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とある青年の助言

俺の嘘の話しを父は少しの質問をしながらも殆ど静かに聞いていた。一度…既にその嘘を聞いた母も何も言わずただ俺とエルをじっと見ていたし。エルはエルで、俺の言葉をひとつひとつ確認しながら聞き、時々おかしくないように言葉を付け足していた。

そして全てを言い終わると……


「……そんな事があったのか」


父はゆっくりと口を開くと張り詰めた空気を断ち切るかのように腕を上にあげて体を伸ばす。それから静かに笑顔を見せた。


「随分と、色んな事があったんだな。大変だったか?」

「少し……」

「うん、そうか」


それだけ言うと父は何もなかったかのように母に紅茶を頼んだ。その姿を見て俺とエルは一度、お互いに顔を見合わせる。すると、俺達のそんな気持ちを察したのか父は真っ直ぐに俺を見ていつもと変わらない声色で言った。


「お前ももう子供じゃないんだ。これは、お前が決めた事なんだろう?」


その質問に俺は黙って首を縦に振った。

父の言う通り、これは俺が決めた事だ。リリアを引き取った事も、この嘘をつく事にした事も……それにリリアを1人にしないと決めたんだ。


「なら、それでいい。頑張りなさい」

「はい」


父も母も、本当に素晴らしい人だと俺は心の底から思った。

おそらく父には……いや、もしかしたら母にも俺達がリリアについて何かを隠していることはバレているかもしれない。それを分かっていてもなお、俺が決めた事だからとそれ以上の詮索をしないでくれているのだから。


「そうだな、敢えて聞くのなら……エルルク君はリリアさんの事どう思ってるんだい?」


父のその質問に俺は驚いたと同時に心の中をかき回す謎の感覚があった。


「何言ってるんですかルーバスさん。あなたも知ってるじゃないですか。俺は、ただ面白い事に興味があるだけですよ。面白いアルト(こいつ)がリリアちゃんとどんな面白い事をしでかすのかと」

「あぁそうだった。君は彼の息子だもんな。ハッハハ、実によく似た親子だ。うんうん、いいことだ」

「ええ。まぁ…リリアちゃん自体も十分、面白いですがね……」


こいつのこの性格には困った物だ。ネリと仲が悪い癖にお互い似てるんだが……いや、違うか。ネリのあれは猫被りみたいな物で、エルのは完全に根っからの物か。


「ほーお、アルトが引き取り君がそこまで面白いと言うのか。一体彼女はどう言う人なんだい?」

「「えっ?」」


父は純粋な気持ちで、それこそただの好奇心だけで聞いたのだろうけれど。その質問には俺もエルも言葉が詰まった。


「おや?彼女が来てから大分経つのだろう?」

「あなた、残念だけどその質問の答えをこの2人聞くのは不可能よ」

「なぜだいテナ?」


するとずっと黙って紅茶を準備していた母はそう言うと、出来上がった紅茶をそっと父に手渡しながら言った。「だって、この子達はリリアちゃんの事を殆ど……いえ、何も知らないもの」

「そうなのか?」

「そうよ。リリアちゃんの好きな事も嫌いな事も、過去も事情も。勿論、私も知らないけれど……」


そう言って母は俺達を静かに見つめた。


「リリアちゃんが言わないからって、聞かなきゃいけない事は沢山あるはずよ」


母の言葉が俺にのしかかるよう響いた。確かに俺はリリアに何も聞いてない。特に、リリアの前の世界での事は触れないようにすらしていた。何より、リリアは一度も元の世界に戻りたいとは言わないのだ。

そんな俺達を見て父は……


「アルト、もしテナの言葉が正しいと思ったならそうすればいいさ。私達は別に怒っている訳じゃない、お前の背中を押しただけだ」

「あなたが間違えたのか勇気が足りなかったのかそれは分からないわ。けど、それなら私達はあなたに少しなら教えるわ、どうすればいいのかをね」


だから頑張りなさい。

と、そう付け足して父と母は温かく微笑んだ。


「だからアルト、私から1つ聞こう。リリアさんの両親は一体どうなっているんだい?」




     ※




バタンと扉が閉じると俺とエルは廊下を歩き出す。歩いている最中俺はさっきの父の言葉を思い返していた。


「リリアの両親か……」


ふと小さくこぼれた俺の言葉を聞いて後ろにいたエルは一度だけ俺の顔を見るといつもと変わらない感じで言った。


「俺はさ、アルト。普通に考えれば、いないと思う。どれだけ考えてもリリアちゃんから両親がいる雰囲気は無いよ」


俺も、エルと同じ考えだった。彼女が両親について何も言わないのもそうだが。何より、リリアが元の世界に帰りたいと言わないのが一番の理由だろう。


「まぁ、さっき言われた通り。聞かなきゃいけない事は聞けばいいじゃん。俺は聞けないから」

「聞けない?」

「それは、お前がする事だと俺は思うんだって。俺が聞いたら意味ないんだよ」


トン…とエルの固く握った拳が優しく俺の背中に当たった。振り向くとエルは笑いながら言った。


「だから、お前は悩まず突き進め。アルト」


俺には、背中を押してくれる人が沢山いるんだと再度思った。だからそんなエルの姿を見て、俺も笑いながら答える。


「あぁ、がんばるよ」


それを聞くとエルは俺の隣りに来て歩きながら小さく呟いた。


「ついでにリリアちゃんの事だけじゃなくて自分の事も分かればいいんだろーけどなぁ……」

「なんの話だ?」

「これだからなぁ……」


……なぜお前は俺を見てため息をつくんだ?




     ※




「リリアお姉ちゃん、どーしたの?」

「ご主人様?」


不意にルウちゃんとシノちゃんに呼ばれてぐるぐるとしていた考えが終わる。

私の隣りにピッタリとくっついているルウちゃんの頭を優しく撫でながら、何でもないよと言って笑って見せた。


ルウちゃんと遊ぶ約束をしたので部屋に向かった私達はたまたま仕事が終わったらしいシノちゃんを誘って3人で先日ミキが持ってきた積み木で遊んでいる。

ミキの持ってきた積み木はかなりの量があって床一面積み木だらけになっていた。


「ご主人様、本当に大丈夫ですか?」

「うん。ちょっと考え事をしてただけだよ」

「リリアお姉ちゃん!次は高いのを作るんですよ!」

「分かった。けどルウちゃん、高いのを作るのなら一旦離れないと」

「嫌です」


嫌って……

なぜか全然私から離れてくれないルウちゃんを見てシノちゃんは「私が手伝います」……とルウちゃんの前に沢山の積み木を持ってきながら言った。


そして、私はまた考え事をした。


(アルトさんばっかりに、嘘をついてもらってちゃ駄目…だよね)


私は、いつかテナさん達に本当の事を話す時が来たら、自分の言葉で言おうと…そう誓った。


「ルウ様?」


シノちゃんがそう言うと私は気が付いた、隣りで私にくっつきながらもシノちゃんと遊んでいたルウちゃんが突然、さっきよりも強く私に抱きついた事に。


「ルウ…ちゃん?」

「……」


ルウちゃんは無言でただひたすら私に抱きついた。なぜだかずっと私に甘えてたルウちゃんを思い返した私はあることに思い当たった。


「ルウちゃん、ちょっとおでこ触るよ」


そうして触れたルウちゃんの額は、凄く熱かった。




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