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門前市を成したなら。

「……リリア?」


「アルトー、そっちはリリアちゃんいたー?」

「ぇ…いや、いない……」

「向こうにもいなかったよ。どうやら、騎士団こっちには来てないみたいだね」

「あぁ……」


ギュッと服の裾を少し強く握ると、強風でガタガタと音を立てている窓にそっと視線を向けた。

騎士団の二階の窓からはどの窓も大体正門が見えるようになっているけど、強い吹雪のせいでぼんやりとしか確認出来ない。

もし…こんな屋外にリリアがいるとしたら……


「やっぱり、もう一度外を探してこよう」

「……出来れば、この雪で足止め食らってるだけであってほしいけどね」


隣にいたエルがいつもよりおぼつかない笑みを浮かべていた。

もう…じきに夜になる。

それなのに、どこに行っても、誰に聞いてもリリアは見つからなかった。

不安と焦りが募って、気持ちが落ち着かない……こういう時はきまって良くない事が起きてきた。出来ることなら、気のせいだったと終わればいいけど……


(……あれだけ合わせる顔がないとか、会いづらいだとか思っていたのに…会えないと思うと、会いたいと思うのか……)


とても厄介な感情ものだ。

でも…何よりも手放しがたい。そんな感情だった。




     ※




王宮騎士団。

そこにある大きな門の前に付いたとき、必死に走って真っ白になった頭ん中が少しずつ落ち着き始めた。


「くそっ…大分時間がかかった!」


時間的には夕方くれぇにしても日が沈むのが早い季節からもう辺りは真っ暗だ。

ずっと握ってたリリアの懐中時計を支えたリリアの体越しに確認しようと手をかけた。

寒さからか恐怖からか、小刻みに手がふるえて上手く開けられねぇ。

3回くらい失敗した辺りで諦めようと小さく思った。


「とにかく今はどうやってリリアを…リリアの事をちゃんと知ってる奴を探すか……」

「…ん……」


リリアが…動いた?気のせいだとも思えるが、確かに小さく動いた気がする。さっきまでずっと涙はどんどん流れ落ちて止まらねぇくせに殆ど動かなかったリリアが?

いや、でも。動いたっつーより、何かに反応したみてぇな――



「……リリア?」


「えっ……?」


ガシャンッ!と、握ってたリリアの懐中時計が、俺の手からすり抜けて地面に落ちる音がする。

止まってんのかと思えるような、ゆっくりに見える雪の間からその姿を見た。

金の髪に、青い目。

一瞬女かとも思ったが、着ていたその服装で気が付いた。


青が基調の服に少しの金の装飾…王宮騎士団の…制服だ。


「――リリア?!」


突然、そいつはリリアの名前を声を上げて叫んだと思ったら、リリアの意識がねぇ事に気付くと必死で詰め寄ってきた。


「どういう事だ!なんでリリアが……!」

「そんなの……俺だって分かんねぇよ!」

「じゃあ――!!」

「はい。アルト、ストーップ」


グンッと、さっきまですぐ近くにまで詰め寄ってたそいつのとの距離が急に離れたかと思えば、さっきとは違う騎士団の奴がそいつの肩に手を起きながら俺とそいつを引き離してた。


「焦るのは分かるけどさ、君が焦って良かった事なんてないんだから」

「……っ!…悪い……」

「まぁ、でも。リリアちゃんの為に焦ったってなら男としては合格」


そう言って、そいつは金髪の奴の肩をポンっと軽く叩くとリリアを抱えたままの俺の前に立った。


「ねぇ、君は誰?リリアちゃんの…何?」

「あんたらは……?」

「仲間」


……仲…間……


「…かなぁ?まぁ、俺はね。あと、人の質問にはちゃんと答えようか。こっちもこれで内心苛立ってんだから……」


その笑顔にゾッとした。

そうとしか言い表せないものを見たんだ。


なんで…笑顔なのに怖がってんだ俺は!?


「エル…もういい。落ち着いた」

「本当ー?んじゃ、頑張って。リリアちゃんの事は、お前の事なんだから……」


リリアの事が…こいつの事?

じゃあ…こいつは一体リリアの……


「名前とか、関係とか、今はどうでもいいよ。とりあえずリリアの状態は?」

「あ……い、息は…ある。ちゃんと心拍もある。でも…後は分かんねぇ……」

「怪我も無い。病気は…あぁ、殆どならないって言ってたっけ」


さっきとは反するみてぇな…やけに落ち着いた口調で淡々と話すそいつの表情は……それでも焦りと戸惑いを隠し切れてなかった。


「分かった。とりあえず、一体家に連れて帰ろう。君も、リリアもずぶ濡れだし、急いだ方がいい……」

「だろうね。今リリアちゃんを診れるのは…君んとこのメイド長さんくらいか」


助…かる……?

やっと……リリアを助けられる……!


俺は、グッと足に力を入れてそいつらの後を急いでついて行った。

でも…まだ俺はリリアに助けられたままだ。

リリアは俺に「味方」だっつって、本当に俺を助けてみせた。俺はリリアを騎士団ここに連れてきただけ……


「まったく…なんで嫌な予想ばかり当たるんだ……エル、急ぐぞ」

「ほら、君も早く早く!」

「……あぁ…」


……自分の力の無さ…痛い。




     ※




「リーリーアおねーちゃんは、まだなのですかぁああああああああああ!」

「あはは……ルウちゃん様ーそんなだだこねてるとリリアに嫌われちゃいますよー…」

「ミキくんのその言葉はもう5回目です!いくらおとなしく待ってもリリアお姉ちゃんは帰って来ないじゃないですか!」

「あっれー…そうでしたっけー?」

「そうなのですよ!」


んー…5歳児に足蹴にされる16歳って本当どうなんだろ……ルウちゃん様だし今更文句なんて無いけどさ。僕の扱いが大分雑な気はするんだよなー……


「はぁ…ご主人ーもう僕じゃどうにもならないですよ……これじゃあ単なるサンドバックですよ」

「うるさいのです!ミキくんなんてサンドバックがピッタリです!ぐるぐる巻きにしてつるされてればいいんです!」

「怒りの矛先が僕に向きすぎじゃないですかー?」


でもまぁ、さっきからだけど、ルウちゃん様の弱いパンチじゃぺちぺちと音を立てるだけで全く痛くない。


「あの…ルウ…様。ご主人様の事ですし、きっともう直ぐ帰ってきますよ」

「つーん、です。ルウの名前を間違えるシノなんて知りませんです」

「あ……え、えっと…ルウ?ご、ご主人様ならもう直ぐ帰ってくるはずです…きっと……」

「……でも…リリアお姉ちゃんのお休みは明日までなんですよ?そんなの…ルウは寂しいのです……」

「でも……」

「うぅ…もっとリリアお姉ちゃんと一緒にいたいです……」


うるうると今にも大きな目から雫が落ちてきそうなほど寂しそうな表情だった。

やれやれと思いながらも、僕もシノちゃんもルウちゃん様を無理矢理大人しくさせようとは全く思わなかった。

一緒にいるのも楽しいし、寂しがり屋のご主人様にずっと付き合っていたかった。


「ご主人にも頼みましたし、きっと連れてきてくれるとは思うんだけどなー……」

「……」


不意に、隣にいたシノちゃんが振り返ったかと思うと、部屋の扉をジッと見つめだした。


「シノちゃんさーん?どうかした?」

「……」


そうして、確認するように見たシノちゃんの姿は…小刻みに体を震えさせながら、驚いた表情で真っ赤な目を更に真っ赤にして見開いていた。


「シノ……?」

「……ご、ご主人様が――!」

「!?、シノ!どこに行くのですか!?」

「ちょっ、ルウちゃん様も!」


突然、ダッと走り出したシノちゃん。そうしてそれを見たルウちゃん様と僕はその後ろを必死に追いかけた。


ふらつくような…それでいて速い走りを、シノちゃんはフローリア家の大きな玄関の前で止めた。


「ちょ…いきなり何が……」


そう言いかけた時。不意にその扉が開き、その向こうから現れたご主人にシノちゃんは大急ぎで駆け込んだ。


「ア、アルト様!ご主人様は…!!」

「シノ!?」

「今…私能力が――!?」


更にその奥から現れたその姿に僕達は息をのんだ。

僕達が待っていたのとは違う…ぐったりとしたまま抱きかかえられたリリアの姿……


「えっ……なんで…!?」

「やっぱり……!」

「リリアお姉…ちゃん……?」


時が…止まったような、動いたような、そんな感覚だった。




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