子供心は複雑怪奇。
王宮騎士団長アルト・フローリア。彼が人生最大級の分岐点に立っていたのから、約数十分前……
「か…勝った!」
「はぁ、はぁ…あー!負けた!!」
負けた事によって出てきたイライラを、抑える気もない吊り目さんことユウはまるで子供のように膨れ上がっていた。
ユウとの最早定番となった喧嘩(?)試合も、今回の試合でまた私の連勝記録を伸ばす結果となった。
ふっ、甘い、甘いですよ…ドロドロの蜂蜜のように甘いです。私がユウにそう簡単に負けるなんてありえません。私が教えたフェイントにうっかり引っかかりそうになったとか、結構剣をさばくのが辛かったとか、後半の体力切れがかなり危なかったとかそんな事はまっっったくありませんでしたしね!全然無かったったら無かったんです!
「お前勝ったのになんで涙目なんだ……」
「えっ!?ユウの気のせいですよ!超気のせいです!」
「へぇー……」
「な、なんですかその疑いの眼差しは!」
「別に何も」
「ぬぅう……」
しかし…実際、マジで、本当にユウの成長はすごかった。大器晩成って言う言葉は、まるでユウの為にあるかのようにすら思えてくる。
でも、私だって負けず嫌いなんです。そうそう簡単にやられるのは癪なんです、まだまだ努力の必要があるな。
はぁ…必殺技とかそこら辺に落ちてないかぁ……
「てか…暑っ――」
ユウとの戦闘でたくさん動いたからか、冬…と言うか、雪の月とはいえさすがに暑くなってきた。
服に熱がこもって暑苦しいので一時的に上着を脱いで熱を逃がした。
緑を基調とした上着の下には真っ白のブラウスを着ていたので、上着を脱いでもちゃんと可愛らしく見えるのはさすがはルーバスさんとだと改めて思わされる。
「……」
「……な、なんですか?」
「っ!?別に、似合わねえと思っただけだ」
「あなたは私のいじめっ子かなにかですか」
ユウの言葉にカチンとくるのと同時に、たとえ社交辞令と言えども女の子を誉められないどころか、似合わないなどと抜かすユウに若干呆れ返ってしまった。
さっきもこの服を着た私を見て早々、『脱皮』だとかなんとか……そっちは思い出しただけでも腹が立つ。
「まったく、『似合ってる』だとか『可愛い』だとか多少なりと言えないんですか?」
「……」
「……え…ちょ、本当に言えないんですか?」
一回目のセリフと二回目のセリフにかなり大きな差ができてしまった。
皮肉で言ったつもりなのに、言われたユウは盛大に目をそらしながらビクッと肩を震わせ、嫌な汗をかいていた。ギクリとでも言わんばかりの反応なんですが……
「そ、それぐらい言えるに決まってんだろ。ば、ばーか」
「目を見て言ったらどうですか、目をみて」
「……」
「……ヘタレか」
「んだとごらぁああ!」
「なんで怒鳴る方の威勢はいいんですか……」
まぁ…寧ろユウが女なれしてた方がある意味不気味に思えるけど。目つきと声が普通の人には恐怖にしか感じられないだろうし。
……そういえば…私はもう、ユウを怖いとは思わないんだよなぁ……
ぎゃあぎゃあと喚くユウは子供みたいに見えて、私は思わず小さく笑ってしまった。
「っ!?な、なんだよ…いきなり笑って……」
「べっつにー。ほらほら、社交辞令でもなんでも女の子に『可愛い』ってまったく言えない男性はモテませんよー」
「余計なお世話だ!」
「やれやれ…男性でも、私の服装に気づいて直ぐに『可愛い』って言ってくれた人もいたっていうのに……」
うーん、あれはすごかった。アルトさんは普段、どうしても綺麗の部類に入る人だから逆に女の子の喜ぶ『可愛い』って言葉をしっかり言って見せると、綺麗なんだけど格好良さが出てくるんだよなぁ…いや、寧ろ綺麗な見た目だからこそフッと見せる格好良さは輝きが二倍三倍と輝いて見える……これがいわゆる『ギャップ萌』と言うやつでしょうか?
そんな思考をリリアが巡らせている横で、ユウはひたすらにプルプルと肩を震わせていた。
それが怒りから来るものなのか、焦りから来るものなのか、本人すら理解できていなかったが。
「おい」
「えっ…な、なんですか?」
なんで俯きながらにそんな低い声を出してるんですか?ついさっき、もうユウを怖いなんて感じないって言ったばっかりなのに、もうすでに私の心の中をどす黒い恐怖が侵略する勢いなんですが!?
「そいつはだ――」
「だ?」
「……」
「……?」
焦った様子のユウは私を見て何か言おうとしたけれど、突然目線をそらすと明後日の方向に目を向けながら何かをひたすらに考えているようだった。
なんですか?なんなんですか?
なんか…ユウが何かを言おうとしたけれどよくよく思い返してみたら言えない…みたいな感じに見えるんですが……私の気のせいですか?
「あの……ユウ?」
「っ――!?何でもねぇよ!!ばーか!ばーか!」
「子供か!」
クラスの女子をからかう男子か!子供みたいだなぁ…とは思いましたがこれじゃあ、みたいじゃなくてただの子供ですよ。ヤケクソ感が出ている辺りなおさら……
そうして、私に小学生レベルの罵倒をしたユウはもう知らないとでも言うかのように私に背を向けてしまった。本当…ユウの行動はよく分からない。
「どうしたんですか一体」
「うっさい!ちょっと変な気分になっただけだ!」
相変わらず口の悪い……まぁ、私は大人な、(過去はどうであれ)大人な女性なのでそれぐらいの事で怒ったりはしませんが。
しかし、変な気分と言うのには気になったので、私は背を向けたユウの後ろに立つと、ユウの顔をのぞきこむようにしてみせた。
「顔が…赤いですね。風邪ですか?」
「知らん!」
「こんな寒いのに、野外で過ごし過ぎたからでしょうか?」
注:後に彼女は数時間に渡って野外に放置されます。
「体を冷やすのは、体調を崩しやすくなる原因の1つですし……」
注:しつこいようですが、後に彼女は数時間に渡って野外に放置されます。
「本当に大丈夫ですか?」
「問題ねーよ、風邪だとしてもお前に心配されるのは癪だしな」
「素直じゃないですねー……」
私も人の事言えないけど。
「結局、『脱皮』だとかしか言ってもらえなかったなぁ……」
そこまで私って魅力ないですかね?……ない…のかなぁ?昔はよく可愛いって言われたのに……幼くての意味で。
そんな風に心なしか悲しみを感じながら考えていると、私に背を向けたままだったユウが突然振り返ると、私と向き合う形になった状態で真っ直ぐに私を見て、言った。
「っ!お前は――!」
ゴ―――――ン
と、突如響いた鐘の音が、時を知らせるのと同時にユウの言葉を遮った。
全部で13回。1時の鐘の音だ。
「ヤバっ!帰んなきゃ」
「……はぁあああ……」
ガクリとうなだれたユウは、そんな力のないため息をこぼしていた。
「あ、今…なんて言おうとしたんですか?」
「いい、明日にする。時間ねぇんだろ?」
「あ……じゃあ、また明日!」
「あぁ、明日な」
ひらひらと手を振るユウを横目で見つつ、私は脱いだ上着と荷物を抱えながら大慌てで帰っていった。
ユウの最後の言葉は気になったけど、ユウが明日言うって言うのなら、明日の楽しみにでもとっておこう。
※
1時の鐘と同時にリリアは大慌てで帰っていった。
俺は自分のとった行動に多少なりと後悔しながらも、気持ちは明日の事で手一杯だった。
「そういやぁ、鐘の音と同時に帰っちまうって言う物語があったけなぁ……」
どんな話しかは忘れたけど、その話しの主人公とリリアが重なって思えた。
まぁ、それは恋愛物の話しなんだがな……




