とある少女の元気
あの日から、私の小指には何本も糸が張ってあるんです。
春にはお花見、夏はお祭りに海、秋は紅葉狩りで冬には雪遊び。そんなたくさんの糸は全部お母さんにつながっていて…約束をつなぎ止めてくれる。
月日が経って、約束が叶わなくなった時が何度もあった。その糸が切れるたびに胸がとても痛かったけど…新しい約束と新しい糸をお母さんがまた結んでくれるから……私はいつも約束に守られてるんです。
※
「あぁもう!なんで私の見た目はこんななのぉおおお!!」
「あらあら璃々愛、今日はまた随分不思議な格好ね」
本日の私の格好、お品書き。
靴 :幼女の細脚を生かす小さな可愛らしい下駄
靴下 :白い足袋とニーハイの夢のコラボ
ボトム:和の雰囲気を漂わせる着物生地のミニスカート(絶対領域)
トップ:アニメ『狐娘ことは』の和装コスプレ(露出過多)
ヘッド:キツネミミと簪のセット(尻尾付き)
提供:変態獣耳愛好会
……以上が私が今着ているとは絶対的に認めたくない羞恥心の塊です。
なぜこうなったのか…いやまぁ、例にも漏れずあの変態共の仕業なんですが……今日のは迂闊だった。まさか誘拐された挙げ句こんな非現実的極まりない格好をさせられるなんて私の沽券に関わる。
まぁ…あいつらの急所蹴り上げて病院まで逃げ出してきたからいいものを……どことは言いませんが。
結果的に、格好だけそのままで死ぬほど恥ずかしい目に遭ってる訳ですが。
とりあえず、着替えを済ませ、お母さんのベッドの上で私はあの変態共への鬱憤を再度発散するのです。
「あの変態集団め…なにが『将来絶対に合法ロリになれるから』なの!私はなりたくてこうなったんじゃないんだから!」
「あら、璃々愛は可愛いわよ?」
「それが問題なの!それにその可愛いも幼くてって意味だし……」
「んー…そうねぇ……」
いくら私でも自分の見た目が普通じゃないって事はもう理解しました!認めたくないけど理解させられたんです!
そ、そりゃあいつかは絶対大きくなるに決まってますが…とにもかくにも今この見た目で困ってる訳で、どうにかして大人っぽくならなくちゃいけないんです!
すると、困ったように少し顔を傾けて頬に手を当てていたお母さんは何かを思いついたようにポンとてを叩きました。
「なら璃々愛、髪型を変えてみたら?」
「髪型?なんで?」
「あら、女の子は髪型が変わっただけでイメージが変わるものよ?」
「……えー…本当に?」
「すっごい冷たい目で疑われた!?……と、とりあえずお母さんに任せなさい!」
20分後…
任せた私がバカでした……
「……あ、あっれー?」
「……」
結果
私の髪の毛が5センチ縮みました。
細かい事は私のプライドとお母さんの小さな建て前のため割愛です。
「ちょ…ちょっと待ってね璃々愛。あとちょっとで出来ると思うの」
「私がショートカットになる前に止めてほしいかな……」
まぁ、短くなってしまったものは仕方ないか……お母さんのこんな失敗、もう慣れっこです。
とりあえず私は、お母さんがやりたかったであろう髪型に自分で髪を結っていくことにした。
右の高い位置で髪をまとめて、綺麗に櫛で整える。乱れないように丁寧にゴムでくくりあげれば……
「はい、これで完成」
「わぁあ、璃々愛すごーい!可愛いー!」
「……た、ただのサイドテールだよ?そんなに変わった?」
「えー?璃々愛大人っぽいよ」
「……」
私、一生この髪型でいようかな……
なんならサイドテールの璃々愛ちゃんとあだ名づけられてもいいくらいです。……ダサいですかね?ダサいですよね。
しかし、大人っぽいと言うことは脱、幼女化が成功と言うこと。髪型1つで身の安全が保証されるのなら安いものです。
「じゃあ、そんな大人っぽい璃々愛には……はい」
私がサイドテールの余韻に浸っている隣で、お母さんはゴソゴソと何かを取り出したかと思うと、そっとそれを私の頭に通して首にかけた。
「うん、やっぱりよく似合う!」
シャラン…と、綺麗な音色を立てて付けられたそれは、銀色のチェーンに通った鍵と青い花飾りのネックレスだった。
鍵はアンティーク風の細工がされていて、少し特殊な形をしたもの。青い花飾りはガラスみたいにキラキラ光っていてとても綺麗……
「綺麗でしょ?鍵の飾りはちょっと古いかもしれないけど、花飾りは新しいものだし…そう!青い花飾りはね、ブルーデージーの形なの。ピンクのコスモスのと迷ったけど、今の璃々愛にはそっちの方が素敵。可愛いから璃々愛にあげるわ」
「いいの?」
「うん、お母さんのお気に入りだったやつだから、大事にしてね」
「え…じゃ、じゃあいい。お母さんのならお母さんが大事にした方がいいよ」
私が慌ててネックレスを外そうと手をかけると、お母さんは私の両手をつかんでネックレスを外させまいとその両手をバンザイをするように持ち上げました。
「璃々愛は変なとこで遠慮がちねー誰に似たのかしら?」
「お、お母さん…この格好、私とっても子供っぽくなっちゃってる気がするんだけど……」
病室とはいえ恥ずかしいことこの上ないです。
出来れば…いや、今すぐ下ろしていただきたいです!
「私じゃ絶対にないから…やっぱり匠くんかなぁ?」
「あ、ダメだこれ、スルーするパターンだ」
私が変な意地をはったり、遠慮がちなことを言うと大体このパターンです。
まぁ…私が悪い…のかもしれないけど……それでもやっぱりお母さんの行動は私にはよく分かりません。
「璃々愛」
「なぁにお母さん?いい加減血が溜まってきて痛いんだけど……」
「大切にしてね」
「……?うん…」
本当に…さっぱり分かりません。
※
キラキラ輝くネックレスを光に当てながらぽてぽてと歩いていると……
べちんっ!
「みぎゃっ!?」
「あ……」
あぁあああああああ!?大切にと言われた初っ端からなんかやらかしたぁあああああ!!
盛大に転びました!何もない所で!ネックレスの存続が危ういです!
ドジか私は!ドジっ子か!また変態共が喜びそうですね!こんちくしょう!!
「あの…大丈夫?璃々愛ちゃん……」
「……桔梗さん?」
「ごめんね…目の前で転んだのに助けられなくて」
「いえ…よそ見していた私がバカでしたから……」
とりあえず、這いつくばっていた病院の廊下から立ち上がって、すぐさまネックレスの無事を確認します。
……よし…無傷です。
良かった、これでネックレスが大破していたら物語的な何かが終わってしまう気がします。
ん?物語的な何かってなんだ?
「あれ、璃々愛ちゃん…ネックレス付けたの?」
「はい、お母さんから貰いました!」
「そう…綺麗ね……」
「?」
どうしたんでしょう…なんとなく桔梗さんの元気がないような気がします。
いや…もともと桔梗さんは元気いっぱい!っていうような性格ではないし、どっちかって言うとネガティブ…とか、弱気な性格の人ではあるんだけど……
「……」
「……桔梗さん?」
「えっ?あ…な、なんですか、璃々愛ちゃん?」
「大丈夫ですか?テンションがいつもより低いですよ?」
「えっ、あー…そう見える?」
「はい、世界が滅ぶかもしれないと他のナースさんに言われた冗談を本気にしてしまった時のようなテンションです」
「えっ!?あれ冗談だったの!」
……まだ信じてたんだ。
もはやネガティブって言葉ですむ話じゃない気がする……
でも、桔梗さんはナースさんの中でも若い人だし…何より桔梗さんの感じとか雰囲気から放っておく気にはなれません。
「……桔梗さん、私聞き上手ですよ?」
「えっ?」
「璃々愛ちゃんのお悩み相談所です。フリーダイヤルで通話料無料ですよー」
「……ふふふ…素敵な相談所ですね……」
桔梗さんは少しだけ慎ましく笑って見せるとスッ…と低い私の目線に合わせるようにしゃがみ込んでみせた。
「璃々愛ちゃん、璃々愛ちゃん。私…とっても悩んでるんです……」
「はい」
「私…元々小さな診療所勤めだったから……こっちにきて初めてこんな大きな病院で働くようになって…初めてたくさんの苦しんでいる人達を見たの……」
「……はい」
「それで…不安になっちゃったんです。私なんかがちゃんとたくさんの苦しんでる人達を助けてあげられるのかなって……」
「……」
桔梗さんは、とてもネガティブな人で…よくあわあわと慌てながら怯えたりなんかもしているのを見かけます。
でも…なんだか今、不安そうな表情をしながらも私に真剣にお話しをしてきてくれる桔梗さんは……違いこそあれ、病院という場所でたくさんの人達を思う…格好いいつかさ先生と同じようでした。
だから、私はにっこり笑って返事を返します。
「桔梗さんも…ちゃんと格好いいですよ?」
「か…格好いい……?」
「はい、確かに桔梗さんはネガティブで」
「う…」グサッ
「弱気で」
「うぐ…」ザクッ
「つかさ先生にはもちろん劣りますけど」
「璃々愛ちゃん…既に私が死にそうなんだけど……」
あら…少し言いすぎました。
えっと…そういうことじゃないんです。もっと…こう……
「……そうですね…でもやっぱり、一生懸命悩んで頑張る桔梗さんは格好いいですから。きっと最後はうまく行くと思うんです」
「……うまく?」
「はい。きっと…ううん、絶対たくさんの人を幸せにしてあげれます。それにもしダメでも、変わりに私が幸せでいてあげますよ」
根拠…というほどではないけど、私は誰かの幸せのために頑張る格好いい人達を知っています。
つかさ先生や他のナースさん達、お母さんだってそうだし……とても不器用で、だけど優しかったと話すお母さんをいつも笑顔にしているお父さん。
そして…誰よりも大好きで、誰よりも私を幸せにしてくれた……愛斗。
「大丈夫です。格好いい桔梗さんは大丈夫なんです。私も…格好いい人になりたいから、そう言い切れるんですよ」
「……り、璃々愛ちゃんは…すごいのね……」
「え?」
桔梗さんは目をぱちぱちさせながら驚いた表情で私を見つめていました。
「びっくり…してるの。だって、体の奥からね凄く元気が出てきたんです……だから、璃々愛ちゃんはすごいわ……」
気づけば桔梗さんは、ホッとした…暖かい笑顔になっていました。
桔梗さんの悩みが吹っ飛んで元気が出たのなら嬉しいんだけど……なんだか少しこそばゆい気がする。
「ありがとう。璃々愛ちゃん」
「あ、はい…よかったです」
「私、頑張りますから。それに…璃々愛ちゃんの力にもなりたいですし」
それだけ言ってその場から少し軽い足取りで立ち去ろうとした桔梗さんは、ふと足を止めるともう一度私の方を振り返った。
「あ…そう言えば……璃々愛ちゃんは、格好いい人になりたいんですよ…ね?」
「?はい、そうですよ」
「それって…璃々愛ちゃん、お医者さんになりたいって事…ですか?」
……え?




