今日もフローリア家は通常運転です。
ルーバス・フローリアと言う人を私はあまりにも知らなすぎたんだと改めて思う。
ルーバスさんはフローリア家の家長で、ルウちゃんやアルトさんのお父さんで、テナさんの旦那さんで、デザイナーさんでした。
それもさらに詳しく話を聞いたところ、デザイナーさんはデザイナーさんでもただのデザイナーさんではありませんでした。
ルーバスさんは少女や幼女向けのいわゆるロリータ用の服を作るデザイナーさんで、いろんな所でお店を出すほどの有名人なんだそうです。私がこのフローリア家に来る前からルーバスさんが何ヶ月も家を空けていたのはそのお店の為の視察や何百何千と言う程のデザインを作り続け、縫い続けていたからと言う理由なんだそうです。
「……凄いですね」
「そうかい?私としては、好きな事をやっているだけなのだけどね」
ルーバスさんの作った服をいくつか見せてもらいましたが、とっても可愛らしくて綺麗な服がたくさんありました。
何より、私が今着ているこの服はルーバスさんが女の子でも動きやすい服を、と試作で作っていた物らしいのだけど……この服はこの世界では珍しく、かなり私のいた世界に近い服だった。現代的…とでも言うのかな?とにかく、ルーバスさんの凄さがにじみ出るような服だった。
しかし、どちらかと言えば大きめの体に、見るからにお父さん!みたいなルーバスさんからこれだけ可愛らしい女の子の…それも少女とか幼女レベルの服が沢山生み出されていると思うと……何故だろう、凄くて尊敬する事のはずなのにそうできない私がいます。
いやいや、人を見た目で判断してはいけないぞ私。ちゃんとルーバスさんは凄い人で――
「きゃぁあ!リリアちゃん可愛いわ!可愛すぎて立ち眩みがしそうだわ!最近リリアちゃんのお洋服が可愛さ急降下だったからかしら?今日の輝きはいつも以上よ!倍増しよ!!」
「ひぃやぁああっ!?」
ぎゅぅうう~!と突然、どこからともなく私達の目の前に現れたテナさんに力強く抱きしめられました。
本当に、どこから現れたんですかこの方は!そして痛い!痛い!痛い!く、苦しい…だ、誰か私に酸素を……はっ!ル、ルウちゃん…どうか私に救済を!
「あぁあ!お母さんズルいのです!ルウだってリリアお姉ちゃんにぎゅぅうっとしたいんですよ!」
むぎゅっ!
ってルウちゃぁあああああん!追い討ちをかけないで!いや、なんとなく予想はしてたよ?フラグ立てちゃった感じはしたよ?でもだからってそんな丁寧にフラグを回収しなくたっていいじゃん!いくらルウちゃんの弱い力といえどこの状況だと少なからずダメージがくるから!
「仲良きことは素晴らしきこと!うむ、実に素晴らしい状況ではないだろうか!と言うわけで、私も混ざったりしたりするのだよ!」
ラストアタックが!とどめが来る!これは…こ、このままでは確実に……圧死する!!
「いゃぁああああああああああ!!」
※
「あのさリリア、朝起きたリリアを速攻押し倒した経験がある僕が言えた事じゃないんだけどさ…なんで僕リリアに抱きつかれてんの?」
ミキが言うように、私は今まさにミキに抱きついてる状況だ。
もうこれは、本能的と言うか生理的に仕方ないんです。ルーバスさんのラストアタックが来ると思ったその瞬間、たまたま通りかかったミキがルーバスさんに話しかけていなければ今頃私は圧死していたんです。
そんな恐怖と苦しみから解放された今、すがるように…泣きつくようにミキに抱きついてるのはもう仕方ない事なんですよ!だって本当に怖かったんだもん!
「うぅ…もうヤダお嫁さんもらえない」
「いや、それ以前にお嫁さんはリリアがもらえるものじゃないから……なんでこんなリリアがデレてるの!?本当どうなってんですかルウちゃん様!」
「ふーん、です。リリアお姉ちゃんに抱きつかれて幸せなミキくんなんてルウは知らないのですよー」
「わーもう直ぐ6歳になるからって女の嫉妬を早々に身につけなくたっていいじゃないですか、ルウちゃん様」
「ミキ、あなたがリリアちゃんから抱きつかれるなんて事世界が滅んでも無いと思っていたのだから仕方ないのよ」
「ルウちゃん様のそれは完全に奥様が原因ですか?」
「あら?何のことかしら?」
「やあ、ミキ!君としっかり話すのは君が私を置いてさっさと帰ってしまっていらいだね。あの時の悲しさは今でも忘れられな――」
「あ、それは多目にみといてくださーい」
あぁ、そう言えばミキはルーバスさんの視察について行ったのにフレアさんに会いたいが為にちゃっちゃとルーバスさんを置いて帰って来ちゃったんだっけ。
「そう言えばなんでミキがついて行ったの?」
「んー魔術師としての仕事と主人様の護衛みたいなものだったんだけど魔術師としての仕事を終えた辺りで帰っちゃった☆」
「ねぇ、なんでミキこの家に雇ってもらえたの?」
使用人にあるまじき行為でしょ、それ。
しかし、ルーバスさんはそんな過去の事はもう気にしてないかのように笑いながらその時の事をテナさんと話し始めていた。
「とりあえずさ、リリアは離れた方がいいと思うんだけど」
「無理……」
「はっ?」
「こ、腰が抜けて…立てない……」
「……いやいやいや、立てないって何!?このまま!この状況キープ!?いやだってこんな状況が続いたら――!」
ガシャンッ!!
と、なにやら金属製の何かが床に落ちる音。
そして、私とミキがゆっくりとその方向を見ると…おぼんを床に落としたまま固まっているフレアさんと嘆いてるんだか怒っているんだか分からない表情のアルトさんが立っていた。
「「あぁあああああああああああああ!!!?」」
フラグが!フラグが回収されたぁああああああ!
待って!違うんです!何が違うとかは言えないんですが…とにかく違うんです!!
「……ミキくん……」
「待ってフレア!そんな今にも泣きそうな顔しないで!これにはいろんな事情と経緯があるんだって!」
「……」
「アルトさんに至ってはそんな無言で目を逸らさないでください!これは本当!そう言う事じゃないんです!」
考えてもみてください!ミキにはフレアさんがいるんです!
と言うかミキにとったらフレアさんが全てみたいなものですよ!私なんてとるに足らないようなバカップルですよ!?年がら年中フレアさんの後を追いかけるストーカーさんです!
だからそんな目で私を見ないで!
「い、いや…別に……リリアがそれでいいなら……」
「それって何!?アルトさんまた盛大な勘違いをしてませんか!とにかく私の話しを聞いてください!」
「……あ…ご、ごめんね…私が気づかなかったから……迷惑…だったよね……」
「違う違う違う!そんな事ないから!ちゃんとフレアが好きだから!だから泣き出さないでください!」
本日の教訓。
『軽率なフラグを立てるべからず』
フレアさんとアルトさんの誤解が始まってから数時間…いつの間にかルーバスさんやテナさんやルウちゃんは消え、私とミキの2人達だけで延々と誤解を解くこと数時間。
もはや早起きをした意味が全く無くなってしまったけれど、私達は多大な時間と膨大な疲労を引き換えに、どうにかアルトさんとフレアさんの誤解を解くことに成功したのだ。
「ごめんね、ミキくん。疑ったりして……」
「ううん、大丈夫。フレアに心配かけた僕だって悪いし」
んで、気がつきゃあのバカップルはなにやらピンク色のオーラを出し始めましたよ。
私にはそんなものを直視する気力は既に失われているので盛大にスルーする事にしました。
「とにもかくにも、アルトさん達の誤解が解けてよかったです……」
「うん…いや、本当にごめん……またやらかして」
「あ、いや。それに至っては今更なので気にしてないですよ」
アルトさんの勘違いなんて本当今更です。日常茶飯事です。
ただ、今回の原因は殆どが私にあるので責任はどちらかというと私にあるんですが。
「……そういえば、リリアの服……」
「あぁ、これですか?ついさっきルーバスさんが手直ししたのを着せてくれたんです。どうですか?」
そう言いながら私は軽く動きながら服を見せるようにしてみせた。
そんな私の姿をアルトさんはじっと見つめて言った。
「うん、可愛い」
「……」
余りにも唐突な言葉に私はしばらく固まっていた。
そして、感情が後から追いついてくるかのように少し気恥ずかしい気持ちになった。
そうでした、忘れてましたが、アルトさんはなんとなくそう言う言葉は恥ずかしくて言えないような人に見えるけど、女性の扱いと言われるものに関してはバッチリこなせる人なんでした。
確か、テナさんの教育方針の一環と言うか…『女の子には優しく!』っと言う言葉をまるで家訓みたいに言い聞かせていたそうです。
「あ…ありがとうございます……」
この気恥ずかしさが何なのかは分からなかったけれど、とりあえず私はアルトさんにお礼を言っていた。
※
ザクザクと少しばかりの雪道を進んでいき私はあの場所にいた。
「……脱皮?」
「どういう事ですかそれは」
脱皮?だっぴぃい?
人が初めて多少なりと女の子らしい服を着てきた事に対してかける言葉が脱皮ですよ、脱皮。アルトさんの「可愛い」に比べたら天と地…月とスッポンレベルにかけ離れてますよ。
あなたは女の子ナメてるんですか?
喧嘩売ってるんですか?
「全く、相変わらず口が悪いですね吊・り・目さん」
「うるさい。俺は吊り目なんつう名前じゃねぇ」
そんな事を言った彼を見ながら、私は彼のすぐ目の前にまでやってきた。
「仕方ないですね。それじゃ、始めようか、ユウ」




