酔狂さんに尊敬?
縄、針、穴、石、岩、水、タライ……タライ?
最上階のあちこちに仕掛けられたトラップの数は最早トラップの域を過ぎている気がしてきた。過ぎ去りすぎてもう跡形もない程遠退いてしまっている気がする。
どうやらアードさんは10番隊の中でもトラップ担当要員みたい。てか、めちゃくちゃ楽しそう……
「あっ、リリアさん。どうやらそろそろ始まるみたいですよ」
「!もうですか……」
「そうですね、少し急ぎますか。せめてコレ位は完成させたいですし」
「はい」
演開始の合図まであと数10分程度、間に合うといいけど。
……しかし、コレ引っかかる人いるのか?こんなの注意してれば避けられそうなんですが。
「アードさん、コレ大丈夫ですか?」
「ん?大丈夫ですよ!ちゃんと考えてますから!」
「そうですか、うーん……?」
「まぁ、見てれば分かりますよ!」
「あぁ、そうですね。見てれば分かりますよね……て、えっ?見てれば?」
……な・に・を!?
「ア、アードさん。見てればってまさか……」
「ふふん、リリアさん。俺達が作ったトラップをドンッと派手にやってやる所、高みの見物しなきゃ意味ないっすよ!」
嫌な予感しかしない。嫌な予感しかしない!嫌な予感しかしないからあぁああ!!
※
どぉおおおん!!!!
「みぎゃぁあああああああああ!?」
「あ、始まった」
始まったって今のが始まる合図!?
なんなんですか今の爆音は!一体何をどうすればそんな音が出るんですか!
て言ううかこんなのだったら事前に教えてください!心臓飛び出すかと思いましたよ!!
どぉおおおおおん!!
「……耳がおかしくなりそう」
「大丈夫っすかー?ここ一番上ですからね、音が近いのかも」
「一番上って言ううか……」
私はチラリと後ろをに視線を向ける。
そこには遙か彼方に小さく見える大地と無限に広がる大空。つまりは屋外。
ふざけんな。
ここがどれだけ高いと思ってるんだよ。落ちたら痛いとかそういうレベルで済む話しじゃないから。
まぁ、天界から落ちるよりはまだマシだろうけど……けどそんな毎回毎回落ちた先で変人集団が儀式をしてる訳ないよね、もし落ちたら今回は絶対死ぬから、グシャってなるから。
つか、超怖い。
「アードさん、他に場所は無かったんですか?」
「無かったんですよねーこれが」
「だからってなんで……」
“蒼穹の塔”最上階。しかもその更に上、ぽっかり開いた空間を囲む壁にはいくつかの窓の形に切り抜かれデザインされた穴がいくつか開いている。
んで、今その中にギリギリの状態で隠れ潜んでいる私とアードさん。
「こんな所に……」
ビュウゥウウウ――……
「……」
高みの見物ってこんな命懸けの行為でしたっけ!?
しつこいようですが何度でも言います!落ちたら死にますよねコレはぁあ!!
「仕方ないんですよ。ここが全体を見渡せて且つ見つからない唯一の場所ですから。まぁ、確かにちょっと狭いっすけど」
「と言ううかわざわざ高みの見物しなきゃいけないんですか?トラップなんで別に見なくてもいいんじゃ……」
「確かに実際の闘いだったらそうですけど、今回はあくまでも演習ですからね。闘いの中で学ぶ事が第一目的です」
そのためにはしっかりと全部見るのが一番だと言って少年のように目を輝かせながらわくわくしているアードさんを見ていたら、なんとなくまぁいいかと思えてきた。アードさんがしっかりと演習と言う事の意味を理解して一生懸命頑張っている訳だし、仕方ない…か。
「ついでに副団長辺りが引っかかる様を見てもみたいですしね!」
「アードさんお願いです。私がせっかく納得しかけた事を後悔しない為にもちょっと黙っていてください」
台無しだよ色々と!
しかし、そんな雑談も不意に聞こえてきたいくつもの小さな足音で切り替わった。
数は10~20人位かな?割と少人数だ。
「来ましたね」
「随分早いですね……」
「闇の塔の最上階と光の塔の最上階は橋で繋がっている場所の一カ所ですから。早めに攻めたいんですよ」
「橋……にも仕掛けましたよね、確か」
「もちろん♪」
うっわ、笑顔だ。超笑顔ですよ、そりゃもう楽しそーに。
最早アードさんの生き甲斐はオカルトとトラップなんじゃないかと思えてきた。
「引っかかりますかね?」
「引っかかってもらわなきゃこまります。なんせ、俺達が仕掛けたんですから」
「その自信を少しでも分けてほしいです」
「自信はいいですがリリアさん。狭いからって壊れないように気をつけてくださいね、ソレ」
そう言ってアードさんが指さしたのは私の左胸に付いている赤い花の形をしたコサージュ。
実はこのコサージュが、今回の演習でかなり大切な物だ。と言ううか、このコサージュこそがゲームとかで言う所の私達のライフと言った所か。何枚かの花弁で出来たこのコサージュはとても脆く、バシッと軽く叩かれただけで壊れてしまう。しかも壊れると同時になぜかエフェクトのつもりなのか真っ赤なインクが出るらしい。
……私達闇チームの制服は真っ黒だからいいけど光チームの真っ白な制服は大丈夫なんですか?
えっ、水で直ぐに落ちるから平気?ならいらないでしょ、この血飛沫。
まぁ、とにかく。このコサージュが壊れた人はいかなる理由でもリタイアと見なされて演習から退場させられる。つまり、このコサージュだけは何が何でも守らなきゃいけないわけだ。
今回の演習の大まかなルールとしてはチームの人達の内、5分の4人がリタイアになるか、司令官のコサージュが壊れたチームの負けとなる。
即ち、ファイさんかアルトさん。この2人のどちらかのコサージュが壊れた時点で即演習終了。勝敗が決まる訳だ。
「とにかく、壊されないようにしなきゃ……」
「それだけじゃないですよリリアさん」
「えっ?」
すると2つの塔を繋ぐ橋の方からいくつかの野太い悲鳴が聞こえてきた。
どうやら、掛かったみたい。
「コサージュがどんな形であれ壊れればリタイアなんです。ですから――」
そして、ドンッと言う音と同時に何人かの男性が私達のトラップ満載の闇の塔の最上階であるこの場所にやってきた。
と、同時に先頭を進んでいた2、3人の男性がいきなりベシッ!と派手に転んだ。
ここ、塔の最上階の床には明るい日差しと開いた天井のせいか床一面に草花が生い茂っている。
そして、その草のいくつかは私とアードさんの手によって丁寧に結ばれている物がある。いわゆる草結びのトラップ。
それに引っかかった人達はしばらくしてふらふらと立ち上がたかと思うと、彼等の左胸にあったコサージュはものの見事に壊れてしまっていた。
転んだ時に、床にぶつけた衝撃で……
「俺等は転ばせるだけでいいんですよ、あのトラップで」
「……なるほど、だから簡単なトラップばかりだったわけですか」
「そう言う事です」
しかも、コレは引っかからないだろうと思ってたトラップも一度草結びのトラップに引っかかって下に注意がいってしまったが為に上への注意が足りずタイミングよく引っかかってる。
さすがにトラップに関してはアードさんの腕はプロ、と言う訳か。
「ところでアードさん。1つ気になってたんですが……」
「はい?」
「タライ…誰も引っかかりませんね……」
「……まー、あれだけは完全にギャグっでしたからねー……」
ギャグだったんだ。本気かと思ってたけどさすがに違ったらしい。
それはともかく、どうやら全体的に順調みたいだ。壊れたコサージュからでた赤インクで下の草花が赤く染まっていくのは若干あれですがどんどん何人もの人達がトラップに引っかかってリタイアになっていってる。
そもそも私達の役目はこの人達の足止め、うまく行けば追い返したいなぁーくらいだったからノルマはクリア出来てる。
とにかく後は……
「見つからない事とここから落ちない事ですかね、気をつけるのは」
「うーん、団長も副団長もいませんねー…あっ、あいつ10番隊の仲間っすよ!今引っかかったの!」
「アードさん、隠れる気あるんですか」
あなたの辞書に静かにと言う言葉は無いんですか。
……まぁ、今はトラップ作戦成功と言う事でこれ以上は黙っておきますか。
ドーン!ボンッ!!
「……アードさん、こっそり火薬使ったでしょう」
「あっ、バレました?」
うん、もうこの人に尊敬とか信頼とかの言葉は無意味だって思い知りました。




