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人を見た目で判断してはいけなかったのです。

「おかーさん!」

「おかえりー、璃々愛」


ポフっと、私はお母さんの白いベッドの上に飛び込むとお母さんに「遊んで遊んで」といった雰囲気の笑顔を向けてみせた。

けど、お母さんは悲しそうに笑うと、私の頭を撫でながら申し訳無さそうに言った。


「ごめんね、璃々愛。もう…遊ぶ事は出来ないの」

「なんで?なんで遊べないの?いつまで遊べないの?なんで…お母さんが謝るの?」


私の質問攻めの状況に、お母さんは変わらず悲しそうな笑顔のままぽつりと呟いた。


「だって…璃々愛は1人でしょ?」

「え……」


その刹那、バンッ!という電源が落ちるような大きな音とともについさっきまで乗っていたベッドも、家の壁も、お母さんの姿も、何一つ見えない真っ暗な闇が私を包んだ。


「ぁ…っ…!?」


右も左も、上も下もない真っ暗闇の中。

闇の中だからなのか恐怖からかなのか、気づけば私の声は出なくなっていた。

心臓が駆け抜けるように高鳴って、ガクガクと震える足ではもう立っていられない。


「     !」


声にならない、空回りし続ける声で叫んでいた私の身体を、その真っ暗な闇は徐々に蝕んでいった。

まりで真っ暗な虫が体中を這うような気持ち悪さが足元から襲ってきたかと思えば、私の両手も先の方からどんどん闇に消えていく。


「   !  !!」


怖い…怖い!

なんで?なんでこんな事になったの?

分かんないよ…全然分かんない……分からないのが怖い。

私は……本当に生きてるの?




     ※




私は…夢を見た。この季節になるとよく見ていたが、こっちの世界では初めてだった。

目が覚めた今でも手足が動かなくなるほどの最低最悪の悪夢をだ。


「本当にさー君ってば予想外の規格外もいいとこだよねーまーそうやって大人しくしてればそれなりに可愛いんだけどさー」


まぁ、どうやらその悪夢は今も続いてるみたいだけど。

あっれー…おっかしなー、随分前に目は覚めたはずなんだけどなぁ……


「手足が動かなくなるっていうか、すっごい勢いで拘束されてるんだけど」

「そりゃー誘拐だしー拉致だしー」

「本当…なんでこうなった」


私の目の前でからからと笑いながら私をイライラさせ続ける腹黒ショタにそれなりの怒りをぶつけながらも、私は今の状況について考えてみた。

思い返してみれば事の発端ほったんは数十分前。


あぁ、今日の地獄の特訓も地獄だったなぁ……と、遠い目をしながらフラフラ歩いていた私は、昨日ユウが言いそびれた事ってなにかなぁなんて考えていたからか、私は目の前の人にぶつかってしまった。


「あぁ…すいませ――」

「……」

「あー!あのロリだー!」

「わーおー……そんなバカな」


そういう空気が流れてたんです。

腹黒ショタは変わらず笑っていたし、リピート男は私とぶつかって数秒で腹の奥にどす黒い悪意を抱えている顔になったし…まぁ、何が言いたいかというと。事後、なんかしらんが私は捕まりました。

ハロー悪人さん。グッパイ私の日常……


そして、手足縛られた辺りでバッタバッタと暴れる私は気絶させられ今に至る訳です。


「それで?私が予想外だとか規格外だとかどういう意味ですか?」

「だってさー普通の女の子って泣き出すって聞いたけどー?」

「はっ」


鼻で笑ってやりましたよ。

私が?この私がこの程度で泣き出すとでも?

まったく…これが何回目だと思ってるんですか。グッバイ私の日常とは言ったけど、少し前までは私の日常はコレだったんだから…はぁ……


「まぁ、とにもかくにも拉致監禁されていると言うことはそれなりの目的があるわけですよね?」

「さぁ?」

「は?」

「いやいやー確かに監禁してるのは僕だけどー拉致したのは僕じゃないしー言われたからやっただけだよー」

「なんですかその三下が追い詰められた時に言いそうな台詞は……」


ただ、そう言いながら笑っている割には嘘をついているようには見えなかった。どうやら本当にこの腹黒ショタ自身、詳しい事情は知らないみたいだ。

とりあえず、私は一度ゆっくりと辺りを見回してみた。

木の床に、土の壁、天井に灯りはなく、小さいランタンの光が薄暗い部屋を明るくしてくれている。

そして、シャベルやら木箱やらの埃まみれの物。ひたすら物。


(部屋って言うより倉庫っぽいな……扉は…ひとつか)


そのたったひとつの扉の前に木箱を置いて、その上に座って笑っているこいつさえいなければ。


「……さっきから色々考えてるみたいだねー」

「この状況で呑気に泣いているほど馬鹿じゃないので」

「ふーんー…ねーねー君はさーこれからどうなるのだとか考えないのー?」

「考えてますよ、フル回転です。とりあえずこの犯罪者をどうしてやろうかとか」

「……犯罪者?」

「?女の子を拉致監禁してる時点で立派な犯罪でしょ?」


なんでそんな風に首をかしげるのだろう?


「ぷっ、あっはははははは!」

「な!?なんなんですか…いきなり……!」


私が疑問に思っていると、突然笑い出した腹黒ショタは座っていた木箱からゆっくり立ち上がると笑い声を絶やすことなく話を続けた。


「あっはは!あーおっかしー。なーんだ、知らないんだー」

「知らない?」

「それともただ単にバレてないって思ってるだけかなー」


その時、ずっと私と一定の距離を保っていた腹黒ショタが、まだ少し残った笑い声と共に私の目の前にまで迫ってきた。

さすがの想定外の動きに、思わず私の体は距離をとろうと後ろに動いたけど、すぐに後ろの壁に動きを止められてしまう。


(蹴られる?殴られる?どちらにしろ…やられたらやり返す……!)


しかし、私の予想とは異なり、彼がしたことはたったひとつだった。

バッと勢いよく私の被っていた帽子を一瞬で外してみせた。

ニヤリと少しだけ…笑いながら。


「っ!?」

「髪は光に映える黒、瞳も吸い込まれそうなほどの黒。いいんじゃなーい?可愛らしくてさー異端者ちゃん」


明らかに、皮肉だった。

しまった、前とは勝手が違うとはいえ完全に失念していた。私は今は異端者、それをこいつに……いや、こいつらに見られたってことは確実にかなりヤバい状況ってことだ。


「私が…気絶してる時から……知ってたんですね」

「まーねーちょっとは焦ったー?」

「お陰様で脳内おおわらわですよ」

「んー…でもさー君ー僕が一番言いたい需要な事……分かってないんでしょー」

「……あなたが、私の『犯罪者』で笑った理由ですか」

「やっぱり知らないんだー変なのーへんじーん」

「あなたに言われたかないです、あなたに」


しかし、やっぱり理由は思いつかなかった。

そもそも、私はこの世界の異端者について危険だとは知っていても細かい事は全然知らなかった。

特別知りたいとは思わなかったし。何より、なんとなく…なんとなくだけど、みんな話辛い雰囲気を持ってたから……


「異端者はさーみーんなの嫌われ者って訳じゃないんだよー教会の嫌われ者なんだー」

「教会の……」

「王宮の力が弱い今、教会ははっきり言ってヤバいよー信者は多いし過激な奴は何やらかすか分かんないしーあれもこれもたっくさん力を持ってるー」


そう言うと、腹黒ショタは言葉を続けながら指折り数えて見せた。


「それは荘園しょうえん寄進きしんだったりー、一部の税の徴収だったりー……裁判権だったり」

「裁…判権……」


こいつが3つの指を折り曲げて数えた瞬間、私はある答えに気づいてしまった。犯罪者、力を持った教会、異端者、裁判権……

私を見て、それに気づいた事に気づいた腹黒ショタは私の中にあった小さな答えに確信を与えた。


「教会は…異端者きみたちを人間とは認めてないよー法ってのはー人を守るためにあるんだよー」

「…………つまり…いかなる法も、私を守らない」


拉致でも、窃盗でも、暴力でも、殺人でも……それをされたのが異端者ならば、教会は人ではない私達より、人である犯罪者を守る。

しかも、逆に異端者が罪を犯したとしてもその反対だと言う理屈で異端者が無罪なんて言葉は…届かないのだろう。


「…………」

「あれー?あまりの真実に固まっちゃったー?まぁーもとより動けないけどー」

「で?」

「は?」

「それで?話は終わりですか?拉致監禁趣味の変態腹黒ショタさん」

「はぁあー?」


皮肉のたっぷり入った私の嫌みは、腹黒ショタの怒りを起こさせるには十分だったようで、黒い雰囲気と笑いながらも怒りの表情を浮かべた腹黒ショタに、私はさらに追い打ちをかける。


「私だって暇じゃないんです。あなた達の…というより、あのリピート男の目的、聞いてはいないけどなんとなく予想くらいできいるんですよね?さっさと喋ってください」

「君さー今の話聞いてたー?なーんか、君にとってはかなりすごい真実を話したはずなんだけどー?」

「そんなビッグな話題、何も今悩まなくたっていいじゃないですか」

「意味わっかんないけどー?」

「大した意味なんてないですよ。そんな明らかにめんどくさ……私1人悩んでも何も意味ないこと、後回しの先送りにするが最善なんですよ」

「今めんどくさいってー……」

「気のせいです」


超気のせいですよ?危うく本心だだ漏れになりそうになったりするわけないじゃないですか。

しかし、そう言いきった私を見て腹黒ショタは少しばかりつまらなさそうにため息をついてみせた。


「後回しねー……ふーん…なぁーんだ、やっぱり予想外の規格外ロリちゃんだったんだー」

「ロリは余計です」

「8歳児が何言ってんのー?てか、君は目的とか言ったけどさーそんな事言っても多分彼だって君同様大した意味はないんだろーけどねー」

「はぁあ?意味がない?じゃあ…あなた達なんのもくろみがあってこんなことを……」

「もくろみなんてないよー目的もとくにないんじゃないかなー?」

「……」


おかしい、さっきから私とこの腹黒ショタとの会話に何か違和感がある。何だろう…私と腹黒ショタとでは何かが違う。たぶん、ハッキリしたものじゃなくて雰囲気とか空気とかの曖昧なものだ。


「もくろみも目的も無いって…だって、あいつは腹の奥で怪しい物を抱えて、深い意味合いで行動してるみたいに……みたい?」


なんか…私さっきから抽象的な事しか言ってなくないか?

見た目に騙され雰囲気に騙されてるみたいなこの違和感…おかしいな、前にもあったぞこの感じ……

私の思考の何かが繋がりそうなその時、考えていた様子の腹黒ショタはニッと真っ直ぐに笑ってみせた。


「僕達が持ってるのは君が言ってるような深ーいものじゃないんじゃないかなー」

「じゃあ…何を……」

「?そんなの自分の利益に決まってるじゃーん」


カチッ。とパズルのピースが合うように私の中のあやふやな思考は再び確信に変わった。

思い出した…この感覚、アルトさんに初めて会ったときとか、ファイさんに初めて会ったときと同じだ。

見た目や噂に騙されて勘違い起こしたときの感覚――


そうだ…こいつらの正体が分からなかった、実体が分からなかった、目的が分からなかった。

分からなくて当然だったんだ、だってこいつらは……見た目は明らかに悪役のボスと参謀みたいなくせに、実際は行動に深い意味も無い…ぶっちゃければ目的どころか世界にこれっぽっちも影響も与えない自分の為だけに生きる悪役……


詰まるところ、三下モブキャラだったんだ。




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