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とある赤毛の始まり

「……」

「んー?なになにー?何をそんなに見ちゃってんのー?君はー?」

「何でも聞いて解決しようとするんじゃない。少しは考えろ、考えすぎるくらいには考えろ」

「冷たいなー氷みたーい。てかーアレって新人の特待生くんじゃーん?うっわー目つき悪そー」


けらけらとバカにするように笑ったそいつをギロッと睨んで黙らせる。

そして、もう一度向こうにいる彼を見つめた。


「どうやら、厄介なたねかれてしまったようだな。厄介じゃないくらいには」

「間引きでもするつもりなのー?」

「さあな」


遠くからその新しい特待生を見るのをやめ、くるりと向きを変えると背を向けながらその場を静かに去る。


「俺は自分の為すぎるくらい、自分の為だけに動くだけだ。全を俺の手中に収めておく為に…な」

「本当君ってー常に自暴自棄みたいな人だよねー」


けどー、そこが楽しいから一緒につるんでるんだけどねー

などといいながら小走りに付いて来るこいつはこいつで、相当にひねくれた奴だ。


「全ての事は俺の為に。必要とあらば傷つけて、堕として、楽しんでやるよ」




      ※




「最悪だな」

「……」


俺の首筋に木刀をあてながらキッパリと言い切ったその教官は駄目な子供を見るような目で俺を見ていた。

その駄目な子供と言うのが俺だ。


「いや正確には最低と言うべきだ。最も底辺と言う意味での最低だ」


そう言うと、教官はため息をつきながら静かに木刀を俺の首筋から離した。


「対人戦に弱いのは入学試験の時から分かっていたことだが…お前は弱過ぎる」

「でも個人試験は――!」

「人に勝てない騎士など使えん」

「っ!!」


その人は、ガッと地面に木刀を突き立て、堂々した姿で言葉を放った。


「たとえ誰よりも速く走れようとも、誰よりも力があろうとも……騎士ならば勝てなくては意味がない!」


そして、教官は俺の目の前まで来ると少しだけ悲しい顔をして笑っていた。

そのまま、ゆっくりと俺に告げる。


「勝てぬ騎士に何が守れよう……」

「お、俺は…守りたいものがある訳じゃ……」


俺はただ、青い騎士になりたくて…そう言うのは、考えた事がねえ……

そんな俺を見た教官は俺に背を向けて歩き出した。


「弱い騎士は自らの為だけに戦い、騎士は誰かの為に戦う。そして強き騎士は誰も死なぬ為に戦うのだ」


ちょうど、出入り口の扉の前で止まると俺の方へ振り返って言い放つ。


「お前にそれが出来るか?」

「……」


俺に――

考えても、答えは何も出てこなかった。

下をうつむいて、分からない頭で必死に考えたが、握りしめてた拳に余計力がこもるだけだった。


「分からないのならまだ私の出る幕ではないようだな。居残らせて悪かった」


バタンと、閉まる扉を見ることもなく俺はその場にたたずんでた。




      ※




「最悪だ」


皮肉にもあの教官と同じ言葉を口にしてた。

人気のない廊下は俺の独り言を小さくこだまさせるだけだった。


「入学してまだ1ヵ月たってねえのに……」


この学舎じゃ成績のいい奴は個別に1人教官がつくシステムだ。その教官に早々に愛想を尽かされなけりゃな。


『弱い騎士は自らの為だけに戦い、騎士は誰かの為に戦う。そして強き騎士は誰も死なぬ為に戦うのだ』


「……別に自分の為にも誰かの為にも戦う気なんてなかったんだよな……」


あの青い騎士になりたくて、あの騎士団に入りたくて…誰かと戦うなんて事を、真剣に考えた事はなかった。


「たく、バカか俺は。それぐらい考えとけっつーの……いてっ!?」


突然、俺の顔面に固い鞘に入った剣が勢いよくぶつかった。


「んー?あーごめんねーちょーごめんねー全然悪気は無いんだよー」

「あぁあ?」

「うわっ、すっごい怖い顔ーちょーこわーい」

「……」


どうしよう、こいつ死ぬほどイラつく。


「自らの過ちに気づかない愚か者になりたくないのならその謝罪を改めろ、改めすぎるくらいには改めろ」

「っ!?」


いつの間にか俺の真後ろに人が立っていて、声が聞こえて来た。

気がついた瞬間、直ぐに後ろを振り返るとそこには俺達を見おろすように見つめていた背の高い男が立っていた。

こいつも、このうっぜぇチビも着ている服は俺と同じ学舎の制服。だが、こいつ等の制服の色は赤。ここの学舎は1年に2回人を集めている。冬の入学者は赤、春の入学者は青だったか制服が違うようになってたハズだ。

つまり俺より先に学舎に入った奴等って事か。


「別にいいでしょー。そもそも謝る気あんま無いしー」


駄目だ、こいつを今すぐ痛めつける事しか思考が行かねぇ。


「連れの口の悪さには目を瞑ってくれ。これはもう遅すぎるくらいには手遅れなんだ」

「……」

「君は本当に本当の事しか言わないんだねーちょー傷付くー」

「ならばまず嘘を止めることだな。嘘は酷すぎるくらいには酷い事だ。所で……」


そう言いながらそいつは、上から下まで俺の全体を観察するように見下ろした。

てか、身長でけぇ。俺もそれなりに高い方だが、確実にこいつの方が身長が上だと分かるくれぇには高かった。


「最近噂の特待生だろ?忘れていないくらいには記憶している」

「……噂?」

「はいはーい!それ僕ちょー知ってるー!『最低の特待』の噂でしょー」


………………さい…てい……?

なんだ?そういやぁ今朝誰かがそれと同じような言葉を言ってたような気がしたりしなかったり……


「きょーかんがあいつ見た目強そうなのに弱いんだよねーとか愚痴こぼしてたって言う弱ーい特待生くんの事だー」

「きょぅかぁあああああああん!!」


なんつー愚痴をこぼしてんだあの教官!普段真面目なくせに酒が入るとうぜぇ方向に性格変わんのは聞いてたが自分の生徒に何してくれてんだ!そう言やぁ愛想尽かされてもう生徒じゃなかったな!


「あはっ、随分面白い反応するなー吊り目くんはー」

「あ゛ぁああ?」


人のコンプレックスを何掘り下げてんだこの……あーなんつーんだっけこういうチビで童顔な奴は?あぁ、思い出した、ショタだショタ。

このショタの口に木刀突っ込んで黙らせてやろうか。


「お前は少し黙ってろ、黙りすぎるくらいには黙ってろ」

「はいはーい」


全く反省する気のねぇショタは楽しそうに笑いながら俺の横を通り過ぎて、睨みながらにそいつを見ている背の高い男の隣に立った。


「お前…特待なのに弱いのか」

「俺は弱くねぇよ」


こいつと同じように…いや、認めたくはねぇがこいつよりも目つきの悪い俺じゃあ睨みつけた時の印象はかなりちげーか、悪い方向に。


「何でもいい、俺は特待生に特に興味はあまり無い……が」


そいつは俺を全く見ずに通り過ぎて行ったかと思うと、その通り過ぎていく最中さなか…静かに、誰も気づかかねぇくらい小さな声で呟いた。


「君に一言言ってやろう。弱い特待ってのはそれだけで下から集団でねらわれる……つまり、足元を巣喰すくわれるぞ」

「――っ!?」


不覚にも一瞬、こいつの事を怖いと、恐怖に感じた。

こいつの声が、動きが、その雰囲気全てがまるで恐怖の塊みてぇだった。


「心の片隅に置いておくといい」


気がつきゃ、あいつ等は俺の前からいなくなっていた。

なぜだかは全く分からねぇがあいつ等とはまた会うような気がした。





      ※




「君は僕の事を嘘吐きだとか性格が悪いだとか口が悪いだとか言うけどさー僕からしてみたら、君いじょーに酷い人はいないと思うんだよねー」

「ほう、面白いな。何故そんな事に思い当たった?」

「だってさーなーにが『足元を巣喰われる』なのさー?『心の片隅に置いておけ』ってのもそー」


するとそいつは、本当に心の底から楽しそうに笑ったかと思えば、その雰囲気はさっきとは異なって気味が悪く、怪しいものだった。


「その足元を巣喰ったりすくったりするのは他でもない君なのにじゃーん」


そんな笑みを浮かべながら俺を指差したそいつから軽く目をそらすように歩みを速める。


「その通りだな。だから俺はちゃんと忠告したし、教えてやっただろう?」

「うっわー何かなぁー本当ー。正直なハズなのに酷いとかー」


そして、目的の場所の前でピタリと止まると、こいつにつられるように俺も微かにだが笑ってみせた。


「“特待”の席をとっておきたくなったからな。あいつは、席から落とすのには随分――」

「面白そう」


不意に、俺の言葉を遮るようにそんな言葉が聞こえてきた。


「とか考えてるんでしょー君はー」

「否定はしない、しすぎないくらいにはな」


さて、“特待うえ”を開けるにはまだ少し準備が足りない。


「コレを使うか」


俺はその掲示物が貼られた壁の前に立ち、ひとつの掲示物を見つめていた。




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