突然の敵。
「こちらに攻撃の意志はありません。ただそちらの男性を引き渡していただければあなた達に危害を加えることなく立ち去らせていただきます」
どこからともなく現れたその女性はショートカットの頭に真っ黒な格好の中で唯一の白色で出来た丸い帽子を後ろの方で軽く被って、無表情のままただ坦々と私達に話しかけていった。
隣りの凄く大きな男性の顔はよく見えなかった。身長の低ぃ…………身長がそこそこの私が見上げて見ても仮面のような物を付けているので見えない。(決して高くて見えないわけじゃない)
すると隣りにいるアルトさんがその2人を睨みながらはっきりと言った。
「断る。こいつらはこれから少し、牢屋で話しを聞く必要があるからな」
「でしたら、なおさら無理矢理にでも回収しなければなりません。王宮騎士団団長、アルト・フローリア殿」
アルトさんの事を知っている?でも王宮騎士団団長のアルトさんなら知られていてもおかしくはないか。
そして女性はいきなり切りかかって来るかと思ったけど、私達をじっくりと観察するように見つめるだけだった本当に攻撃すり気はないらしい。
今こんな状況で二階にいるアードさんとシノちゃんはどうなっているんだろう……今襲って来たのがこの2人だけだといいんだけど。アードさんはまだしもシノちゃんはこの人達がさっきの男の仲間だとしたらかなり危ない、だからできればこのまま二階では何も起きないでいてほしい。
そして、その女性がじっくり私達を観察しているとそれまで一度喋っていなかった仮面の男性が静かに低い声で女性に話しかけた。
「藍…いつもみたいに殺せばいいのに……」
いつも…みたいに……。
たった一言、『殺す』という言葉に私の体が震え出したのがよくわかった。恐怖が私の中でどんどん大きくなっていく。
「駄目ですよ紫、今の時期に騎士団に手を出すわけにはいきませんので傷つけるなとのご命令です」
「めいれいなら…仕方ない……」
藍や紫と呼び合っているけど多分本当の名前じゃない、偽名か何かだと思う。とりあえず、今の所は殺されはしないと思って大丈夫か……?
「それに、そちらの団長殿は殺すのには時間がかかり過ぎます。下手に焦ればこちらがやられる可能性もありますし。フードの方はよく分かりませんが……」
フードとは私の事か、騎士団の制服どころか顔も見せていない今の格好は、一体ラッキーなのかどうなのか。とにかく、あの2人は本当に無理矢理にでもあの4人を連れて行く気らしい。
「紫、あなたは男性4人の回収を、私が団長殿のお相手をいたしますので、フードは…まぁ好きにして下さい。4人なら持てますよね?」
「分かった…殺していい…?」
……あれ?なんかヤバげな発言が…まさかこの展開はアンラッキーっぽい?
「殺すのは駄目です、そちらの2人が深い関係なら色々面倒な事になりかねません。まぁ、殺さない程度にお願いします」
殺さない程度にか、とりあえずそこまでヤバい事にはならなさそうかな?この女性は私の事を騎士団のメンバーではないと認識したらしい。
けど、アルトさんいわくこの男性4人を連れて行かれるのは困る。殺されない事が分かっているなら……まぁ、多少無理や怪我くらいなら大丈夫だよね。どうにかなるよね?
「……難しそう」
「では、二度と動けなくなるく程度に暴行しておいてください」
のぉおおおおおおお!!!?
どうにかなるどころの話しじゃなかった!確かに殺されるよりは全然ましだけどさっき言った言葉に二度とって単語が入ってますよ!動けなくなる程度と二度と動けなくなる程度じゃ天と地程の差がありますから!
「傷つけれないんじゃなかったのか?」
「はい。ですのであなたに怪我を与えなければよいのですよ」
「……なるほど」
アルトさんもこの人が私を騎士団メンバーではないと認識した事に気づいているようだ。
「どうしてお前達がこんな下っ端のような奴らの回収をわざわざ行う?明らかにお前達の方が上に見えるが?」
「その質問には詳しくはお答えできませんね。ですがあえて言うのならば情報漏洩と戦力の低下の阻止、それだけの事です」
この女性の言った情報漏洩の意味や理由はよく分かる。この4人が下っ端と言えど少なからず何かの情報を持っているのだろう、それにさっき言っていた『この時期に』ってが何かあるはずなんだけど……そして戦力。少なくとも『この時期』という時に情報か戦力か、はたまたその両方かが騎士団に行くのを阻止するためにこの藍って人と紫って人がやって来た訳か。
「……そう言えば。そちらの4人は子供のターゲットを狙っていた途中にこうなったそうですね」
ターゲット……シノちゃんの事か。
マズい、この人がシノちゃんに何かする可能性は十分にある。なんせシノちゃんを追って来た男達より上の人、この女性はどうする気だろう?
「そちらのフードの方がそうですか?」
その答えはかなり意外な物で、しかしその雰囲気の中で私はただひと言、心の中で叫んだ。
またか!!
私最近下の年齢に間違われすぎてないか!この間のロリコン犯人やら今朝の4人やら間違われまくってる。えぇ、大事な事なので二回どころか何十回、何百回、何千回と言いましょう…私は15だ!!
「そんなちっさな子供がターゲットと分かった時点で止めれば良かったものを……」
藍って人が階段の瓦礫に埋もれてたり縛られたりしている男性4人を横目でみながら無表情のまま溜め息をついてる。
てか、子供?私がちっさな、ちっさな子供ぉお?
私がふつふつと湧き上がる怒りを抑えながらある意味真っ黒なシスターを睨んでいると、その女性は小さくつぶやいた気がした。
「一応…確かめておきますか……」
「えっ?」
確かめる?
「紫、あのフードとってやりなさい」
「……首を?」
「フードを!」
それからは全てが一瞬で起きた気がした。気づいた時には私の目の前までやってきたさっきの大きな男……
「リリァ……!?」
「動かないでくだ……いや、動くな」
さっきの無表情とは全然違う脅すような怖い表情でアルトさんの前に立つ彼女。その両手にはどこからだしたのか、短剣と長剣が握られていた。アルトさんもすかさず剣を構えて走り出している。
その光景を隣りで見た私はとにかくこの大きな男から逃げるためにその場から立ち上がって走り出し出そうとした。けれど私が立ち上がった頃には大きな手が私を後ろの壁まで叩きつけた。
「あぁっ!!」
「あ……間違えた」
バッァン!!と大きな音を立てながら壁に全身を打ちつけられ強烈な痛みが走る。脆い壁が少しえぐれてしまうほどの威力だ。
「フード…とる」
「っ!ダ…メ……」
立ち上がろうと手を床につけて力を入れる、しかし力を入れた所からまた激しい痛みが襲って来る。
もう、大きな男の手がフードに触れようとしていた。が、その手はそれ以上は動かないまま止まっていた。
「うー…?」
「……何?」
その手にはぐるぐるとぐるぐると一切の動きを封じるように長いロープが巻かれていた。
「団長!」
そのロープが繋がっている上の方から声が聞こえ、それを確かめるようになんとか首を動かして上を向く。
さっき私が落ちた穴から見えたのはロープを両手で持って苦笑いを浮かべ立っているアードさんだった。
「……役に立たない助っ人です」




