嵐の前の嵐。
さて、今日はまずアリアナの季節に付いて話さなきゃいけないと思う。
アリアナは水の綺麗な自然の多い国です。具体的に言うと巨大な街のあちこちに森やら川やら湖やらがある訳なんですが……て言うか、そのうち2つが既にフローリア家に存在してるんですけどね。
とにかく、それだけ自然の多いこの国では私があれだけ暑がっていた夏と言うのも地球温暖化だとかオゾンホールだとかの問題も特になく、実は元の世界よりまだ涼しいのです。
しかし、夏が涼しい=冬は寒い。こんな方程式が出来る訳です。
いや、冬は寒いと言うより冬が長く激しいと言うべきか。葉の月にはかなり温度が下がり、私がいた都会とは違い雪の月には雪ががっつり積もる、銀世界が存在するのですが……こんな長い説明で私がなにを言いたいかと言うと。私にとってこの世界で初めての秋になったのはいいのですが、寒くなってきたこの時期にフローリア家では大事件が起こったのです。ですがその前に、まずはあの方の事を話さなければいけないと思う。
※
カチャンと既に洗ったお皿の上に新しく洗ったお皿を重ねる。そしてまた冷たい水の中に手を入れて洗い始める。隣りにいるフレアさんはけして食器に手を触れないようにしながら夕食の下準備をしている。
「リリア様、やはり洗い物ぐらい私がやり――」
「私がいなくても何も割らないと言うのならいいですよ」
「……すみませんでした」
謝ると同時に目をそらしたフレアさん。今日、ミキは等星の魔術師として仕事があるらしくいないし。サリアさんも他のお仕事でいない、必然的にフレアさんを見張れるのは私しかいないのです。
「それに、私はただの居候ですよ?寧ろこれぐらいやらなきゃ駄目な立場なんです!」
そうして私は洗い物に一層気合いを入れる。ふっふふ、私は炊事、洗濯、掃除、家事は一通りこなせるんです!……まぁ、裏を返せば家事以外殆ど役に立たない訳なのですが。
「ですが……!」
「フレアさん、体調悪いんですよね?手伝いは頑張りますからちゃんと休んでください」
フレアさんが、なんでそれを……と言いたそうな目で見つめてきました。いや、顔はほんのり赤いし時々咳をしてるし何より顔色が悪そうです。
「……だからリリア様は女性に……」ボソッ…
「?何か言いましたかフレアさん?」
「いえ…リリア様は凄いです」
「はぁ……そう言えば、シノちゃんはどこに行ったんでしょう?」
※
「エルルク・メアルス様ですか?」
フローリア家のお屋敷にある大きな扉の前でメイド長様がその名前を私に告げました。
メイド長様はこれからお出かけになるようで、メイド服の上に上着を着て、肩に掛かっていた焦げ茶色の髪を奥様のようにまとめ上げています。
「えぇ、これからエルルク様がお見えになります。私もフレアも忙しいので今日はシノ、あなたがご案内してくださいね」
「は、はい!頑張らせていただきます」
いつもお客様の対応や案内はメイド長様とフレアさんのお仕事で、私のような新人でしかも人見知りなメイドが出来る事じゃないです。そんな重大な事を初めて任せられました、ちゃんと出来るかは不安ですが、やる気はバッチリです!
「では、よろしくお願いしますよ?」
「はい。えっと…エルルク様はどのような方ですか?」
「そうですね、あの方は……あの…方は……」
メイド長様がすごく悩み出しました。何と言ううか、言葉を選んでいる感じです。一体、エルルク様とは本当にどのような方なのでしょう?
「明るい方……いえ、一言で言えば…眩しい方です」
「ま、眩しい方ですか……」
わ、私はちゃんとご案内出来るのでしょうか……
「では、行って来ますね」
数分後……
ガチャリ、と扉のドアノブが回される音。
「ひゃぅう!?」
来ました、来られました、来てしまいました。ちゃ、ちゃんとご案内しなくては!
そして、バンッ!!と大きな音と一緒に、いっきに扉が開きました。
「ただいま帰って来ました!」
「はっ、はい!おかぇ……いらっしゃいませ!」
言い間違えそうだったのをなんとか言い直して、私は頭を深く下げてご挨拶をしました。
頭を上げるとそこには、アルト様と同じ綺麗な金髪碧眼で黒いメガネをかけて帽子とコートを着こなした30代か40代の男性が笑顔で片手を大きく振り上げていました。
「ん?君は誰かな?いやいや言わなくていい!私が自分で当ててみせる!
ふむ……思うにテナが雇った新しいメイドちゃんだろう。おぉ!当たりかい?着ているメイド服から予想してみたのだがやはりテナの趣味だったか。大丈夫、大丈夫君にしっかり似合っているよ!
しかし随分珍しい髪飾りを付けているんだね、角みたいだ……えっ?本物の角?ほぉー凄いね、やはり世の中には私の知らない事が沢山あるのだね。だからといって君にどうこう言う気はないから安心してくれ。君のそれは個性だ!大切にしなさい。
しかし新しいメイドちゃんなんて聞いてなかったよ、他にも新しいメイドちゃんはいるのかい?そう君だけなのか。まぁだからどうと言う事はなく――」
「はぅうーーー!?」
眩しいです!眩しすぎてついていけないくらい眩しいです!こ、この方がエルルク様ですか!?確かに明るい感じで眩しい方ですが……よ、よく分かりませんがこの方とお話するのは私にはまだ早そうです……
「えっと…あの、奥様とアルト様でしたら居間にいますので直ぐに客間に……」
「あぁ!そうだったそうだった!早いところテナ達に会わなきゃな。ふむ、客間なんて焦れったいこと言わずに居間に行くよ、いやいや案内は結構!この家の事はよく知っているからね。あぁ!?君が邪魔だとかじゃないんだ!寧ろ君みたいな子に出迎えてもらえて嬉しいくらいだよ。うん、お仕事頑張ってくれ!では、私は居間に向かおうかな、久しぶりに来たんだ早い所行かなきゃな!」
そして、勢いよく走り去って行きました。わ、私…まともにご案内出来ませんでした……
なんと言いますか、もう凄すぎてどうしたらいいのか、本当に嵐のような方でした。あれがエルルク様なのですか、びっくりです。
「やぁ、アルトはいるかな?からかい……仕事の話しに来たんだけど、ついでにリリアちゃんもいると(俺的には)楽し――どうしたの固まって?」
いきなり私が扉が開いたのも気づかないうちに後ろにエル様が現れました。びっくりです!いつの間にいたのでしょうか。
エル様はアルト様と同じ騎士団の方で、先日お客様と一緒にフローリア家にも来られました。エル様も明るく、眩しい方です。お顔が非常に綺麗と言うのもあるのですが、何より楽しい話しを沢山してくるのです。多分…楽しい……
「私はお客様のご案内を……」
「へぇー、今誰か来てるんだ」
「はい、エルルク・メアルス様です」
「……ん?」
私、何かおかしな事言ったでしょうか?エル様がびっくりしたような顔で首を傾げました。
「エルルクって俺だけど?」
「ふぇっ?」
「エルってのはあだ名でさ、俺のフルネームはエルルクなんだけど……」
「じゃ、じゃあ……」
さっきのあの方は、一体誰だったのでしょうか?
※
洗い物も終えて、フレアさんが休んだのを見送った後。テナさんに呼ばれて居間で一緒にお茶を飲んでいると突然――
バァァッン!
「ただいま!びっくりして腰を抜かすなよぉ!俺が帰ってき――ぬぅわぁああ!?」
「いゃあああああああああ!?」
「あら?」
いきなり男性が入って来た!びっくりとか言うレベルじゃない、まず効果音からおかしいですよ!『バンッ』なら勢いよく扉が開いたんだと分かりますが『バァァッン』って完全に扉吹っ飛んでますから!……まぁ、実際には飛ばなかったんだが。
しかし、そんなびっくりと言うよりドッキリ登場をしたその人は叫び声を上げたと同時に腰を抜かして倒れた。あんな事を言っておいて誰よりも先に腰を抜かしてますよ。
ちなみに次に腰を抜かしかけた私はその人が現れると同時にソファーの後ろに速攻非難しました!こんな時だけ足が速い私なんですよ。
「まさか私の知らない所でそんな事が起きていただなんて…そんな……」
そしてその男性はプルプルと震えながら私を指差して叫びだした。
「いつの間にそんな隠し子がぁあ!?」
ほわぁああい!?
誰が隠し子ですって!?はい!場の空気的にどう考えても私ですね!けどこの人、どこをどう勘違いしたらそんな結論に至るんですかぁあ!
すると、ずっと落ち着いてお茶を飲んでいたテナさんが言い放ちました。
「違うわあなた!リリアちゃんはアルトのよ!!」
間違っちゃいないけども!?確かに私を引き取ったのはアルトさんなので通常ならそれは間違っちゃいない、けどこのタイミングだと絶対おかしな方向に勘違いされますからぁ!!
「なっ!孫か!?」
「ちがぁああーーーう!?」
勘違いのレベルが違った!私が想像していた勘違いの遥か上に行きましたよ!なんで私がアルトさんの娘扱いになるんですか!肉体的にも精神的にも現実的にも空想的にもおかしいですからぁああ!!
「じゃあやっぱり隠し子か!くっ……しっかりと話しを聞く覚悟は出来ている!大丈夫だ、私に真実を言ってくれ!どんな内容であれちゃんと聞き遂げて見せる!」
「将来的には娘になるはずよ!」
誰かこの人達を止めてくれ!!




