アルトさんの事。
「疲れた…精神的に……」
バタンと力尽きるかのようにベッドに倒れ込む。
「事件は解決しないしエルは働かないし長官は働かないしアードは働かないし……」
「ちょっと待ってくださいアルトさん。一体騎士団にどれだけ働かない人がいるんですか……」
副団長に長官に団員までもが働かない騎士団って……吊り目さ…じゃなかったユウ…憧れているところ悪いんですが、なんかこの騎士団色々とおかしいですよ。今更だけど。
しかし、私の掛けた声は届いているはずなのに、当の本人であるアルトさんはさっきから無反応だ。
「……」
「アルトさん?」
「リリア!?」
「は、はい。そうですが……」
えっ?一体どこに驚かれる要素が?ドアはノックしましたよ?開けっ放しだったけど。
声は掛けましたよ?無視されたけど。
「アルトさんが今日は早く帰って来たと聞いたので」
「あ、あぁ。ちょっと事件が思わぬ方に進んでね。今日はもうどうしようもなくなったから帰ってきたんだ」
「なんかテナさんから『誘拐事件が誘拐事件』になったと言っていたと聞いたんですが?」
「……」
あ、沈黙だ。
しかも盛大に目をそらしてる、あらぬ方を見続けてる。それについては喋る気は無いと言うことですね。
まぁ、アルトさんがそれでいいのならあえて首は突っ込みませんが……
「なんでもいいですが…いや、よくはないか。とりあえず、倒れ込むくらい疲れをため込まないでください」
アルトさんのすぐ近くにいた私はそっとアルトさんの髪に触れた。
残念ながら、私にはあまり友達と呼べる人はいなかった。だからこういう時どうしたらいいのかはよく分からない。頑張ってほしいけど、無茶はしてほしくない。心配してるけど応援もしてる。
そんな中途半端な気持ちを…私はどうしたらいいのか分からない。
でも、優しさを伝えて方法は知ってる。
「リッ――!?」
私は触れていたアルトさんの頭をそっと撫でた。
なでなで
「……リリア?」
「はい?」
「あの…なんで俺の頭を撫でてるのか説明してほしいんだけど……」
「?だってアルトさんがやってたじゃないですか?」
「……えっ?」
アルトさんが私に優しくしてくれたときよくやってくれてましたよ?
……そう言えば最近はあまりないな……む、なんかちょっと悔しい。
まぁ、とりあえず続行。
なでなで
「……」
なでなで
「っ!?待って!もう限界!限界だから!!」
そうアルトさんが言うと、バッと私の手がアルトさんの頭から離れた。
その突然の行動に私が頭に?を浮かべているとアルトさんは俯きながらに言った。
「いや…撫でた事は確かにあるが、撫でられるのは……なれてない……」
「そうなんですか?」
「うーん…ルウとかはよく撫でてたけど……」
そう言うものなんですか。
私なりに頑張ってみたんですが…でも確かに、アルトさんを見たところあまり嬉しそうではないみたいだし……失敗した…かな?
「そうですか……」
「いや…リリアが落ち込む事じゃないよ、それに……」
「それに?」
「あ…いや、なんでもない……」
「?」
(ごめんなさい死ぬほど嬉しかった…です……何故かは分からないけど嬉しい…とか思いました……)
何故か黙り込んでしまったアルトさんを不思議そうにじっと見つめた。
うーん、やっぱりここ最近のアルトさんは所々様子が変だ。いや、前から変な事は定期的にありましたが…でも今回は随分期間が長いみたいだ。
まったく、今度は誰が原因なんですかね。やっぱり安定のエルさんかな?それかミキかテナさんか…穴場としてはファイさんかネリさんかなぁ……
「それで…リリアはそれをしにわざわざ俺の所に?」
「あー…いえ、どちらかと言うとこれはついでです」
「ついで?」
「えーと…そのですね……」
私はこれから言う言葉に気恥ずかしくなって、一度だけアルトさんから視線を逸らすと少し俯きながらに呟いた。
「ア、アルトさんと話がしたかったんです……」
「……?……!―――っ!!!?」
ガンッ!?
「アルトさぁあん!?」
一瞬、アルトさんの顔が真っ赤に熱くなったかと思ったけどそんな事を考える暇など無く、突然大きな音が響いた。
今さっきまで私とアルトさんはアルトさんが倒れ込みながら突っ伏していたベッドの縁で床に腰を下ろしながら話していた。
なのに、何故か突然ベッドの上にあったアルトさんの腕がズルッと滑り落ちるとアルトさんは見事にバランスを崩し、ベッドの高くて(高さ的に)高くて(金額的に)固そうな縁の部分に盛大に頭をぶつけてしまったみたいです。
痛いですよね、絶対に。ガンッて凄い音したし、何よりアルトさんの様子が痛そうです。一言で言えば頭を抱えながらのたうち回ってます……
「――っ~…!!」
「ア、アルトさん、大丈夫ですか?」
「う…だ、大丈夫……」
「そんなものすっごい辛そうな声と表情で言われても……」
「そ、それよりリリア…さっきのはどういう……」
「……あっ…あぁ、はい。その…実はアルトさんにちょっと聞きたい事…と言うより、聞いてみたい事がありまして」
「質問…と言うこと?」
「はい。それにこの間アルトさんの質問に答えたばかりですし」
確か先週くらいだったかな?
最近…と言うよりアルトさんに私の家族の事を聞かれたあの日、言い換えるのならインフルエンザでフローリア家のみなさんがバッタバタと倒れまくったあの日、アルトさんが人の忠告全く聞かずに仕事をし続けてインフルエンザをどんどん悪化させてくれて、んでもって私をベッドから意味も分からず叩き落としたあの日……
「……リリア、若干目が怖いんだが……」
「気のせいです。アルトさんの目の錯覚です」
とにかく。その日からアルトさんと私はお互いがお互いにいろんな事を聞いたり聞かれたりした。
それは些細な日常の事や、好きな物、苦手な物。この間なんかは某等星のストーカ……魔じゅ……ストーカーの事をアルトさんと話したりしたっけ。
「で?リリアは何が聞きたいの?」
そう言いながらアルトさんはほんわかと…柔らかく笑って見せた。
くっ、相も変わらず可愛いなぁ!私の存在霞みそうなくらい綺麗ですね!!これで男性なんですよ!男女平等過ぎるだろ!
と、まぁそんな事が頭の中に駆け巡って行ったような気がしたけど、とりあえず今は放置する事にした。
それから、私はアルトさんにその質問を切り出した。
「アルトさんがどうして騎士団に入ろうと思って、しかも団長にまでなったのかちょっと気になってたんです」
「お、俺が騎士団に入った理由……?」
するとアルトさんは困ったような顔をしながらそう言うと、悩んでいるのか照れているのよく分からない様子で言い始めた。
「けっこう…格好悪い話しなんだよなぁ……」
「アルトさんにも格好悪い話しってあるんですか?」
「あるよ、普通に…たくさん……」
「たくさん………」
アルトさんは(インフルエンザの事とか勘違いの事を除けば)いつもしっかり者に値する人物なんだと思う。なのにアルトさんが格好悪い所ってのはちょっと想像出来ないなぁ……
「えーと、話しを戻すとさ、俺が騎士団に入った理由は魅せられたから…だと思う」
「魅せられた?」
「憧れ…と言うのとは少し違うかな?ただ本当に俺は魅入ったんだ」
強いと言うことに、その騎士団に。
※
アルトさんから聞いた話しを、僭越ながら私が語らせてもらうと、時は約14年前…アルトさんが4歳くらいの時までさかのぼる。
その頃のアルトさんの写真を後でテナさんにこっそり、あくまでも内密に見せてもらった所、美少女でした。
何もしらない近所の人に「将来きっとべっぴんさんになるね~」なんて平気で言われまくっていたと言う少女時代……じゃなかった、子供時代のアルトさん。
アルトさん自身は大層落ち込み若干の人見知りとなったらしいのですが……
そしてそんなある日、アルトさんはとある誘拐事件に巻き込まれてしまいました。
巻き込まれた…と言うより、まさに誘拐されたわけですが。まぁ、そんな事よくある事ですよね、子供の頃なんてひと月に1回くらいで誘拐されるものですよね。
そして、その理由は単純明快、フローリア家の財産を見込んだ身の代金目当て。
アルトさんは…とってもとっても怖くなって、不安になって1人震えて怯えて泣いている事しか出来なかったそうです。
でも泣いて泣いて、泣き疲れてしまった頃に気がつくとその場には青い姿の見慣れない人がたった2人で目の前に立っていただけだったらしい。
アルトさんを誘拐した屈強な大人達を一瞬にしてねじ伏せて。
記憶は薄れてもその印象は覚えてる。
格好悪く泣いているだけの自分に光のように突然現れた人達を。
そうアルトさんは言っていた。
※
「あ、見つけた」
「……ぁ」
目隠しを外された視界にはそんな事を言いながら笑っている1人の男の人がいた。
「こんにちはアルト…くん?もう夜なんだけどね」
「おい、見つけたのか?」
「うん、見つけたよ。惚れ直した?」
「直さん」
「えー…ケチ」
「別に今更じゃろう……」
奥から現れた女の人は呆れたように呟いた。
すると、男の人に抱えられたかと思うと僕の体は女の人の腕の中に渡された。
「はい、アルトくんよろしくね」
「……はぁああ!?なんで儂が!子供じゃぞ!」
「んー…でもなんかお客さんいっぱい来ちゃったし……」
「ひっ……!?」
男の人が指差した先には怖そうな人達が何十人も現れていた。
怖い…けど、なぜだろう。この人達がいると全然怖くない……
「……はぁ…後先考えないからこうなるんじゃ。仕方ないからさっさと終わらせてこい」
「うん、じゃあ行ってくる」




