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とある子猫の前夜章

何もないボロボロ廃墟に唯一あるボロボロベッドで目覚めた。

あれから数ヶ月たったが、やはりこのベッドは早めにどうにかしたほうがいいことは変わらんな。いくらなんでもボロすぎるか……


「ふぁ…さて、さっさと起きて……にゃあぁ!?」


さっさと起きれんかった。正確には起き上がれんかった。儂の身体に絡みつくように抱きついとるこいつのせいで。


「うぅ…もうちょっと……」

「い、いい加減にせんかぁあああ!!」


じゃが、儂がそう叫んでも儂に絡みついとるソラは一向に離れようとせんかった。いや、むしろさっきよりも引きずり込むような勢いになっとる。さすがにこれ以上こいつの自由にさせる訳にはいかんので肘でおもいっきり攻撃をして、なんとか脱出した。


「毎回毎回儂の寝込みを襲うな!お主今までどれだけ儂に抱きついて来たんじゃ!」


するとソラは儂の言葉に少し考えると小さく数を口にしながら指折り数えて見せた。そしてしばらくすると数え終えたのか、指を3本立てて見せてくる。


「これくらい?」

「……その3は回か?時間か?そして何桁じゃ」


絶対に1の位ではないよな。とすると10の位か?そうじゃよな?そうでないとかなり怖いのじゃが。

……こいつにモラルは無いのか。


「もういいから早よう起きろ。迎えに来た奴が寝てては意味ないじゃろ」

「うん、分かった」

「まったく、また騎士団の奴に何か言われても儂は庇わんからな」


そしてソラが起き、儂の準備が整った所で儂らは廃墟を出発して街へと下りた。

いつもの道のりをソラと並んで歩くのも大分慣れてきた。まぁまだ全てとは言えんが。


「あら、団長さんに黒猫ちゃん。こんにちは、今日も騎士団かい?」

「はい、そうですよ」

「あ、あぁ……」


不意にすれ違った街の者に話しかけられた。最近はよく会う人じゃが……てか、黒猫ちゃん?黒猫ちゃん??


「すまんが黒猫ちゃんはさすがに……」

「あらそーお?おばさんより全然若いけどやっぱりこの国の英雄様にちゃんは駄目だったかしら?」

「可愛いので全然問題ないです!」

「おい!ソラ勝手に――にゃああぁ!?」


勝手に許可したソラに言い返そうとした途端ソラが儂の尻尾を掴んで来た。と言ううか握りよった!電撃が走ったかのような感覚と同時に心臓が飛び跳ねたように早くなる。そして最後に来た謎のくすぐったさに儂は必死に耐えた。

そんな儂を不思議そうに思いながらも先ほどの街の者は去っていってしまった。儂は隣りで儂の尻尾を握った張本人を睨みつけた。


「お主、前に次やったら埋めてやると言ったはずじゃが?」

「ネリに埋められるのなら俺は構わないよ、どんな事も乗り越えてあげる」

「真面目な顔で言うでないわ!」


そんな遣り取りをしながらも儂らは進んで行った。そう、先の展開で分かるように儂は今頭にある黒い耳も今掴まれた尻尾も一切隠すことなくこの異端者への迫害が根強いはずのアリアナの街を歩いとる。なぜならそれは、今の儂には隠す必要がなくなったからじゃった。




     ※




初めて好きになった相手の前で初めて声を上げて泣いた儂をソラが癒やすように抱き締めてくれた後、落ち着いた儂はソラにある決断を告げた。


「ソラ、頼みがある」

「いいよ」

「……まだ何も言っとらんぞ」


儂の言葉をとりあえず承知するでない、どれだけ心酔しとるんじゃ。じゃが、ソラは儂が何を頼みたいのかが分かっとるようじゃった。分かっておるのじゃろうと言うのにソラは楽しむような笑みで聞いてきた。


「じゃあ、なに?」

「……儂を、騎士団に入れてくれんか?」

「……」


儂がこんな事を言い出した理由、それは儂の生きる目的であり、儂のやらなくてはならない事じゃった。


儂がやらなくてはならない事、それは、この世界を変える事。大袈裟に言えばそうなるが、実際はこの世界、特にこのアリアナにある異端者への考えを変えたいと言う事だ。なにより普通の異端者は勿論、儂以外の『精霊の加護』を持ってしまった者を儂はほって置けなかった。


「儂のような奴がこの国を守る立場にいれば周りの人間の考えも少しは変わると思う」


しかし、それまで儂の話しを大人しく聞いとったソラがその言葉聞くと小さくつぶやいた。


「……ネリ、それは君にとって危険な決断でもあると分かってるんだよね?」

「あぁ、覚悟の上じゃ」


そう、ソラの言うようにこれは儂にとっても良い事ではあるが、しかし同時に危険な事でもある。言うなれば諸刃の剣じゃ。

危険な事、それは儂が騎士団に協力する事をよしと思わぬ者の存在の事じゃった。儂のような容姿の奴がそんな事をと、何をされるか分からんが少なくとも平和的に解決出来る事じゃないじゃろう。

じゃが、儂の覚悟はそんな事で諦められる程弱い物ではない。


「大丈夫じゃ、今の儂はこの加護を解きたいと思っとる、簡単にはやられんよ。

それに、騎士団で手掛かりを見つけられるかもしれんしの」

「……分かった」


ソラは確認を終えるとそっと儂の頬に手をそえた。驚きと一緒に高鳴った胸、赤くなった顔を隠すようにうつむき下を向くと儂にかかっとる毛布にソラの涙が落ちていた。


「俺は、ネリを置いていってしまう側の人間だ。けど……俺は君を1人にしたくない」

「お主が泣いてどうする。……じゃが、その涙も、言葉も儂は嬉しい」


そして儂はソラの涙を拭いながら決意した。


ここで終わらせよう。

儂と言う魂の生を。ソラと一緒に……




     ※




「しかしお主らも、よく儂がここにいる事を受け入れたな」

「そりゃあ、確かに団長みたいな人間は騎士団でも珍しいですが……」


騎士団の一室、団長と書かれた机にソラが座りその近くで儂と副団長が資料を見ながら話していた。


「ですが、俺を含めた大勢の団員があの時のあなたと団長の闘いを見てますから。

あんな圧倒的な闘いを見せられたら受け入れたくもなるんですよ」

「……そうか」

「えぇ、ですがなにより……」


そう言うと副団長は団長の席で普通に、当たり前に騎士団の仕事の資料を片づけているソラを見ながら目を輝かせて言い放った。


「あの団長があなたがいるだけで真面目に仕事しますからね!大助かりですよ!」

「……」


あの……か。確かにソラは儂がいないと基本的に何もしないらしい。それでよく団長になれたな。

それから儂らの終わった資料を副団長はまとめると一礼して部屋から出て行った。


「儂は、お主の部下として随分噂が広がったようじゃな」


騎士団内だけではない、この広いアリアナの街にまで噂は広まっている。おかげで今では大分儂らのような者への考えも改められつつある。

しかし突然、それまで珍しく黙って黙々と仕事をしとったソラが口を開いた。


「恋人」

「はっ?」

「おかしいな~、ネリは俺の部下じゃなかったはずだけど」


……マズい、このソラは怒っとるソラじゃ。端から見たら分からんが、これは気に食わん事があった時の怒り方じゃ。


「あ、ああ…確かに言い方が違ったかもしれんが――」

「恋人」

「……いや、じゃからと言ってなそう言う事じゃぁ――」

「はい、じゅーきゅーはーち……」


突然ソラがカウントダウンしだしたと思ったらソラの顔が目の前まで近づいてきた。しかもカウントダウンが進むにつれさらに近づいて来とる。これは、これはあの、いつものパターンじゃ。


「なーな、ろーく……」

「ああああぁ!!分かった分かった!恋人じゃ!儂はソラの恋人じゃ!」

「……ちっ」


舌打ち!?こ、こいつぶっちゃけどちらでも良かったのじゃろう!儂が言っても言わずともそれをされたらどのみち儂が最後に折れるのは目に見えとるからの!寧ろ儂が言えずにあわよくばそのまま進める気じゃったんじゃな!


「はぁあ、あの誰にもとらわれぬ自由な儂はどこに行ったんじゃか」

「じゃあ、首輪でもしとく?」

「どこから出したその首輪!?」


不気味を通り越して恐ろしいわ!何を考えるとるんじゃお主!しないからな!断じて儂はしないからな!!


「か、帰る!儂はもう帰るからな!」

「じゃあ俺もネリと一緒に帰る」

「ならその首輪を今すぐしまええぇ!」




     ※




ぐったりしながら帰路を歩き、やっといつもの廃墟についた。長かった、ひたすら長く感じた。

帰る途中儂の手を全く離さんソラに、なんか知らんが突然集まって来た女子衆おなごしゅがソラといる儂を見て「抜け駆け!この泥棒猫!」とか言って走り去って行ったり。抜け駆けってなんじゃ、確かに儂は猫じゃが泥棒ではないぞ?何じゃったんじゃあれは?


「おいソラさっきのは一体……」

「さぁ?女の子の嫉妬は俺には分かんない」

「なんじゃ、嫉妬って……?」


辺りも大分暗くなって来た。これだけ日も沈むとこの廃墟には殆ど光が入らず真っ暗になる。


「ねぇネリ、いつになったら家で暮らすの?」

「……ずっとこの廃墟にいたからのぉ。なによりお前の家は広すぎて落ち着かんのじゃ」

「えー、俺もファイもネリと一緒がいいのに」


あれからファイことこいつの妹には何度か会った。儂の知らん所でかなり儂になついとるらしい。そんなファイをソラは随分可愛がっとった。


「お主らは仲がいいと言うかなんと言ううか……」


あれか、精神年齢が近いのか。この兄妹顔は全く似とらんが髪と目、それに性格は本当にそっくりじゃし。


「じゃがまぁ、大切なんじゃろうなお互いに」

「俺には大切な物が多すぎるけどね」


そう言って笑ったソラは儂には幼いようで強いようで、なんとも不思議に見えた。


けれどその時、ソラの目には闇夜を切り裂くような白刃の輝きが儂に向けて振り上げられていたその瞬間を映していた。


「――っ!?ネリ!」


突然叫んだソラは儂の腕を掴むとそのままおもいっきり自分の方に儂の体を引き寄せた。

そして、それと同時に儂の地面につきそうなくらい長かった銀の髪が半分程バッサリと斬られた。今、ソラが儂を引っ張らなければその刃は確実に儂の体を斬りつけとったじゃろう。


「――なっ!」

「あっれぇ~?かわされちゃったぁ?」


その声はふざけるような、からかうような声で聞こえたその先を見ると暗い闇からゆっくりとそれは近づいてきた。


「まぁ、いいや。悪いんだけどそこのお2人さん……」


持っている本人よりも長さのある不気味な鎌。そんな物を構えながら現れたのは小麦色の肌をした異端者の女だった。


「私に、なぶり殺されてくんない?」




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