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悪夢

いやだ


いやだいやだいやだいやだ…!!


逃げなきゃ…




「どこへ?」



 パチっと目を開くとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

傍らでピピピピとなり続ける目覚ましを止め、体を起こす。

両手を見つめると、手は震えていた。

昨日の夜からずっとそう。

手の震えが止まらない。

この頃ずっと体の怠さを感じていたけど、今日はひどい。

スッキリすると思っていたのに。

まるで悪夢を見ていた子供の様に、僕のスウェットは汗でグショグショだった。

…パンツまで濡れてるし。

嫌な予感がしてそろりと下着の中を確かめる。

…よかった、なんともない。

僕の家は片親で、父と僕と妹の3人暮らし。

親父は今出張で家にいない。

その間の家事は、すべて高校1年生の妹の役目だ。

僕は洗濯なんてできないから、勿論洗濯は妹にやってもらうことになる。

そんなときに手洗いして干したパンツを見られたら怪しまれるはずだ。

女子とは言っても高校生なわけだから、下着を手洗いするなんて理由はひとつしかないのは分かるだろう。



「おにーちゃーん!

あたしの靴下知らなーい?」

2階にある自室から1階にあるダイニングへ降りると、妹の裕美(ゆみ)がバタバタと忙しそうに学校へ行く準備をしていた。



そんなはずないのに…



驚いて硬直していると、裕美がパンをトースターに入れながらちらりとコッチを見て、コチラヘ歩み寄る。



くるな、くるな、くるな…!!



恐怖が僕を追いたてる。


「おにい…」


「来るなぁっ!!」



僕に手を伸ばしてくる裕美を突飛ばし階段を一気にかけ上る。


ココに裕美がいるはずがない。


居ていいわけがないんだ!




階段を登り終えると直ぐ様つきあたりの自分の部屋へと駆け込む。


呼吸がままならない。


心臓がドクドクと音をたてている。


なんでなんでなんでなんで!


動揺しながらもドアに耳を押し付ける。


……物音は…しない。


そうだ、それていいんだ。

だって裕美は風呂に入ってるはずだ。

綺麗好きで潔癖で、朝、夕、夜で1日3回も風呂に入る、そんな奴だった!

だから、今日もアイツは風呂で寝てるはず。


そうだここにはいない。


居ていいはずがない!



そろりと部屋をでて裕美の部屋を覘くと、いつも通りの裕美の匂い…。

そこに裕美がいないことを確認してから、俺は恐る恐る階段を降りる。

ダイニングは静まり返っていた。

靴下を探しながらバタバタと身支度をする裕美は、もういない――――…。



和室にも、親父の寝室にも、トイレにも、裕美の姿はない。


そうだ、だって裕美は



風呂にいるはずなのだから。





風呂のドアをあけると、ムワッと異臭。

腐った生ごみのような匂い。


シャワーからは水が滴っている。


浴槽には、血で体を染めた裕美……。



「裕美、裕美、裕美…。」


僕はシャワーで裕美の綺麗なカラダを洗う。

カラダにこびり付いた血は、なかなか落ちない。


「裕美、裕美…」


自分の呼吸が荒くなるのがわかる。






死んでもなお、僕は裕美が好きなのだ。





裕美のカラダが綺麗になると、僕は裕美の真っ青になってしまった唇に触れる。





愛しい。



あぁ、愛おしい…。



僕は、裕美を好きになって初めて愛を知ったんだよ?

僕は、裕美を好きになって初めて生きる意味を見つけたんだよ?

僕はね、裕美。

僕は…裕美を愛していただけなのに…







*****






いやだ


いやだいやだいやだいやだ…!!


逃げなきゃ…




「どこへ?」



声のするほうへ振り向くと、

そこに居たのは――――――…





目を覚ますと、夕焼けが見えた。


昨日同様、僕のスウェットは汗でぐっしょりだった。

寝すぎたな…なんて思いつつ、カラダを起こすと、いつも閉めているはずの部屋のドアが開いていた。


まさか…


予想は外れ、下に降りてもそこには誰もいなかった。

いつも通りの静寂。

裕美はココにはいない。


会いたい会いたい…


これが恋しいという感情なんだね…



裕美…




裕美に会いに風呂場のドアを開けると…



「裕美っ!?」


浴槽に横たわっているはずの裕美がいない。

裕美が目を覚ますはずがない。

じゃあなぜ…


「おやじ…?」


親父の寝室へ行こうと振り返ると、

バットのような物を振りかぶった裕美が立っていた。

反射的に振り下ろされたバットをよける。


「裕美…どうして…」


「…おにーちゃん」


にぃっと笑みを浮かべ、裕美はもう一度バットをふりかぶる。

僕は裕美をつきとばし、風呂場から離れる。


逃げなくちゃ!!


このままじゃ、殺される!!



なにも考えず、家の外へ飛び出す。


久しぶりの外。

もう何年外へでていなかったろう。

逃げるようにでてきたから、靴なんて履いていない。

素足にアスファルトの感覚。

後ろでドアがひらく音がした。

振り返ってなんていられない。

逃げなきゃ!!


隣の家の扉をたたく。

中に人の気配はない。


次の家の扉をたたく。

人の気配は…




そこで僕はおかしいことに気付いた。



今夕日が落ちてきている。

時計をみていないから時間はわからないけれど、

夕方だ。

普段人通りの多いこの道に、

なぜ人がまったくいないんだ?



「おにーちゃん…」



すぐ後ろで裕美の声。

振り向くと、裕美はまたバットを振りかぶっていた。




にげなきゃ!!



「誰か!!」



誰か



誰か誰か誰か誰か誰か!!




助けて!!






やだ!


まだ死にたくない。



怖い怖い怖い怖い怖い!!



死にたくない!!




やだやだやだやだ!!



逃げなきゃ!!





「どこへ?」







すぐ後ろで、裕美の声が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 悪夢というタイトルでしたので、妹を殺したのは夢? などど予想を立てながら読んでいたのですが……主人公の反応を見ると、そうでもないっぽいですね。しかも死んだはずの妹に襲われる…
[一言] 外jへ?が気になったけど 感情移入しやすくて面白かったと思うよ。 なんて上から言ってみる
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