二人の正体。
アルトさんとネリさんのに後に付いて行き、奥の客間まで来るとアルトさんはフレアさんとミキさんに人払いをするように言って部屋に入った。
部屋の中には私とシノちゃん、アルトさんにネリさん、そしてファイさんの5人が向かい合わせに座りしばらく待つ。
「チッ、まだ来んのか。なにやっとるんじゃエルは」
「ネリさん、舌打ちはさすがに駄目ですよ」
そう、私達が待っているのはエルさん。
なんでもファイさんがアルトさんとエルさんを連れてこようとした時、団長と副団長がなにも無しににいなくなる訳にも行かないそうでエルさんはそう言うことを済ませてから来そうなのですが……
「無視して進めてよいか?」
「エルにも今回の事件に付いて話してあるからな、無視は出来ない」
アルトさんがそう言うとそれを聞いていたネリさんはいつも持ち歩いている袋からスルメを取り出すと口に加えながらズバッと言った。
「別によいじゃろあやつぐらい」
「言い切った!?」
「ははっ、ネリは相変わらずエルが嫌いだな」
いやいや、そんな笑って言うような事じゃないですよ、嫌いってレベルの話しじゃないですよ。
ぐらいなんて言っちゃいましたよ今。エルさんが嫌いとか言うよりエルさんを完全に下に見てますよ。
「あぁ、確かに嫌いじゃ。どれぐらい嫌いかと言えば、いつかあやつのヤバい情報をばらまいて社会的に殺ってやりたいくらい嫌いじゃな」
「本人がいないからって言いたい放題言ってくれたなお前……」
部屋の扉側から出てきたエルさんがネリさんの持っていた袋を取り上げるとさっきの言葉に対して文句を言っている。
またそんなドッキリ登場ですかエルさん、何回するんですかその登場。
けどネリさんはエルさんに取り上げられた袋をバッと尻尾を動かして取り返す。てか、そんな事も出来たんですかその尻尾……
「なんじゃ、お主がいた事など分かっとったわ。それをふまえて言い切っとるんじゃからの」
「てめっ……」
「いいから席に着けエル、始めるぞ」
アルトさんにそう言われたエルさんはしぶしぶ椅子に座りました。
そしてネリさんは奪い返した袋をしまうと悩んだような表情で椅子の肘掛けに頬杖を付いた。
「さて、何から話したものかのー……」
「ネリ、お前の話せる所からでいいからな」
「なんじゃ、気でも使っとるのか?ファイ」
ここに来てから少しムスッとしていたネリさんがファイさんの言葉でいつものようにニヤニヤと怪しく笑い、頬杖を付くのを止めて話しをし始めた。
「『精霊の加護』、その理から話すべきじゃな」
「『精霊の加護』……」
私の隣りにいるシノちゃんが少し不思議そうにネリさんの言葉を確認した。
ネリさんは一度首を軽く縦に振るとまた話し始める。
「おそらく、この場でそれを知っているのは儂とファイだけじゃろう。『精霊の加護』とはその言葉のままの意味じゃ、『精霊』が儂らに与えた『加護』」
そしてネリさんはある精霊達の物語を語った。
※
「とある精霊の姉妹達は儂らの世界に干渉する役目を持っとった。
彼女らは儂らの世界に干渉する事によって人間とはなんと哀れな生き物じゃと思ったそうじゃ。
弱くて脆くて愚かで、なんと悲しく…そしてなんと直ぐに死んでしまう生き物じゃなと。
じゃから姉妹の精霊達は儂ら人間からそれぞれの大切にしとる動物を模した『加護』を与えたんじゃ。
全くもっておせっかいなものじゃよな、儂らはそんな風に生きとるとは思っとらんのに。皆、弱かろうが何じゃろうが……少なくとも儂は、楽しくいきとったんじゃがな……。
じゃが、『精霊の加護』を与えられた物はその与えた精霊それぞれが儂ら人間の為に願った『能力』と、この動物の特徴を手に入れるんじゃ。
そうこれが、『精霊の加護』とその理じゃ」
※
ネリさんの話しはあまりに突飛で奇抜な話しで、正直なにもいえないでいた。
「そしてシノ、お主のその加護はおそらく……いや、確実に『シープ』じゃな」
「羊……?」
「そうじゃ、それがシノの正体じゃ」
「シープの加護を与える精霊の名は確かストレラと言ったかのぉ?」
シノちゃんはずっと私の隣りで手を震わせながらネリさんの話しを聞いている。
それもそのはずだ、今まで全く分からなかった自分の正体が今、やっと分かったんだから。それにそれがあの精霊に関わる事だったんだから。
「あの……ネリ…さん。私の能力って一体なんですか?」
「……ストレラが与える羊、シープの加護。それは『羊の歩み』じゃ」
羊の歩みとは私が知っている限りでは確か、羊が屠畜場に連れて行かれる様子から死が近づいてくる時に使われる言葉だったはず。
私がそう考えているとネリさんは私のその考えを読んだのか分からないが羊の歩みと言う能力に付いて説明を始めた。
「羊の歩みとは己自身やその周りの者に近づいてくる死や危険を読み取る力じゃ。まぁ、羊の歩みと言う名は儂が勝手につけたんじゃがな」
「死…私と誰かの……」
「お主にも、思い当たる節があるじゃろう?」
シノちゃんが自身や誰かの死や危険を読み取った事。
ある、少なくとも私には一つシノちゃんがそんなような事をして見せたのが。それは、この間の廃墟での事件の時。私が壊れた……壊した階段の床から落ちてしまったあの時、シノちゃんはまるで私が落ちる事が分かっていたかのように言っていた。
あれが、羊の歩み……
「はい、あります。時々なんだか嫌な感じがして心の中で駄目だって言っているような風になるんです……」
「それがお主の能力、力、与えられた加護じゃ。それをお主がどう思うかは別じゃが儂ら精霊の加護を持った者は少なからずその身体に普通とは違う特徴を持ってしまうからの」
ネリさんには黒い猫の耳と尻尾が。シノちゃんには白い髪に赤い目、そして羊の角。
これを受け入れられる人は一体どれぐらいいるのだろう?分からない、分からないけどきっとシノちゃんやネリさん本人だって受け入れたかった事じゃない。
ネリさんのあの言い方は精霊の加護を有り難い物ではなく、自分にのしかかる重みのような物だと考えた言い方のように聞こえるのだから。
「あれ?ネリさんはどうしてそんなに詳しく知っているんですか?」
「……あぁ、確かにおかしいじゃろうな。普通の人間とて自分の事をこれほどまで知り、理解してしまった者は少ないじゃろうしの」
椅子の背もたれに背をつけて天井を見つめながらネリさんは私が聞いた事のあるあの言葉を呟いた。
「『精霊様に出会うと幸せになれる』…あれは儂にはとったら大嘘じゃな」
「――!ネリさん、それはつまり!」
「そうじゃ、儂は一度精霊に会った事があるのじゃ」
精霊様召喚の儀式。人々はそんな事をするほどその伝説を信じてる。けどその儀式は成功なんかしない、精々空から落ちてくる1人の人間を連れてくるくらいの事。
でも、伝説が出来るにはそれだけの出来事があるとは思ってはいた……いたけど、まさかネリさんが……
「儂は一度精霊に会い精霊の加護の事を教えられた。じゃから儂はシープの能力も知っとったんじゃ」
「それは…いつのことだ?」
「アルト、それをお主が知る必要は無い。儂は精霊に会った、その情報だけでもお主達にはもったいないわ」
ぴしゃりとアルトさんの言葉を断ち切るとアルトさんはネリさんが精霊様に会った話しを聞くのは諦めた、しかしアルトさんは新たにもう一つ、私達が知りたかった情報をネリさんに聞く。
「ではネリ、なぜシノはあの黒ずくめの教会の奴らに狙われたんだ?」
「んなもん儂が知るわけないじゃろうが、自分で考えろ」
……さっきまでの雰囲気とは異なり、私達の周り(ネリさんを除く)に無言という状況が訪れた。




