団長達は気づかぬ内に大きな過ちをしてしまったらしい。
「えー…只今より!第27回王宮騎士団上部と王宮騎士団との合同演習を執り行う!!お前たち!正々堂々殺し合うつもりで闘え!!」
「「「「ああぁあああああああああぁ!!!?」」」」
「にゃっははははははは!」
……それが、地獄が始まる第一声だった。
※
事の始まりはこの絶叫から約1週間前。アルトさんもインフルエンザから復帰し、王宮騎士団内もようやく落ち着いた頃、日付にして葉の月第35日の事。その日は私が週に一回の長官ことファイさんの所に行き戦いを教えてもらう日で、いつものように修練に明け暮れていた。
「リリア、スピードが下がってきてるぞ」
「はい!」
「ほら、急いで逃げないと……またネリに狩られるぞ」
「はいぃいい!!」
「にゃっは!もう1回は狩ってやるぞ!」
その言葉を聞いて私はファイさんが立っている場所にある時計を横目に見る。まだ後10分以上ある、ネリさんにあと1回狩られるかどうかギリギリの時間だ。
今私とネリさんがやっているのは『狼と猟師』と言う修練法、ファイさんが自ら考えたものらしい。
そのルールはいたってシンプルだ。
私が“狼”ネリさんが“猟師”となり狼の私は最初の方はとにかく逃げる、猟師のネリさんから逃げまくる。この時点ではどちらかと言うと鬼ごっこに近い。
「ようやく追いついたん――じゃっあ!」
「――っ!」
すると、ネリさんの掛け声と同時にブンッ!と凄い勢いで飛んできた蹴りを私は瞬時に反応してかわした。そしてそれを合図に私も走るのを止めて次の段階に進む。
この修練は『兎と猟師』や『雉と猟師』ではなく『狼と猟師』だ。ネリさんは“猟師”で私は…“狼”なのだ、それはつまり――
「鬼ごっこは終いじゃ!おもいっき叩きのめしてやるから本気で蹴り返してこい!」
「はいっ!!」
そう言うとネリさんは軽々と自分の身体を動かし殴る、蹴る、跳ぶ、と言った具合に次々と攻撃を仕掛けてくる。
この修練は闘いになった場合、狼”である私も反撃をして闘うのがルールだ。私が膝を地面についたら狩られた事になる。
それに、もともと私が今までやってきた蹴り合いはあの変質者共から逃げ出すための物であまり攻撃的な物じゃない上に本気で攻撃してくる相手と闘った経験は……
「よっ!――っしょっと」
「のっわあぁ!?」
いや、あの逆立ちみたいな格好から盛大な蹴りを次々に繰り出すのはネリさんぐらいか。あんな変質者共にはとうてい出来ない攻撃だ。
「次っ!左じゃ!!」
「えっ!?わあっ!」
ネリさんの言葉を裏切るように勢いのいい蹴りがおもいっきり右側から私の脚にむけて飛んできて、ガクンと体勢が崩れるとそのまま派手に転んでしまった。
「にゃはっ!引っかかったのぉ」
ぐっ……ネ、ネリさん…相変わらずなんの抵抗も無く当たり前に卑怯技を使うんですね。
「違うぞリリア、それは偏見じゃ。儂は卑怯をした気など全く無い!!」
「それはそれで駄目ですから!」
そんなすっごいいい顔で言い切らないでください!
あぁもう!そのニヤニヤした笑みが痛い!!
「つっかかるだけ無駄だリリア。ネリは勝つためなら何でもする奴だ」
「いや、確かにそれだけ聞いたら凄そうですけど……て、えっ?何でも?」
なん…でも……だと?
あのネリさんが勝つためにする何でもって……
「さて、今回もネリの勝ちか。蹴り合いだけならいい勝負だがやはりリリアは体力が些か足りないな次は時間を倍にして……」
「話を逸らされた!?」
「と言ううかファイにだけは言われたくないんじゃ」
「ファ、ファイさんは一体何を……」
「ファイのは凄いぞ、剣技練習時には見れないおっそろしい卑怯技を――っと!おいおいファイ、剣は飛ばす物ではないじゃろう」
「なにやら失礼な事を言われたような気がしてな」
……このお2人…なぁんかアルトさんとエルさんの掛け合いに似ている所があるような。
ネリさんがエルさんでファイさんがアルトさ……いやいや、ファイさんとアルトさんじゃ絶対的に似てないや。どちらかと言うとここでアルトさんと似てるのは……
「長官、王宮騎士団の団長と副団長がお見えしてますよ」
「あ、文官」
べ、別にレイさんとアルトさんが似てると言う訳ではないですが。何というか雰囲気…と言ううか物腰が少しだけそれっぽいかなぁーなんて、いやいや!そんな……
「なぁに考えとるんじゃお主は、んな事必死に否定しおって」
「ひゃぁあ!?」
心の声丸聞こえ!?しまった!心を聞く魔術師がここにいたぁ!
私はアルトさんやエルさんみたいに高い集中力をずっと保っている事は出来ないんですよ!
「で?アルトとエルが2人してなんの用だって?」
「この時期ですからね。アレじゃないですか?」
「あぁ、アレか」
「にゃるほどアレじゃな」
……アレ?
※
葉の月第40日。今から約1週間後のその日に王宮騎士団上部と王宮騎士団との合同演習が行われるらしい。騎士団上部も騎士団も混合の2チームに分かれ、とある演習場、その名も『蒼穹の塔』でそれは行われるらしい。それがレイさんやファイさん達が言っていたアレな訳だけど……
「厨二……」
「ちゅう…なんだ?」
「いえ、なんでもないですファイさん。気にしないでください」
寧ろ気にしたら負けですかね。うん、もうツッコまない。
「んで今回の演習の詳細説明と承認認定してもらいに来ましたぁ」
「えー面倒臭い」
「わぁお、超直球。清々しー」
「いいから読んで確認してください長官」
てかファイさん…わざわざ修練をしてた庭から移動するのも面倒臭がってアルトさん達の方を連れて来させたって言うのにさらに面倒臭がらないで。
ほんの書類2、3枚じゃないですか……そしてそこの副団長と黒猫の2人は唐突に喧嘩を始めない!さっきまで普通だったのにいつの間に!
「大体のう!そもそもお主がぬらりぬらりと――」
「うーん…文官、ペン」
「ぬらりくらりだろうが。人をヌメヌメした生物みたいに――」
「はい、ペンです」
「ん、ありがとう」
「……」
スルーですか、そうですか。本当のんびりした庭先で何やってるんですか私達。
しかもファイさんやアルトさんはともかくレイさんまでもが完全無視です。この2人、どれだけ頻繁に喧嘩してるんですか。
しかもまたしょーもない理由で。
「ん?おいアルト、エル。この最後に書いてある敗者への罰ゲームとはなんだ?」
「ば、罰ゲーム?」
「あぁそれはエルが言い出したルールですよ、負けた側の者達がなにか罰ゲームをすると言う」
「……エル、お前性格悪いな」
「えー別に悪くないですって長官、それにそっちの方が面白そうじゃないっすか」
まぁ…エルさんらしいと言えばエルさんらしい理由だけど……やっぱりたちは悪いですよエルさん。
しかしファイさんはそれを聞いてうーんと唸りながら考え出すと首を傾げながら言った。
「負けた者に戦いの厳しさたる物を教えると言う点はいいが騎士団全体の志気に関わるからなぁ……」
そしてしばらく悩んだ後、ファイさんは何かを閃いたように目を見開くてポンと手を叩いた。
「そうだ、負けた者に罰を与えるのではなく勝った者達に褒美を与えよう」
「褒美……?一体何を?」
「それは当日までのお楽しみだ。私が全責任を持って準備しよう。それから、負けた者達にも何か励ます物位は用意しようか」
「まぁ…長官がそう言うのなら……」
するとアルトさんはエルさんに軽く確認するように視線を送る、そしてエルさんはいつものように笑いながら了解した。
「じゃあ、その件については長官に全てお任せします」
「あぁ、任された。きっと凄い物を用意しよう」




