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とある赤毛の共鳴

子供の頃の俺は、多分いわゆる爺ちゃんっ子だったのかもしれない。


「見てみろ、青い服着た騎士達がよーく見えっから」

「……じーちゃん、騎士って何?」

「騎士っつったら騎士だ」

「?みんな剣を持って何しに行くんだ?」

「そりゃあこの国を守る為に戦いに行くんだろ」

「……あんなちっこくて細いのに国なんて守れんの?」

「お前の方が十分ちっこいし細いだろ」

「俺はおーきい」

「生意気言うな、糞ガキが」


そう笑いながら俺を肩車してくれていた爺ちゃんは、軽く空を仰ぎながら少し自慢げに呟いた。


「あの人達はな、自分の腕と信頼する仲間の存在でこの国を守るんだ」

「なんでー?」

「こらこら、暴れんな。理由は色々だな」

「色々って?」

「色々は色々だ。と言うかさっきから質問攻めだな、子供か」


子供だ。

と、心の中だけで言うと、「とりあえずもっかい見てみろ!」と言った爺ちゃんに言われるがままに列をなして歩いていく青い騎士団の姿をじっと見つめた。

すると、その列の前の方に屈強そうな人や背の高い人がいる中で明らかに違った人を見つけた。


「爺ちゃん、子供がいる。しかも女の子!」

「跳ねるな!跳ねるな!」


爺ちゃんの肩の上でその女の子を指差しながらぴょんぴょん跳ねる俺は何度か爺ちゃんの肩から落ちそうになったけど、全部爺ちゃんが受け止めてくれた。

それから、ようやく少し大人しくなった俺に爺ちゃんはいつもより楽しそうに笑いながら語った。


「そりゃあなんだっているさ、ただの騎士団とは違って王宮騎士団は完全な実力主義だからな」

「じつりょくしゅぎ?」

「身分も家柄も果ては年齢や性別さえもその騎士団じゃ全てが意味をなさないってことだ。青い服を来て、あそこを歩いている人達は誰よりも強くこの国を守るんだよ」

「誰でもあそこを歩けるのー?」

「強けりゃな」

「小っさくても?」

「そりゃ、お前だ」

「友達いなくても?」

「それもお前だ」

「びんぼーでも?」

「それは俺らだな」


それだけ言うと、爺ちゃんは歩き進んでいく騎士団の人達を追いかけるように横の道を人混みの中歩き始めた。


「そんな事お前が気にすんな。今は人の事なんざ気にせず自分の事だけかんがえてろ糞ガキめ。父ちゃんも母ちゃんもいなくなっちまったが、爺ちゃんはずっと一緒にいてやっから」

「うん」

「金が無くても貧乏でもお前だけは絶対無くさんからな」

「うん」

「だからもう泣くんじゃねーぞ?」

「っ!?な、泣かないし!泣いてねーし!」

「嘘付け、ピイピイ泣いとっただろうが」

「ちげーもん!」

「はっはは!まぁ、また泣きそうになったらここに連れてきてやるよ。青い騎士団見にな」

「……うん」

「ほら、この辺ならさっきより騎士団が近くに見えっぞ」


爺ちゃんに言われて少し目線を上げると何十人もの騎士の人達がまた見えた。

ただ、さっきよりも少しカッコ良く見えたのはきっと距離が近いだけじゃないと思う。


「かっけーな、爺ちゃん!」

「おう!かっけーな!」


きっかけなんてものは単純で。ずっと泣いてた事なんて忘れて俺は爺ちゃんといっぱい笑った。泣いてた時間よりもたくさん…笑った。




     ※




「俺は…全部の事から逃げ出しただけの……逃亡者だ」


自分でも驚くぐらい反射的にこいつの何を抱えているんだと言う質問に答えていた。


「だからあいつらのいってた事は何も間違ってねーんだよ。俺は逃亡者だし、弱ぃ――」

「それは違います」


俺が弱いと言いかけたその時。突然、こいつはキッパリと怒った口調で否定の言葉を口にした……


「いや、あなたが弱いのは違くないですが」


……訳じゃなかった。つか、言い切りやがった。俺が弱い事を否定したかのように言った後にあっさりそれを裏切る事を残酷にも言いやがった。俺が少し躊躇いながらも言おうとしたってのに。


「でもあいつらは『弱い奴が悪い』って言ったんです。確かに弱い人は弱いけど、弱さが悪なわけ無いんです」


するとそいつはスッと俺の方に近づくように歩き出した。


「だいたいさっきから逃亡者だとかなんとかばっかり…そもそも逃げるって行為を善だ悪だと言い切ること事態が間違ってんですよ」

「間違ってるって……」

「逃げなきゃいけない時もあれば、逃げちゃいけない時もある。逃げなかった方が勝ちな事もあれば、逃げた方が勝ちな事もあります」


ぴたっと、俺のちょうど目の前まで来たそいつは低い身長から俺を見上げるように見つめると、帽子で目は見えねぇがキッと睨んだかのように思えた。


「世界なんて全部『時と場合』なんです。時と場合で正しく判断する事が出来てようやく善と言えるんです」


そう言うと、怒ったみてえに睨んでいたそいつは睨むのを止めて柔らかく笑うと俺を軽く指差しながら言った。


「だから、あなたが逃げたと言うその行為は本当に全てが間違っていたのか、もう1回思い返してみてください」

「思い返す……」

「なんだったら、私が話しを聞きますよ?」

「……はっ?」


話しを聞く?なんでそんな事――


「自分の中の事を話すって言うのはきっと私達には必要な事なんですよ」


くるりと向きを変えると、そいつは俺に背中を見せて元来た方え歩きながら喋っていく。


「自分1人で抱えてるから余計傷つくんです。誰かに話して、その話しを聞いてもらう事が傷ついた人には大切なんです」

「傷ついた人ってのは俺の事か?」


突然、ピタリとそいつの足が止まった。


「……はい、あなたは…傷ついてます」

「っ!?んなわけない!俺が傷つくとか――!」

「じゃあなんで震えながらあんな悲しそうな顔をしてたんですか!!」


耳に響く甲高いこいつの声が、今までで一番大きな大声を上げる。

それはこの冷たい空気に、川の水に、俺の肌に小さな振動になって響き渡る。


「言ったじゃないですか!私が気に入らないから連れ出したって!!嫌なんですよ!あんな奴らのせいであなたがあんな風になるのを見るのは!!」

「――っ!あれだけ人の事を嫌いだとか抜かす奴がなんでそんな事言うんだよ!」

「確かに嫌いですよ!口悪いし!人の事バカにしてばっかだし!!……でも、言い争って!喧嘩して!助けてもらって!協同して……!」


気づけばまた喧嘩になっちまっていた俺らは広い川のそばで大声で言い争っていたかと思えば、こいつは急に黙り込んでまるでもどかしいみてえにぎゅっと手に力を込めていた。


「何でもくそもないですよ……嫌いだけど、嫌じゃないんです。あなたの事」

「!?」


一瞬、俺の気持ちを読まれたかのような気持ちになった。

なぜなら、心のどこかでこいつと同じ事を思っていた俺がいたからだ。どうしてそんな事を思ってる俺がいんのかは分からなかったが……

そいつは一度だけ下を向いた後真っ直ぐに俺を見つめた。


「あなたは傷ついてる。でもそれは駄目な事でも格好悪い事でもありません!誰だって傷つくんです!傷ついて傷つけて……それでも前へ進んだ人を格好いいとだけ言うんです!」


なんで…俺は今こんなに、こいつに…こいつの言葉に惹かれてんだ……

なんで…悲しくて、嬉しくて、泣きそうにになってんだ、俺は……


「ちょっとは格好いい所、見せてください」


気づけばそいつのその言葉が…俺に響いて、伝わって、届いてた。


「……お前らからしたら本当に、たいした事じゃねーぞ?」

「人が1人傷ついてるんです。それだけでたいした事です」

「すっげえバカみてーな事だぞ?」

「バカみたいな事でもアホみたいな事でも、私はちゃんとあなたを見て、あなたの話しを聞きます……」


この時俺には、懐かしむように笑ったこいつの姿があの時の騎士団と重なって、誰よりも格好良く見えた。


「私がそうしてもらったように」




     ※




こいつが俺が傷ついたと言った俺の事は本当にたいした事じゃねえ。


「騎士団に憧れて、なりたくて、剣技の強ぇ学舎に行ったんだ」


爺ちゃんが行くならうんと強えーとこに行けなんて言ったから、入学するのにも死ぬほど努力した。

だけど、努力する事も楽しかった。それが報われるのはそれ以上に嬉しかった。


「入学試験の時はそれなりに上手く行って…特待にもなれた」


だけど、あいつらにとってそれは……


「俺は、あいつらに目を付けられたんだよ」


かっこうの餌食だったんだ。




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