も万全、いつでも出発できますよ!どうぞ、好きなのにお乗りください。青柳教授からは先にとの事ですので、どうぞ。」


そういって、皆に乗り込むよう指示した。早川と友香はそのまま乗り込んだ。安藤と真由も続いて乗り込んだ。佐々木とレイニーは隣の車両へ、大杉と東は反対側の車両へ乗り込んだ。


倉本だけは、どれに乗ってよいのかウロウロしていた。さっきの男が、見かねて、レイニーたちが乗り込んだ車内へ誘導した。


「倉本さん、なにしてんだ?」


安藤が呆れたように言う。


「あまり、対人関係を築くのが得意じゃないようで、いつも青柳教授と一緒だから、きっと戸惑ったんだと思います。」


早川がフォローする。そうこうしているうちに扉が閉まる。車内にアナウンスが流れた。


「3分少々で目的地に到着します。景色は見えません。ベルトは念のために装着して下さい。但し、まったく揺れません。到着しましたらアナウンスが流れますので、アナウンスに従って下さい。では、出発します。」


しかし、特に変化はない。もう動き出したのかもわからない・・・。


「まだか?」


安藤が全く変化も振動も感じない車内で、しばらく続いた沈黙に痺れを切らし、そう言うと、


「到着しました。ベルトを外して開きました扉から外へ出てください。そのまま正面にある建物がロケット発射台へと繋がっておりますので、建物へお願いします。中に入るとロビーがありますので、そこで待機していてください。」


「え?もう着いたのか?いつ動き出したのかさえ気づかなかったぞ・・・」


安藤は狐につままれたかのように、驚いた表情だ。しかし、それは早川たちも同じで、本当に振動すら感じなかった。他の車両から降り立った連中も皆、驚いた表情だった。


そして、正面を見上げて、更に驚いた。辺りには潮の香りが漂っており、周囲一面青い海が広がっている。今日は快晴だったので、水平線の境界線がわからないほどである。


そんな一面海に覆われた中、ポツンと浮かぶ島というには小さくもある場所に、一際馬鹿高い建物と発射台が異様の光景にも見えた。


「す、凄いですね・・・ロケットの発射台を間近で見るとこんなにも大きいんですね・・・なんだか吸い込まれそうな気持ちになるくらい大きい・・・」


早川は何度も見上げては、ため息をついた。まさに圧巻の光景である。


「とりあえず、ロビーに向かいましょう。」


相変わらず冷静な友香の一言に、もう少し眺めていたかった男連中は、ようやく建物のほうへと歩き始めた。


「ロケットは男のロマンや!ワクワクしてきたでぇ~」


佐々木のテンションは相変わらず高かった。レイニーと倉本は無言のままロビーへ向かっていた。


市街地では、色鮮やかな建物が多く目に付いたが、ここは太陽の光を受けて、青白くさえ感じられる程の真っ白な建物だった。一同は正面玄関からロビーに入った。ロビーには人の姿は見当たらなかった。皆、それぞれ、ソファーに腰を下ろした。早川も腰を下ろそうと思ったが、緊張からか喉が渇いたので、周囲に自動販売機でもないかと見回した。


「どうしたんだ?座らないのか?」


キョロキョロと落ち着かない様子に、隣にいた安藤が声をかけてきた。


「喉、渇きませんか?」


「たしかに、少し乾いたな・・・。おっ、あそこにあるの自販機じゃないのか?」


安藤が指差す方向に、自動販売機のようなものが見えた。


「きっとそうですね。行ってきます。」


そして、自販機の前まで来て、重大な事に気づいた・・・。


「あつ・・・。」


そう、持ち合わせがなかった。というより、この時代の紙幣も貨幣も目にしていない・・・。おろおろしていると、後ろから、


「なんや、お金も持たんと、自販機に買いにきたんかいな・・・しゃあないな。ほれ!」


佐々木だった。佐々木はポケットから小銭を取り出すと、早川に手渡した。


「まあ、これも向こう行ったら使われへんから、あげるわ。そや、向こう行ったら、お金のデザイン担当は俺がやろ!それで決まりや!ほな、早川君、またあとでな。」


「あ、有難う御座います・・・」


と、お礼も聞かず、鼻歌交じりに佐々木はソファーの方へ小走りで去っていった。


「これが、この時代の硬貨か・・・でも、硬貨はあまり変化もないな・・・」


それは、大きさも早川の知る500円玉と大差なかった。しかし、早川は自販機を見て、再び声をあげた。


「あっ!!」


1本の値段が500円と書いてあった。


「そんなに物価が上がったのだろうか・・・それとも、当時の100円が今では500円ということなのか・・・」


出来るだけFTS搭乗前は食べたり飲んだりしない方がいいので、甘いものなどは控えて、普通に水を買った。


「水が1本500円か・・・あの頃の金銭感覚しかないから、変な気分だな・・・みんな分まで買えないや・・・」


水を飲み終えてソファーの方へ歩いていくと、青柳の姿が見えた。


「あっ!すみません。ちょっと喉が渇いたので・・・」


「構わん。よし、全員いるな。では、行こう。私についてきてくれ。」


青柳は自動販売機とは反対側の通路を足早に歩いていく、それに、皆も後ろからついていく。突き当たりにあるエレベーターに乗り込んだ。青柳が7階を押すと、フワツとなって、あっという間に7階に到着した。エレベーターを降り、しばらく進むと、左手のドアに青柳が入っていくのが見えた。どうやら、ここで打ち合わせをしてから乗り込むのだろうと思って部屋に入るなり、早川たちの目に、小型のロケットが何台も並んでいた。その数は軽く20台以上はあった。


「早速搭乗してもらう。1台のロケットに二人で乗り込んでもらう。私は倉本と、後はどうせ、向こうへ着くまで仮死状態なのだから、そんなに気にする必要も無いとは思うが、好きなように乗り込んでくれたまえ。基本は私たちが乗ってきたFTSと変わらない。二人が乗り込んでセットが完了すると、司令室から自動で発射命令を送り、ZZO-Wへと向かう事になる。軌道上の関係で、2台以上同時に発射出来ないが、数分遅れで次々に発射されるので、問題はない。私たちは先に行くから、君たちも急ぎたまえ!」


そういうと、倉本を呼んで、すぐさま乗り込んだ。そのまま、発射台のほうへ小型のロケットは移動し、轟音と共に打ち上げられた。


「ちょっと・・・早くない?私たちも急ぐわよ!」


友香が腕を引っ張るようにして、一番近くのロケットに乗り込んだ。


「え?え?心の準備・・・」


いや、多分、心の準備などしていると、躊躇う気持ちが出てしまい、気持ちが揺らがないためにも青柳は、打ち合わせもなしに出発したのだろう。他の連中も同じように、急いで乗り込んでいた。こうして、全ての小型ロケットが惑星ZZO-Wへと向かって無事打ち上げられた。


―――3ヵ月後


早川たちを乗せたロケットは無事惑星ZZO-Wへと向かっていた。あと数分で着陸予定だ。と、言っても早川たちがその事を知る由もないが・・・。


ロケットは地球とほぼ同じ成分で構成されたZZO-Wの地球で言う所の大気圏に突入し、着陸態勢に入った。少しばかり先に出発した青柳と倉本を載せたロケットがます、無事着陸した。


着陸が完了してから解凍機能が作動し、青柳たちは三ヶ月の眠りから目覚めた。そして、カプセル型のFTSから体を起こして起き上がると、開いたハッチからZZO-Wへと降り立った。続いて倉本も降りる・・・


「なんだ!この光景は!」


科学者として、一般の人たち以上にあらゆることを想定してきた青柳ですら、その光景には思わず声をあげた。倉本も同じだった・・・


「そ、空が緑色ですね・・・草花・・・と、言ってよいのかわかりませんが、植物らしきものは紫色のものが多い・・・」


「あれは水なのか?」


青柳が遠くを流れる川を指差した。


「黄色いですね・・・何もかもが地球とは異なっているように感じます・・・」


そんな会話をしていると、轟音と共に次々にロケットが着陸してきた。やがて、ロケットから次々の人が降りてくる。彼らは青柳たちと同じように、辺りを見回しては驚き戸惑っていた。


落ち着かない様子の早川たちをみて、我に返った青柳が、一呼吸置いて、


「驚きを隠せないのはわかるが、とにかく一度集まってくれ。」


と、少し大きめの声で呼びかけた。まだ、周囲に気を取られながらも、一人、二人と青柳の元へ集まった。今いるのは、青柳、倉本、早川、友香、安藤兄妹、大杉、東、佐々木、レイニーの10名。別のチームも数日遅れでこちらへ向かっていると、青柳は出発前に聞かされていた。それらの事情を青柳は説明した後、


「最初にここに訪れたチームのメンバーが簡易ではあるが住居を設置してくれているので、他のチームが到着するまでの数日間はここを拠点に行動する事になる。このキャンプ地をわかりやすくA-1とする。測量チームなども派遣されてくるので、それまでは我々が出来る限りの捜索などを行う。主に地球の人たちが移住できるのかを調査する。生物や植物に関しても、専門のチームが到着するまではむやみに触ったりしないこと。応急処置ができる程度の医療品しかないからね。ここでは地球での常識は一切通用しないという事を肝に銘じて行動するように。今は漠然としていると思うが、他のチームが来るまでの間は旅行にでも来たと思って、のんびり過ごしてくれるといい。尚、水に関しては、A-1の周囲に流れる川の水に関しては調査済みで、今の所人体に影響される成分は含まれていない・・・が、万が一に備え、あそこにある、ろ過装置に一度汲んできた水を流してから飲むようにしてくれたまえ。以上、私も周辺を探索してみるので、各自、くれぐれも遠くには行かないように、また、決して一人では行動しないように注意し、何かあった場合には、ロケットに積み込まれた、発煙剤を携帯して、知らせるように頼む!」


そういうと、倉本と共に、簡易住宅に入っていった。


キャンプ地A-1には30人分のプレハブが建てられていた。どちらが北で南などかはわからないが、プレハブを背にした状態で200mほど前進すると川が流れている。プレハブの後ろ側には森が広がっている。ロケットが降り立った方向にはかなり広大な草原らしきものが広がっていた。ここは太陽系ではないが、太陽のようなものが頭上に確認できた。少し青白く、地球で見る月のようだった。気温は25度くらいだろうか・・・。湿度もさほど高くないように感じられた。


「何もかもが地球とは違う・・・なんだかワクワクする一方で不安も大きい。耳を済ませると鳴き声のようなものも聞こえるから、きっと動物がいるんだろうね。」


早川が友香に言うと、


「そうね、でも、どんな生き物かもわからないから、危険ね。他のチームが到着するまでの間は自分の身は自分で守れって事ね。たしかロケットに銃なんかもあったわね。でも、銃なんて使ったこともないのに、どうしろっていうんでしょ・・・」


たしかに、銃を渡されても、早川も友香も訓練を受けていないし、本物の銃を手にしたこともない。そんな会話をしていると、レイニーが近づいてきて、


「この銃は銃弾が飛び出すタイプではなく、麻酔銃の類だよ。レーザーで打ち込むタイプさ。だから、誰でも簡単に使える・・・と、いっても、未知なる生命体がいきなり襲ってきて、とっさに撃てるかというと、きっと難しいだろうね。まずは、この万能スーツに着替えた方がいい。これを着るだけでも、よほどの攻撃以外は、致命傷は避けられる。」


そう言って、いつの間にか着替えていたレイニーが上着をめくって見せた。


「レイニーはんは、用心深いようで、ロケットを降りる前に、すばやく着替えてたわ。俺はうっかりそのままスキップで飛び出しそうになったが、レイニーはんに呼び止められて、着用してから出るよう言われたから、ほれ、俺もこの通り着用済みや!」


横から佐々木も会話に入ってきた。早川たちは先に出発したから気づかなかったが、どうやら佐々木とレイニーが同じロケットに乗り込んだようだった。


「他の連中にも伝えた方がいい。浮かれてばかりいると痛い目に遭う。とにかく、多くで行動し、専門のチームが来るまではなるべく、キャンプ地から離れない方がいいね。」


レイニーはそう言うと、安藤たちのほうへ、歩いていった。その後大杉や東にも、このスーツを着用するように促していた。


「ほんま、用心深いお方や。そやけど、念には念や!ほな、俺は一番ええ場所の部屋を頂くとしますわ!」


そう言うと、全速力で、どこが一番良いのか基準は全く理解できなかったが、プレハブの一番端っこを確保に向かった。


「あの人がいると、精神的には助かるよ。それにしてもレイニーさんは色々詳しいみたいだね。軍隊とかにいいたことがあるのかな?」


「さっき、上着を脱いで、スーツを見せてくれた時、肩の筋肉が凄かったわ。きっと、格闘技か何かの経験者ね。とにかく心強いことはたしかだわ。さて、私たちも、部屋を決めましょう。」


友香は今いる場所から一番近く似合った部屋に入っていった。早川もその隣の部屋に入った。部屋には当然電化製品などは見当たらない。一応、太陽発電システムは機能するようで、部屋に明かりは灯っている。あると言えば、ベッドと流し台、机と、医療品が一式入った救急箱、それに筆記用具一式だ。水道は、外に設置されたろ過装置を通して配管が各部屋に繋がっているようだった。簡易のシャワールームとトイレもあった。一応、温水も出るようだが、注意書きをみると、今ある、太陽光発電装置だけでは、電力が補えない可能性があると書かれていた。


「まあ、いざとなれば水で我慢するか・・・」


早川はまず、ロケットに積まれてあった荷物を運び込むことにした。皆も同じようにロケットと部屋を往復していた。食料品なども含めると、3往復でも足りない。友香の分まで手伝いながら、運んでいると、一気に汗が噴出した。


「大杉さんや、東さんの分も頼んだわよ!」


友香が当たり前のように言う。彼女たちは、年齢的な事もあり、他の人たちよりゆっくりとしたペースで重そうに運んでいた。


「わ、わかったよ・・・」


慌てて大杉たちのほうへ駆け寄ると、


「ここは俺に任せて、大杉さん、東さんはゆっくりしていてください!」


「あら、有難う。でも、大丈夫?息があがっているわよ?私たちはきっと、ここで出来る役目もないんだし、のんびりやるわよ。」


東が笑いながら言う。


「いえいえ、任せてください!男ですから!」


本当は少し休みたかったが、友香の後ろからの視線に押される形で、なんとか、二人分の荷物も運び終えた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


「だらしないわね!この星には何があるかわからないのよ!そんなことで危険から女性4人を守れると思うの!」


「・・・。」


言い返す言葉も浮かばなかった。ひとまず、食料品の中にあった飲料水を一気に飲み干すと、辺りの様子が徐々に変化していることに気づいた・・・


「綺麗!」


友香や東、大杉が一斉に声をあげる。早川も友香たちの視線の先に目をやった。そこには、地球では見ることは出来ないであろう景色が広がっていた。空がある部分を堺にグラデーションしているのだ。例えるなら、虹が全ての空を覆っているような状態だった。


「オーロラでもないし、本当に綺麗!」


「こんな景色地球では見られないわね。」


思い思いの言葉を連ねる彼女たちの言葉に他のメンバーも気づけば空を見上げていた。これがこの星の夕方にあたるのだろうか・・・早川はそんな思いでしばらくの間、空を見上げていた。


「この星では資料によると、地球で言うところの昼や夜はなく、三日~八日程度に一度暗くなるようだ。光の屈折が時々、虹を作り出すようだが、この星ではそれが空全体に広がる。」


いつの間にか青柳が隣にいた。青柳も空を見上げ、話を続けた。


「とにかく、時間の概念が地球とは全く異なる。太陽の役割を果たす、あの星はマドラスと名づけたらしい。太陽とほぼ同じ大きさで、その周囲を6個の惑星が回っている。但し、綺麗に円を描いているわけではなく、不規則な軌道を描くため、何日も暗いままの地域も存在する。調査チームは、比較的昼夜が安定したこの場所を拠点に選んだのも、地球で育った我々への配慮なのだろう。それでも、しばらくはこの星の時間の流れに慣れるまでに苦労しそうだ。」


「何もかもが未知数ですね・・・それに、何故俺たちがこの星に・・・」


「それは、私にもよくわからんのだ。何度聞いても、行けばわかりますとの一点張り。FTS一筋に研究してきた私に、新たな星の開拓なんて、出来るはずがない。それは君たちと手同じ事。統括も地球での残務処理を終えた後、順平君とこっちへ向かうそうだが、いつとはわかっていない。とにかく、今は他のチームが到着するのを待つしかない・・・。今日は・・・今日という言い方も変だが、とりあえず一休みした後、倉本とレイニー、佐々木と共に、あの森を少しばかり探索してみるつもりだ。食料なども自給自足が望ましいし、その分野の専門チーム到着まで、少しでも手がかりを見つけておけばいいがね。」


そう言うと、立ち上がり、佐々木たちに森を探索する案を持ちかけていた。


ふと、早川の脳裏に不安がよぎる・・・。


もし、仮にこのまま、他のチームも来ないまま、放置されたら一生地球へは帰れないかもしれない。地球へ戻るだけの燃料は残されていない・・・いや、全てのロケットの燃料を合わせれば、1機だけなら戻れる程度の燃料はあるのかもしれない・・・


しかし、早川たちをこの星に送り込んで、誰が得をするのだろう・・・そんなことを考えると、馬鹿らしくなってきて、早川も何か自分に出来ることはないかと、周囲を見回した。森のほうの捜索は青柳たちが担当するようで、4人は森の中へと姿を消した。


「大丈夫かな・・・教授たち・・・」


心配そうに森のほうを見つめていると、空を眺めていた安藤が、近づいてきた。


「さて、教授たちは森のほうを捜索するみたいだし、東さんと大杉さんは、オペレーションルームで地球からの交信を受け持つそうだ。俺たちは、川のほうへ行ってみるか?」


大杉と東は元々サポートがメインであり、地球とは中継衛星をいくつも経由して通信できる端末を設置したオペレーションルームがプレハブの真ん中にあった。そこで、地球からの指示を仰いだり、こちらで何かあった場合に連絡することになっているようだ。


彼女たちだけをここへ残していくのも、少し不安はあったが、見回す限りでは、特に危険な生物も見当たらないし、とりあえずは安藤の言うように川のほうへ行ってみることにした。


「大杉さ~ん!東さ~ん!俺たちは川のほうを少し探索してみます。もしかしたら食べられる魚なんかがいるかもしれませんから!」


少し離れた所にいた、大杉と東は手を振って応えた。


「何かあったら、発煙剤で知らせてくださいね!」


そういうと、親指を立てて首を縦に振った。


「気をつけてね~~~!!」


手を振りながら二人が叫んでいた。川までの距離はそんなになかったので、2~3分で川岸に到着した。川の幅は4~5メートルというところだろうか。川岸には地球で見る植物のようなものが生い茂っていた。が、色が違う。草=緑というイメージが物心ついたときからある、地球人にとって、紫の草は毒々しくも感じられた。水は手に掬ってみると透明だ。しかし、流れる川のほうに目を向けると黄色かった。


「本当に不思議ね・・・あっ!魚!?」


友香が指差すほうを見ると、たしかに水面を何かが動いた。


「おたまじゃくし?」


安藤が言う。たしかに丸く黒っぽい。


「いや、違いますよ!それに大きすぎます!」


それは、バスケットボールくらいの大きさはありそうだ。


「いっぱいいる・・・」


真由も違うほうを指差して叫んだ。よく見るとその黒くて丸いものが、10匹・・・いや、もっといるだろう。早川たちの気配に気づいたのか、一斉に水面付近をバシャバシャとしぶきをあげて、旋回し始めた。


「なんなんだ・・・この生き物は・・・」


どうすることも出来ないまま、数分が経過した。その生物は再び大人しくなり、何事も無かったかのように、四方へ散らばり、やがて水中に消えていった。


「やはり、未知なる生物がいますね・・・」


早川の心拍数は上がったままだった。自分たちの経験からは到底想像も出来ない生物との遭遇に、何も出来ず、ただただ、立ち尽くすことしか出来なかった。それは、安藤たちも同じだった。


「しかし、今の所あいつらは攻撃してくるような事はなさそうだ。ただ、美味しそうには見えなかったな・・・」


精一杯の冗談を安藤が言う。しかし、まだ顔色が青かった。


「これじゃあ、先が思いやられるわね。私たちだけではどうしようもないわ。早く生物に詳しい人たちが来てくれない事には・・・とにかく、あくまでも推測だけど、今の生物は襲ってきたりはしないようね。」


「そうみたいだね。但し捕まえようとすれば襲ってくるかもしれない・・・ほんとにこれじゃあ先が思いやられるね・・・」


武器の類は麻酔銃しか持っていない。原始的に木を切って、武器を作ることも可能だが、後から他のチームが来る以上、それまでの食料はあるのだから、今は、これ以上未知なる生物に触れない方がいいのかもしれない。


「1匹くらい捕まえてやりたい気分だがな・・・」


安藤が言うと、真由が、


「だめだよ!お兄ちゃん!勝手な事をして怪我でもしたらどうするの!」


と、安藤を諭す。


「どうしましょう?これ以上川を探索するのも危険かもしれません。俺たちも森のほうへ行ってみますか?」


「私もその方がいいと思うわ。」


友香も早川の提案に賛成した。


「そうだな。今日の所はこのくらいにしといてやる!」


安藤も森へ行くことにした。


―――その頃青柳たちは・・・


注意深く、慎重に森の入り口から数百メートル進んだ所で立ち止まっていた。


「この先は危険な感じがしますね・・・」


倉本が見の前に広がる奇妙な光景を見て言う。木々が生い茂る森が突然この場所を境に途切れていた。そして、その先には草木などはなく、ただただ白い空間が広がっていた。一瞬、霧が出たのかと思ったが、どうやら違ったようだ。青柳も困惑していた。するとレイニーが近くの石を手に取り、その空間へ放り投げた。


「あっ!」


佐々木が声をあげる。レイニーの投げ入れた石の描く軌道が明らかにおかしい。通常、投げ入れた石は放射状に一定の高さまで上がると、その後は同じような軌道で落下するはずなのだが、その落下速度が異常に遅い。


「どういうことだ!」


倉本も青柳も、その先で起こっている状況を理解できずにいると、レイニーが、


「多分、この星は重力が一定ではないのでしょう。この先は重力がかなり少ないのだと思います。見ていてください。」


そういうと、レイニーは一歩前に踏み出した。そして、両手を広げバタバタさせると、レイニーの体が宙を舞った。


「おお!おもしろそうですやん!俺も・・・」


そういうと佐々木は勢いよくその空間に飛び込んだ。その瞬間、一気に佐々木の体が持ち上がり数メートル浮き上がってしまった。


「おい!どうなっとるねん!助けてくれ!!」


「落ち着いて下さい。体の力を抜いて、直立の状態でじっとしていれば、ゆっくり下に下がりますから、大丈夫です。」


佐々木は言われた通りの姿勢で力を抜いた。すると、ゆっくりと、佐々木の体は地上に向かって下がっていった。


「いきなり、勢いをつけて重力の低い所へ飛び込むと、その反動で一気に体が浮き上がってしまうので注意してください。あがけば、あがくほど、わずかな力でも上昇してしまいます。」


「びっくりしたわ・・・まさか、あんなに宙に浮くとは思わへんかったから・・・助かったわ。」


「佐々木君、ここでは注意したまえよ。大事に至らず済んだから良いものの・・・」


「すんません・・・以後、気をつけます。」


ようやく地面に着地した佐々木は、ゆっくりと森のほうへ体を移した。


「今日はこのくらいにして、キャンプに戻ろうか。」


そういって引き返そうと振り返ると、早川たちの姿が目に入った。


「青柳教授!ここでしたか。な、なんですか!これは!」


「ああ、君たちか。レイニー君の話では、この先は重力が急激に減少しているようで、その結果植物も育たないようだ。今日の探索はこのくらいにして、引き返そうと思っていたところだよ。君たちはどうだった?」


早川は皮のほうへ行ったこと、未知なる魚らしき生物に遭遇したことを話した。


「・・・黒くて丸い・・・ちょっと想像もつかないが、明日・・・と言っても、時間の概念が地球とは違うが、一応中継衛星を使った、24時間時計を基準に考える事にして、明日、我々も川の方へ行ってみよう。佐々木君は生物学にも詳しいようだし、何かわかるかもしれない。」


「生物のことやったら任して下さい。多少は力になれる思います。」


「よし、今日はこれまでにして、夕食にしよう。地球からの連絡が届いているかもしれんしな。」


来た道を八人はゆっくり、慎重に引き返した。24時間時計では、現在は18時を回った所だ。相変わらず空が暗くなる気配はないのだが、いずれ慣れるだろう。


「あら、お帰りなさい。」


キャンプ地につくと、大杉と東が出迎えてくれた。


「辺りの様子はどんな感じだった?」


興味深そうに東が、誰と言うわけでも聞いた。それに早川が、


「とにかく、川のほうは明日、佐々木さんに同行してもらい、調査してもらおうかと思ってます。黒くて丸い大きな生き物がかなりの数、生息していました。」


「ちょっと見てみたいわね。おたまじゃくしみたいな感じかな?」


「いえ、バスケットボールくらいの大きさで、離れた場所からでしたし、水中にいたので全体像を完全に把握できませんでしたが、ちょっと言葉では表現しづらい生き物でした・・・。」


「森のほうはどうでした?青柳教授。」


今度は大杉が尋ねた。


「数百メートル進んだところで奇妙な場所に出くわしてね。そこはどうも、重力がかなり少ない場所のようで、手をバタバタするだけで、体が浮き上がる、地球ではまず体験できない、不思議な場所だったよ。今日はそこまでで引き返したわけだが・・・」


「面白そう!明日行ってみようかな!」


それに対して佐々木が、


「いや、あそこは行かん方がよろしいで。うっかり勢いつけたら、とんでもないことに、なりますわ・・・。」


「それは、あなただけですよ。」


レイニーが苦笑する。


「とにかく、食事にしましょう。といっても簡易の食料しかありませんけど、向こうにテーブルを並べておきましたから、頂きましょう。」


「有難う。では、皆で頂くとしよう。」


早川たちは、ここへ来て初めての食事を口にした。決して美味しいと言えるようなものではなかったが、久しぶりに食卓を囲んだ気がして、味以上に、しばしの平穏な時間に、皆、リラックス出来た様だった。


「ところで、大杉君、東君、地球から何か連絡はあったかね?」


「私たちより遅れる事30時間後に、まず、現地での食料調達が最優先事項ということで、生物化学班が地球を出発しています。多少前後するかとは思いますが、30時間程度で、到着する模様です。さらに、訓練された各国の兵士で構成されたZZO特殊部隊も派遣されて降り、こちらもほぼ同じくらいに到着する見込みです。物資なども輸送中ですが、こちらは1週間ほどかかるそうです。」


「では、明日も我々だけで行動するという事か・・・。ここでの時間の概念は忘れて、各自24時間時計を中心に生活してくれたまえ。明日は9時より行動を開始する。くれぐれも勝手な行動はしないようにお互い注意してくれ。暗くはならないと言っても、何があるかわからん。また、体調に異常を感じた場合も、すぐにレイニーに言ってくれ。近くにいなければ、大杉、東でも構わん。彼女たちも看護師の資格は持っているから、ある程度は対処出来る。」


皆、頷き食事の片づけをした後は、部屋に戻っていった。早川は部屋に戻っても、まだ眠れそうになかったので、その場に留まって大の字に寝そべって、空を見た。


「地球はどっちだったかな・・・それもわからない。」


今は、マドラス以外の星らしきものは見えない。雲らしきものも無かった。ふと、視界に友香の顔が現れ、思わず体を起こした。


「いきなりビックリするだろ!部屋に戻ったんじゃなかったのか?」


「東さん達と、テーブルを拭いたり、片づけを手伝っていたのよ。真由さんは疲れたみたいで部屋に戻って休んでるわ。安藤さんはロケットの方で何かしていたみたい。」


「この星には俺たち10人しかいないんだよな・・・そう考えると、凄く不安になる・・・。」


「たしかに地球の約四倍の面積、右も左もわからない。不安よね。なにより、私たちの役割がよくわからないことが一番の気がかりだわ・・・。でも、30時間後には心強い人たちが到着するみたいだし、1日の辛抱よ。」


「ZZO特殊部隊なんて結成されていたんだね。そんな人たちがいれば、かなり安心できそうだ。それに、食料も確保できれば、かなりここでの暮らしが楽になるはずだ。」


「きっと大丈夫よ。その道のエキスパート達が集結するようだし、1週間位すれば、かなり暮らしやすい環境が整うはずよ。」


「そう考えると、少し安心して眠くなってきたな・・・」


「じゃあ、今日は休みましょう。お休み。」


「ああ、お休み。」


そういって、二人はそれぞれの部屋に戻った。


――― 翌朝


大杉と東が朝食の準備をしてくれていた。早川たちは席について、朝食を済ませた。


「よし、一休みしたら、まずは川のほうの、謎の生物の調査に向かう事にしよう。何かわかればよいのだが、明日には専門チームも到着することだし、深追いだけはせぬようにな。」


青柳がそう言って、佐々木の肩を叩いた。


「まあ、俺にわかる範囲で分析してみますわ。そやけど、ここは地球とは違うので、あまり期待はせんといてください。」


「頼んだぞ。」


今日は、大杉と東も見てみたいというので、全員で川へ行くことにした。早川たち10人以外に誰も人間は存在しないのだから、キャンプを空にしても問題はないだろう・・・。


川に着くと、佐々木は川岸から注意深く、水面近くに歩み寄った。


「気をつけるんだぞ!」


青柳がそういった瞬間・・・


「うわっ!」


「大丈夫ですか!?」


早川が叫ぶ。


「だ、大丈夫や!足を滑らせただけや。」


佐々木は川の中に転げ落ちた。


「早く、上がりなさい!」


青柳が言う。レイニーが慌てて駆け寄り手を差し出す。それを制して佐々木が、


「ちょっと待った。捕まえた!」


そういうと、右手に黒っぽい丸い物体を抱えていた。


「昨日の話やと、バスケットボールくらいって言うてたから、これは子供かな?」


佐々木は今度はレイニーの手を借りて岸に上がった。


「これです!大きさは違いますが、昨日見たのはこれです。」


早川がそういうと、安藤も頷いた。よく見ると、ヒレなどが見当たらない。目のようなものはあった。


「これは驚いた。どうやって泳いでいるんだ?それに口らしきものも見当たらないし、我々の常識が全く通用しない・・・」


倉本がその生物をみて、そう漏らす。佐々木は地面に置いたその生物をじっくり観察していた。しばらく無言のまま、観察を終えると、


「これは、地球で言う所のフグみたいなもんですわ。怒る言う感情があるかはわかりませんけど、何かの拍子に大きくなるんやと思います。もし、フグと同じような生態なら、毒もあるかもしれませんから、専門家に調査してもらった方がええですわ。とりあえずこいつは川に・・・」


そういうと、その生物を川に戻した。すると全体を膨らませたり、縮めたりしながら、水中に姿を消した。今日は昨日のようにたくさんの魚らしきものは見当たらなかった。


「言われて見れば、フグっぽいですね。」


「ほんと、そう言われると美味しそうにも見えてくるから不思議だわ。」


早川と友香がそんなやり取りをしていると、


「さて、川の事は専門チームに任せて、これからどうするかだが・・・」


青柳が言いかけると、レイニーが、


「僕に提案があります。」


と、言葉を遮った。


「なんだね?時に予定も無いし、言ってみたまえ。」


「はい。有難うございます。ちょっと気になることがあったので・・・」


一度、咳払いをすると、レイニーは信じられないことを言い出した。


「実は昨夜・・・正確には八時間ほど前に、なかなか眠れなくて、外に出ました。一時間くらいボーっとしていたのですが、ようやく眠気が襲ってきたので、部屋に戻ろうとしたとき、ロケットの方で物音がしました。」


皆、レイニーの話の続きに緊張の色を隠せない。一呼吸置くと、レイニーは続けた。


「初めは他の誰かがロケットで何かしているのかと思い、部屋に引き返そうとした瞬間、今度はハッキリと物音が聞こえたので、念のため、携帯していた麻酔銃を構えながら、誰かいますか?と、問いかけました・・・が、返事はありません。仕方なく、警戒しながら、そのロケットのほうへ近づき、中を覗いてみましたが、特段変わった様子もなかったのですが、地面には足跡らしきものがありました。注意深く見なければ見落とすほどわずかでしたが・・・」


「おい、昨夜、レイニーが話した時刻付近にロケットへ言ったものはいるかね?」


慌てて青柳が確認する・・・が、皆、首を横に振るだけだった。


「そやけど、何かを目撃したわけちゃうんでしょ?ほな、気のせいの可能性も考えられますわな。なんせ、こんな遠くの星に来たんやし、疲れもあるやろ。」


佐々木がそういうが、青柳の表情は険しかった。


「何故、その時言わなかったのかね?」


「佐々木さんが仰るように、疲れていて、気のせいと言う可能性の方が私自身の中でも強かったので、せっかくお休みの所を起こすの悪いと思いまして。ただ、万が一のことも考えて、申し上げたまでです。」


「とにかく、そのロケットの足跡らしき痕跡を見に行ってみよう。」


そういうと足早に青柳一人、ロケットのほうへ歩いていく。慌てて、皆もそれを追う形でロケットへ向かった。


「どこに足跡らしきものを見たのかね?」


「もう消えてしまっているかもしれません。うっすらとでしたし、風もありますから・・・あっ、ここら辺です。わかりますか?」


そう言って、地面にしゃがみこんで指差した。


「う~ん、足跡なのかもわからないな・・・。しかし、だからと言って油断は出来ない。どういった生物が生息しているかもわからない。人型の生物が存在していても決して不思議はないのだし、もし、遭遇しても意思疎通も出来ない。明日の特殊部隊の到着まではこのメンバーで乗り切らねばならない。麻酔銃がどれほど役に立つかはわからないが、必ず携帯して置くように。」


「一応、枝とか集めて、焚き火でもしておけば、地球の動物のように警戒して近づかないかもしれませんよ。」


早川が意見した。


「たしかに、何もしないよりはマシかもしれないわね。」


友香もそれに賛成のようだ。


「よし、女性はオペレーションルームで待機。東と大杉は念のために、この事を地球へ連絡を頼む。あと、レイニーと佐々木は、ここに残って彼女たちの護衛を頼む!残った者は私と森で燃えそうな木々を集めよう。」


的確に青柳が指示を出し、皆それに黙って従った。


「くれぐれも一人では行動しないように!私たちも、森の入り口付近で採取するから、近くにはいるが、何かあったら大声で叫んでくれ。川の方向は視界もいいし、何か近づいてきても事前に察知できるだろう。また、ロケットは扉を閉めれば、かなりの強度で守られることになるから、何かあった場合はロケットに逃げ込むのもありだ!とにかく、臨機応変に対応するように。」


それだけ言うと、早川、安藤、倉本と共に森の入り口へ歩いていった。そして、黙々と木々を集めては、キャンプ前の広場に運び込んだ。そんなことを2時間ほど続けただろうか・・・。


「さすがに疲れましたね・・・安藤さん。」


額の汗を拭いながら早川が言う。


「あ、ああ、もうこのくらいあれば十分なんじゃないかな。明日までは持つだろう。」


安藤はその場に座り込んで、息を切らしている。青柳も倉本も、十分だと判断したらしく、手に持った木々を置くと、レイニーたちに、一度集合するように伝えた。


「大杉君、東君、地球からの連絡はあったかね?」


「はい、とにかく、申し訳ないが明日の後続チームが到着するまでは、なんとか凌いで欲しいとだけ・・・。最初に調査した限り、キャンプ地周辺での危険な生物は確認されなかったから、多分大丈夫だろうということです。」


「多分って、なんともいい加減な回答だな。」


半ば呆れた様子で安藤が言う。


「たしかに、それから50年以上経過してますから、かなり変化していてもおかしくないんですがね・・・」


早川も地球の対応に、疑問を感じた。


「しかしながら、明日までは身動きも取れまい。今は待つしかなかろう。」


青柳が冷静に皆に言うと、レイニーが、


「そうですね。とりあえず、今我々が出来ることも限られていますし、最初の調査メンバーも万全で臨んだはずです。実際、何かを目撃したわけではありませんし、かと言って、バラバラに行動するのも得策とは言えません。心配なのは暗くなる周期が把握できておらず、もし、明日までに夜・・・のような暗くなる現象が起きてしまうと、少々不安ではありますが、明るいうちはなんとかなるかと・・・」


「たしかに、いつ暗くなるかわからないな・・・ずっとマドラスの位置を確認しているが、軌道を特定するのはこんな短時間では無理だ。」


倉本は、少し星には詳しかった。


「倉本さんも見てはりましたか!俺もここへついてから、影などと併せて動きを見てましたが、なんとも奇妙な動き方をしてますから、ちょっと予測ができません。地球で学んだことが全く役に立ちませんわ。」


佐々木がお手上げのポーズをして見せた。宇宙の事を地球レベルで学んでも、遠くはなれた星では全く役に立たないことを、改めて思い知らされた。と、同時に、自分たちの無力さに、自身を失い、皆、しばらく押し黙ったままだった。そんな静寂を切り裂くかのように、森のほうから、動物の鳴き声のようなものが辺りに駆け抜けた。


すばやく立ち上がって麻酔銃を構えたのはレイニーだった。続いて、友香も森の方向に麻酔銃を構え、


「とりあえず、使えるかはともかく、みんな銃を構えて!」


と、叫んだ。


早川たちも慌てて銃を取り出す。東と大杉は、ただただ怯えるしかなかった。そんな東と大杉に向かって、真由が大声で叫ぶ。


「大丈夫です!ここは私たちに任せて、あなた方はロケットの隠れてください!そして、中から完全にロックしてください!」


これまで、大人しい印象しかなく、控えめな情勢とばかり思っていた早川たちは、その変貌振りに一瞬驚いたが、


「真由さんの言うとおり、早くロケットへ!」


早川も叫んでいた。東と大杉は、手を取り合いながら、ロケットへ駆け出す。それを護衛する形で真由が森のほうへ銃を構えたままロケットへ付き添う。


「真由は、ああ見えて、正義感は人一倍強い。それに体が昔から弱かったので、合気道と剣道を慣わせていた。病気さえしなければ、かなりいいところを目指せたはずだ。」


安藤が、慣れない麻酔銃を構えながら、誰にとも無く言った。


「ここは、一番こういう事には対処できそうなレイニーが指揮をしてくれたまえ!私は科学が専門でこういう事は指示出来ん!頼んだぞ!」


「わかりました。最善を尽くします。とりあえず危険は前方の森のみ。一列に並び銃を構えてください。友香さん、真由さん、あなた方はロケットに避難して下さいと言っても聞きそうもないですね。」


「もちろんよ!」


「一緒に戦います!」


友香も真由も逃げるという選択肢はなさそうだった。


「では、まず私が先陣を切って、森に入ります。皆さんはその後を着いてきてください。先ほどの泣き声からして複数ではないと思われます。もし、私が襲われても、冷静に銃で撃ってください。行きますよ!」


そう言うと、銃口を森へ向けたまま、レイニーが慎重に進む。その後ろを横一列に等間隔で他のメンバーが進む。あまりの緊張に喉が渇き、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。皆、緊張の色を隠せない。


一瞬、森の入り口付近でガサガサと木々が揺れ動いた。レイニーはすばやく、その方向へ銃を構える。続いて友香と、真由もレイニーの後方3メートルくらいまで近づき銃を構えた。


それに遅れる事、佐々木がと早川が続く。安藤は青柳と倉本を背にゆっくりと近づいた。


「来る!」


レイニーが叫ぶと、黒い大きな影が動く。


―――早い!


レイニーは横に飛び、一回転すると、その方向に銃を撃つ。続いて、友香よ真由も打ち込んだ。


しかし、動きが早く、後ろにいた安藤たちにその影は近づいていた。


「しまった!」


レイニーが叫ぶ。


早川と佐々木をすり抜けて、倉本に襲い掛かった。


「危ない!逃げて!」


早川が叫ぶ。もう間に合わない、安藤と青柳は思わず手で顔を覆う。と、倉本が黒い影を一瞬で捕まえ、地面に叩き付けた。


「す、すごい!」


思わず早川が声をあげた。その黒い影は「キーッ」と一声上げ、気を失ったのか、絶命したのかは判断がつかなかったが動かなくなった。


「大丈夫ですか!倉本さん!」


「ああ、こう見えても柔道は5段でね。こんな所で役に立つとは思わなかったよ・・・」


膝をパンパンと叩くと、起き上がり、念のため麻酔銃を打ち込んだ。


「こ、これは・・・熊?ですか・・・?」


「いや、わからん・・・地球では一番近いのが熊なんだろうが・・・熊ではないような・・・」


安藤が息を切らせながら、混乱しているのか、少し意味のわからないことを言う。


他のメンバーも駆け寄ってきた。


「怪我はありませんか?」


レイニーが皆に聞く。倉本のひじの辺りから血が出ていたが、かすり傷のようだった。


「とにかく、こいつをどうしましょう・・・」


「そうだな・・・このままというわけにもいかないが、捕獲するにしても、保管する場所もない。それより、まだ生きているのか?」


青柳が聞くと、レイニーが、


「生きています。きっと驚いたのでしょう。一度恐怖を与えたので、きっと次からは襲ってこないとは思いますが・・・」


「困ったね・・・。このまま無駄に殺生するのも、どうかと思うが・・・それより、昨夜レイニーが物音を聞いたのは、この生物じゃないのかね?」


「いえ、足の裏を確認しましたが、こんな形ではなかったと思います。あの足跡は、どちらかというと人に近かったと思います。」


「とにかく、みんなで森に運ぼう。もう一度襲ってきた時には申し訳ないが、ロケットにでも閉じ込めるとして・・・」


「そうですね。見た限り、そんなに大きくもありません。突然の出来事、大きく感じられましたが、実際には30キロくらいでしょうか・・・」


結局、レイニー、安藤、佐々木、早川の四人で、少し離れた森の中へ、置いてくることにした。


キャンプ前に戻ると、青柳と倉本が火を起こしていた。


「何もしないよりはマシだろう。」


火はパチパチと音を立て勢いよく燃えていた。気温が暖かいせいで、近くでは暑すぎるので、少し離れた場所で青柳と倉本は座っていた。さっきの出来事で警戒心が増したのか、手元には麻酔銃が置いてあった。


「それにしても、この星の生物にも麻酔銃が効いて良かったですね。あの時は地球と同じ感覚で行動しましたが、ここの生物の生態がわからない以上、必ず麻酔銃が効くという考えは捨てた方が無難かもしれません。」


レイニーが言うと、


「たしかに、ここでは何度も言うが地球での常識は通用しない。さっきの生物だって、恐怖で二度と近づかないと思いたいだけで、実際には再び襲ってくるかもしれん。ただ、あの生物には麻酔は効くようだから、こうやって、いつでも撃てるようにはしているが・・・。」


それから、しばらく今後のことなどを話していると、友香が、真由と共に駆け寄ってきた。


「レーダーを確認すると、あと一時間程で、何かがここへ到着するようです!地球との交信では、その時間に到着予定のロケットは発射されていないと・・・そもそも、FTSロケットは自動操縦なので、乗組員が操縦して到着を早めたりすることも出来ないそうです。」


「ということは、地球以外の場所から、ここへ向けて、正体不明の何かが向かっているという事か・・・というより、間もなく・・・」


一瞬にして、全員の表情が凍りついた。地球外生命体はすでにこの星でも直に目撃しているし、驚きはしないが、少なくとも地球人と同等、もしくはそれ以上の科学力と、それらを操る生命体がここへ向かっている。


そして、青柳たちには、もしそれらが襲撃してきても迎え撃つだけの武器もないに等しい。何よりも相手がどんなものかもわからないという恐怖心は、想像を絶する・・・しかし、何もせず、ただただ到着を待っていても仕方がない。


ロケットで引き返すか?


いや、5機のロケットの燃料は、かき集めて1機分にしかならず、現在の状態ではすぐに飛び立てない。寝ている機体を起こして、調査チームが仮設したひとつしかない発射台まで移動させなければならない。しかし、それには早くても30分以上はかかるだろう。燃料を移動させる作業にはもっと多くの時間が必要である。


必然的に、この場所を急いで離れるか、ロケットに避難し、ただただ、じっとしているしかない。しかし、それも時間の問題で、相手が地球の文明より栄えた星からの生命体であれば、簡単に破壊されるかもしれない。


「果たして一時間でどこまで遠くへ逃げれるだろう・・・森本君、その飛行物体はこの場所に降り立つのかね?」


青柳の表情にも焦りの色が見える。


「どうも、そのようです。意図的にここを狙って着陸するのかは不明ですが、このままの軌道だと間違いなく、この周囲に着陸予定です。」


「たしか、ロケットに小型のバイクが人数分搭載されていたね。君たちはバイクは運転できるかね?」


「運転できなくても、やるしかありませんよ!」


早川はそう言うと、返事も聞かず、大杉と東を呼びに向かった。


「考えてる時間はおまへんな・・・急いでバイクを取りに行きましょう!」


佐々木がそう言ってロケットに駆け出した。他のメンバーもロケットへ向かう。移動できる距離は一時間で60キロ程度だろうか。しかし、地形も方向もわからない。


「とにかく、森のほうへ先に軽重力地帯があるから進めないと思われます。かといって川のほうでは遮蔽物がないため、発見されやすい。森に沿うように走るのが一番無難だと思います!」


レイニーの考えに異論を唱えるものはいない。大杉と東も、原付バイクは運転したことがあるそうなので、とりあえずこの場からは離れることができそうだ。


「このバイクは太陽光で発電も可能ですが、果たしてマドラスの恩恵を受けることが出来るかどうかは不明です。現在はフル充電されているため200キロくらいは移動できるとは思いますが・・・」


レイニーがバイクにまたがったまま、それには答えず、大杉と東に、青柳が大声で聞いた。


「地球と交信できる携帯端末は持ったかね?」


「持ちました!」


「よし、レイニー!先頭を頼む!今は充電のことは忘れよう!私は倉本と最後尾を走る!」


「わかりました。皆さん準備はいいですか!しっかり着いてきてください。」


モーターは音もなく静かだった。タイヤは悪路でも大丈夫なように太目のオフロードタイヤなので、スピードが出にくい分、その点は安心して走行できそうだ。


一行は、森に沿って、ひたすら走った。


30分ほど走ると、岩山らしきものが正面に見えてきた。レイニーは一度止まると、


「あそこの岩山に洞窟らしきものが見えます。あそこで隠れるのがとりあえずは無難だと思いますが、どうですか?」


「そうだな!あそこなら隠れられるかもしれない。」


青柳もその意見に賛成し、岩山を目指した。岩山の麓に着くと、自然に出来たとは思えぬ洞窟が口を開けていた。中は不思議に明るい。発光する何かが生息しているのだろうか・・・。


とにかく、バイクごと中に入れる大きさだったので、急いで全員中に入った。通路のような一本道を進むと、開けた場所に出た。一行はそこでバイクを止めた。


「明るいですね・・・それにメーターを見ると、この光でバイク・・・充電してますよ。」


早川がメーターを指差しながら、話す。洞窟特有の反響音で、自分の声がおかしい。


「早川、声どうしたんだ?・・・あっ・・・俺も変だ・・・」


安藤は自分が喋って、気づいた。


「ここまでくれば安心だ・・・などと言える雰囲気でもないが、とにかく、身を隠すには仕組まれたかのようにベストな場所だ。それに充電できるのはありがたいが、誤作動でないことを祈るよ。もう10分ほどで、この星に降り立つようだが・・・この先、どう行動するのがベストか、皆の意見を聞かせてもらいたい。」


青柳が全員の顔を見回して意見を求めた。あまりにも予想だにしない出来事に皆、しばらく押し黙っていたが、友香が、最初に口を開いた。


「ここへ来る途中、周囲を観察しながら走ってきましたが、森は見た感じ、円形をしていると思われます。そして、中心部分に軽重力地帯があったんだと思います。その森を囲うように岩山がこちら側には立っています。つまり、こちら側に何者かが向かってくれば、ここが見つかってしまうのは時間の問題かと思います。」


「それで?」


「ここをひとまず拠点に、二手に別れ行動するのが良いかと思います。幸いにも各自の端末で連絡は取り合えるようですのし、バイクがヒカリゴケのような植物のおかげで充電しているので、バイク経由で充電も可能かと思います。まず5人ずつに別れ、仮にAチーム、Bチームとしますが、Aチームは、森を進み、キャンプの方へ向かいます。」


「危険ちゃうかな?キャンプの付近に着陸予定やろ?」


佐々木が言うと、友香が続けた。


「森だと隠れやすいし、相手が何者かを確認しないことには、今後の行動も立てようがありません。危険は承知ですが、やってみる価値はあるかと・・・。」


それには青柳が、


「なるほど、一理あるかもしれん。で、Bチームはどうするのかね?」


「はい、Bチームは岩山沿いに進みます。今来た方向とは逆に。森が円形だと仮定すれば、相手を確認後、逆方向へ森を抜ければ合流も可能だと思いますし、いざとなれば、Bチームも森に隠れることが出来ます。今いる洞窟には私達がいた痕跡を残しておけば、何者かが着ても周囲の捜索から始めると思うので、時間稼ぎにもなるかと思います。うまくBチームが隠れられそうなポイントを見つけ、かつ、Aチームがなんとか、相手がどんな生物なのか、人数、武器の有無などを確認出来れば、少しは戦略も立てれるのではと考えます。」


すると、レイニーが、


「ほとんどは賛成です。ただ、Bチームが岩山伝いに進むと、円形であればキャンプ地へ近づく可能性があるので、そうなると逃げ場を失います。ただ、岩山を抜ける道などがあれば、森から離れられるので、少しは安全な場所を見つけることができるかもしれません。つまり、これは賭けになります。」


それに対し、友香が、


「あくまでも推測ですが、ここへ来る途中、岩山の反対側を見ると、そちら側はまっすぐに伸びていました。こちら側だけが円を描く形と言うのは可能性が低いかと思います。」


「なるほど、よく観察しているね。実は僕も同じ事を考えていた。この岩山は地球と同じく地殻変動で隆起して出来たものだと思います。地面の地層からも、この岩山はこの先で終わっている可能性の方が高いと思いますが、青柳教授、いかがでしょうか?」


「他に意見のある者はいるかね?」


皆、黙っている・・・。特に反論するものはいないようだった。佐々木も納得の表情を浮かべていた。


「よし、決まりだ。Aチームは危険を伴う。女性は四名なので、必然的に二人ずつに別れてもらう。東と大杉は体力的にも安全なBチーム。すまんが森本と安藤は武術の心得もあるようだしAチームになってもらう。あとは男性人だが・・・」


と、男性人の顔を見回す。早川は友香を守らなければと言う思いから、Aチームに志願。安藤も妹を一人にするわけにもいかずAチームへ。あと一人だ。


「では、僕が行きましょう。」


レイニーが一歩前に進み、申し出た。


「構わないかね?君がいてくれるとAチームも心強いだろう。」


「出来る限り頑張ります。」


「よし、決まった。私たちBチームは岩山を抜けられそうな道を見つける。とにかく明日には後続部隊が到着するから、それまでなんとか乗り切るよう、健闘を祈る。荷物の一部をここへ置いていこう。それで時間稼ぎになれば良いが・・・」


「もう、そろそろ到着してもおかしくないですね。」


24時間時計を見て早川が言う。予定時刻ではもう間もなく、何者かがこの星に降り立つはずである・・・。佐々木がキャンプ地の上空に何かを発見したらしく声をあげた。


「あれや!」


上空を1機のロケットらしきものが下りてくるのが見えた。


「1機か・・・さほど大きくもなさそうだし、人数的には少ないようですね。しかし、油断は出来ません。とにかく僕たちは出来るだけ近づいて、確認してきます。森の中を進める限りはバイクで移動します。教授たちも気をつけてください。他にも危険な生物がいるかもしれません。とにかく、急ぎましょう!」


レイニーはそう言うと、すばやくバイクにまたがった。他のAチームのメンバーも慌ててバイクに駆け寄り、そのまま森へと走り出した。青柳たちも、その後姿を確認して、岩山の洞窟を後にした・・・。

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