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もう一匹の強がり。

「この鴉のマークは正式な教会の物じゃないな、そもそも精霊を崇めているかも怪しいし」


ネリさんが教会の話しには全く興味が無く、どうでもよさそうだったのでネリさんの代わりに教会や色んな事件に詳しいファイさんが一緒に考えながら話しに加わってくれてます。


「鴉がシンボルのマークが無い訳じゃない、6つの正規教会は鴉のマークを使っているし、黒ずくめの修道士がいるのは12程ある」

「……あれ?ちょっと待ってください、まさかファイさん正規教会のマークとか全部覚えてるんですか?」


数が正確過ぎやしませんか?確かに王宮騎士団上部の長官さんなら全正規教会のマークや修道士の情報を知っていてもおかしくはありませんが、知っているのと覚えているのでは意味合いが大きい違いますよ?


「そんな全て覚えている程の事ではない」

「あっ、そうなんですか」

「あぁ、ただ正規教会の名、シンボル、崇拝している精霊、大司教の名、崇拝者の数、その教会から動くお金の額をたまたま全て覚えているだけだ」


覚えてるじゃないですか!?

お金の額!?それは覚える必要があるんですか!たまたまって言いませんよねそれ!

あぁそうでした、最近忘れてましたけどファイさんは超完璧な長官さんなんでした。よくよく考えればそれぐらい覚えていてもおかしく…ない、のか?


けど、私が聞いた話しでは教会はアリアナだけでも約百種類以上あります。とは言っても国に認められた正規教会なら崇めているのは全部精霊様なのだが、正式に認められてない教会も勿論ある。

その数はさすがに把握出来ていないけど……正規教会だけでも百なんて数あるんですよ?そんな数を全て覚えているのはやっぱりおかしいですよね?


「とにかく、鴉のマークはなくはないのだが……問題はこの星のような物の方だ」


ファイさんはシノちゃんとそのマークを視たネリさんの2人で書いた鴉のマークが書かれた紙の中心をトントンと指差した。

このマークは鴉が両羽を広げて円になるように中心の星や十字架みたいなマークを囲んでいるような形だ。


「この中心の星などは王宮や正規教会などのシンボルをもじったものだ。しかしこれでは鴉が星を支配する形になってしまう」

「こっちに喧嘩売ってるようにしか見えない訳だ」

「確かに、正規教会ではありえないな」


ファイさんの言葉にエルさんとアルトさんが納得したように言葉を返した。

王宮と正規教会を囲い込む鴉……これは、少なからず私達は関わる事になっていたかもしれない。


「まぁ、どうであれそいつらは「シノのような子供なら止めればいいのに」と言っていたんだろ?ならこれから先シノが狙われる確率は低いだろう」

「そう、ですか……」


シノちゃんはそう聞いて安心したのか、少し微笑んで私を見上げた。私はそんなシノちゃんの頭をなでなでと撫でてあげる。シノちゃんの白い髪はスルスルと私の手を通して行く、柔らかくて気持ちいいのでしばらく撫でていた。

ファイさんとネリさんがじーっと見つめいた気もしなくはなかったけど、とりあえずスルーしました。


「にゃるほど、そういうことじゃったのか、あいつの最近の不機嫌は」

「何がだ?ネリ」

「ファイ、お主には分からん話しじゃよ」




     ※




ネリさん達はもう話す事はないと言う雰囲気だったのでみんなさっさと客間から出た。

けれどそんな中、私はさっきのネリさんの話しを聞いて気になっていた事があった。


ネリさんの……彼女の『精霊の加護』は一体なんなんだろう……

今、私の隣りでエルさんやファイさん達とふざけて笑いあっているネリさんも『精霊の加護』による何らかの力があるはず。けどネリさんはさっきの話し合いで自分の力に付いては何一つ語らなかった……


私はもう一度隣りにいるネリさんを見つめた。

精霊の事やシノちゃんの力について話していたあの時のような真剣…と言うより、張り詰めたような感じではなく、何もなかったかのように笑っている。私にはその笑顔が、もう語る事は無い……とそう言っているように見えた。


誰にだって、話したくない事や話せば辛くなる事もある……か。


「じゃーかーらエル!儂のスルメをさっきの一瞬で奪ったのはお主じゃな!」

「だから違う!だいたい俺はスルメなんかいらないだろ!」

「お主今『なんか』などと言ったか!?言ったよな!」

「落ち着けネリ……奪ったのはアルトだ」

「えっ!…長官!?」


……私が1人考えにふけっている間になんかかなりぶっ飛んだ話しが繰り広げられてませんか?私が今更話しに入れる雰囲気じゃないですよ?まぁ、入りたいとは思いませんが。


「アルトお主しか!儂を裏切ったな!」

「犯人じゃ無い上お前と裏切るような何かを結んだ覚えもないぞ……」

「そんな細かい事はどうでもいいんじゃ!スルメの恨みは恐ろしいからのぉお!」

「奪ったのはアルトだ……と言いたそうな雰囲気だが違う。さっきお前が知らず知らずの内に食べてたからな」

「ファイさん、話す順番がかなりおかしいですよ……」


その前置き必要ですか?とこの話しに軽くツッコミだけを入れてまとめた。私のシリアスな感じの空気を完全に砕ききった会話でしたからね……。


そしてそんな会話を続けて玄関前まで来るとさっきわかれたミキと出会った。

手に綺麗な花束の入った花瓶を持っていた所を見るとおそらく仕事中……なのかな?うん、ミキが仕事をしている所を見たことが無いからね、分かりませんね。


「あ、師匠達お帰りですか?」


ミキはネリさんに久しぶりに会ったあの時とは違って怯えた様子もなく笑顔で普通に話しかけてきた。ネリさんをみた瞬間少しビクッ!となった事は見なかった事にしよう、これもミキのプライドって物だろうし。


「あぁ……っと。忘れてた。ミキ・メアレス、お前は確か等星だったな」

「えぇ」


ファイさんがミキに凛とした表情で質問した。


「今月はまだ王宮へ行ってないんだよな?もう日にちも少なければ王宮でのイベントも少ないぞ?」

「あー……」


ミキは等星。等星の人達は確か月に一度は必ず王宮へ顔を出しに行かなきゃ行けないらしい。とは言ってもこの世界は1ヶ月が60日だから用は一年に最低6回行けばいいだけなんだよな。それにここは王宮は遠くないから別にそこまで大変と言う訳ではないけど……ミキの場合、この月に一度王宮へ行くと言う等星決まりがフレアさんと離れる時間が増えるからと等星を断ったいた理由だからかなり乗り気じゃないらしいけど。


「まぁ、まだ数日ある。早めに済ませてしまえ」

「はい」

「にゃあ、お主は本当に変わらんのぉ」


ネリさんはくすくすと笑いながらミキの前に立った。

ネリさんが師匠だと言うミキは細かい事はよく分からないけどだいぶネリさんが苦手…と言ううかあんまり師匠と弟子のような関係には見えない。


「師匠も変わらないですよね?身長」

「たかだか15歳のお主には言われとうないわ」


話しは、だいぶ合うみたいだけど……

あとミキ、それは言っちゃ駄目だよ。私には分かる、それは皮肉だろうと言われたらかなり傷付くんだよ。少なくとも私は。

しかし、ネリさんの見た目からしてもミキのような15歳の人を「たかだか」と言うのはおかしいような?ネリさんの年齢は聞いた事は無いけど私達と同じ……いやそれ以下にも見える程だよね。

ただの言葉のあやなのか?


「だいたいの、誰のお陰であの本が作れたと思っとるのじゃ」

「あの本って……memoryメモリーの事ですか?」

「あぁ、あれ程の本はこやつ1人で作れるような物ではないじゃろう?」


そう聞かれても私にはmemoryは凄い本と言う事くらいしか理解は出来ないからなぁ……私は魔術や魔術師に付いては学んでないし。

けれど、ネリさんの魔術は人の心を読んだり視たりする魔術。ならネリさんがミキと2人でmemoryを作ったと言われても納得出来る。


「のうミキ?」

「いや、本当すみませんでしたから……」


ミキも分が悪かったのか、直ぐにネリさんに謝罪した。

こういう折れるところが早いのもエルさんに似ている気がする。

私の視線は無意識にエルさんの方に行ったけどエルさんは気づく様子はなく、ミキとしばらく見比べていると、似てるな、と一言で確信した。


「さぁ私達は帰るとするかネリ」

「そうじゃな……ではの、お主ら。あとシープ、シノも頑張れよ」

「はい」


ネリさんはシノちゃんの頭にぽんと軽く手を乗せると直ぐに下ろして、ファイさんと共に帰って行った。




     ※




馬車の中には2人の人物が向かい合わせに座っていた。

1人の女性と1匹の猫が。


「大丈夫か?ネリ」

「あぁ?何の事じゃ?」


1人の女性、ファイさんは頬杖をつきながらネリさんを心配そうに見つめている。

そして、猫と言われたネリさんは呆れた表情でファイさんに言った。


「……さっきも似たような事を言っとったよな?儂が精霊の話しをしようとした時も」

「今更強がる事も無いだろう?ここには私とお前しかいないのだから」


しばらく2人の間に深い沈黙が訪れる。

けれど先にそれを断ち切ったのはネリさん。彼女はため息を付くと何かを諦めたように話しを再開させた。


「確かに……ちと辛くはあったの。あいつを…思い出した」

「……」

「なぁファイ。あいつ、エルに少し似とらんか?」

「エルにか?」


ファイさんは考え込むような態度をとると顎に手を当てながら呟いた。


「目が少し似てなくはないが……」

「儂がエルを嫌いなのはそのせいかの」

「さぁな、私には分からんよ。だが嫌いと言う程ではないんじゃないか?」


そうか……と一言だけ言うとまた2人ね間には静かな雰囲気がただよう。

今度はファイさんが先に喋り出した。


「ネリ、お前の力。彼らに話さなくてよかったのだよな?」

「……儂の昔話など、語った所で誰も幸せにはならんからな」


それは、その昔話は、誰一人幸せにはならない話。

永遠の猫と一時の青年の、幸せになれなかった話。





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