頑張るって決めていた。
……何だったんだろう、今の……?
そんな事を考えてた俺は後ろから仲間の1人に声を掛けられる。
「文官さん?どうしますか?と言ううか、何だったんだアレ」
「……逃げられちゃったか」
ファイが俺を無視するのは予想してたし、そのまま追い詰めるつもりだったけど……あんな予想外すぎるトラップが出てくるとはさすがに思わなかった。
ギリギリ俺はアレより後ろにいたからどうにかなったけど、逃げられた事には変わりないか。
「とりあえず、リタイアしてない人達を一旦集めましょう」
「はい……長官殿達はどうしますか?」
「……これから先は団長達に任せろと言われてますから」
「そうですか」
そう言って納得したのか、仲間の1人はその場から去り。自分の仕事をしにいった。
俺も1度だけ小さくため息をつきながら、その場から離れる。
(……やっぱり、まだ駄目か)
きっともう、俺とファイはあの頃には戻れないんだと、再度思わされた。
(とにかく、後はお願いします。団長……)
※
「はぁ…はぁ……」
「さすがに、少し焦ったな」
「にゃあ、間に合ったのなら結果オーライじゃろう」
……で、この黒猫さんはいつの間にこちら側に来たんでしょうか?そんな余裕はこれっぽっちも無かった気がするのに。
「しかし、完全に閉じこめられたか」
そう言いながらファイさんは私達が入ってきた通路を完全に塞いでしまっている巨大な岩に触れた。
しかし、その触った感触はフニッとしていて妙に柔らかいようだ。どっちかって言うと、巨大な風船に近い感じかな?
「いくらなんでも大きすぎる。どかすには…時間がかかりそうだな」
「じゃが、お主等が向かうのはそっちではないじゃろ?」
ネリさんはいつものように怪しい笑みを浮かべながら塞がれた通路とは反対の方を指差した。
……そうだった、とうとうここまで来ちゃったんだ。
私達はこの光の塔の最上階で、指揮官であるアルトさんを倒さなきゃいけな……
「なんかものすっごく恐れ多い事な気が……」
「そうか?」
「アルトはともかくエルルクじゃったらいくらでもやれるじゃろう」
「それはネリさんだけです」
「ほら、先に進むぞ」
……大丈夫なのかなぁ?このメンバー?
とりあえず、ネリさん、私、ファイさんの順番でちょっとした通路を歩いていく。ここを歩ききれば、おそらくアルトさん達がいるであろう広い場所へ向かう。
「ふむ、あいつ等に会ったらどうするか……」
「無計画ですか」
「にゃあ。そこ、段差あるぞ…落ちるなよ」
「落ちませんよ……」
つくづく不安になってくる。ネリさんはともかく、ファイさんは一緒にいて頼もしいのか頼もしくないのか微妙だ……
「と、段差……」
ガッ!…キンッ!!
「へ……?」
……ガッと私の頭上約数センチの所で何かが固い物に当たった音と、その直ぐ後から聞こえてきた甲高い金属音。
最近になってはよく聞くようになったその音は剣と剣が当たり、響き合う音。
その音を出した2人は剣を交えながら笑みを浮かべていた。
「おいおい、いたいけな少女の頭上にそんな物騒な物を突きつけるだなんて……少し酷いんじゃないか?エル」
「俺の狙いはあなたなんですがね、長官」
私の頭上にエルさんの剣が突き刺さった。
さっき起きた事を一言で言い表すとこれ以外言いようがないと思う。
いつの間にか私の前にいたネリさんは最上階の壁にある、例の窓型にくり抜かれた穴に。
後ろにいたファイさんはエルさんが突き刺した剣を自分の剣で弾き返しながらエルさんに突っ込んで行った。
「良かったね~リリアちゃん。団長のコサージュ狙ったつもり何だけどね~。ほら、リリアちゃん低いから」
……あ゛ぁああ?
プツンと久々に私の何の何かが切れる音がした気がする。
それを確認するよりも先に、私はファイさんと剣を交えていて身動きの取れないエルさんに思いっきり蹴りを放った。
しかし、エルさんはファイさんから離れ後ろに下がりながらそれをよける。
そんな私達の様子を文字通り高見から見物していたネリさんがエルさんに少し怒った口調で話しかけてきた。
「おい、貴様儂がよけなかったら儂の顔面にでも突き刺したのか?」
「さぁ?どうだろーねぇ……やっぱり、俺よりお前がやった方が良かったんじゃない?アルト」
そう言いながらエルさんは奥からやって来たアルトさんの所まで戻って行った。
ファイさんは剣を構えたままその場でその2人を見つめる。
「暗殺のつもりが、戦闘になってしまったか」
「そっちの方が長官的には良かったんでしょ?」
「エル、無駄話はいい。本気で行かなきゃ…戦意も気力も全て喰われるぞ」
「りょーかい!」
この広い最上階に、私とファイさん、エルさんとアルトさんの4人が向かい合う。
そして、大きな合図も無く突然に、それでいて自然に戦闘は始まった。
しかし、アルトさんとエルさんは私には目もくれず2人一気にファイさんへ向けて剣を振るいだした。
「随分と…私は好かれているのか?」
「戦意の基本は『強い奴から潰す』ですから。2対1で攻めます」
そう言いながらもエルさんとアルトさんは一気にファイさんに畳み掛けていく。
私は完全にその戦いから弾き出された。
しかし、その様子を見ていたネリさんが今度はニヤニヤと怪しく笑いながら話し出した。
「おいおい、随分失礼な奴等じゃのぅ」
「まったくだ。私達が長い間育てて来たのだぞ?」
私は脚の先まで力を込めて、力強く地面を蹴る。
身体がいつもより軽く感じたからかそれまでの動きはとても速く行えた。
ファイさんはアルトさんとエルさんの剣を受けながらもネリさんと同じように小さく笑みを浮かべながら言う。
「「そいつを弱いだなんて思うなよ」」
「――!やぁ…リリアちゃん」
グッと左足に力を入れながら右足を思いっきりエルさん目掛けて振り上げる。
けど、エルさんはファイさんに切りかかった勢いのまま後ろから攻撃して来た私に剣を振るう。
私じゃ力も速さも劣ってる。でもファイさん達が教えてくれた。
私はきっと自分より力の弱い人と戦う事は無いだろう。私より大きな力が襲って来る。
だから、私はその力の流れを使えばいい!
「――っ!低っ……!」
エルさんが剣を振るった位置は私に当てるには少し高かった。おそらく、無意識にいつもの癖が出たのだろう。
身体を低くしてそれをかわすと、私はエルさんの腕を掴み、その力の流れを途切れさせないまま……
「ぐっ……」
「う…りゃぁあ!!」
グッとエルさんの懐に入り込み、そのまま自分の右膝を勢いよくぶつける。
「エル――!?」
「よそ見か?余裕だなアルト」
「――っ!」
入った……筈なのに、私の膝蹴りを喰らったエルさんは笑みを絶やしてはいなかった。
まるで、時間が極限まで遅く感じられたかのようで、その静寂の中で、エルさんは小さく私に耳打ちをした…気がした。
「駄目だよ、リリアちゃん。俺じゃなきゃ入ってた」
「!?」
私のエルさんの懐に入った筈の膝とエルさんの懐の間には、エルさんの左手でその接点を塞がれていた。
(いつの間に……!)
不意はついたつもりだ。でも、まるで右手も左手も同時に移動したかのようだ。
そのままエルさんは空いた右手で私に攻撃を仕掛けて来る。
(でも、こんな状況は――経験した!)
エルさんの懐に入れていた右足を一度下げて、クルッと身体を回転させ左足を横に垂直になるよう振り上げた。
「リリアちゃ――!?」
でも、その時エルさんの剣の柄が私の右腹の近くに向けられた、無意識に私の右腕でガードしたけれど派手に柄が当たった。
「痛っ~――!!」
エルさんが驚いたって事はここに当てる気は無かったのだろう。でも、私が予想外の動きをした事で、偶然当たってしまった。
少し当たりが悪かったようで。痛いでなんて済まない痛みに襲われる……
(だけど……!!)
ぐるりとその勢いを押さえず、攻撃を続けた。右膝蹴りを受け止められてからの左足での回し蹴りはエルさんの左腹に深く入った。
「!?」
「せい―やぁあああ!!」
エルさんの身体は右側に軽く飛んだ。そして、その先は――
「階段に、気をつけてくださいねエルさん」
「リリアちゃんも…結構性格悪いねぇ……」
エルさんよりは、悪くないつもり何ですけど…ね。
大きな音が階段に木霊した時、高見の見物をしていたその黒猫が呟いた一言は、誰一人…聞いてはいなかった。
「なんじゃ…聞いとらんぞ、そんなの……」
しかし、何を思おうと、戦いは確実に時を刻んで行った。




