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とある青年の不安

「てな訳であの変態犯人は見事に牢屋に入ったのでした。めでたし、めでたし。」

「……いや、まだ犯人は牢屋には入ってないだろ。」

「いやぁそうなんだけど。」

「……」

「……」


騎士団の団長室でエルが昨日の犯人の詳細と処理について説明を始め、それを黙って聞いていたのだが……


「面倒くさい事になったね。」

「あぁ」

「どうすんのコレ?」

「捨てろもしくは破棄だ。」

「いや無理だからな」

「……」

「……」


エルの右手に握られている一枚の紙、それが俺達の言う面倒くさい事。


王宮騎士団上部からの命令文の書かれている。


しかし、命令の書かれた紙ならば何時もの事だ。

王宮騎士団上部とは王宮と騎士団の間にある機関。騎士団は王宮の命令により幾つもの事件や騎士としての仕事を受ける、だが王宮も王都の事件を全て知っている訳ではない。王宮が関わるほどの事件以外は王宮騎士団上部が調べ騎士団に送っている。

実際、王宮が関わるほどの事件は一年に数回ほどしかない。なので王宮より王宮騎士団上部の方がこちらとは関わりが深い。


「王宮騎士団上部の文官からとかだったらまだ捨てられたかもしれないんだけどねぇ……」

「長官からか、確実に団長(おれ)より上だな。」

「なんで王宮騎士団上部からこんなのが来るんだか……」



上部からの命令文はすごく回りくどく書かれてはいるが短く訳してしまうと『今回の事件に関わったリリアと言う騎士団の少女を連れてこい。』と書いてある。


「分からないな。」

「うん、リリアちゃんについての報告をしろって言うなら分かるけど連れてこいなんて……」

「何を考えているんだか。」


俺は椅子の背にもたれかかり溜め息をついた。エルもまた、命令の書かれた紙を適当に机に置くと深い溜め息をしながら考えこんでいた。


一体、リリアに何があると言うのだろうか。


「長官さん、会いたい人ではないよねぇ。」

「エル、お前は単純に長官が苦手なだけだよな。」

「で!結局どうすんの!素直にリリアちゃん連れてく?」

「必死だな……」


そんなに苦手か、まぁ分からなくもないが。あの人の事を苦手じゃない人の方が少ないしな。


そもそも、俺達の答えは始めから決まっていた。

捨てるどころか断るなんて選択肢は俺達には無いんだから。


「連れてくしかないだろう。」

「そうだよね~仕方ないか、行ってらっしゃーい!」

「いや、お前も行くんだからな?」

「……やっぱ行かなきゃダメかな?」

「ダメだろ。」


エルはそのまま壁に額をつけて後に起きる運命に早くも嘆き始めた。

ブツブツと何か言っているが聞こえなかった事にしておこう、その方がいいと何かが言っている気がする。


「だが、まぁ。リリアの怪我を言い訳にして日時を延ばしてはもらうか。」

「おぉ!そうじゃん!そうしよう!」


本当に心から嬉しそうだ、会うまでの寿命が延びて良かったな。日時を延ばしてもらうのは本当にリリアが怪我をしているからなんだが……





「なんじゃ、随分嬉しそうじゃの?そんなに会いたくないか。」

「…………いつからいた?」

「なんの、なんの。ほんの数時間前じゃ、気にするな。」


気にするからな、天井裏から頭を出してスルメを貪っている侵入者が数時間前からいたという事実を聞かされて気にしない奴はいないはずだ。


するとその侵入者……いや、その少女は天井裏から器用に降り立ち着地するとまたスルメを取り出し貪り始めた。


「何故お前が今ここにいるんだ?ネリ。」

「ふゃいにひゃにょまにぇふゃかひゃふゃ……」

「口の中を空にしてから話してくれ。」


ネリ。彼女は王宮騎士団上部の長官、ファイ・クライアンの裏の補佐役をしている少女。『黒猫の情報屋』と言う通り名をもちあらゆる情報を自分の者のように集め、操る事を得意としている。


そんな彼女の容姿は通り名に由来した大きな黒い猫の耳が頭の上から生えていた。その黒い猫耳とは対象的な銀髪をもち幼く見えるその姿から本当に黒猫のようだと思える。


「口の中身はなくなったか年中スルメばっかり貪ってる猫女。」

「いやじゃのぉエル。嫉妬か?このスルメと猫耳はやらんぞ!」

「ちげぇよ!?そしていらねぇよ!」

「だからお前はなんで今ここにいるんだ?」

「ん?あぁ、そうじゃったの。」


そう言うとネリはクルリとこちらを向き新しいスルメを取り出しながら、話し出した。その彼女の後ろには楽しそうに右に左にと動いている黒い尻尾が見えた。


「お前達の長官からの伝言じゃ、アルトはともかくエルは逃げ出すかもしれんからの。」

「さすが長官だな。」

「おい、アルト。なに褒めてんだよ。」


ネリは、大きなスルメをブチッと歯で引きちぎりながらその伝言を伝えた。


「『少なくとも5日以内、それ以降は認めない。』だそうじゃ。」

「……5日か」

「この伝言を伝えに来ただけじゃ、もう用はない。無駄な事は嫌いなんじゃ。」

「そうか、ご苦労だった。」

「あぁじゃぁのエル、残りの日にちを大事にな。」


そう言い残すと、彼女は窓から飛び出していった。

……最後の言葉は無駄だったような…


「仕方ないな、エル。」

「あぁ分かったよ。」

「5日後に会いに行こう。ファイ・クライアンの所に。」


二人は不安を抱きながらただ窓の外を見つめていた。



猫耳少女キタコレ。

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