酔狂さんはご遠慮です。
青い、何処までも青い空が視界いっぱいに広がっている。
ここは“蒼穹の塔”の最上階。この塔はその名の通り最上階には天井が無く、どこまでも続く青空が広がっている。
ネリさんが言っていた「最も空に近い場所」と言う意味がよく分かった。
空気は少し冷たく肌に染みるけどその微かな風も私の髪をなびかせる度に心地良く感じた。
「……って、なんて感情に浸ってる場合じゃないんだよ」
現実に戻されると後ろから聞こえてくる鼻歌、私はその声の主の方へとくるりと振り向く。
「あっ、リリアさん。そっちの縄押さえててくれますか?そうです、それそれ」
私の目の前で1人の男性の手によって作り上げられているのは、縄に丸太、草の結び目から落とし穴まで。数多くのtrapもとい罠。
……なんだこの状況。
なんで私はこんなおっそろしい罠の数々を作ってるんだろう、私王宮騎士団の演習に来たんですよね?ファイさんの料理を食すと言う最大の地獄を見ないためにも結構意気込んでやってきたのに……
しかし、別に私は罠を仕掛けるのが嫌と言う訳じゃない。寧ろ罠は大切な戦法だし、作るのも意外と楽しい。
ただ今この状況下においでの一番の問題は……
「よーし、完成っすよ!これであの団長達をも陥れてやりましょうね!リリアさん!」
「……そ、そうですね、アードさん」
問題は、何故かアードさんと2人っきりで罠作りをする事になってしまっていると言う事。
アードさんは日の月にシノちゃんと出会った時の事件で知り合った騎士団の団員さん。
短めのちょっと前髪の長い薄い茶色の髪に、緑色の瞳。今は無いけど片手にはいつも手帳かメモ帳を持ち歩いてる。
これだけ聞いてると、コレと言った特徴の無い普通の明るい性格の人に見えるけど、それは黙っていればの話し。
クレイアードさん。名前が微妙に長いのでみんなからアードとあだ名で呼ばれているこの人はお化けや呪い、はては妖怪までもにときめきすら感じるオカルトオタク。決定的な酔狂さんだ。
一度幽霊と噂されただけのシノちゃんにサインまで求めていたような人だし。
てか、幽霊だとか心霊だとかついてればもう何でもいいんじゃないかと思わせられるんですが……本当になんで私はこんな人と和気藹々罠作りをしてるんだろう。
私、幽霊の類や暗い所は大っ嫌いなのに……
「さぁて、次はどうしようですかね!長官から好きにしていいと言われましたし、ちょっと危険な橋でも渡ってみますか?」
「火薬類は禁止とも言われてますよ」
「うっ……仕方ない、階段の仕掛けの方に行きますか」
「はぁあ……」
一体何故こんな事になったかと言われれば、それは遡ること約30分前……
「あっ、リリアさん!」
「へっ……ア、アードさん!?」
闇の塔にぞろぞろと沢山の騎士団の人達が入っていく中、あの大量の男性のラッシュの中に1人突っ込める訳もなく。(てか、絶対近づきたくない)
私はファイさんかネリさんを目で探しながらじっとしていると、後ろからやってきたアードさんに声をかけられた。
アードさんが着ている制服の色は黒。どうやらアードさんは私と同じチームのようだ。
「あの廃墟でシノちゃんと一緒に会った時以来ですね」
「そーですねー。いやぁ、実は友人がみんな向こうのチームになっちゃって1人だったんですがまさかリリアさんがこっちのチームだったとは」
「そうですか」
「はい、霊感を頼りにふらふらしてたら会えました」
「…………はっ?」
そ、それってつまり霊感で辿った先に着いたのが私の所って事で……取り憑かれてたりしないよね私!!!?
どうしよう、怖い!超怖い!!ガタガタブルブル……
「ん?どうしました?」
「えっ!べ、別にどうもしませんよ!何にもないですよ!」
「はぁ?ならいいですが……」
怖いだなんて思ってない!思ってないったら思ってないんです!
これだけは私にも譲れないプライドってものがあるんですからね!たとえそのプライドがものすっごいちっさいとか思われても!
「そう言えばリリアさんは何処の隊なんです?」
「へっ?」
「ん?」
「あぁ!隊!えっと隊はですね……」
さて、どう答えたものか……
隊ってのは意味はそのまんまで騎士団にあるいくつかの種類がある部隊の事。人数はばらばらでそれぞれの分野に別れて形成されてる。
例えば、2番隊から7番隊までは戦闘がメインの部隊で、色んな人達を各々の戦い方や全体のバランスを考慮した上でそれぞれの部隊に振り分けられてる。
8番、9番隊は調査や潜入を得意にしてる人達の部隊。
色んな部隊の中でも超特殊なのは1番隊と10番隊。
1番隊は戦闘要員なのは変わらないけど団長であるアルトさんと副団長のエルさんが直々に指揮をしてる。
そして、10番隊、それは先に上げた例以外の特殊な人達で出来てる特殊な部隊。
私はあまり詳しく知らないけれどエルさん曰わく『変人の巣窟』だそうだ……
とにかく、騎士団の団員はこのどれかの部隊に所属する訳何だけど……
……あれ?私ってどこの隊所属だ?
いや、そもそも私ってその辺の細かい説明大幅カットされてないか?あまり私が詳しく聞こうとしなかったと言うのもあるが、だからといって自分が所属してる事になっている部隊さえ知らないってヤバくない?
「ある…とは思いますがちょっと特殊な事情がありまして……」
「特殊……と言う事は10番隊っすか!」
「へっ……いや、ちがっ――」
「いやぁ、10番隊って以外に人数いるし、めったに顔出さない人もいますからねーなるほどー。まさかリリアさんが俺と同じ隊だっとは気づかなくても無理無いですね!」
「人の話しは聞くべきだと思いますよアードさん。てか、アードさんが10番隊?」
「えっ?」
アードさんはきょとんとした顔をするとゆっくりと首を傾げた。
だから人の話しを聞いて下さいっての。私は多分10番隊ではないと思いますよ、さすがに。
とまぁ、そんな風にアードさんとなんやなんや話してると不意に後ろから声をかけられた。
振り返って見て見ると、いつもの水色の髪をしたファイさんが立っていた。
「リリアの今日の事で話があったのだが」
「はぁあ、私ですか?」
「あぁ…ちょっと……どうしようかと……」
「あの…長官、俺に何か……?」
なんか知らないけどファイさんは私と話していたアードさんをじーっと、それはもうまんべんなく見つめ始めた。そしてしばらくすると、ぽんっと手を叩くと人差し指を立てながら言った。
「リリア、君は今日の演習、彼と一緒に行動する事。はい、決定」
「はっ?」
「はっ?」
「「はぁあああああああああ!?」」
何のために!?そして何故既に決定事項!
「ちょ、長官ー?何故俺何ですか?」
「お前とリリアが一緒に行動した方がいいかと思っただけだが?私的に」
超私的な理由だった!
いやいや、だからといってなんで私がアードさんと一緒に行動を……ごめんなさい、はっきり言って嫌です。だってアードさんと一緒にいたら一体いくつ怪談話を聞かされることになるか…夜眠れなくなったらどうするんですか!
「ファイさん!私はちょっ――」
「なんならリリアと一緒なら今回の任務。君の自由にしていいぞ」
「……マジっすか?」
「あぁ、マジだ。火薬類以外だったらフリーダムにやってくれて構わない」
「……」
えっ…ちょ、ちょっとアードさん?なんでいきなり黙ったんですか?しかもなんでちょっと悩んでるみたいに……
すると突然ガシッとアードさんに捕まると、彼は私の意志ガン無視で私を抱えながら超絶なまでのスピードで走り出しやがりましたよ!
「了解です長官!さぁリリアさん!頑張って行きましょう!」
「見事に買収されましたね!コンチクショウ!」
すがすがしい笑顔で私を巻き込むなぁああああああああ!!
「頑張れよー」
「何やっとるんじゃお主は?」
「ん?ネリ、いたのか」
「騎士団の奴がおったから隠れとっただけじゃ」
気づけばその場にはファイさんとネリさんの2人だけが残されていた。
「どういうつもりじゃ?あんな奴にリリアを任せて?」
「……あの2人が、互いによく似ていたからだよ」
「……似とるかぁ?」
「あぁ、2人共。本当の強さが戦闘ではない所が…な」
その時の、楽しそうに笑ったファイさんの顔を見たのは隣りにいたネリさんだけだった。




