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言動と行動と心情。

「…はぁ…はぁ……」


川沿いの道を必死に走った。死ぬ気で走った。とにかく走った。

幸運な事に奴ら(腹黒ショタとリピート男)は追ってくるつもりはないようで、後ろには私が連れ出して来た吊り目さん以外はいなかった。


「……はぁ…し……」


死ぬほど怖かった!!

何なんですかあの変人悪役モブキャラ共は!ブラックなオーラバンバンだしよって!怖いじゃないか!

だって、男性ですよ!無駄に口の悪い腹黒ショタはまだいいとしても(ショタだから)、もう1人のリピート男なんて恐ろしさ以外の何物でもなかったよ!


まだガクガクと震える手足を軽くさすりながらついさっき起きた…というより私が起こした事を思い返していく。

昨日同様、ファイさんとの特訓が終わった後、今日は吊り目さんのレベルアップの為練習に付き合う事になってたのだけど……

いた。なんかいた、なんかすっっごいのがいた。

1人は無駄に語尾をのばす性格の悪そうな、明らかに腹黒なショタだった。うん、この時点で絶対的に近づきたく無い。『触らぬ神に祟り無し。触る変態神には制裁を』

そんな諺(?)の通り、私は物陰からとりあえず様子をうかがっていた。


そして、吊り目さんと話している2人の男性の内のもう1人は、すっごく気味の悪い男性だった。

同じような言葉を繰り返す変な喋り方。嫌な感じのする笑み。そして何より、その人を取り巻く何ともいえない雰囲気がすごく嫌な感じがするものだった。


始めは吊り目さんの友達か知り合いかと思ったけど、途中からそうじゃないと気づいた。

あの2人と向き合っている吊り目さんはなんだか弱そうに見えた。いや、実際弱いんだけど……弱そうと言うより、弱々しく見えたのだ。普段はバカみたいに強気で口が悪くて性格悪くて人を見下したような奴なのに。

今は逆に、あいつが見下されているようだった。


(と言っても、私がどうこうする訳じゃないけど……)


私は、吊り目さんの事情とかは知らないし分からない。でも、明らかに気軽に首を突っ込んでいいことではないと思う。

それに、あの2人が私の見て感じたような人物だとも限らないし、もしかしたら内面は全然違うような人物かもしれない。


やっぱり私がどうこうする事じゃないんだ。

そう、思ってた。


「おい、逃亡者」


気味の悪い声が私の耳に届くまでは。


(逃亡者…そう聞こえたけど……)


私はそっとそんな声で言い寄られている吊り目さんを見てみた。気弱で、小さく震えながら下を俯いている。

その姿が、まるで昔の私のように見えて、そうしたらあの気味悪い声で嫌な言葉を吐くあいつが…私の大っ嫌いな人間に見えた。

『自分達の都合を人に押し付けて、誰かを傷つける人間』


「弱かったから逃げ出した逃亡者。

逃げ出したから弱いままの逃亡者――」


もう、あいつの言葉の途中で私はその場から駆けだしていた。

逃亡者?弱い?

そんな事、私が知った事じゃない。確かに弱かったら何も守れない。平凡に生きる事もできない。

でも、相手が弱いからって、自分が強いからって、強く生きようとしている人を傷つけていい訳がない。


「弱い奴が悪い」

「邪魔です。通行人の存在が認識できないんですか、モブキャラさん」


今、理解した。

こいつらは私の敵だ。




     ※




吊り目さんとの逃亡劇は、どうやら後から来た恐怖に耐えきれずへたり込んでしまった私によって幕を閉じたようだ。

て言うかもう無理。いくら私でも頑張り過ぎた。人間、慣れないことをするもんじゃないと言うのに……


「おい、8歳児?」


ぐいぐいと私の手が軽く引っ張られる。

見れば吊り目さんが突然へたり込んでしまった私に、柄にもなく心配した様子で声をかけていた。

てか、手繋いだままだった。


「無理、立てない、帰りたい」


出来れば今すぐ安全で安心できる所に引きこもりたい。いや、それだと私引きこもり認定されちゃうか、自宅警備員になる気はさらさらないんですよ。

しかし、手を離す気力や体力すらも、ごっそりと削り取られたこの状況では立つ事など完全に不可能だ。


すると、私の手を掴んだままの吊り目さんは一度だけ呆れたような様子をしたと思った瞬間、グイッと力強く腕を引いた。

まばらに積もった雪で冷たい地面から膝が離れ、体が浮くかのように立ち上がらせられる。そして、まださっきの恐怖でふらふらする足取りの私を支えるかのように受け止めた。


「ばーか」

「それがこの状況下の人に掛ける言葉か、本当に取り返しがつかないレベルで口が悪いですね」

「つーか、さっきのお前も相当口が悪――」

「き、嫌いな人限定です」


ミキにはよく毒舌だとか言われるけど断じてそんな気はない。ただ、昔の…主に変態や変人や変出者に襲われてた辺りの癖であぁ言うのには手加減しなくなっただけで。

だから私は口が悪くはない……はず。


「おい、8歳児」

「何ですか吊り目さん」


皮肉っぽくそう言うと、この人が言おうとしていることがだいたい分かっていた私は軽く瞳をふせながら次の言葉を聞いた。


「……お前…何で連れ出した?」

「予想通りの質問過ぎて逆に耳を疑いますよ」


まったく、と言うともう恐怖も消えた私はグッと足に力を入れて吊り目さんの手から離れると、少し前を歩いて見せた。


「私は別に物語の主人公じゃないんです。正義の為とか言って勇気出して飛び込むなんて真似しません」


そう、結局さっきのは私の自己満足だ。それ以外の何物でもない。


「ただ本当に、あいつらが気に入らなかったんです……」


あいつらが私の中の記憶と重なってて見えた。皮肉にも、あいつの言葉が私を動かしたんだ。

そして、あいつらを敵と見なした時にはもう、私は飛び出していた。


「それとも、実はあの2人は善人すぎるほどの善人で、私がやったのは勘違いもいいとの馬鹿みたいな行為だったんですか?」

「いや…違う」

「そうですか」

「でも、やっぱりお前は馬鹿だ」


ギュッと拳を強く握り締めながら少し俯いた吊り目さんは、やっぱりどこか弱々しくて……私にそっくりだった。

その様子を見た私は、ふるふると軽く頭を振って嫌な事を頭から追い出した。そして、じっと吊り目さんを見ると小さく呟く。


「……あなたは、一体何を抱え込んでいるんですか?」


その大きいようで小さい体にどれだけの重みがかかっているのだろう。

強いようで脆い。浅いようで深い。明るいようで暗い。そんな風になるまで、一体何がこの人を傷つけたのだろう……


「別に、言う気がないのならそれで――」

「逃げた」


私が全てを言い終わるよりも先に、彼は俯いたまま悲しそうな声で言い放った。


「俺は…全部の事から逃げ出しただけの……」


逃亡者だ、と彼は言っていた。





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