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とある少女の転落

お待たせいたしました!お騒がせしました!

作者完全復活です。

「   」


私が目を覚ました時、私の声は消えていた。

でも、そんなことどうでもよく思ってしまうくらい私は泣き続けていた。

胸の奥が今までに無いくらい苦しくて、耐えきれないほどの後悔にタイムマシンがあればだとか時間が巻き戻ればとかそんなことも思わずにはいられなくて。

今すぐ消えてしまいたいと本気で思ってしまっていた。


だからだろうか、私にはそれから数日の記憶が今でも曖昧だった。

つかさ先生の診察を受けたり、警察の人が来て話をしたり、伯父さんや伯母さん達が来たり…漠然と起こった事だけを覚えている感じ。


(……今…何時だろう…)


布団の中から手を伸ばして、ベッドの隣のチェストに置いてあった目覚まし時計を手に取った。

見れば、ここに来てベッドに潜ってから10時間以上経っていた。半分眠りながら泣いていたせいか、時間の感覚が曖昧になっちゃってたみたいだ。


(もう…夜中の1時時だ。外…真っ暗……)


ふと、窓から外の様子を眺めてみる。

朝まで降っていた雪は今は止んでいてそれでも空はどんよりと暗い雲に埋め尽くされていた。

私は今、お母さんの病院のあった都会じゃなくて私とお母さんの住んでいたあの家にいる。

ずっとずっと帰りたかったこの場所にこんな形で戻って来ることになるなんて欠片も思ってなかった……

私がこれからどうなるのか、伯父さんや伯母さんが今頃本家の方で話し合ってるんだろうけど…正直私はもうどうでもよかった。

お父さんも、愛斗も、お母さんもいなくなったこの世界で……私には生きていく意味も方法も分からない。


「    」


死にたい。


少しの冗談と先の見えない絶望が混ざり合った声にならない言葉は、誰に届くこともなくただただ私の心に突き刺さっていった。


私は握りしめていた目覚まし時計をそっとチェストの上に戻した。

そのとき、時計と一緒にチェストの上に置いてあった物に目がいった。そしてそのまま、おもむろにそれらを手にとってみる。


通帳と遺書そして…クリスマスカード。

お母さんが死んだ後、大人の人に渡された。遺書を見るのはとても怖かったけど、その書かれた日付を見てなによりもまず驚いた。私の生年月日…正確には、私が生まれた数日後だったからだ。


(お母さんはどんな気持ちでこれを書いたのかな……)


私が生まれた日…それはつまり、お父さんがいなくなった日だ。

遺書の内容は殆どが私を守る言葉や伯父さんや伯母さんへのお願い、私のこれからの事。そして最後に、私へのごめんなさいと、愛してるの二言だった。


そして…この通帳。

その名義はお母さんじゃなくて私の名前になっている。

初めて開いて中を確認したときは目を疑いました。

私が今まで見たこともないくらい沢山のお金がそこには記されていたんです。でも、全体で見ればわずかな量だけど確実に少しずつその金額は減っている。


(初めの方は生活費…でも、多分後の方で月ごとに減ってるのは……)


私が伯父さんや伯母さんの所で預かる事になった頃から減ってるから間違いない。

対価ってやつだ。

私を…預かる事になった時2つの約束をお母さんは結ばされてる。

1つは預かる以上文句を言わない事、そして2つ目はそれ相当の対価を払う事。

それが…きっとこのお金なんだ……


最後は…クリスマスカード。

これは、怖くてまだ開けることが出来ていなかった。

遺書や、通帳とは違ってここには…『幸せな言葉』しか書かれていないだろうから……

私はとりあえずクリスマスカードをポケットに押し込んで台所に足を向けた。


(さすがに…お腹減ったかな。夜中だけど一応、来る途中に買い物したからなんか適当に――)


ドンッ!!


「   !?」


突然の大きな音に短い悲鳴が上がったけど、やっぱり声にはなっていなかった。


(なに……?)


真夜中のこの時間、まだ電気を付けていない部屋の中は暗闇に包まれてて、より一層怖さを醸し出していた。

なんて思ってるのもつかの間、さっきの音に続いてガタガタバタバタとひっきりなしに音が聞こえてくる。


(まさか…誰か入って来た?)


いや、そんな筈はありません。鍵はかけたはずだし、そもそもこんな田舎に泥棒なんて……

そう思いつつも、不安を消し去る為に私はそっと玄関の方を覗いてようと玄関へ向かう扉を開けようとした、その瞬間。勝手にスライド式の扉が開かれて、目の前の人にぶつかった私はその場で尻餅をついてしまった。


「    」

「っ!?まだ起きて――!」

(え……)


その声に戸惑い、そっと視線を上げたその先には…伯母さんや伯父さんたちの姿があった。


(泥棒じゃなかった……でも、なんでこんな時間に――)


「押さえつけろ」

「  !?」


伯母さんの後ろから響いた伯父さんの一言で私を預かってくれていたきよ伯母さんとその旦那さんが私の体を力強く押し倒し、そのまま床に押さえつけた。

あまりに一瞬の出来事に、逃げ出す暇もなく…私はただただ困惑していた。

でも、どうにか伯父さんの顔を見上げてみると、伯父さんの浮かべた気味の悪い薄い笑みに、ただ漠然と気持ち悪さと良くないことが起きてるんだという嫌な確信だけが私の中に渦巻いた。


「全く…いきなり予定外だ……」

「まぁ、あきらさん。結局やることに変わりはありんせんし、こない子供の力…たかが知れとるんやないですか」

「確かにな」

「でも本当最悪、今日はあの女の娘になんて会わなくて済むと思ったのにー」

「いいから、さっさとしちゃってよ。結構大変なんだから」

(一体…何を……)


勝手に部屋の奥へと進んでいく伯父さん達、そしてその足取りはあの扉の前で止まる。

そこは…その扉の奥は……お父さんのアトリエだ。


「  !    !?」

「っ!?暴れんじゃないわよ!」


まさか…まさか!!

伯父さん達はその為に――!


暴れだした私を冷たい目で伯父さんは見つめていた。

私もそれに負けじと伯父さん達を睨み返した。


「……やっぱり、まだここにあるんだな…匠の絵は」

「   」

「『いなくなった天才の遺品』『晴上匠の最後の作品』……一体、いくらの値が付くのだろうな」

(やっぱり――!)


伯父さん達は……ううん、こいつらの狙いは、お父さんの絵だ。

あのアトリエにはまだお父さんの絵がたくさん残ってる。でもそれは、ただお父さんの絵だというだけじゃない。


「匠は…絵画に関しては本物の天才だ。世に出した作品こそ少ないが、それでもその作品には莫大な値が付くほどに……そして、それは元々俺たちのものだったんだ」

「  !?」

「そもそも、この家も、この場所も、匠自身でさえ、元々は晴上家うちの所有物だ」


所有物……その言葉で私は気づいた。

こいつらは…桔梗さんとおんなじだ。

そこにいる人の事も、その人が思ってる事も、その人の命でさえ見ているつもりでまったく見てない。自分たちの都合よく勝手に決めつけて押し付けて…罪悪感の欠片も無く、全部壊してくんだ。


「それをお前らが欲深く奪っていったんだ。取り返そうとしてなにが悪い」

(桔梗さんは…多分、無自覚だったし、言葉で隠してたから気づかなかった……なら、こいつらは絶対に止めなくちゃダメなんだ!)


その強い思いから更に睨みつけた私など、もう興味も無いと言うかのようにそいつは身をひるがえしてアトリエの扉に手をかけた。


「   !!」


ガチャ


「……鍵?」

「どうしたの兄さん?」

「……」

「どうやら、施錠されとるみたいですなぁ」

(え……)


その事実に誰よりも驚いたのはきっと私だった。

だって、私の記憶が正しければ、少なくともこの家を離れた7歳の時にはお父さんのアトリエには鍵なんてなかったはずだ。


「うちにあった合い鍵にはアトリエの鍵なんてなかったはずよ」

「扉が新しい…付け替えたのか」

「どうにいたしますかぁ?暁さん」

「なによ、扉なんて壊しちゃえばいいじゃない」

(扉を…鍵着きにお母さんが付け替えた?じゃあ…この扉の鍵は一体……)


鍵……鍵っ――!?

その瞬間、私の中である事が繋がった。


(持ってる……私、お母さんから鍵をもらってるじゃないか…!)


少しだけ視線を自分の胸元に向けてみる。

床に押し倒されてはいるものの、そこには確かにお母さんからもらったあのネックレスがある。ネックレスには…ガラスのお花と…アンティークの鍵飾り。だと、思ってた。

きっと…ううん絶対にそう。間違いなはずないんです。お母さんの考えてることなんてとっても単純明快だから。


「壊すのは止めた方がいい。扉の近くに絵があるかもしれない」

「まぁ、今晩が駄目でも鍵くらいなんとかなるわよ」

「えーまたこんな所に出直しぃ?」

(大丈夫…こいつらが帰ったら私が扉を開けて絵を隠せばいい。どうにか逃げ出そうって考えてたけど今は……)




「……鍵なら…そない娘が持っとるんじゃぁないですかねぇ」

「  っ!?」

「さっきから、視線が下に向いてばかりですなぁ。なにか…隠しとるん違いますかぁ?」


バレた――!?

その刹那、私は一気に押し倒された姿勢から抜け出した。

抜け出す為の準備をしておいたのは幸いだった、この程度の押さえつけなら今までいくらでも経験してきたんです。


「きゃぁあ!?」

「っ!待て!」

「逃げんじゃないわよ!」

「  !」


バレてしまった今、とにかく逃げるしかない。

今までで一番全力で駆け出した。すぐに玄関に向かって、そのまま靴も穿かずに外に飛び出していく。

外にはまだまばらに雪が積もってて、一歩踏み出しただけで、足が燃えるくらい冷たかった。それでも走りつづける、どこに向かえばいいかとか、そこからどうするとか全く分からなかったけど…今はとにかく無我夢中に逃げ出した。


「 !    !?」


大丈夫、逃げるのならなれてる。でも、どうしよう!誰を頼ればいい?どこに行けばいい?

私には…なにが残ってる?

後ろから追いかけてくる声が聞こえてきた。子供の足じゃ大人には勝てない。いつもなら曲がったり隠れたりして逃げてるけど、田舎道じゃ曲がり角なんて殆どない!


(怖い…怖い……!)


必死に吸い込む息が冷たくて、肺に詰まりそうで…真っ暗な夜の中を行く宛もなく必死に逃げ続けるのは心の底から怖かった。

涙がうっすらと私の視界を覆って、少し拭ったその瞬間――


「 !?」


私は、片足を側溝そっこうに突っ込んで、そのまま前のめりに激しく転倒してしまった。

雪と涙で足下が見えてなかったんだ。


(っ!痛い、冷たい…とにかく、また…走らなきゃ……)


でも、立ち上がろうと足に力を入れた途端、足に刺すような痛みが走る。見れば、真っ白な雪に真っ赤な血がジワリと滲んでいた。

コンクリート製の側溝に裸足の足からはまったから…擦った…いや、切ったのかな……

どうしようと、一瞬の困惑が思考を埋め尽くした、その時だった。


「はぁ…!逃げんなっての!」

「 !?」

「っ!おとなしくしなさいよ!」


奏伯母さんに力強く地面に押し付けられ、それに続いて伯父さん達もその後に続いた。


「餓鬼が…大人なめんな…よ!」

「  !! !?」


ぎゅぅうっと、伯父さんは革の靴で強く私の血が出た右足を踏みつけた。


(っ!?痛い!痛い痛い痛い!止めて!もう止めて!痛い…!)

「はっ…!みっともない」

「    !」

「いった!?」


ガリッとなにかを引っ掻いたような感覚とだけがあったけど、傷口を踏まれ続けてる私にはまったく意識もしてないことだった。

でも……


「っ!?あんたなんか……」


雪と涙の視界がぼんやり映してみせたのは今日という歪み始めた1日と、大きなカタマリを振り上げた怖い…怖いダレカ……


「死んじゃえっ!!」




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