余興は競走?
ファイ・クライアンさん。
王宮騎士団上部の長官さん。王宮騎士団で最大の権力者であり最強の騎士だそうだ。その性格は最強であり最悪、いつも強い者を探しては戦う事を目的としている超好戦的な性別……と聞いていたのだが…性別は女性。
「私の噂だけ聞いて勘違いする者は多い。別段、気にしてはいないよ。」
「いえ、本当にすみませんでした。」
「にゃっはははは!ファイが!ファイが男じゃと、にゃっはははははは!!」
この状況…本当に申し訳ないです。そしてどこかで見たやり取りによく似ています、多分エルさんとアルトさんの……
「そう笑うものではないぞネリ。むしろ噂だけでそう思われることは好都合だろ。」
「例えばなにがじゃ?」
「例えば私より強い者が戦いを挑みに来るかもしれぬだろ。」
「儂はお主より強い者を片手で数える程しか知らんが?」
少なくとも、私の聞いた情報はほとんど正しいようです。強くて好戦的、しかしまぁそんな長官さんは薄い水色のサラサラロング、顔は鋭くも綺麗な目。どこをとっても見事なまでの女性なんですよねぇ、ただ単に私が男性だと勘違いと言うか、想像していただけですか。
「長官、本題に入っても宜しいですか?」
「いやここではまずい、私の執務室で話そう。」
「ファイ・クライアンの執務室……」
「なんじゃエル、嫌そうな顔じゃなぁ。」
凄く嫌そうなエルさんはさておき、アルトさんまで溜め息をついている。やっぱり長官さんってよく分からない人だ、あのアルトさんやエルさんがあんな風になるなんて一体長官さんも長官さんの執務室もどんなんなのだろうか?
「では、行こうか。よっと…」
「ひゃあぁ!?」
抱えられた!?なんで私長官さんに抱えられるんですか!ちょっと長官さん!?ていうか、すっごく簡単に上げられたんですが、凄い力ですねぇ!
「な、なっな!?」
「ちょっとダッシュするからな。」
「にゃは、全員で競走じゃな。」
「長官!」
競走ってどういうことなんですか!まさかこのまま走りだす気じゃないですよね!そうですよね!!
「なに、ただの余興だ、私の執務室に行くまでのな。そうだ、お前達が勝ったらこの子を下ろそう。」
「ええぇ!私!?」
「じゃあ儂がいくぞ!」
そしてネリさんはどこから取り出したのか知らないが笛を構えるとニヤリと笑って掛け声の準備をする。
アルトさんとエルさんは焦りながらも素早く状況を把握し走る体制に入った。
「よーーい―――」
ピィイイイーーー!!
と、高い笛の音と同時に全員(私抜き)が一斉に走り出した。と思ったが一人、ネリさんだけが完全なるフライングでスタートを切った。
笛を吹く役のネリさんは笛がなる約五秒前にスタートしたのだ、その後に長官さん、アルトさん、エルさん、が反応して走り出す。
「いゃぁあああああ!!」
「ネリよ、フライングときたか。」
「なんじゃ?悪いか?」
「いや、それも一つの戦法、ズルなど負けた者の言いがかりに過ぎんからな。」
「流石ファイ、よくわかっとるな!」
「だが…」
速い!怖い!高い!なんて私が絶叫していると長官さんは私を軽く抱え直し、私が落ちないようにガッチリホールド。そして体制を整えると更にスピードを上げた。
「私にフライングをするなら五秒じゃ生ぬるい!」
「にゃぁお!まだ加速出来るのか。」
「あぁあああああ!!」
フライングだとか、加速だとかなんでもいいですから止まって下さい!超怖いですから!もう絶叫マシンに乗ってるとしか思えませんから!
「あーあ、抜かれてしまったの。」
「これでは君を降ろせそうにないな。」
「そんな…あぁああああ!速いぃいいいいい!」
落ちる!いや、しっかりホールドされてるから落ちはしないんだろうけど、だからって落ちそうな恐怖は変わらないよ!なんでこんな事になるんですか私!
「競走なんてなんでやるんですかぁ!」
「余興と言っただろう。私はあいつらと戦いたいだけだよ。」
「デスヨネエー……」
はい、もういいです、あきらめます。怖いけどこのまま連れて行かれるのを待つことにしましょう。意外と乗り心地いいですし、めっちゃ安定してるし。
「怖くない、怖くない……」
「おや?もう叫ばないのか?」
「はい、もうどうにでもなれというか、あとは運を天に任せるというか。」
「順応が早いのはいいことだ。」
早く終わってくれることを祈るのみですよ、長官さんの執務室までの辛抱だ。
「来たようだな。」
「はい?」
長官さんがなにかを感じたようにそう言うと、私達の周りを風が切ったような感覚がした。
「っ!?」
「やはり、私と『速さ』で戦えるのはあいつだけか。」
強い風で私の髪が流れて閉じていた目を開と、さっきとは違う状況になっていた。
「長官、ふざけ過ぎですよ。」
「私はいつでも本気だが?」
「にゃーあ、また抜かされてしまったんじゃが……」
私を抱え上げている長官さんの隣りにアルトさんが並列して走っていた。いつの間にかネリさんを抜いて追いついていたようだ。
「君の脚力、瞬発力にはいつも感心するよ。」
「それはどうも。」
アルトさんを今まで何度も速いと思っていたけどこんなにもアルトさんの速さを体感したのは初めてだ。自分よりも前を凄い速さで走っている長官さんに追い付いて、横に並ぶだなんて。
「アルトさん凄い……」
「誉められたなアルト。」
「誉められたついでにリリアを下ろしていただけると嬉しいのですが。」
「あぁ、君が勝ったらな。」
長官さんは私に「ちょっと持ち替えるよ。」と言うとさっきまでは抱っこみたいな持ち方だったのを私の体が長官さんの肩に掛かるような、担ぐような体勢に持ち直した。
あの、私タオルみたいになっちゃってるんですけど。この体勢すっごく揺れるんですが……しまった、この体勢気を緩めたらめちゃくちゃ怖い!集中してないと、下を見ない下を見ない、前だけみる。
私は前だけを見る、しかし前と言っても長官さんやアルトさんから見たら後ろなんだが。
「あれ?」
おかしい、だって確かに……なんで?
なんでエルさんが後ろにいないんだ?
私がそう疑問に思っていると、長官さんとアルトさん、後から続いてネリさんが王宮騎士団上部の建物に入った。長官さんの部屋はここに来て長官さんを探す時に一番最初に確認したからどこにあるか覚えていた。
確か、一階の一番奥の部屋……
「ファイ!ゴールは一番に部屋に入った者じゃからな!」
「当然だ、ならラストスパートと行こうか。」
扉が見えてくると長官さんは私を担いでいるのにも関わらず体を低く保つと地面を蹴るようにして更にスピードを上げた。
※
バンッ! と音を立て開いた扉は長官さん、アルトさん、ネリさんの順番で部屋の中へと四人を通した。この扉から入った順番なら長官さんが確実に一番だろう。けど……
「文官さん、紅茶のおかわり頂けますか?」
「あぁ、はい分かりました。」
部屋の中はなんかふんわりお茶会ムードになっていた。
そこには、紅茶を飲んでゆっくりしているエルさんとその横でポットを持っている男性がいた。
「エ、エルさん!?」
「ふむ、成る程。」
エルさんが座っているソファーの後ろには大きく開かれ、外の風を通している窓があった。
「窓から入るのも作戦の一つだよリリアちゃん。」
すっごくすがすがしい顔だった。




