曇天と暗転。
「ファイさんはどうして私を選んだんですか?」
ファイさんに戦いを教えてもらい始めた頃。私はファイさんにそんなことを聞いたことがある。
「あぁ、そうだな。そういえば明確に何故リリアなのかは話していなかったな。分からないままじゃ強くなるにしても不安か?」
「いえ…そういう訳ではないんですけど……ファイさんなら私よりもっと強い人が喜んで教えてもらいに来るくらいですし」
「強い奴など教えでもつまらないじゃないか」
「…………はい?」
「確かに私は、リリアに戦う相手になってほしいとは言ったさ。だが、私は教える段階ですら楽しみたいんだよ。初めから強い奴を強くしても私は楽しくない」
「いや、まぁ…私は確かに弱いですが……」
「リリア、君はただ弱いだけじゃない。可能性がある」
「可能性?」
「あぁ、それも人一倍にだ。勿論リリアにすでに備わっている基礎技術もそうなのだがな、君の蹴り技はなかなか面白いよ」
「あはは……」
「でも、リリアの可能性はそれ以上だ。そうだな…簡単に言えば、人が強くなる上で必ずあると言っていい程の停滞や低下の現象が君からは予想出来ない」
「私…そんな大層な人物ではないと思うんですけど……」
「うーん…なんというか、これははっきり言えば私の直感の上での物だからなぁ……とにかく!リリアは成長出来る、どこまでも深く広くい可能性…そう、まさに人一倍。まるで1人分以上あるかのような可能性がリリアにはあるさ!」
「んー…なんかまるで、やれば出来る子ねとあやされている気分なんですが……」
「あぁ、そうだ。それがいい」
「えっ?」
「リリアの力は『やれば出来る子』だ」
ファイさんの表情は笑顔でした。
※
左上から下へ。振り下げてからはそのまま右から左へ水平に、剣の動きに集中すること。
「相変わらず…随分頼りない力だなぁ……」
ふと、小さく呟いたけど直ぐに戦う事に切り替えて、目の前の敵に集中し直す。
この攻撃をよけたらがら空きの懐を下から思いっきり……蹴り上げる!
「――がッ!?」
「蹴りを入れても直ぐに止めない。一度の攻撃のチャンスは使い切ること!」
動きが、軌道が、反応が、全部…分かる。解ける。
あぁ、もう…さすがとしか言いようがない……やっぱりファイさんは、私達の長官さんは、『強さ』において圧倒的だ。
「っ!?何故お前なんかが強い!何故俺達が勝てない!」
私とこいつとの戦いは、おそらくまだ数分も経っていない。
そもそも数分も、ましてや数十分も経ってたりしたら、私の体力が持たない。
だから、ファイさんが私に教えたのは速攻的で攻撃特化の戦い方。相手の攻撃は最低限流してその力を使ってまた攻撃する。
あぁ、三下モブキャラにはどうでもいっか。
「私はあなたより速い人を、強い人を、性格が悪い人だって知ってんですよ!!ついでに怒りもMaxだぁあ!!!」
ちなみに戦い始めてから三下台詞しか吐かなかったよこいつ!そりゃ負けるわ!!
そう思いながら今日一番の蹴りをリピート男に食らわせた私は、そいつの後ろでそれを待ちながら構えていたユウに笑みを浮かべながら声を上げた。
「ユウ…こいつに、こいつらに見せつけてやってください!」
「んなもん、当たり前だ!!」
振り上げられた木刀はきっと、今までで一番重い。ユウが振り下ろすより早く、私はそう思っていた。
※
事後処理というのは以外と早く終わるらしく、リピート男も私を監禁してた場所でのびていた腹黒ショタも雲を霞とのごとく消え去って行った。
平和…と言うか静かになったいつもの場所で、私達はある意味いつも通りに戻っていた。
「いいじゃないですか、いいとこ取り出来たんですから」
「いいとこ取りゆーなぁああああああああ!!俺がダメな奴みてぇだろ!ふざけんな!!」
あーうるさい。
「分かりました、分かりました。今回は全部ユウのおかげですよ」
「それはそれでムカつく」
……面倒くさっ!
でも、私は大人で心の広い女性だからそんなことは表に出しませんよ。ふっ、私ってば謙虚。
「てかお前もお前で1人で脱出とか……お前実は人間じゃないとか言わねーよな?」
「当たり前だぁああああああああ!!喧嘩売ってんですか!買いますよ!!」
「買うなよ」
やっぱ、謙虚無理。
「大体ですね、あなただってさっきから十分おかしいんですよ!」
「…………はぁあ?い、意味わっかんねーし!」
「……こっち見ろよ」
なんでさっきから終始明後日の方を見てるんですか。
一応私ユウを助けた立場なんですが?なんですかその態度、反抗期ですか。この年中反抗期め。
「はぁ…何を怒っているかは知りませんが、もういいじゃないですか、あいつらはもう戻ってきませんよ」
モブキャラのチンピラってのは基本的に逃げたらお役目御免だし、何より戦いの最中に数え切れないレベルで死亡フラグを言い続けた三下の中の三下に再登場はありえない。マジで。
「だから――」
「よくねぇよ!」
そう声を上げたユウの顔は逸らされていてよく見えなかったけど、それでも、ユウを取り巻く雰囲気は暗いもので。そして、その静寂した時間はたとえ短くても耐え難いものだった。
「……私に助けられるのは迷惑…でしたか?」
「そうじゃない…ただ――」
そういってなお顔を背けながら表情を曇らせるユウは、悲しそう…というより、どこか悔しそうなものだった。
「ただ…格好悪ぃんだよ……」
「…………え?」
「俺が…お前があいつらに捕まったって知ってどんな思いだったと思ってんだ!死ぬほど心配して、不安で……だからお前が現れた時すげー安心した。でも、それ以上に悔しかったんだよ!俺は…お前の為に結局何にもできなかったって……」
ぎゅぅうと、心臓を掴まれたかのようだった。
でも…なんでだろう。ユウの言葉が、少し嬉しく思えてしまった。
私はあの時ただただユウを助けたいって思ってた。心配だったのは、不安だったのは私も同じだ。ユウも同じだったんだって、思ってもいいのかな?
私は少し深く息を吸って、まだ私を真っ直ぐ見ようとしないユウに対してゆっくりと微笑んでみせた。
「目を…逸らさないでください」
「っ!でも……」
「悔やんでるユウなんて似合わないです。それに、ユウが何もできなかったって言うのなら、私は今ここにいませんよ」
「…?どういう意味だ?」
「ユウは、ちゃんと助けてくれましたよ。だって、ユウが私が監禁されている間あいつと戦ってくれてなかったら私は…あいつらに何をされていたのか、想像するのも怖いです」
異端者について少し知ってしまった今は…なおのこと……
左手で右腕をぎゅっと握りしめると、少しだけ怖い考えが薄れた気がした。
「だから…助けてくれて、守ってくれて、ありがとう。ユウ」
そう…私が言った時。ようやくユウの視線が私の視線と合わさった。
その瞬間のユウの表情は驚き…そして、ほんの一瞬だけだけど確かに笑顔だった。
「……ありがとう……」
「はい、ありがとうです」
「っ――!お前は…いっつも俺の予想の斜め上をいくんだな……」
そうしてまた顔を逸らされてしまったけど、視線だけはちゃんと私と合っていた。だからか、私は少し声を上げて笑っていた。ユウも笑っていたと思う。
「……て、てか!お前はボロボロつーか、ボサボサになっちまったな」
「あー…結構派手に立ち回ったから……」
この話題はもう終わりと言わんばかりにユウがそう切り出した。
よく見れば私の体や服のあちこちには埃や煤、土や草が付いてしまっていた。
まぁ、付いてしまった物は仕方ないのでパッパッと払える所は払っておく。
「お前…頭も草だらけで…――!」
ピタッと、私の帽子に付いていた草や葉っぱを払ってくれていたユウの手が、唐突に止まった。
その動きに私が首を捻っていると、ユウの手がスッと戻り私の目の前に持ってきた。
「これ…お前のじゃねぇか?」
「……あっ!?」
一瞬何かと思ったけど、ユウの手に置かれたそれを見て私は直ぐに声を上げた。
それは、4つのハートに別れた葉…私がずっと探していた4つ葉のクローバーだった。
「ふぅぁああああああ!見つかった!見つかっちゃったよ!しかもこんな所にこんな見つけ方…何これ凄い!!」
「こんな風に見つかるか…普通」
これでルウちゃんの誕生日プレゼントがどうにかなる!ルウちゃんのお誕生日会は明日で今日見つかったって事はギリギリ間に合った!なんか凄い運使っちゃった気もするけど!
なんて思いっきりハシャいでいる私の横で、またユウが顔を逸らしていたのに私は気づかなかった。
「終わり…か……」ボソッ…
「え?なんですか?」
「……いや…別に、何でもない…筈だ……」
「?」
なんだろう、またユウとの視線が合わなくなった気がする。
「あ、そうだ。そういえばユウが昨日言いそびれた事って……」
空気を変えようと昨日の事を聞いた私は、その刹那…見開かれた目と驚いた表情のユウの口から小さく零れた音を聞いてしまった。
「好き…なのに……」
全てが…止まるかと思った。
「…………ぁ…」
声が、うまく出せない。
それでもゆっくりと息を整えてなんとかもう一度ユウに言葉をかけた。
だって、言われた私より、なぜなか言ったユウの方が私以上に戸惑っていたからだ。
「ユ…ウ……?」
「えっ?」
「……な…なにを言っているんですか。からかうような事を唐突に言わないでください」
私は精一杯笑って言っているつもりだったけど、多分顔は引きつってしまっていたと思う。
「からかう……」
「あ…私……もう帰りますね」
ユウに背を向けその場から立ち去ろうと、逃げ去ろうとした私をユウは……その腕を掴んで引き寄せた。
ユウと触れ合う程近くに引き寄せられた私は驚いた表情を隠せないまま静かにユウの顔を見た。
ユウのその顔は真っ直ぐで、揺るぐことのない…真剣なものだった。
「……ユウ…」
「からかいじゃない…唐突な事じゃない。っ!!言葉にしてからようやく気付いた……」
「気付いたって……」
「これは俺の…本当の、ちゃんとした気持ちだってだよ」
「ちょ、ちょと待ってください!好きだって……言ってるみたいですよ?」
「そう…言ってる」
「……そりゃあ、私だってもうユウの事が嫌いな訳じゃ無いですけど……人としての好き…ですよね?」
「違う」
軽く首を横に振って私の言葉を否定したユウを見て、私のどこかがざわつく。
ユウに握られた腕が、妙に痛かった。
「リリアが好き…だ……それは…恋愛感情としてだ」
「恋…愛……」
恋愛感情…つまり、愛情……
「だから――!」
「やめて!!」
ユウの言葉を聞いてから突然頭痛が酷くなってきていた。
それを感じたくなかったから、痛む頭を掴まれていない方の手で抑えながら、私はこれ以上その言葉を聞きたくないとばかりに声を上げていた。
「なんでいきなりそんな事言うの?!そんな嘘なんていらない!」
「っ!?嘘な訳ねぇだろ!俺がお前を…リリアを好きな事を嘘にするな!疑うなら何度だって言う。俺はリリアが好きだし、その好きは愛しさだ!!」
「愛なんて…そんなの無い!あっても私には関係ないよ!!だから――」
ピッ、と。
頭の奥でそんな音が連続的に響いていく。
同時に、私は真っ赤な顔で叫んだ。
目には……涙を浮かべながら。
「私に…もう愛情を向けないで!!」
ピ―――――
と、その無機質な機械音は、私の視界を、意識を、心を……真っ暗に…していった。
「っ!?リリア!!」
私の名前を呼ぶユウの声を最後に、私の体は崩れ落ちた。




