紫色の友達。
外はもう、夕日が沈み終わろうとしている。時間としてはまだ夕食前、アルトさんもまだ帰って来ていない。
そんな時間にフローリア家の大きな庭にある、湖の前で座って景色を見つめ続けてどれくらいたっただろうか。もしかしたらまだ数分しかたっていないかもしれない。
「はぁあ……」
また溜め息をついてしまった。これで何回目だろう……でもあんなにびっくりする事があったなら、誰だって溜め息の一つや二つついちゃいますよ。だってさ、
「扉を開けたら何故かミキがいるんだもん。」
……いや、何か勘違いされてますが私、ミキがいると分かっていて開けたんじゃないですよ。フレアさんとミキを二人っきりにするためにミキを呼びに行くつもりで開けたらミキがいただけでして……私普通の人間ですよ?気配やらミキの行動やら読める訳ないじゃないですか。
「でも、まさかあんなに早く来ていてしかも中の様子をこっそり聞いていたなんて。」
「まぁまぁ、もう過ぎた事じゃん。」
「……やぁミキ、おかえりー。」
私の後ろにはにっこりと笑顔を見せながらこっちに向かっているミキがいた。
おそらく、フレアさんとの話しが終わったのだろう。ミキは私の隣に来るとゆっくりと腰を下ろし隣に座った。
「フレアさん、なんて?」
「……頑張るって。」
「頑張るか……」
「『これはただのワガママだけど…頑張るから、これからちゃんと伝えるから。』だって。」
「それだけ?」
「それだけ。でも、ちゃんと見てくれたよ。」
それがきっと、フレアさんの今伝えられる思いなのだろう。ミキの事をちゃんと見て言ったのならフレアさんはすごく勇気を出しだに違いない。
「いいじゃん。ワガママを言うフレアさんも可愛いんでしょ?」
「超可愛い。」
「うわぁ、のろけ。」
うん、スッゴくいい笑顔だ。のろけを通り越してむしろ清々しいと言える。まぁ、百パーセント本気なんだろうなぁ。
「のろけでも何でも、全部リリアのお陰だよ。」
「うーん、まぁ確かに始めから手伝う気ではいたんだけど……」
こうなったのは予想外というか想定外というか。上手く行ったから良かったものの、もしフレアさんが全く伝えなかったらと思うと……あぁ、穴があったら入りたくなりそう。てか入ります、この庭の森に穴あったし。
「今思うと私すっごい事をぺらぺらと。」
「だからもう過ぎた事だって。」
「あぁー……」
まぁ、今更落ち込んでも意味ないんだろうけどさぁ。やっぱり人間は落ち込む生き物な訳で誰でも一回は落ち込むんですよ、へこむんですよ。
そんな絶賛後悔中の私にミキは上着の内側から何かを取り出すと私に軽く投げた。
私が反射的にそれをキャッチすると、それが一冊の本である事が分かった。本の表紙には円と線で描かれた大きな絵がある、おそらく魔法陣だろか。そして私は気づいた、この本が『memory』である事に。
「『memory』なんで?」
「お礼だよ。」
「お礼って言われても、貰えるような事は出来てないし……」
「リリアが後悔しても否定しても僕がお礼をしたいだけだよ。」
だから受け取ってね。
とミキは嬉しそうに言った。『memory』はよく見れば綺麗な深い赤色をした本で、中のページ一枚一枚に魔法陣が書かれていてどのページもすごく綺麗だった。
「私が貰っていいのかなぁ?」
「いや、いいって。どれだけ後悔してんのさ。」
「うぅ~ん……」
いや、受け取った方がいいのは分かってるんだけど。それ以前にミキには私の『お風呂制作計画』を手伝ってもらうつもりで私も手伝ったから、なんかめちゃくちゃ受け取りずらい。
「じゃあ変えるよ。お礼じゃなくて別の意味に。」
「別の意味?」
「友達へのプレゼント。」
キュッと私の心が反応した、友達と言う言葉に。
私は元の世界での人間関係は皆無だった。もちろん、友達なんて存在は今までにいなかった。それも、こんなにハッキリと関係を言われる事なんて無いと思っていたのに。
「僕はリリアの事そうだと思いたいけど?今日も結構楽しかったしね!」
「ミキが友達かぁ……」
「えっ!何その反応?」
「大変そうだなぁ……」
「大変!?」
すると、ミキとの会話に思わず笑いがこみ上げた。初めての感情に少し戸惑いながらもなぜか顔には笑顔が浮かんできた。
「大変そうだけど楽しそうだね、友達。」
「おう!よろしく!」
「よろしくミキ。」
パンッと私の左手とミキの右手が重なって離れる、その一瞬で響き渡る小さな音。その音だけで、私とミキの関係が大きく変わった気がした。
「じゃあ、僕はフレアをつけにじゃなくて、探しに戻るよ。」
「今つけにもどるって言いかけたよね?」
「まぁいいじゃん、いいじゃん!」
何がまぁいいじゃん。なのかさっぱり分からないが?フレアさんに見てもらえるようになったのに、またフレアさんが逃げそうな事をしてどうする。
「とにかく、今日はありがとうリリア。」
「いや、私の方こそありがとう。」
「?」
「ちょっとは恋について分かったよ。」
恋は辛いだけ。そうしか思えなかった私にミキとフレアさんはそうじゃないと教えてくれた。確かに二人は辛いすれ違いをしたけど、今のミキはとても幸せそうに笑っている。
「まだ少しだけだけどね。」
「本当の恋はしてみれば分かるよ。」
「してみればか……あっ!そう言えば。」
「ん?なに?」
「私恋したことあった。」
「えぇぇ!」
えっ?何?何でそんなにびっくりするの?しかも考えたと思ったら焦るような、期待するような感じなの?
「そ、それっていつぐらいの時に?」
「えっと、最近?」
「ご主人と会ってから?」
「あぁ、うん。アルトさんに会った直後だね。」
「(えっ?マジで?ご主人まさかの脈ありですか?)」
確かにしたよ恋。
女装したアルトさんにね。
※
「さて、私も戻るか。」
結局ミキが戻ってからもしばらく、夕日が完全に沈むまでは湖にいたが。その夕日も見えなくなったしそろそろ部屋に戻ろう。てか今思い出した、私サイドテールじゃないんだよ。外に出てられる姿じゃないんですよ、あぁ慣れって恐ろしい。
私はお屋敷の方に戻るためその場から立ち上がった。
「リリア。」
と、名前を呼ばれ直ぐに後ろを振り向く。
「アルトさん!」
「何でこんな所に?」
「えっと、散歩?」
自分で言っておいて思った、なぜ疑問形。
「怪我は大丈夫なのか?」
「はい。まだ少しズキズキしますけど大丈夫です。」
「そうか。」
しかし、なんでアルトさんがここにいるのだろう?帰って来たのならお屋敷にいるはずだし、こんな時間にここに来る理由は何だろうか?
「あの、アルトさん。なんでここに?」
「あぁ、ちょっとリリアを探していた。」
「私をですか?」
「リリアに会いたいという人がいる。」




