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診察、診断、新発見。

「37度6分……」


また上がってる。

ふと窓の外に視線を移すと外は真っ暗な空に星々が点々と散りばめられていた。

ルウちゃんが熱を出してから半日。朝はあんなに元気だったのに、今私の前のピンク色をした可愛らしいベッドに寝ているルウちゃんは凄くぐったりとしている。私は体温計をサイドテーブルに置くと殆ど手のつけていないお粥のお皿をお盆に移した。すると不意に私の右袖が引っ張られる。


「……」

「大丈夫だよルウちゃん。まだ行かないよ」


私がそう言うと、ルウちゃんは安心したように小さく笑った。

少なくとも、サリアさんが帰って来るまでルウちゃんの傍を離れる訳にはいかない。


「何か食べる?」

「いらない……」

「そう、じゃあちゃんとお水は飲まなきゃダメだよ」

「リリアお姉ちゃん……痛い」

「……痛い?」


ルウちゃんは肩と肘をさするとそこが痛いと言った。風邪によるものかと思った私はルウちゃんが痛いと言ったその箇所を優しくさすってあげた。少しでも、ルウちゃんの痛みが引くように。

するとノックの音と同時に扉が開いた。


「リリアちゃん。サリアが帰って来たわよ、変わるわ」

「テナさん」

「ルウ…身体はどう?」


テナさんはルウちゃんの傍まで来るとすっとルウちゃんの額に手を当てた。


「身体のいろんな所が痛い」

「まぁ、風邪が原因かしら?とりあえず身体を拭くわよ」


そしてテナさんは後は任せてと言うと私と交代した私はルウちゃんに後でまた来ると約束をし、お粥のお皿を持ってルウちゃんの部屋を去った。

するとキッチンに向かう途中数時前に帰って来たミキに出会った。慌てた様子なのはきっとあの事だろう。


「リリア!ルウちゃん様とうだった?」

「うん、また熱が高ったし調子もまだ悪いみたい」

「そっか……それでリリア、フレアなんだけど……」

「フレアさんも熱が上がったの?」


私のその質問にミキは静かに首を縦に振る。

そう、元々体調の悪そうだったフレアさんもルウちゃんが倒れる前、自室で休んで直ぐに熱を出してしまった。今は帰って来たミキが付きっきりで看ている。


「さっき計ったら38度8分で……」

「38度8分!?」


38度越え……そんな高熱にまで上がったなんて……

私は少し考えを巡らせると一旦落ち着いてミキに言った。


「フレアさん、今暑がってる?寒がってる?」

「えっと、確か熱いって……」

「じゃあフレアさんの首や脇、太股の辺りを冷やしてあげて。その辺が太い血管のある場所だから」

「分かった。ありがとうリリア」


そうしてミキはフレアさんの所へと戻って行った。

どうやらこの世界の医療は元の世界よりかなり遅れているらしい。水が綺麗で周りの環境もいいこの国では病気になりにくいからと言うのも原因の1つだと思う。

病気になる人がいなければ医術は発達しないのだ。


しかし、フレアさんが風邪を引いて直ぐにルウちゃんも風邪になるだなんて……いや、フレアさんは前日位からかなり体調が悪いのに結構無理して働いてたみたいだけど。

この感染力に38度以上の高熱それに、ルウちゃんが言っていた身体の痛み……


「……まさか!」


私が思い当たった事は今すぐ今の状態を変えなきゃいけないような事。けど、それを確かめるには私1人じゃ駄目だ。


「サリアさん……には話せない、アルトさんに言わなきゃ」


急ごう。もしかしたらミキやテナさんも危なくなる。




     ※




「アルトさん!」


ガラ――ガタンッ!!


「……アルトさん?」

「ごめん、ちょっとびっくりしただけ」


はぁ…だからって突然机の上の物を床に落として、しかもアルトさん自身も椅子に躓くなんて少し変ですよ?何かあったんですか?


「リリアちゃんタイミング悪いね~。てか、なんでお粥なんて持って来てんの?」

「えっ?エルさん?お粥って何が……ってあぁ!?」


しまったぁああーーー!置いてくるの忘れてた!!突然お粥を持った人が勢いよく部屋に入って来るなんてスッゴい変人だよ!いくら急いでいたからってそれは無いよ私!


「こ、これはその…うっかりしていたと言いますか急いでいた訳で……」

「いいから置きなよそれ」

「……はい」


うぅ…これはかなり恥ずかしい。穴があったら入りたい。もうこの際穴じゃなくてもいいからどこかに閉じこもりたい……って違う!違う!私はわざわざここに心を折られに来たんじゃない!アルトさん達に聞かなきゃいけない事があるんですよ!


「あの…アルトさん、エルさん。ルウちゃんとフレアさんの事なんですけど……」

「2人に何かあったの?」

「今2人共風邪引いちゃってるんだっけ?」


アルトさんとエルさんはどうしても考えなきゃいけない仕事があるらしい。けどアルトさんは時々時間を見つけてはルウちゃんやフレアさんの様子を見に来てた。


「その、何かあった訳じゃないんですが……」


本当にもしかしたらの域を出ないのだ。確かな診察方法の無いこの世界では症状でしか確かめようがない。けど、少なくとも私は直感的にそれに思い当たったんだ。


「この世界に流行性感冒りゅうこうせいかんぼう…『インフルエンザ』ってあるんでしょうか?」

「「インフルエンザ?」」




     ※




風邪とインフルエンザは違う。

常識と言えば常識なのだが、どう違うのかと聞かれればそれはもうウィルス自体から既に異なっている。

風邪は誰しも一度はかかっているらしいので具体的な想像はしやすいだろう。

熱が出て、鼻水や腹痛が起きたり、咳やくしゃみが止まらなくなったりする、けれど3日もすれば治るのが風邪。

インフルエンザも風邪と基本的な所は変わらない。しかしその特徴は短期間で膨大な数の人に感染する爆発的な感染力、38度以上の高熱急に起きたり、関節痛や筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状になる事だ。


そう、まさにフレアさんにルウちゃんにと急に広まった感染力。

ルウちゃんの訴えた身体の痛み。

フレアさんの38度以上の高熱。

これらはまさに、インフルエンザの状態だと私は思い当たった。


「俺はそこまで医療に詳しい訳じゃないけどインフルエンザって言う病名は知らないな」

「けどリリアちゃん曰くあれは風邪じゃなくてインフルエンザって病気なんだ?」

「はい、私のいた世界では別段珍しい病気ではありませんが、風邪より危険な病気です。特に…ルウちゃんは……」


いや、確かに今インフルエンザで危険なのは免疫力の低いルウちゃんだけれど、危険なのはそれだけじゃなく場合によっては看病している人に感染し、それがまた別の人に感染すると言う具合に広まって行く事も危険なのだ。

だから今すぐ今のやり方を変えなきゃいけない。


「とにかく、この世界にインフルエンザが知られてないなら今からテナさんやサリアさんに話した方がいいとは思ったんですが……」


この世界で知られていない病気の危機感をどうやったら伝えられるのだろう。それに、私なんかの言葉を信じてくれるかどうか……

私が途中で何を言いかけたのか察したアルトさん達は優しく微笑みながら言った。


「大丈夫。今俺達にしれくれたように説明すればいい」

「それに、あの人達はリリアちゃんの言葉を無下にするような人じゃないと思うよ」


そんな私を勇気づけるような言葉がスッと私の中に入って行った。それだけで満たされた気持ちになる。


「はい!頑張ります!」


そして、私はそう言うとアルトさんとエルさんにお礼を言って2人に背を向ける、もちろん持って来てしまったお粥はちゃんと持って。すると立ち去ろうとした私にアルトさんの声が届く。


「リリア!」

「はい?」

「……リリアも、気をつけなきゃ駄目だよ?」


私を心配して言ってくれたその言葉に心のどこかで嬉しさを感じた私は小さく笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよアルトさん」


私は片手で扉を開くと笑みを浮かべたままアルトさん達の方を振り返る。


「私は、一度も病気になった事がありませんから」




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