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FTS  作者: くきくん
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第一章 未来へ

「た、大変です!青柳教授!」

それは、五年前の出来事・・・いや、正確には一時間前の出来事だった・・・。

青柳教授率いる、未来伝達装置開発チームのメンバー早川は、喜びと不安を隠せないでいた。青柳教授の開発した未来伝達装置「FTS」へ乗り込むか否かの選択肢を迫られていたからである。


FTSは生きたままの人間を急速に冷凍して、仮死状態にし、教授の算出した適正な温度と方法を用いて、正常な体温まで瞬時に戻す・・・つまり、理論上は未来へとタイムスリップできると言う装置である。


しかし、過去へは戻れない。


今回の完成で、まず最初に向かう先は五年後である。現在19歳の早川 陸は年を重ねることなく五年後の世界を見ることが出来る。最初に乗り込むメンバーは青柳教授を含め四名、残りの研究チームは、現在に残り、青柳教授の指示した研究を続けつつ、五年後の仮死状態解除を待つ事となる。


早川には恋人がいた。が、研究員ではない。青柳教授に何度も相談を持ちかけたが、国家もかかわるプロジェクト故に、一般人の参加は親兄弟であっても認められず、まして、口外することなど、もってのほかである。


恋人の森本友香とは同い年。もし、五年後にタイムスリップしてしまうと、友香や、当然、親兄弟、他、タイムスリップした人以外は、5歳年を重ねることとなる。更には、このプロジェクトは口外すれば、国家犯罪として、無期懲役が確定してしまう書類をプロジェクト参加の時にサインさせられているので、実質は、もう地元の人たちと接することは出来なくなる。


プロジェクトが成功し、何百年先へと行けた場合は、きっと家族も友人もみんなこの世にはいないため、地元でも行動できるだろうが・・・


言い換えれば、このプロジェクト・・・正確には、今回の実験が成功した時点で、戸籍上は存在を葬られてしまう。


今なら、口外しないこと、監視員はつけられるが、ほぼ日常に支障をきたさない程度の普通の生活に戻ることが出来る。親や兄弟などには、国家の専門チームがうまく丸め込むと言ってはいるが、今の早川には、どのような口実で言い包めるのか、まったく想像もつかない。


そして、参加の表明は、あと30分。参加と同時に、出発することになっている。開発段階でもずっと悩み続け、それでも、このプロジェクトに人生をかけると言い聞かせてはいたものの、いざ、決断をせまられると、恋人のこと、家族のこと、友人のこと・・・そして、本当に仮死状態から帰還出来るのかという不安などなど、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


もう時間はない・・・


洗面台で顔を洗い、気持ちを引き締める。覚悟は出来た。この研究が成功すれば、現在の医学では治せない難病患者を仮死状態のまま未来へと連れて行き、未来の医学で治療という、新たな可能性も開かれるのだ!その為の大きな一歩に携われるのであれば、こんなに誇らしいことはない!


何度も何度も心に言い聞かせ、青柳教授の待つ部屋へと向かうのであった・・・。


「入りなさい。」

青柳教授の甲高い声が聞こえた。

「失礼します。」

「早川君。後は君だけだ。結論は出たかな?」

普段は教授とは思えないほど、明るく、冗談ばかり言う教授も、この時ばかりは真剣な面持ちだ。

「はい、ギリギリまで申し訳ありませんでした。やはり、俺にはFTSから降りるなんてことは考えられません。俺はこのプロジェクトに参加して・・・」

と、青柳が言葉を遮り、

「君の気持ちは、重々理解しているよ。今は時間が無い。YESということでいいんだね?もう現在には戻れないし・・・」

今度は、早川がその言葉を遮り、

「わかっています。答えはYESです。よろしくお願いします。」

「うむ。では、第二研究室へ向かってくれ。すでにみんなが待っている。」

「はい。」

早川は最後に友香に電話しようかと考えたが、止めた。もう決めたことだ。どういう風に専門チームが早川にかかわりのある人たちを理解させるのかはわからないが、今はそんな事を気にしても始まらない。とにかく、第二研究室へ向かった。


早川と青柳教授以外の二人はすでに研究室内にいた。

一人は、教授と共に長年研究を共にしてきた、倉本くらもと とおる、43歳。青柳教授の後輩で、彼には親兄弟はいない。天涯孤独ということもあり、この日を今か今かと待ちわびているかのようだった。

「決心したんだな!それが賢明だ。一般人には見ることの出来ない、数百年後だって見られるんだ!こんなにすばらしいことは無い!」

「でも、数百年後に地球が滅んでいたら・・・どうします?」

皮肉交じりに話すのは、もう一人の参加者、安藤あんどう みのる26歳。彼の妹は現代の医学では治らない病気を患っている。五年後にタイムスリップしても現段階では妹を乗せることは許可が下りないが、それでも、一縷の望みをかけ、まずは五年後に行き、成功が確認できた時点で、まずは妹を仮死状態にし、どんどん未来へ進み、医学的に治療が可能な状態の時代にたどり着いた時点で、仮死状態から復帰させ、治療に専念する。安藤は、その時代で、プロジェクトを外れ、妹と二人、その時代で天授を全うする契約である。


但し、彼の場合も現段階では家族などには秘密である。5年後へのタイムスリップが可能であることが判明した時点で、両親と妹だけに事情を説明する事になっている。


「安藤さん。妹さんの為にも、絶対にこのプロジェクトを成功させましょう!」

「有難う!必ず、数百年のうちには医学の進歩で、治療法が見つかっているはずだ!」


FTSといっても、実際には宇宙船のようなものに乗り込むわけではなく、それぞれが特殊なカプセルに入る。現代に残る研究チームの操作によって、0.001秒でマイナス196度へと、仮死状態にされ、そのまま青柳、早川、安藤、倉本以外の人々は、5年の歳月を過ごすこととなる。


青柳がやってきた。

「よし、行こうか。」

「はい。」

「では、頼んだぞ。五年後の4月1日12時に解凍してくれ。とは言っても、全てプログラムされているので、自分たちで手元のスイッチを押すだけだがな・・・。」


万が一、仮死状態にならず、死んでしまった時に、他の誰かがスイッチを押すと、押した本人にとっても一生、その想いを背負わなければならない可能性もあるため、スイッチは各自、自分たちで押すようになっている。


「では、皆さん、五年後に会いましょう!きっと私は少し老けてしまっていると思いますが、笑わないで下さいよ~」

今回は現代に留まる研究員の一人、あずま 沙織さおり24歳は、安心させるためか、少し冗談を交え、見送りの言葉を贈ってくれた。彼女も目覚めれば29歳になっているのかと考えると、不思議な気分に襲われる。


スイッチを押すと、まず、全身麻酔がかかる。その後、一気に特殊な装置によって冷却され、成功すれば、どのくらい経ったのかもわからぬまま、目覚めるのである。


カプセルが閉まった。東が手でカウントダウンの合図を送る。

「3・2・1・OK!」


一斉にスイッチを押す・・・。徐々に眠気が・・・いや、一気に眠気が・・・・・・・・・


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