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それは小さな彼女の奮闘記。

彼女の…何を知っていると言うのだろう?

好きなもの?嫌いなもの?それは知っている。

家族の事?昔の事?それも聞いた事はある。


でも…どれだけの事を聞いたって、心の中が見えるわけじゃない。

全部を知りたくても、それが出来るわけがない。


けど…知らない事と知ってしまう事。一体どちらが辛く、痛いのだろう……


「……」

「……もう一回言ってごらんなさい?」

「いや…もう3回目……」

「い・い・か・ら」

「……だから…」


癖のある真っ赤な赤毛に触れると、彼はあきれたような声で俯きながらに少しずつ言葉を出していく。


「俺はこいつに、す…きだって言っただけなんだよ……」


……異様に、動悸が早い。

それと同時に重苦しさと息苦しさが体中を巡っていった。

その言葉がまだ頭の中に響き続けているなか、俺は少しだけリリアの方に視線を向けていた。

ぐったりと横たわる彼女は、涙と不安定な様子からその危なっかしさが、意識が無くともうかがえた。

その全てから鋭い痛みを感じずにはいられない。


あと、それもあるが……


(アルト……お前……ぶはっ!)

(しまったわね…こんな事なら女の子に対して優しくさせるだけじゃなくて、消極的な所もどうにかすれば良かったかしら……)

(仕えている身として、深くは踏み込みませんが…なんといいますか……痛々しい……)

(わ、私はメイド私は私はメイド私はメイド私はメイド私はメイド私はメイド私はメイド私はメイド――)


……全員でその冷ややかな目を向けるのを止めろ――!鋭い痛みを感じる原因はこっちか?こっちなのか?

あと、とりあえず確実に後でエルは斬る。


そんな事を考えていると、内心(あの人の息子じゃ仕方ないわねぇ…はぁ、やれやれ……)と、内心どころか外までだだ漏れした諦めの感情を、とりあえず一旦押さえ込んだ母さんは赤毛の少年に向かっていくつか質問を繰り返し始めた。


「ユウくん……それはつまり、恋愛的な意味で?」

「恋愛的な意味で」

「付き合っちゃう感じの?」

「付き合っちゃう感じの」

「リリアちゃんのあまりの可愛さにくらくらしちゃってうっかり漏れた、で回すような意味での好きではなく?」

「……はっ?」

「一線も二線も超えた関係になりたいとか……」

「奥様。だんだん論点がズレています」

「はっ!?まさかリリアちゃんみたいな小さい子が好きな幼女しゅ――」

「やめい」


ベシッと、激しく暴走し始めた母さんの頭を軽く叩いて静めさせる。

この母親は……お願いだから俺にもう少し感傷的になる時間をくれないだろうか。

お陰で悩むこともなくなったのだが……


「まぁ、確かに深く追及したい気持ちはわかるけど、今はそれが問題じゃないからねぇ。

問題は…なんでリリアちゃんが君の好きそれでこうなったか…だからね」

「……それは…――」


再びやってきた刺さるような痛みに、耐えるようにぎゅぅうっと組んでいた自分の腕を強く握る。

しかし、彼が言葉を口にしようとしたその瞬間。

バタバタした足音が聞こえたのと同時に部屋の扉が少しずつゆっくりと押し開かれた。


「……おにぃ…ちゃん……」


普段は白いその頬を真っ赤に染めながら、息を切らした姿で現れたルウはその両手いっぱいに沢山の瓶を抱えていた。


「…ルウ……?」


見れば、それらの瓶は全て薬品や薬剤の入ったものだ。

そしてルウは、その海色の瞳にあふれんばかりの涙を浮かべながら、小さな足取りでよたよたと俺の前に近づいてきた。


「お兄ちゃん…リリアお姉ちゃんはびょーきなのですか?ルウ…お薬いっぱい探してきたの。だから……」


泣き出しながらも必死に笑ってみせるルウは視線をリリアに向けると、すがるような…不安な表情になった。

ルウもリリアが心配で、それ以上に必死だった……


「リリアお姉ちゃん…しんじゃわないよね……?」

「………死なないよ。リリアのこれは…きっと薬で癒えるものじゃないけれど……」


でも…リリアの命までも奪わせる気は絶対にない。それだけは言い切れた。


「……じゃあ…ルウはどうすればいいのですか?リリアお姉ちゃんはルウがびょーきの時いっぱい優しくしてくれたのです。だから…今度は…ルウががんばゅ…って……」


消え入りそうな声の中。ゴロっとルウの抱えていた小瓶がいくつもルウの腕の中からすり落ちて、結局すべての瓶が柔らかい絨毯の上を無気力に転がっていった。

俺はルウの目線に合うように片膝をつくと、ポタポタとこぼれ落ちるような涙を流すルウの頭をそっと撫でて。静かに自分の額をルウ額にくっつける。


「ルウ…泣かなくていい。薬よりも、今リリアを助けてあげられるのは…他でもないルウ自身だから……」

「ルウが……?」

「ルウが、一緒にいてあげることだよ」

「…ぅ…ぇ……ぁああああ……!ああぁあああ……」


その言葉を聞いてルウは大きな声で泣き出した。そんなルウの小さな体をぎゅぅうっと抱きしめると、俺は涙で服が濡れるのもかまわずにすがり泣くルウの体を抱きして、そのまま抱き上げるようにゆっくりと立ち上がった。

真っ赤になった顔を見つめながら、小刻みに震える背中をリズムむよく撫でてなだめる。


「アルト……」


不意に名前を呼ばれルウを抱え上げたまま振り返ると、母さんが優しく微笑みかけながら「変わる」といいたげに両手を前に出していた。

その表情はやっぱり母親で…俺は無言で腕の中にいたルウをそっと受け渡した。


「ひっく…おかぁ…さん……」

「ルウ…だいじょうぶ、だいじょうぶ……」


母さんに優しく抱かれ安心したのか、ルウの泣き声がゆっくりと収まってきた。

すると、その会話を黙って聞いていた赤毛の少年は少し驚いたような表情を浮かべるとポツリとこぼれるような言葉を出した。


「……リリアは…なんで拒絶したんだ……」

「……なんで…とは?」

「リリアは愛なんてないっつってた。あったとしても、自分には関係ないって拒絶した。なんで……」


全員と目を合わせるように辺りを見回した彼は最後に悔やむような顔を少し俯かせる。


「ここに…あるのに……」


愛が…ない。……彼の言う通り、それはきっとここの事じゃない。

それは…リリアがかつていた場所……


「ここにある…か。確かにそうかもしれないけど…私達がいくら思っても届いていないのかしらね……」

「届かねぇって…家族なんだろ…!そんなこと――」

「家族じゃないんだよ」


その言葉に俺達が一瞬何も言えなくなったその時、この中で最も立場の違うエルがいつもと変わらない様子でそんなことを言ってみせた。


「ここにいる誰一人として、リリアちゃんと明確な繋がりはないんだよ」

「……リリアが…?」

「少し見れば分かるでしょ?誰もリリアちゃんに似てないし、近くない」

「ぁ……」

「だからさぁ、君が思っている以上にリリアちゃんは影が…あるんだよ」

「……」


シンッと、途端に静かになった部屋の中は息をするのも重苦しくて…それはきっと今までどこかに置きっぱなしにして考える事をやめていた、俺達とリリアの…関係の報いなのだろう……




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