とある子猫の序章
ネリの過去編です、ネリ視点でお楽しみください。
始めは、ただの子供だった。
普通に生まれ、普通に育てられ、普通に生きていた。
どこにでもいるような普通の子供だったはずだ……なのに。
ある日、私の前に現れた1人の男性。彼はキラリと光る刃を持っておかしな笑みとおかしな色の髪を私に見せながら……私を、その刃で…殺した。
※
気づいた時、私は真っ白な空間にいた。まるで何もなかったようにその場に立っていて不思議に辺りを見回す、壁は無いけど上に空だけはあった。
自分に何が起きたのか分からないまま自分の両手を見つめる。あの刃で身体を切り刻まれ、刺され、血にまみれたはずの私の両手は今ではもう綺麗なものだった。
「なんと哀れで悲しい人間よ……」
「誰?」
その声に気づいた時、私の目の前には先程まではその場にいなかった1人の女性が立っていた。長い長い髪で、その腕には真っ黒な猫を一匹抱えて。
「まだ幼いながらこのような死になるとは、可哀相なものだ」
「死……」
その言葉を聞いてまた私は自分の身体に目を向ける。今はこんなに何もなかったかのようだけど、やっぱり私は死んだのだと改めて思わされる。
「やはり悲しいか?辛かっただろう?」
「いえ…特には……」
本当に自分でも驚く程何も感じてはいなかった。憎しみも恐怖も……おそらく、死んだという実感があまりないからだろう。
「そうか、だがこれを見てみろ」
その女性は片手を宙で軽く振るとそこには何かを映し出した窓のようなものが現れた。
「っ!?」
そこに映し出されたそれは、たくさんの人が死に、倒れ、燃えていく様子だった。
なぜこんなものを見せられたのかは分からなかったが、その光景を見てまだ幼い自分の中にある知識で思い浮かんだ事は『戦争』の2文字だった。
そして、しばらくそれを見つめ続けた私は気づいてしまった。
「これ…まさか私の街じゃ……」
今、あそこで燃えているのは私が遊んだ森。崩されていくあの場所は私の通った学舎。
そして、あの家で殺されているのは……私の両親。
「これは、お前があの日死んだ後の世界だ」
「嘘……」
「嘘ではない、悲しいだろうがこれは真実だ」
「……なんで、何でこんなことに!!」
そう叫んだぶと私が死んだ事など今の私にはどうでもよくなった。そんな事より、なぜ私が死んだ後にこんなにも沢山のものが果てなければいけないのか?なんで、私はあの場にいて少しでも両親の傍にいられなかったのか?
そんな今更意味もないような後悔が私を襲う中、彼女は私の叫びながらの質問に静かに答えた。
「それは、お前が死んだからだ」
「……――えっ?」
私の中の謎がさらに深く絡まったような感覚になる。
今、私の目の前で私の街が……いや、もしかしたらこの戦争は私の国まで広がっているかもしれない、それぐらい激しい戦いなんだ。なのに、なぜそんな戦いが私が死んだ事で起きるのか……私は普通の子供なのに。
私の疑問を感じたのか黒猫を抱えた女性は私に説明し始めた。
「お前を殺したあの男はお前の国とは不仲だった国の兵だったんだ。
あいつは普通とは違う髪でな。みなから蔑まれ気が滅入っていたのだが、普通のお前を見た時何があいつの中で起きたのか……気づいたらお前を殺してしまったらしい」
「……」
「不仲だった両国はそんな事件を見逃さなかった。火種は大きくなり、やがてこんなに多くのものを燃えつくしたのさ」
私は、普通の子供だったから殺されたの?私が殺されたから沢山の人が死んだの?
普通と違う髪の男性、みんなに蔑まれて辛くて…でも、だからって私を殺すなんて、私の場所を壊すなんて……だって、これじゃあまるで悲劇だ。
あまりの事に声も出せずにその場に崩れ落ちた私に彼女は本気で私を哀れむような表情で私に近づいた。
「そうだこれはあまりにも酷い悲劇だ。お前は既に死にたえ魂になった今、自分が悲劇だと知ったのだから。私は、悲劇は嫌いだ」
「魂……」
そうか、この真っ白な空間で血にまみれたはずの私の体が綺麗なのは私が既に魂だけだったからなのか。この魂だけの今の体は、もうあの地を歩く事は出来ない、誰かに触れる事も心の音を響せる事も出来ない。
私は本当に、死んだんだ……
「お前を生き返らせれると言ったら?」
「……生き返れる?」
「あぁ、正しくはお前の魂を生き返らせれる。さすがに、もう壊れたあの体には戻れない」
生き返れる。また沢山の事が出来る、まだやれなかった事も、見られなかった物も。こんな悲劇まま天に帰らなくていい、幸せに生きられる。
そう考えた時には私は彼女の差し出す手を無意識のうちに掴んでいた。本当に何も考えずに、ただもう一度私の人生をやり直す為に。
それから、私は彼女の話しを聞き。『精霊の加護』についていくつかの説明を受けた、他にどんな加護があるのかやどんな精霊がいるのか。
彼女の名はウルスラ、黒猫の加護を与える精霊。そして私を生き返らせてくれる精霊。
けど、今思えば彼女は私に与える加護を生き返られるものしか伝えてくれなかった。
その加護の本当の意味も、その重い代償も……
※
あれから数年、生まれ変わった今の私の意識と記憶がはっきりとしてきた頃。
私は前とは全く違う声、容姿、暮らし、新しく生まれ変わったと実感した。生まれ変る前の記憶はしっかりと残っていて、自分に何が起きたのかも今がどうなっているのかも3歳の時には理解した。
私の今住んでいる国は前の国とは違うけれど私としてはそちらの方が嬉しい。もう、あんな悲劇とは違う新しい自分で新しい今を生きていける。
ただこの時1つだけ辛かったのは今の両親の事だった。暮らしや態度になにか問題がある訳じゃない、ただどうしても前の両親と重なってしまう事はやはり辛かったのだ。
けど、きっとこの気持ちもいつか辛くなくなる日が来る。今を幸せに生きられるはずだ。
……そんな夢物語は数年後にことごとく壊される。
そして私は、私に与えられたものが加護でもなんでもなく、ただの呪いでしかないんだと気づいてしまった。
私に起きたある変化、それはある日突然起きた。
私が自分の事を理解し始めた3歳の時から数年たった頃。私の頭には真っ黒なものが『生えてきた』。
「なに…これ……」
初めはあまり気にしなかった。そのうちなくなるはずだと、けれどもうそんな事言っていられなくなった。
だってこれはあの時見た黒猫と同じ、猫と言う獣。その一部。
「…――猫の…耳」
それから直ぐだ、今の両親に捨てられたのは。「気味が悪い」「おかしい」「異端の子」だと散々言われ蔑すんだ後に私を捨てた。
気づけば私の耳は大きくなり、尻尾が生え、目も猫のように変わってしまった。私は『異端者』になったんだ。
「なんで…私をこんな風に……」
雪が降り積もる寒い夜、私は誰もいない知らない場所で1人星の散りばめられたら空に向かって叫んだ。
「なんで!どうしてよ!ウルスラ!!」
一晩中叫び続け、頬を伝う涙がいつの間にか凍りついた頃。
私は冷たい雪の中でまた死んだ。
※
「――っ!?」
私の悲劇はたかだか2回死んだだけでは終わりはしなかった。
「そんな……」
私はまた全く違う声、容姿、暮らしそして両親の下に生まれ変わってしまった。
私の悲劇は終わりはしない。そう何百、何千、何万と言う程の生き死にを繰り返しても全ての記憶を一切忘れる事も出来ず、本当にただただこの魂は生き続ける。
私は永遠に死なない魂を与えられたのだ。




