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とある団長の開始章

机に散らばっている紙を軽くまとめると目の前にいるレイにそれを渡した。


「よろしくな、レイ」

「……これは、副団長の仕事なんじゃない?」

「副団長よりレイの方が速いだろ?」


私がそう言うと何も言わなくなったレイは小さくため息だけついて紙を受け取った。


「団長なんだから、副団長にも頼らなきゃダメだよ、ファイ」


そしてレイは直ぐに団長室から去っていく。私は文句を言ってはいたが、それでもやってくれるレイに心から感謝した。今の事だけじゃない、騎士団に入る事を決めた時も団長になってからも変わらず支えてくれるレイには感謝してもしきれないくらいだ。

そして、私が机の上にある書類を片付けしていると。


「ファイ、じゃな……」

「!」


突然、上の方から声が聞こえた。いきなり声をかけられたら事にも驚いたが、私に全く気づかれないで上にいるその声の主にも驚いた。


「いや、もうあの小さなファイではないのじゃな」

「……君は誰だ?」

「王宮騎士団団長、ファイ・クライアン。お主に会いに来た」


そう言って姿を表したのはまだ幼い1人の少女だった。長い銀髪を細いツインテールにして、真っ黒な可愛らしい服を着ている。だが、私が何よりも目を疑ったのは……その少女があの人と同じ黒猫の異端者であの人と同じ喋り方をしていた事だった。


「名は、『ネリ』と名乗った方がいいかの?」

「君はあの人なのか?兄様の本当に大切な――」




あの日、兄様がいなくなった。

いや、正確には死んでしまったと言うべきだ。まだ10歳だった私を置いて、母様かあさまは泣いてたし父様とうさまも平気なフリをしてたけど影で泣いていたのを知ってる。レイには随分支えられた、励まされた。



けれど私は、兄様がいなくなった事と同じくらい悲しい事があった。

それは、兄様と一緒に兄様が最も愛したあの人もいなくなってしまった、つまり兄様はあの人を守り切れなかった事だった。

幼い頃、兄様と一緒に父様に聞いたクライアン家の志。


「クライアンの剣は何かを守る為にある。歴代の当主達には必ず守るべき大切な人や大切の場所があった。ソラも大切な物をはっきりさせておくんだよ」


父様はその志を幼い頃から私達に、特に兄様に言い聞かせてた。なぜならそれは父様もまた、その志を果たせなかったから。父様は兄様の母親、つまり私の義理の母を若い頃に亡くしている。

父様はそれを自分が守れなかったと悔やんでいたからか兄様にはせめて大切な物を守りきれるようにと人一倍強く育てたし、兄様もそれをやり遂げたいと言っていた。


「俺は、大切な物が多すぎるくらいだからね、本当に大切な物が見つかるまでは騎士団で全部守りきりたいんだよ」


兄様はそう言ってたけど兄様の本当に大切な物はなかなか見つからなかった。だからあの時は嬉しかった、兄様が「好きなが出来た」と言ったあの時が。


私もまだ小さかったし、あの人がいたのはほんの数ヶ月間だけだったから私はあまりあの人の事を知らない。

あの人の事を兄様は『ネリ』と呼んでいたっけ。それがあだ名なのか名前なのかは分からないけど、私に分かるのはただひとつ、あの人もまた兄様の事が大好きだったと言う事だ。

いつもなんだか不機嫌そうで怒っているみたいに見えたけど兄様といる時、ふと優しい顔をしている。そんなあの人の事が兄様は本当に好きだったし大切だった。


だから、兄様とあの人と私、それにレイと4人でいたあの時が私には一番幸せだった。

たとえその幸せがすぐに終わってしまったとしても。



「……君が本当にあの人だと言うのか」

「いや、儂の姿自体は違う、別の人間じゃ。じゃが、魂と記憶と感情だけは確かにネリのままじゃ」


そして私の目の前にいる少女は一瞬あの優しい顔をしたかと思うと直ぐに悲しそうな顔になってしまった。


「本当に聞かせてくれるのか、兄様と君の事を」

「あぁ、あいつの…ソラと儂の最後。たった1人お主だけに語ろう」




     ※




彼女の話しは衝撃的だった。兄様の死の話しも、彼女の正体も。それに私は兄様の死はあの火事によるものだと聞かされていたと言うのに、あの兄様がそんな風にいなくなったなんて信じられなかった。

話しを聞き終えた時の事は省略しておこう。少しばかりみっともない姿を彼女に見られてしまったので。



「君は、あの人なのだな」

「中身はな……」

「どうする気なんだ?これから君はどう生きるんだ?」

「どうもこうもない。ソラが待つと言ったんじゃ、儂はもう立ち止まらずに死を目指すだけじゃ」

「そう…か……」


それは、とても悲しい事だと思った。彼女は今、死ぬ為だけに生きてるだなんて……


「違うぞファイ、儂はたとえ今すぐにこの加護が消えても自殺などはせん」


私の考えていたことを見透かしたようにそう言った彼女はまた少し優しい顔で話した。


「自殺などしたらソラはきっと怒るじゃろうしな、何をされるかわからんわ」


そして少し笑って見せた彼女を見て私は気づいた、彼女は兄様の話しをする時や兄様の事を思った時にその顔をしているのだ。

それだけで確信した、やはりこの少女はあの人なのだ。そして、彼女は今でも兄様が好きなんだ。


「それに死ぬ事だけに生きるのではない、儂にはやらねばならぬ事があるのじゃから」

「やらねばならぬ事?」

「ソラとの約束でな、1つは勿論死ぬ事じゃ。もう1つはこの世界を変える事。ここまではソラがいた時と同じじゃ」


世界を変える事と言うのは先ほど聞いた異端児への迫害問題だろう。彼女が亡くなってから異端児への考えは様々になった。彼女の死を思い受け入れる者、否定する者、拒む者。そして、襲う者。

それを、変えると言うのか……


「さらにもう1つは儂らを殺した奴の正体を暴く事、奴の言った『能力』の秘密も。そして――」


彼女は最後の言葉を言う前に私の事を一度真っ直ぐ見た。前とは違う金色に輝いて見えた目が印象的だ。


「そして、お主を守る事じゃ」

「私…を?」


意味が分からなかった。

なぜ彼女のやらなくてばいけない事に私の事が入っているのだろう。そもそも彼女なぜ私の所に来たんだ?私が兄様の妹だからか?だからって、私にあんな悲しい話しをする必要は彼女にはなかったはずなのに……


「これは、お主が今ソラと同じ王宮騎士団にいる理由と同じじゃ」

「!」


彼女には分かるのか、私が王宮騎士団にしかも兄様と同じ団長と言う立場にいる理由が。私がここにいる理由、それは兄様の守れなかった大切な物を私が守るため。兄様が本当に大切だったあの人はもういないけれど、兄様が彼女を見つけるまでこの立場で守って来た沢山の物を私が守りたいと思ったから。

両親や騎士団の仲間達、この国の人達。こんなにも沢山の物を守るには兄様はこの立場にいる必要があった、だから私もここにいるのだ。


「じゃが、ソラが大切だった物はそれだけではない」

「それが、私だと?」

「お主らは随分仲がよい兄妹じゃったからな。それに、そんなに沢山の物を守っとるお主を誰が守るんじゃ」


彼女の喋り方はまるで私の心を読んでいるかのようだった。

だが、私だって兄様程ではないがこれでも強い方だが……いや、その強さだけではないか。おそらく、そっちの…心の強さなら彼女の方が強いだろう。なら、私は彼女に守ってもらうべきなのか。しかし……


「……分かった。だが1つだけ」

「なんじゃ?」

「当然、君も私の守るべき物になっていると分かっているよな?」

「……確かに、そうなるのか」


彼女は少し焦ったように見えたが直ぐにニヤリと笑みを浮かべて堂々と言い放った。


「いいじゃろう!もとより、ソラの妹であるお主に会いに来た時点でその程度の覚悟は出来ていたわ!」

「あぁ、ならば私も動かねばな」


私は一度団長用の机の所に行き、引き出しから1枚の紙を取り出し、そして彼女に手渡した。本来なら断るつもりだったが彼女に会い、このままではいけないと覚悟は決まった。


「兄様の守りきれなかった物を守るんだ、私は兄様の上を行かなくてはいけないな」

「んあ?……『王宮騎士団上部への昇格の知らせ』ほう…これはまた、随分と面白いのぅ」

「私の後は……そうだな、新しく面白い2人組が入ってたな。速い奴と二刀流の奴が、あいつらがいいだろう」

「レイはどうする気じゃ?」

「連れてくさ、残念だが私にはあいつがいないとどうにもならんようでな。出来れば君の秘密だけでも話してやってほしいのだが……」

「……まぁ、奴ならようじゃろう」


これで決まりだ。私は王宮騎士団の上部で彼女とレイとこの世界を守ってそして変えてみせる。


すると私はもう一度彼女を全体的見てみた。あの時と同じなのは銀の髪に黒猫の特徴だけだ、顔も声も勿論違った。いや、寧ろ変わった所の方が多い。こんな風に笑う人ではなかったと思うのだが……


「あぁ、そう言えば。君は今どこで暮らしているのだ?なんなら家に来るか?」


前の彼女の家は確かあの燃えてしまった廃墟だったはずだ、またそのような所に住んでいるのなら家にいてもらったほうが安心なのだが。


「いや、いい。儂は今両親と共に住んでいるのでな」

「君が…両親と……?」

「儂も変わらねばならないのでな、あの人達には儂の秘密だけは告げてある」

「そうか、君がいいのなら構わないが……しかし、君と呼ぶのでは些か他人行儀だな。君の名前は――」

「あー…いや、それなんじゃがな……」


すると彼女はばつが悪そうに目線を逸らすと一度だけため息を付いてゆっくりと切り出した。


「儂の今の名前、ソラなのじゃよ……」

「なっ――!?……まるで運命みたいな話しだな」

「運命だとはさすがに言わんが……前と同じこの国に生まれ、同じ銀の髪を持ち、ソラの名前を名付けられるなど奇跡のようじゃよ」


そして彼女の真っ直ぐな瞳が私に向けられると彼女は力強く言った。


「これだけ奇跡が重なったんじゃ、あと1つくらい儂の力だけで起こしてみせるわ」


そう言い、笑って見せた彼女を見て思った。

彼女の物語は誰1人幸せにならない話しではない、これは幸せを取り戻す話しなのだと。


「これからよろしくな、ネリ」

「あぁ、儂こそ。よろしくなファイ」




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