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とある青年の心配

俺の手を引っ張って楽しそうに走り出すリリアを見て、少し驚いたと同時にとても嬉しくなった。こんなに無邪気にはしゃぐリリアを始めて見た気がする。

それに昨日エルに言われたあの言葉もあるしな。



     ※



昨日さくじつ……


最後の仕事の山を片っ端からエルと片付けていた時、明日リリアを街に連れて行く事を伝えるとエルはいつもと変わらないノリで言った。


「あぁー、リリアちゃんって結構遠慮がちだからたまにはそういう事もいいかもね~」

「リリアが遠慮がち?」

「だってリリアちゃん、わがままどころか自分に必要最低限の物しか欲しがらないじゃん」


それもほとんど借り物ばっかって聞いたけど?

と付け足すとエルは自分の手元にあった書類に視線を戻した。


リリアが遠慮がち……確かにそう、なのかもしれない。最近リリアが言ったお願いと言えば長官の所で戦う事を学びたいと、確かそれだけだった気がする。


「まぁ、仕方ないんじゃない知らない世界で他人の家で暮らしてんだから」

「他人……」

「だから明日位は遠慮させないで楽しませてあげたら?」


その言葉を聞きながら俺は書いていた最後の資料を書き終え隣にある資料の山に重ねた。



     ※



走り出したリリアは街の中心まで来るとそこにある噴水を眺めだした。

白と少しの青色で作られた街で一番大きな噴水だ、暑い今日には沢山の人がその噴水の周りにいる。リリアはしばらく見つめた後噴水の中を覗き込んだ。


「綺麗な水ですね」

「地下の井戸水をそのまま噴水に通しているんだ」


すると俺とリリアの隣に一人の女性がやってきて近くにいたリリアに「こんにちは」と明るく挨拶すると手に持っていたバケツを噴水の中に入れ水をたっぷり入った事を確認し、そして重たくなったバケツを持ちながら来た道を戻っていった。

地下水から引いた水なので多くの人が綺麗なこの水を汲みに来るのだ。


「アリアナは水の綺麗な国でね、だからビューネ(水の精霊)を特に強く称えているんだよ」

「水が綺麗……それでこんなに賑やかなんですね」


そう言ってリリアは微笑むと周りにいる沢山の人達を見渡した。確かに賑やかでいいのだが、これだけ人が集まると思わぬ所で意外な人に会うことがあるからな……


「アルトさん、あれネリさんじゃないですか?」

「えっ?」


リリアの指差した方を見てみると相変わらずの銀髪の細く長いツインテールを揺らして、隠す気の全くない耳と尻尾。興奮しているのか尻尾はピンッと真っ直ぐ上向きに立っている。

間違い無くあれはネリだ、そもそもあの目立つ容姿はそうそういるような物じゃないしな。


「ネリさ…!……」

「何でスルメが一袋50アスもするんじゃ!一昨日までは45アスじゃったではないか!」

「……」


手を振って声を掛けようとした瞬間、ネリは出店のカウンターをバンッと強く叩き店の店員に文句を言い始めた。少しおびえた様子の恰幅かっぷくのよい男性店員が苦笑いをしながらネリを宥めている。


「ですから、この季節はイカはあまり採れないんですよ」

「じゃからって昨日上げる事ないじゃろう!一昨日じゃぞ!一昨日儂が調べた時はちゃんと45アスじゃったんじゃぞ!!」

「そんな事言われてもねぇ……」

「折角、昨日入った報酬で出たくもない外に出て奮発してみようとしたのにこんな事ってないじゃろ!そもそもあの時、文官がしっかり追加注文をしてくれれば儂はこんな様にはならなかったんじゃ!それに――」


隣にいるリリアが振ろうとした手を下げると確認するかのように一度俺の顔を見てまたネリの方を見た。そしてしばらくすると、


「忙しい(?)みたいですね」

「あぁ」

「声、掛けない方がいいですかね?」

「いいかもな」


そして俺とリリアの二人は噴水の広場から離れた。

関わらない方がいいことも世の中にはあるからな、そっとしておく事にしただけだ。断じてスルーした訳じゃない。




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