急降下と急上昇。
「リリア!」
「あっ!はい、なんですかアルトさん?」
急にアルトさんに呼ばれてびっくりしながらも返事をした。
そうだった、今は他の事を考えている場合じゃないんだ、まだやらなきゃいけない事が沢山ある。
「とりあえず、今落ちてきた奴も含めて全員気絶した」
「わかりました!アードさんロープをください。ここからアルトさんに渡します」
「了解です」
そう言うとアードさんは騎士団の制服に括り付けておいたロープを取った。するとアードさんの少し横にいたシノちゃんが小さな声でアードさんに何かを言うとアードさんからロープを受け取って、テトテトと小走りでこっちに向かって来た。
おそらく、アードさんに私の所まで自分がロープを渡しに行きたいと言ったのだろう。
あぁもう、可愛いなぁ。行動がすでに可愛いよ。うん、その後ろでシノちゃんに話しかけられてめちゃくちゃテンションが上がっているアードさんされ見えなかったらよかったのに。何なんですかそのハイテンションは……
そしてシノちゃんがあと少しでこっちまで来れる所に来たと思ったら、急に立ち止まって一心に私の方を見つめだした。
「……」
「シノちゃん?」
シノちゃんの表情が何か怖い物でも見たかのように青ざめていくとハッとして叫びだす。その一瞬、シノちゃんの赤い目が光ったような気がした。
「お姉さん!そこは危ない!!」
「えっ?」
そこは危ない……?
少しの間意味が分からなかった。だってその言い方だとまるで、何も起きていないここがこれから危なくなるみたいだったから。けど、その少しの間に私は考える事が出来なくなった。
足元から崩れていく床、ぐらつく視界。そして、沈んでいく体。それらがほんの一瞬で全て起こった。そうこれは、『落ちる』と言う感覚……
「ひゃぁああああ!?」
「お姉さん!!」
これはアレですね!世間一般的に言う『落下』というやつですねぇええ!
怖い!怖い!怖い!落ちても死なないけど気絶はしますよねこの高さ!
無理……目…開けられない……
それから、どれくらいの時間がたったのだろう?私には凄く長い時間だった気がしたけど、おそらく実際はほとんど一瞬だったのだろう。
激しい音と強烈な痛みが襲ってくると思っていたのに、私が感じた感覚は全然痛くない。何かに当たったと言うよりも包まれている感じ、少し熱を帯びた温かさがちょっと心地よかった。
それを確かめるため、私は強く瞑っていた目をゆっくりと開いた。真っ暗闇な閉じた視界から次に見えたのは、また真っ暗だった。
「うぅ…何が……」
「痛っ~……大丈夫リリア?」
声がした方へと顔を向けてみるとすぐに真っ暗から明るくなって、アルトさんの綺麗な顔が見えた。
アルトさんの…顔……?
「きゃぁああ!アルトさん!?」
「えっ!?何?」
「ちょっとまってください!状況と状態がまだよく分からなくてですね!さっき落ちてから今はここにいて……!」
「ちょっ!あんまり暴れると危ない……」
そんなアルトさんのも注意もつかの間、ゴッ!と鈍い音とともに私は落ちてから一番強い痛みに襲われた。崩れた階段の大きな瓦礫におもいっきり頭をぶつけた、アルトさんから急激に離れようとしたら確認する間もなくぶつけてしまった。
「―――~……!?!!」
「リリア!?」
声にならない叫びを出して、私はぶつけた頭の後頭部を両手で押さえた。別に押さえたら何かが変わるわけじゃないけどとりあえず押さえた。
そして力尽きて、ふらぁあ…とアルトさんの方へと倒れ込むとまた視界が真っ暗になる。
そしてやっと気づいた。ここは、アルトさんの腕の中だ……
「あの、アルトさん……」
それに気づくとさっきまで感じていた熱がだんだん暑くなってきた。でも嫌な暑さじゃない。すると私は私の背中の辺りにあるアルトさんの手に何かがある事に気づいた。
それはさっきまでシノちゃんが持っていたロープだった。多分私と一緒に落ちてきたのだろう。
私の視線に気づいたアルトさんはそのロープを私に見せると。
「まさかリリアごと渡されるとは思わなかった……」
「ご、ごめんなさい」
いえ、私もまさか落ちるだなんて思わなかったんです。いきなり床が崩れて真っ逆様に。そりゃあ、私がその少し前にそうなるような事をした気はしますが……そういえばシノちゃんはなんで私が立っていたあの場所が危ないと分かったんだろう?
「謝罪はいいよ、別に怒ってはいないから」
「えっ?……」
そうだ、ここでアルトさんが私を抱えるように受け止めてくれなかったら危なかったんだ。よければ切り傷くらいで済んだかもしれないけど運が悪ければ壊れた瓦礫にぶつかっていたかもしれなかった。
「アルトさん!」
「何?」
「あの、ありがとうございました……」
ちゃんとお礼を言おうと思ったら、落ちた事も含めてなんだか急にいろんな事が恥ずかしくなった。だからお礼の言葉を言う時も声はだんだん小さくなって、アルトさんの顔もまともに見れずに俯いた状態で言ってしまった。
そんな俯いたままの私をアルトさんはさっきより強く手に力を入れて私を抱える。そして、
「リリアが大丈夫なら全然いいよ」
とだけ言ってすぐに手を離して私を立たせてくれた。
私はその行動の意味がよく分からず少しびっくりした表情で目の前にいるアルトさんを見ていた。
「あの…いつまで黙っていればいいんですか?」
「あぁ、もういいですよ。大事なシーンは終わりましたから」
……聞こえない、聞こえない、聞きたくない。
でも聞こえてしまった。
「で、アード。お前は何をそこで覗いてるんだ?」
アルトさんが、受け取ったロープで男達を1人ずつ縛り上げながら二階の私がさっき落ちた穴から覗いて見つめていたアードさんに聞いた。けどアルトさん、聞かない方がいいですよ?多分あんまりいい答えは聞けないと思いますから。
「大丈夫ですよ団長。リリアさんが落ちた時に団長がものすごい速さでキャッチした所はちゃんと確認してたので」
「しなくていい」
「お姉さん怪我は無いですか……?」
「あ…うん一応」
体の怪我はないよ、ただたった今心に痛い傷を受けた気がするけど。
「いいからアード、お前はその崩れた床の近くにある棚をどうにかしろ、危ないぞ」
「了解です」
アルトさんがアードさんに次の事を指示することによって強制的に退場させた。
去っていくアードさんとシノちゃんを見ているうちにアルトさんはもう男性2人を縛り上げ終えていた。
「アルトさん、この男性達これからどうしますか?」
「とりあえず騎士団まで連れて行くしかないかな」
「残念ながら、その必要はございません」
それは、私でもアルトさんでもアードさんでもシノちゃんでもないもう一つの声。女性らしい、高くて静かな声、それは私とアルトさんの真後ろから聞こえた。
私より先にアルトさんが素早く反応して後ろを振り返る、私もその後に声の主の方へと振り向く。
「はじめまして、私そこの男性4人の回収に来ましたシスターです」
「……鴉のマーク」
そこには闇のように真っ黒な修道女の服を来た女性と、同じような黒い修道服を来て黙り続けているとても大きな男性の2人がいた。




