ヒーロー・ヒロイン。
あぁ…思い返してみれば、こいつらに始めて会った時にモブキャラって言ってたんだっけ、私。あれはただ単に名前も知らなきゃ誰だよ状態だったからそうカテゴリーしたわけなんだけど、あながち間違ってはいなかったみたいだ。
モブキャラ…モブキャラだったんです。それも三下の悪役のです。
そう、例えば不良に絡まれてるヒロインを助ける主人公の話があるのなら、こいつらはその絡んでいる不良程度の人間だったんだ、チンピラなんだ。
詰まるところ、こいつらにしてやられたユウはそのヒロインと言った所か。
……まぁ…モブだろうがチンピラだろうが私の気は…よくないけど。
「あなた達は……」
「んー?」
「あなた達は、自分の利益なんてものであんな事をしたんですか……」
「あんな事ってー?んー?君を誘拐した事ー?」
「……」
心の片隅に…置くこともしないのか……
悪役モブキャラなんてそんなものなのかな。
自分の頭で考える事もしないで、倫理に抗う事でしか進むこともしないような……あぁもう、本当に…腹が立つ。
私は下げていた視線をスッと上げてみせると、真っ直ぐに…それでいて冷たく静かな視線を目の前にいるそいつに向けた。
もちろん、そこにある感情は怒りだ。
「いい加減にしてください」
「はー?」
「あなたみたいなのが利益がどうとか振りかざすのも大概にしてください。あなた達は先の事から目をそらしてただ漠然と生きているだけです」
自らの意志を持たず、誰かの意志も考えない。
ただ、倫理から外れるという簡単そうで明確そうなことを行うだけ。
そんなの…人間じゃない。
「ユウは違う。ユウは…確かに弱かったけどあなた達なんかとは比べものにならないくらい人間らしいんです。悩んで後悔して…それでも頑張りたいと思う、頑張ろうとする」
意志を持つ事を止めない。
考える事を止めない。
進む事を止めない。
正しい命の使い方を…いつだって悩み続けるんだ。
「だから、そんなユウに考える事も、人間らしく生きる事も放棄したあなた達が手を出すんじゃない!!」
そう叫んだ刹那。私はその場から一瞬の内に立ち上がると、力任せに床を蹴って大きく振り上げたその足を目の前の敵に向かって蹴る。
「なっ!?」
勢いよくそいつに当たるはずだった私の足は、寸前の所でよけられそいつがその直前まで座っていた木箱に当たった。
バキッ!と大きな音と共にその木箱は蹴りが入った所から激しく壊れていく。そんな私の行動を見て、私の蹴りをよけた腹黒ショタは驚きと焦り…そして訳が分からないとでもいいたげな表情で私を睨みつけていた。
「ちょっ――はぁあー?!君は…監禁されてたはずなんだけど!?」
「監禁?何甘っちょろいことを言ってるんですか?」
そう言うと、私はついさっきまで私の手足を縛り付けていた縄を見せびらかすように取り出してみせた。そして焦った様子の腹黒ショタの前にもう必要ないとばかりに投げ捨てる。
縄抜けなんて縛られる時に暴れるフリでもながらバレないように隙間を作れば誰だって簡単に出来る。しかもまぁ、ご丁寧と言うか雑にというか単純な横結び…こんなの私なら隙間がなくたって抜けられますよ。
「あなた達の誘拐は穴だらけなんですよ、このド素人が。モブキャラじゃ私を誘拐なんてできるわけがないでしょうが!」
「――っ!?チッ!」
再び勢いよく床を蹴ると2人の距離をいっきに間合いを詰める。
そして腹黒ショタが自分の武器を手にしようとするよりも一瞬早く、その手と剣の両方を蹴り上げ相手も私と同じ何も持たせないまま、拾わせる間もなく攻撃をしていく。
狭い倉庫の中、かなり近距離の接近戦……私にとって最高の舞台だ。
「私を誘拐しようなんて百年どころか一万年早いんですよ」
※
曇天模様の空の下を、私は自分の出せる精一杯の速さで駆け抜けていた。
そして、ふと思い出すように呟いてみせた。
「たく…手足の拘束は縦結びが基本でしょうが」
大体、誘拐しようってのにとりあえず拘束しとけって愚直な考えがそもそもダメなんですよ。誘拐したけりゃとりあえず意識を無くさせろってのなんて素人でもわかるんですよ。
まぁ、だからあいつらはド素人なんだけど……
「……あれ?なんか私の考え可笑しくないか?」
というか普通の女の子が脱走直後に考える事じゃ絶対的にない。
いや、そもそも普通の女の子は誘拐されて1人脱走はしないんだろうけど……多分物語とかだとヒーローとかがカッコ良く助けてくれたりする場面なんだよね。だからこの場合……
…………よし!叶いもしない夢を持つのは止めよう!素直に諦めようか私!多分助けられるより自分で抜け出した方が速いし効率的とか今結論ずいちゃったから!!あとあのユウが助けに来るのは多分無理だから!
「それに…どっちかっていうと、私は助けられるより助けたい――」
そう小さく声に出したその刹那、私の視界には私の目的であった場所が、そこにいる2人が写り込んだ。
そこにはいつもの川沿いの道で剣と木刀を構えながら向かい合っているユウとリピート男……訂正、三下チンピラモブキャラの、ちょっとセンターに立ってる奴で。
とにかく、そんな2人の様子は明らかに穏やかなものではなかったのだけど、私はそんな事よりもユウの姿を見て息をのんだ。
気絶させられていたから私がここに来るまでにどれくらい経ったのか分からないが…何時間ってレベルだとは思う。
それだけの時間、ユウが滅多うちにされて倒れていないのは修行の成果やユウの努力のおかげなのだろう。でも…剣と木刀じゃ殺傷能力に差があまりにもありすぎる。
詰まるところ、ユウの身体にはいくつもの怪我や傷があったのだ。
「――」
そこから私の思考は一時的に止まり、自分でもどうしようとしているのかよく分からないまま動いていた。
気づけば私の体は一瞬の内にその場から離れ、次の瞬間にはそいつに向かって背後から思いっきり蹴りを入れていた。
「モブキャラはいい加減引っ込んでろ!!」
「!?」
相手が振り返る間もなく盛大に繰り出された私の攻撃は当たりこそすれ一撃必殺にはならなかった。蹴りを入れられて倒れそうになったけど、元の場所から数歩動いてどうにか持ち直した感じだ。
蹴りをかました私はユウとそいつの間に立ち、突然攻撃を仕掛けてきた私をギリっと睨みつけているそいつ(三下チンピラモブキャラの、ちょっとセンターに立ってる奴…だっけ)を同じように睨み返してみせた。
「――っ!リリア!?お前なんでここにいんだよ!てか、監禁は!?」
「ユウを助けに…来たことになるのかな?低レベルな監禁は抜け出しました」
「……!……お前…やっぱり変な奴……」
「失礼な、私はいたってノーマルな女の子ですよ」
「普通すぎないくらいには普通じゃないな……一体何者なのかと気にならざるを得ないくらいに気になる」
そう言って、体勢を持ち直しながら変わらずこっちを睨みつけている三下チンピラモブキャラの……もういいや、リピート男で。
とにもかくにも、私はそいつの言葉に対して、いつもより数段大きな声で告げてみせた。
「正義の味方とでも言いたい所ですが、残念ながら私は今休暇中です。……しいていうなら、今の私はユウの味方です!何か文句がありますか?!」
「――!」
「前とは雰囲気が違うな、違いすぎる程には違っている」
「これでも久しぶりに…本気で怒ってるんですよ」




