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とある青年の自覚

俺はネリの質問に対して静かに首を横に振っていた。


「いや、少なくとも…俺はそう言う話は聞いていない」

「……」


まるで、時間が止まったかのようなシンッとした静寂が、長かったのか短かったのか分からないようなの長さで続いていく。

しかし、その静寂を断ち切ったネリの様子は意外にも…いつものままのネリだった。


「……ふぅ、なんじゃ、またハズレか。まったく半年かけたというのに出来た事と言えばエルの弱みを握れただけか」

「んー、そこ違うよねー?どっちかって言うと俺の弱みじゃなくてリリアちゃんやアルトの弱みだよねー?」

「あーあ、これでまた貴重な時間を無駄にしてしまったわ。何にしろ、まだ振り出しな事には変わらんか」


やれやれとでも言うように、ネリは軽くため息をつきながらそんな事を言っていた。

ネリがどうして精霊の事を聞いたのかはなんとなく分かっていたが、貴重な時間と言うのは何なのかはよく分からなかった。

しかし…ネリの様子がやはりどこか空元気に見えるのは気のせいではないと思う。


「にゃあ、とりあえず、質問に答えてくれた事には感謝する。じゃが、この話はリリアがいた時にでもまた聞かせてもらうからの」

「あぁ、お前がそこまで来てしまったのなら答えるしかない」


フッと表情を隠すように静かに笑ったネリは、もう用は無いと言わんばかりにその場から立ち去ろうと振り返ったかと思うと、すぐにピタリと足を止めた。


「あー…そうじゃった、忘れとった」

「?」

「なになにー忘れ物?」


そう言って、ネリはニヤリと微笑んだかと思うと、次の瞬間黒々しい雰囲気と重々しい声色で振り向きざまに告げた。


「おい、エルルク」

「えっ、俺になにか――ぬわぁああ!?」


その言葉にエルが返事をするよりも速く、ネリの足は勢いよくエルの足を引っ掛け一瞬の内にエルを転ばせると、そのままエルをおもいっきり踏みつけた。

怒りのこもったそれは、恐ろしいまでに強く、速い動きだった。


「今すぐ儂のりぼんを返せ」

「あっれー?バレてたの?」

「当たり前じゃ阿呆!お主のせいで儂はこの邪魔な長い髪のまま潜入する事になったんじゃぞ!」

「じゃあ切ればいいじゃん……」

「長い方が好きっじゃと言われたんじゃから仕方ないじゃろうが!てか、お主にそんな事いわれとうないわ!いいからりぼん返せ!」

「ヤダって言ったら?」

「消す」

「何を!?」

「おい、アルト。こいつの存在消していいか?」

「いやいやいや!賛同すんなよアルト!こいつならマジでやりかねないって!」

「……エル、俺は騎士団長だ」

「はっ?」

「……窃盗罪は…罪だよな」

「……あー…ナルホドー……」

「良かったのエル。許可が下りたぞ」

「すっごく、嬉しくない……」


それからのネリは実に楽しそうだった。




     ※




「なんかさー俺ばっかりこういう役やらされてるって言うかさー最近何かと暴力ふるわれてる気がするんだよねぇ」

「あ、そう。どうでもいいわ阿呆」

「いつまで続けるんだお前らは」


いつまでも続くやりとりにさすがに呆れてきた俺は、エルとネリを横目に小さくため息をついた。

ネリにズタズタされて、ボロボロになりながら床に倒れているエルは、さっきからブツブツと愚痴をこぼしている。

そんなエルに対して、りぼんが戻った事でいつものツインテールになり上機嫌なネリは、ボロボロになりながら床でうつ伏せに寝そべっているエルの上に、さも当然かのように座りながらスルメを食べているのだからまた異常な状況だ……


「リリアにお前らは仲が良いと言ったのを訂正したほうがいいのか……?」

「お主そんな事をリリアに言ったのか、ちゃんと訂正しておけよ。エルと仲良しなど頼まれても御免じゃ」

「……頼まれても」


やはり訂正の必要があったようだ……


「にゃあ、そう言えば、お主は随分面白い事をぐるぐると悩んどるんじゃな」

「お前は面白くても、分からない俺はまったく面白くないからな」

「…………おい、エル。アルトこやつはいつまでこうなんじゃ?」

「さぁ?いつまでこうなんじゃない?」

「……お主、分かっとって自覚させぬ気じゃな」

「いやぁ、別にさせる気が無いわけじゃないさ。ただ、もうちょっと悩んでてもらった方が面白いかなぁーって」

「ふん、人はそれを愉快犯と言うのじゃ馬鹿が」


阿呆から馬鹿にグレードダウンしたエルをネリはそう言って睨みつけると、やれやれと言わんばかりにエルの上に座ったまま話し始めた。


「そうじゃのぉ、お主には質問に答えてもらった恩もあるしの。……何より、エルの思い通りに事が進むのは気に食わん」

「?何をする気だ……?」


ネリの言葉の意味がよく分からず戸惑った俺に、ネリは笑みを絶やす事なく話しを続けた。


「今のお主の心は、ぐるぐる絡まっとる糸じゃ。ほどこうと焦れば余計に絡まっていく、分からなくなる……」

「……それが俺だとして、お前はどうしろと言いたいんだ……」

「ま、とにかく落ち着け。そして一度戻る事じゃな」

「戻る?」

「あー…なるほどねぇ、君はそう言う言い方もするんだ」

「黙れエル。お主がいつまでもやらんから儂がこんな事をしとるんじゃ」


口を挟んだエルの頭をネリは呆れながらべしべしと叩いた。

しかし、エルはそんな事は気にもとめずに笑いながら言葉を続けた。


「つまりはだ、アルト。原因を考えてみろって事だ。原因が分かるとこまで一旦戻って考えてみるんだよ」

「原因……」


エルに言われ、少し考えてみたが、パッとは思いつかなかった。

どうやら、一度ゆっくり考えてみる必要があるみたいだ。

そんな風に悩んでいる俺の横で、ネリとエルはまたお互いに皮肉を言い合っていた。


「なんじゃ、やれば出来るではないか餓鬼」

「お前は本当に罵倒のセリフが尽きないんだね……」

「お主限定じゃ」

「そりゃ、どうも」


シンッと、急に会話が止まると、ネリはどこか遠くを見るような…思い出すかのような表情をして、小さくエルにしか聞こえないほどの声で呟く。


「……気を…つけたほうがいいのかもしれんな」

「……それは、何に対して?」

「……リリアの…得体の知れない、何かにじゃ」

「――」


その何かが与えるのは…一体なんなのか……それすら分からない。

分かる…はずがない未来だった。


「そう言えば、長い方が好きってのは…誰の言葉なの?」

「ふん、お主には死んでも教えんわ」




     ※




「頭が痛い……」


家に着くなり、俺は玄関の取っ手に手をかけながら開きもせずに頭をかかえてそう言っていた。

いろいろ考えすぎた…もう、頭の中が沸騰しそうだ……

と言うか…ネリに一度落ち着けと言われたんだった…本末転倒すぎる……

すると、突然悩んでいる俺の後ろから声をかけられた。


「あれ?アルトさん…今日も早いんですね」

「リ、リリア!?」

「…?はい、そうですよ?」


扉の取っ手にかけた手が、無意識に一瞬だけビクッと反応する。

振り返るまでもなく、その声の主はリリアだった。

リリアは被っていた帽子を取ると、にっこりと笑ってみせた。


「最近、アルトさんずっと大変だったようなので…少し心配してたんです」

「あ…あぁ、色々起きはしたけれどエルがどうにかする案を持ってきたから…多分しばらくは大丈夫だよ」


そう言えば、エルの持ってきた資料に目を通すのを忘れていた。まぁ、エルが一週間も休んだ上、あれだけ自信満々で持ってきたのだから多分…きっと…おそらく?多少はどうにかなる…はず、ギリギリ…大丈夫。


「リリアは今帰り?」

「はい。まぁ、私も色々ありましたが……ふっ、私に勝とうなんて100年早いんですよ。結構ギリギリだったけど……」

「?」


リリアの言葉の後半はかなり小声でまったく聞き取れなかったが、どうやら少し上機嫌のようだ。終始にこにこと微笑んでいる。

その笑顔を…はやり俺は真っ直ぐ見れなかったけれど……

やはり、エルやネリの言うとおり、一度こんな事になっている原因を考える必要があるみたいだ。

原因…か……


「アルトさん…また最近様子がおかしいみたいですが……何かありましたか?」

「最近って…いつぐらい?」

「へっ?……うーん…確か、騎士団の演習が終わった辺りからじゃないですか?」

「演習……あ」


思い出した。確か、あの演習の最後にリリアに『恩人』と言われて嬉しいような…もどかしいような…ごちゃごちゃした感情が出てきたんだ。

多分それは、ネリの言うところの、絡まった糸なのだろう。


(そもそも…リリアが恩人と言わなければこんな事にすらなっていなかったか。恩人と、言って欲しくなかった…恩人じゃなくて…その前の……)


『私、アルトさんが好きですよ』


前の…言葉で……時が、止まれば良かったのに……


「ぁ……」



そうだ、俺は…リリアに好きと言って欲しかったんだ……決して恩人と言う意味ではなく、別の――


「っ!?」


ぎゅぅううと心の奥の…かなり奥にあったはずの物が、まるで弾け飛ぶかのようだった。

絡まった糸が、一瞬でほどけていった気がした。

ほどけた糸は、やがていろんな事柄に結びついていく。そして、最後に出たのはたった1つ。




俺は…リリアが好き


心なしか、体が熱い気がする…いや、もう気がするなんてものじゃすまない。確実に熱い。

それを隠すかのように、思わず口元を手で覆い隠してしまう。

驚きすぎて見開いた目には、ただひたすらリリアだけが移っている。他の何よりも鮮やかに……


「アルト…さん?」


不思議そうに俺を見るリリアの声が聞こえたのと同時に、俺の体は無意識に動いていた。

その場から逃げ出すように…と言うか、逃げ出した。

一気に扉を開きすぐさま家の中に駆け込んでいたのだ。


そう、俺はあまりに動揺しすぎてその時気づく事が出来なかったのだ……うっかり扉の鍵までかけてしまっていたことに。


「……えっ?ちょ…私放置!?ア、アルトさーん、開けてくださーい!本当…なんなんですかぁああああ!」




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