人は見かけによらないのです!
その日の晩から次の日の朝まで私はルウちゃんの部屋やフレアさんの部屋を行ったりきたりしていた。テナさんやサリアさん、それからミキにインフルエンザの事を説明したり、たびたびされる質問に答えながら対処したりと、とにかく忙しかったのだ。
ルウちゃんやフレアさんの処置は風邪と判断してた時から既に大体出来ていたので少し変える程度だったけど、看病する側のテナさん達に予防法を徹底させるのが何よりも大変だった。
テナさん達が全てちゃんと出来るまでは絶対にうつらない自信がある私がずっとルウちゃんとフレアさんの看病をしていたりもした。
そしてそれは、お昼の少し前の時に起こった。
「湿度をもっと上げなきゃ。加湿器…は無いから……」
私は近くにあったタオルを濡らしてくると、部屋にかけた。これでも多少の効果はあるはず。
そんな具合に私がフレアさんの部屋の環境や空調を整えていると部屋の中に扉をノックする音が転がった。そして次に聞き慣れた声が聞こえる。
「リリアー、入るよー」
「ん?ミキ?」
開かれた扉の向こうには案の定ミキの姿があった。いつものようにフローリア家の使用人の服に紫色の上着を着ている、けどミキの口元にはいつもとは違い白いマスクがあり、両手には小さめの鍋が握られてた。
「昼食が出来たって、リリアもそろそろ休んだ方がいいよー」
「うん、ありがとう。じゃあ変わってもらえるかな?」
「了解」
おそらくミキが持って来たのはフレアさんの分の昼食だろう。たしか今日のは素うどんだったかな?てか、この世界…なんでちょくちょく日本食が存在するんだろう……異世界としてのイメージってのが崩れかけてる気がする。
とにかく、私はフレアさんの部屋から出るためミキとすれ違うように移動して部屋の入り口付近に来たその時、ミキの運んでいたおぼんから一枚の紙切れが私の足元に落ちた。
「……何だろ?」
小さく折り畳まれた紙を開いて見ると綺麗な文字が書かれていた。
『病人のフレアに手出したらあなたをうどんの代わりに煮詰めて生ゴミ処理します。あなたでも多少は花壇の栄養分になれるでしょうから。 サリア・イリアン』
「……」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
サリアさん、さすがにそれはマズいですって!色んな意味でマズいです。ミキを煮詰めあげた上にそれをゴミ扱いですか。けど一応もったいなくないように肥料にしてる辺りはサリアさんらしいと言えばサリアさんらしいけれども。まぁ、確かにミキのうどんなんて誰も食べたくないですが……
「えっと、ミキ。一応言っとくけど病人に手出したら駄――」
「ミキ君!料理くらい自分で食べれるから!大丈夫だから!」
「えー?食べざるぐらいいいじゃん。なんなら口移しで――」
「あぁあああああ!遅かったぁあ!」
ミキの生ゴミ処理行き決定です。
※
あの後、ミキにサリアさんからの手紙を見せて顔面蒼白させた後、口移しだとか言う馬鹿げたと言うか常識外れの行動はウィルスが口の粘膜から移る可能性があるのでふざけん――やらないでと軽く、あくまでもかるぅく釘を刺しておいた。いやいや、そんなサリアさんからの手紙で脅したりなんてしてないですからね。ちゃんと注意したまでデスヨ。
「私もさっさとお昼すませちゃお」
そう言いながらパタパタとフローリア家のなっがい廊下を歩いていると……
ビタンッ!
「……――~っ!」
ワンピースの裾を思いっきり踏んでしまい派手に転んだ。寒いからってこんな裾の長い奴にしたのが間違いだった。最近はもう慣れたがら大丈夫だろうと高をくくっていたあの時の私が恥ずかしい。
ついでに顔面超痛い。
「リリア!?」
「ぬぅ……あぁ、アルトさん」
丁度目の前の曲がり角から現れたアルトさんに私は拍子抜けした声で答える。ふっ……こんな風に転ぶ所なんてもう数え切れないほど目撃されてるんですよ、恥ずかしいだとか思うのなんて、何を今更としか言いようがありません。
「えっと…転んだの?倒れたの?」
「転びました」
「怪我は?」
「いえ、無傷ですよ」
精神面以外は。
「ならいいけど。早く立った方がいいよ」
「はい、そうで――え?」
私がそう言いかけた次の瞬間、私の身体がふわりと地面から離れた。アルトさんに両手をとられ優しく引っ張られると気づいたら立ち上がっていた。
……凄いです。全く痛みを感じなかった上、軽々と素早く持ち上げられましたよ。なんやかんや言ってもアルトさんは力持ちさんなんです。
「……ありがとうございます」
「ん、別にいいよ」
立ち上がってから数秒間思考が停止してました。さっきまで倒れていて視界が横向きだったのが一瞬で変わったのだから無理もありません。
「どうやったらアルトさんみたいに力持ちになれるんでしょうか?」
「いや…リリア別に力持ちにならなくても」
「いえ、ルウちゃんを抱え上げるのでいっぱいいっぱいなのが悲しくって」
夏に起きた連続痴漢事件の時も犯人にやられて気絶してしまったバカ、もといイア君を抱えて逃げる事も出来ませんでしたし。私って本当力無いんですよね……
「けどリリアには無理だよ。そもそも違うんだから」
「……と言いますと?」
「リリアは女の子で俺は男だからだよ」
……そういえばそうでした。
度々そういった事を忘れそうになってた気がする。どんなに素敵でどんなに綺麗でもアルトさんは男性なんです。
「……」じー…
「……なに?」
どんなに綺麗…でも……私なんかよりも遥かに綺麗でもです……(涙目)
「そうですか、ではアルトさんみたいに力持ちになるのはあきらめます」
「なんで半泣きなの?」
「私は私なりに頑張ります!」
「……うん?」
そんな風に首を傾げないでください。悲しくなります。
まぁ、確かに出来る事から1つ1つやって行く事が大切ですよね。とりあえず今やらなきゃいけないルウちゃんやフレアさんの看病もミキやテナさんやサリアさんのおかげでだいぶ落ち着きましたし。
「リリア、ちょっと聞かなきゃいけない事があるんだけど」
「?、なんですかアルトさん?」
「ん、じつ――ごほっ!…ごほっ!!」
「……アルトさん」
まさかですよ。そんな事は無いと思いますけど、もしかして……
そう思って私はアルトさんの顔をじっと見た。さっきから止まらない咳、辛そうな目、ほんのり赤い顔。
「アルトさん」
「…………ごほっ」
「ア・ル・ト・さん!」
そうな盛大に目を逸らさない!アルトさんに取られてる両手がかなり熱いですよ!おかしいくらい!
私はなんでアルトさんが両手をがっちりと離さないのか気づいた。私に計らせない気ですねこの人わぁあ!それならそれで私にも考えがありますよ!
「ごほっ……リリア?」
アルトさんがそう言って私の方を見たその時。私はアルトさんの両手を思いっきり引っ張ってアルトさんの顔が私の顔の近くに来た瞬間。コンッ……と私の額をアルトさんの額に当てた。
案の定、アルトさんの額は物凄く熱かった。
「…――っ!?」
「アルトさん!体調が悪いのなら言ってください!無理するなんてよくありません!」
「……うん」
「ほら、行きますよ」
さらに顔も赤くなってますし。早いところ休んだ方がいいですよ。
「大丈夫ですか?」
「色んな意味で無理かも……」
「はい?」
なんの事ですか?




