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とある少女の約束

「はぁはぁ…もう…やだ……」


シャッター通りになってしまっている商店街を走り抜けて駆け抜けて、邪魔な塀は飛び越えてショートカットする。


「なんで…こんな事に……」


その答えは分かってる。

いや、正しく理解はしきってないんだけど…それでも確信せずにはいられない。

私は再度その確信を確認するために、全力疾走のままチラリと後ろの様子をうかがってみた。


「しかしだな!やはり、りりえるたんにロングスカートは些か邪道ではなかろうか!」

「左様、ロリの真骨頂は露出にありとみた!」

「チラリズムという言葉をしらないのか!それにお前のそれもどうなのだ!スク水ならばまだしも競泳水着などりりえるたんの可愛いさを分かっての所業か!」

「今やスク水など過ぎ去りし物!りりえるたんのちっぱいにはこれこそが――!」

「あぁあああああああああ!?うっさいんですよお前ら!追いかけるならせめて無言で追いかけろぉおおお!!」


もうヤダこの変態変質者軍団!

なんで私はこんな連中に毎日追いかけられなきゃいけないんだ!しかも何ですかそのコスプレ衣装は!着せる気か!着せる気なのか!?着せかえ人形ならおもちゃ売場でお求めやがれです!!


「りりえるたんの可愛さを前に言葉を添えるなと言う方が不可能であろうに!」

「左様、りりえるたんを愛でる時こそ最上級の至福なり!」

「我が生き甲斐ここに見たりぃい!」

「うっさいド変態!蹴られたいんですか!殴られたいんですか!!」

「「「ありがとうございます!!」」」

「喜ぶなぁあああ!!」


ドMも混じってるから余計たち悪いわ!


「イエス・マイ・女王様ミストレス!!」

「ロリの中のロリ!」

「キング・オブ・ロリ!それこそがりりえるたんなり!」

「くっ…こっちが逃げ回ってるからっていい気になりやがって……」


なんやかんや言ってるうちにあいつらの熱は更にヒートアップですよ、あいつらが鈍足なのが唯一の救いです!

ちなみに、さっきから当たり前かのように呼ばれている謎の名前『りりえるたん』。ものすごく…果てしないほどに認めたくは無いのだけれど、どうやら私の事のようです。

そもそもあいつらが私を追いかけ始めたきっかけは私がその『りりえるたん』とやらに似ているからだったらしい。

その『りりえるたん』って言うのがあいつらの(一方的に話してくる)話によれば、普通の小学生のりりえるちゃんが夜になると異様に布面積の少ない衣装に変身して毎夜悪い組織と戦うラブバトルサンクチュアリ(深夜)アニメらしい。

……ラブバトルは分かるんだけど、サンクチュアリって何だろ……なんだか深く考えてはいけない気がします。

女のカンが危険信号を出しまくってます。


「とにかく!いい加減にしてください変態集団め!毎日毎日しつこいんですよ!」


こちとら体力については小学生なんです!もうすでにぜえぜえです!あと毎回その怪しい服をコスプレさせようとするのを止めい!


「はぁ…はぁ……あと…ちょい…」


曲がり角を曲がって見えた白いフェンスに手をかける。

それなりの高さがあるから結構怖いけど……


「ぎゃぁあああああ!?りりえるたん!危ないであります!」

「落ちたらりりえるたんの汚れなき柔肌に傷が!」

「今すぐ我らの元へ飛び込むのですぞ!」


あいつらに捕まるより絶対ましなんだよこんちくしょう!怖いとかそれ以前に近づきたくないんですよこの手の人種は!

怖さを押し殺しながら高いフェンスをてっぺんまでぐんぐんのぼっていき、そのままフェンスの向こう側になんとか着地する。


「り…りりえるたん?」

「ふぅ……さて、変態さん共。このフェンスのこっち側は何でしょう?」

「……びょ、病院であります!」

「決して犯してはならぬ聖なる公共施設でござる!」

「土足厳禁!邪念は病院に持ち込むべからずです!」

「そうです!だから変態さんは立ち入り禁止なんですよぉおおおおだ!!」


ダッとその場から逃げるように立ち去った私は変態集団にあっかんべーをしてみせて、「明日は違う道を使おう」と昨日と同じ決意をするのです。




     ※




「もう!あいつらのせいでまた遅くなった!」


一分一秒でも惜しいのに…こうなったのもぜーんぶあいつらの仕業です!

ぶつぶつと聞く相手のいない文句を言いながら、私は病院の中をお母さんの病室目指して歩き進みます。


「あれ、璃々愛ちゃん。今日は遅いのねー」

「こんにちはー」

「璃々愛ちゃん、今日も元気だねー」

「ありがとー」


何人かのナースさんやお医者さん、よく話す患者さんのおじいちゃんなんかと挨拶をしながらもまだまだお母さんの病室を目指して進むのです。

お母さんに会うために毎日毎日病院に通った私は病院の人達と言葉を交わすようになっていた。

そうして歩いているうちにお母さんの病室の前に到着する。

すると、そこに見慣れないナースさんがいることに気がついた。


「……?…こんにちは……」

「ぁ…こ、こんにちは……じゃなくて…えっと……」


ナースさんはなんだか少し小さい声で自信なさげにだけど、返事を返してくれました。

ナースさんの顔はよく見るととても大人っぽくて綺麗なお顔だった、ナースさんらしく髪の毛をキュッとまとめてるけどしっかりしてるって言うより、クール…?な感じの人に思えなくもないかな。


「はじめまして。あの…私、立花たちばな 桔梗ききょうっていって……」

「桔梗?お花のお名前ですね」

「えっ…ありがとう」

「あれ?璃々愛ちゃん。こんにちは」

「あっ、つかさ先生ー」


唐突に後ろから声をかけられたかと思うと、そこにはいつものように白衣を着てにっこり笑っているつかさ先生がいた。

つかさ先生は今日もかっこいいです!クールでホットであっちちなんですから!


「璃々愛ちゃん今日はちょっと遅かったんだね」

「ろくでもない人種に足止めされてました……」

「へ、へー……って、あれ?立花さん?」

「どうも…先生」

「あぁ、そっか…産休に入った二見さんの代わりでしたっけ」

「はい…それでこちらの女の子は……」


桔梗さんの視線がそっと私に向けられる。

どうやら桔梗さんはお母さんを看てくれる新しいナースさんらしいから私は自分から笑顔で挨拶をしてみせる。


「晴上 璃々愛です。よろしくお願いします!」

「百合菜さんの娘さんだよ」

「あ…はじめまして璃々愛ちゃん。よろしくお願いしますね」

「はい!仲良くしてくださいね」

「わかった、仲良くね」


なんだか、桔梗さんとはとても仲良く出来そうな気がします。

なぜだろうと少し考えるとある事に気がついた。

桔梗さんの落ち着いた雰囲気はどことなく愛斗に似ているのだと……




     ※




ふと、窓の外にある桜の葉がかさかさと乾いた音をたてながら茶色く染まり始めている事に気がついた。


「もうすぐ秋ねぇ……」

「そーだねー」


秋…秋はいいですね。なんていったって読書の秋です。この季節は本を読むのが進ってもんですねー


「それで…璃々愛は何を読んでるの?」

「つかさ先生から借りた本だよ」

「そうなんだ、一体何の本で――」


ベッドの上で後ろから私をぎゅーっとしていたお母さんがそっと私が読んでいる本を覗き込んだ。

でも、お母さんは2、3回まばたきをしたかと思うと小さく小首を傾げました。


「璃々愛…外国の本なんて読めたの?」

「お母さん、全部日本語だよ」


さらりと分からないのを言語の違いにしようとしないでください。確かにカタカナや漢字、英字もなくはないけど、どう見ても日本語の本だという事に疑う余地などありません。


「すごいねー魔導書みたい」

「……」


魔導書…魔導書かぁ……


「でも璃々愛、せっかく秋なんだから他になんか無いの?」

「なんか?」

「だって璃々愛ずーっと本読んでるだもの」

「うーん」


私は…お母さんに会えればそれでいいんだけどなぁ……

なんて思いながらも、何があるかなと考えてみたりする。秋…秋か……

すると、私の頭の中には真っ赤な紅葉もみじが思い浮かんだ。


「紅葉は…見てみたいかな……」

「紅葉って黄色い扇子みたいなやつ?」

「それは銀杏いちょう。紅葉は天狗の葉っぱみたいなやつだよ」

「り、璃々愛…紅葉が見たいの?」

「だって秋って言ったら紅葉かなって」

「そう、でも…病院の敷地に紅葉はなかったかしら」

「あ、そっか……」


そういえばそうだった。

紅葉が無いんじゃ紅葉を見る見ない以前の問題です。見たいなーって思った後に見れないと思うと少しがっかりするものがあります。

別に、紅葉なら川沿いの道なりにたくさんあるから見ようと思えば見れるんだけど……


「お母さんと見れないんじゃ意味ないし……」

「……璃々愛、やっぱり紅葉を見に行きましょ」

「えっ?」


お母さんの言葉を確かめるように私は後ろを振り返った。

いつものお母さんの笑顔だ。


「でも…お母さん入院中だよ?」

「あ、そっか。うーんじゃあ退院したら見に行きましょう」

「退院したら?」

「そう、お母さんと璃々愛のお約束よ」

「その前に紅葉が散っちゃうよ?」

「あら、紅葉は来年も咲くじゃない。あぁそうだ、そうしたらその前に春が来るから桜も見に行きましょう」


お母さんは色んな季節の楽しみを指折り数えてみせると、私の方をむき直してまたにっこり笑った。


「お母さんも…璃々愛がいなきゃ意味ないもの。一緒にいっぱい楽しい事しましょう」

「……約束…だよ?」

「えぇ、約束。そうだ、指切りしましょうか」


私とお母さんはお互いの小指を絡めると静かな病室の中で指切りげんまんをしました。

私は嬉しくて、嬉しくて…なぜか泣きそうになって……でも心はとても暖かい。そんな気分でした。

お母さんとの約束があれば、私は笑っていられるんです。




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