とある赤毛の逃亡
うるさい。
「クローバーにはですよ!花言葉って言う素晴らしい物があって!代表的なのは『幸福』ですが、それ以外にも『真実の愛』とか素晴らしい言葉があるんです!」
「へー」
「っぁあ!話を聞く気無いですね!こちとら真剣なんですよ!」
「俺はどうでもいいんだよロリ」
「だからいい加減ロリロリ言うなぁああああ!」
すっげーうるさい。
何でこんなチビでロリで子供で生意気でバカでうるさい奴があの王宮騎士団の団員なんだよ。
「ありえねー……」
「何がですか、飽きたとか言ってないでいい加減働いてください社会不適合者」
「この世の浪人生に謝れ」
懲りもせずぎゃあぎゃあ騒ぐこいつの声は甲高くて本当にうるさい。
こいつにも友達がいないって聞いて、つい協同なんて言ったが……完全に選択を間違えた。
よくよく思い返してみれば、こんな奴とあんな協同を結ぼうと思い立ったのがそもそもの間違いだった。
『俺の修行の練習に付き合う代わりに、お前の望みを1つだけ仕方ないから聞いてやる』
んで、その望みが……
「クローバー探しとかやってられるか」
「協同ってのはお互いの利益が一致しないと成り立たないんです。こちとら2週間の内の半分をあなたに協力するのに使うんですよ?その分2倍のスピードで探してください」
「あぁ、もう。やりゃあいいんだろ」
「何で上から目線なんですか」
「お前より上だからだろ、身長が」
「……」イラッ
たく、こんな雪の降る季節にするような事じゃねぇだろ。
なんか知らねーけど、こいつの話曰わく、『ルウちゃん』とか言う奴(こいつの口振りから多分妹かなんか)の為に今時古い四つ葉のクローバーを探すらしい。んで押し花にしてあげるらしい。
そんなんもらって今時喜ぶ奴いんのか?つか、考えがベッタベタなんだよ。少しはひねる頭も無かったのかこいつは。
「変な奴……」
「なんか言いましたか吊り目さん」
「別に何も言ってねーよ8歳児」
キッとお互いがお互いを睨み合うような状態になったが、終わる気配が無いと分かった辺りでお互い顔を背けて目の前のクローバー探し作業に戻った。
しかし、変な奴と言ったのはマジでそう思ったからで、なにより本当にこいつが変だからだ。
つか、こいつは格好から既に変だった。
女のくせに男物の服やズボンを着て、長いローブを身につけてる。まぁ、ここまででも十分変だが、それ以上に一番変なのはこいつの被ってる帽子だ。
別に帽子自体が変な訳じゃねぇ、寧ろ紺色のキャップ型の帽子はこいつの身につけてる物の中じゃ一番センスがいいとすら言える。(イラつくからこいつにはぜってー言わねえけど)
なのに、こいつはその帽子に髪を全部しまって、その上目元まで全部隠れるぐらい深く被ってやがる。帽子自体はいいのに、こんな被り方したらおかしすぎて帽子に同情さえ湧いてくる。
髪も目も見えない。それどころか顔すらまともに見えないこいつのこの格好は絶対的に変だった。
「変な奴でも何でも、強ぇならいいか……」
こんな変な奴でも、俺よりちっせえ奴でも、すっげーイラつく奴でも。強くなれるなら。
あの王宮騎士団になれるなら。
「夢が…叶うなら……」
なんだってする。
なにより、もう、時間が無い。
※
結局、昨日の1時までずっとあいつのクローバー探しに付き合ってやったが、四つ葉のクローバーは1つも見つからねーまま時間がきちまった。
あいつが帰る最後の最後まで喧嘩口調で、売り言葉に買い言葉のまま別れる事になったのが、ほんの1日前。
そして今日、あいつとここで合うのも3回目になるこの日。今日はあいつが俺の修行の練習相手になる予定だが……
「不安しかねぇ……」
確かにあいつには剣を使った喧嘩ではま……負けたが、本当にあいつが修行の相手なんか大丈夫なのか?
見た目は明らかに弱そうだし、ちっせぇはほっせぇはで力も非力で……
「いや、違うか」
違う。弱くて非力なのはあいつじゃなくて俺だ。
あいつに負けた俺で。
誰にも勝てない俺で。
あそこから逃げ出した俺で――
「おい、お前そんな所で何してんだ?」
「ん?あー本当だー吊り目くんだー」
「あ゛ぁあ?」
一瞬、あいつに言われたのかと思い、目つきの悪い目をさらにキッと細めてすぐ後ろから聞こえてきた声の方を睨んだ。
だが、俺の視界に飛び込んできたのは、あいつのちっせえ姿じゃなかった。
「おめぇら……!」
「あはっ、久しぶりー元気してたー?」
「っ!?」
「ふーん、お前はまだそんな所でそんな事続けてんだな」
ギュッと自分の拳に力がこもったのが嫌でも分かった。
最悪だ。もう会うことなんて無いと思ってた、絶対に会いたく無かった、思い出したくもねぇこいつらに。
噂をすれば影、そんな言葉が頭をよぎる。
「よぉ、会いたかったぜ。合いたくないくらいには会いたかったぜ」
「僕は普通に君に会いたかったよー。こわーい、こわーい吊り目くんに」
「……」
「わぁ、怖い怖い。相も変わらず凄い目つきの悪さだねー吊り目くん。安心してーそんな君が僕は気に入ってるよー」
うるさい。
「お前の言葉には嘘が多すぎだ。言葉には気をつけろ、気をつけすぎるくらいには気をつけろ」
「そんなこと言ってー、一番言葉が酷いのは君じゃーん。相手の言って欲しくない本当のこと、たーくさんいってるしー」
うるさい、耳障り、聞きたくな――
「おい、逃亡者」
ビクッと体が反応する。
いつの間にかうつむいてた俺の目の前までやってきてたそいつは、あの頃のままの口調で嘘偽りのない言葉をまるで突き刺さすみてーに浴びせる。
「弱かったから逃げ出した逃亡者。
逃げ出したから弱いままの逃亡者。
騙されるぐらい弱い逃亡者のお前に一言…いや、人事を言ってやる」
うるさい、うるさい、うるさい。
そんな言葉聞きたくねぇ。こいつらの言葉なんて聞きたくねぇ。
自分の事が一番聞きたくねぇ!
「弱い奴が悪い」
「邪魔です。通行人と言う存在が認識できないんですかモブキャラさん」
うるさい声が、聞こえなくなった気がした。
風の音も、川の音も、心の奥に焼き付いた言葉も、浴びていた言葉さえも聞こえなくなった。何も聞こえないその空間にあいつの声だけが切り裂いた。
「は?」
「んあー?なになにー?って、なぁんだーただのちっちゃい女の子じゃーん」
「うるさいです。腹黒ショタは黙っててください」
……腹黒ショタ……
こんな時なのに、思わず笑いが込み上げてきそうになった。腹黒ショタと言われたそいつはビキッと反応していたのは確かだった。
するとあいつは軽く俺達の周りを見ると、土手の方からスタスタと降りてきて俺のすぐ近くまで来た。だが、俺の目の前に立っていて、さっきまで殆ど喋っていなかったこいつの腕で止められた。
「なんだお前」
「ただの通りすがり…ではないか。15歳の少女ですが?」
「えー嘘だーどう見ても15歳に見えないしー」
「あなたには喋ってないんですよKYショタ」
「はぁーあ?」
「お前は少し黙ってろ。少なからずには黙ってろ」
さすがに本気でイラついた様子だったが、それをこいつが一言で黙らせると、仕方ないと言わんばかりに黙った。
そして、帽子であいつの顔は殆ど見えねーが、睨み合うよう2人は立っていた。
「何の用だ?嘘付き女」
「そこの性格の悪そうな吊り目を連れ出します」
「理由は?」
「そんなの簡単です」
ぐいっとあいつは自分を止めていたこいつの手を無理矢理振り払って俺の所に手を伸ばした。
勿論その動きは止められそうになったが、あいつは叫ぶように声を上げながらそれでも手を伸ばす。
「私が気に入らないからです!!」
伸ばしたあいつの手が、俺の手を掴んだ瞬間。一瞬、あいつが笑っているように見えた。
あいつは自分を止めていた腕を完全に振り払うと俺の手を掴んだまま逃げ出すように走り出す。
「吊り目の事なんて嫌いです!性格悪いし!口は悪いし!人の言葉は聞かないし!」
「はぁあ!?」
「でも!あんたたちみたいなのが私は一番嫌いなんですよ!」
それだけ叫ぶと後はひたすら走り去った。
なぜか逃げ足だけは異様に早かった。
俺はまた逃げ出しただけだったが……始めて誰かに連れ出されて逃げ出した。
うるさいと思ってたこいつの声は、案外うるさくはなかった。




