開き直って何が悪い!
「……」
冷たい雪の月の風は、川沿いの私の髪をなびかせる。
なびく髪、雪の積もった地面、転がる木刀。そして……私の目の前で倒れている吊り目。
「…………弱い……」
弱かった、とてつもなく弱かった。瞬殺と言える程に。
あっれぇー?おかしいな。これは完全にバトルパート突入の流れだったはずなのに、10秒もしない内に戦いが終わってしまったよ?
これ本来なら冒頭から戦いが始まる所だよね?何でもう戦いが終わってるの?
てか、私達戦いの前になんか色々言い張ってたのに、ここまで早く戦いが終わっちゃったらちょっと恥ずかしいじゃないか!
すると、地面に顔面から倒れてたその人は雪の冷たさでちょっと赤くなった顔をゆっくりと上げた。
「おま…この……んで……」
「単語で話さないでください、単語で」
「何でお前みいな奴が強ぇんだよ!!」
「いや、別に私そこまで強くないし」
しかも今回の勝負はいつもの蹴り技が一切使えない剣技だ。それでもなお私が勝てたのは、本当にこいつが弱かったから。
まず始めにこいつは攻撃が単純過ぎる。
フェイントも無ければ挑発も無い、ただただ剣を振るうだけ。そんなの全部防げるし避けれる。なのになぜかこいつは私の攻撃を避けない、剣で防ぎはしてもまっったく避けない。
「バカ?バカなの?」
「お前勝てば何言ってもいいと思うなよ」
「と言うか逆に何でそんな剣技になるんですか。一体どんな練習して……」
あれ?そう言えば前にファイさんがこんな事すると、こういう剣技になっちゃうって言ってたような……何だっけ?
「とりあえず練習内容教えてください」
「はぁあ?何でお前なんかにそんなこと教えなきゃいけないんだよ」
「そう言えば追いはぎ未遂事件を起こした犯人がいましたね。ちょっと通報を……」
「あぁああああ!?てめぇ!ふざけんな!!」
「いや、事実ですし」
なんだったら連行したっていいんですよ?私も一応騎士団の人間ですし。
「教えりゃいいんだろ!教えりゃ!!」
「はい、素直なのは良いことですよ」
「お前いつかぜってー倒す」
「喧嘩でしたらいつでも買いますよ?」
できれば川に落ちない場所で。
「とりあえず誰と、どんな練習をしてるんですか?」
「……えっ?」
「ん?」
ちょっと待ってください、何でそんな驚いた顔をするんですか?
こらこらこら、そんな風に目をそらさない。ちゃんとこっちを見なさい。
「け、剣の練習は毎日やって……」
「誰と?」
「き、基礎練もちゃんと……」
「だから誰と?」
「……ひ」
「ひ?」
「1人で」
「……」
あー……分かった。
こいつぼっちだ。
「まさかとは思いますけど、友達いないんですか?」
「はぁあ!?何言ってんだ!い、いいいるに決まってんだろそんなの!!」
ぼっちだ、完全にぼっちだ。
寧ろ今のでぼっちだと認めたようなものですよこの人。
「あー…そっか、思い出した」
ファイさんが言ってたこんな単純な剣技になる訳。
そう、それは1人で練習をし続ける事。つまり言い換えると、対人戦が殆ど無いって言うことだ。
「まぁ、あなたに友達がいない理由はなんとなくわかりますが……」
この人の容姿と性格。どちらの面をとっても、友人が多いような人物には思えない。
恨みがあるのではっきりいいますが、目付きは悪いし喧嘩っ早いし口は悪いし、いいとこなしですよねーこの人。
「ぐっ……!そう言うてめぇは友達いんのか!この野郎!」
「は、はぁあ!?い、いるに決まってるじゃないですか!今はちゃんといますよ!」
「……今は?」
「!?」
しまった!?
口が滑った!くそっ!このダメダメな私の口め!馬鹿正直に『今は』なんか付けなければいいものを!
「……え?なに?まさかお前も友達いねぇの?」
「だ、だからいるって言ってるじゃないですか!私はぼっちなんかじゃな――!」
「お前元ぼっちだろ」
「あぁそうですよ!元ぼっちですよ!友達なんて1人もいませんでしたよ!!だから何だって言うんですか!それの何が悪いんですか!!」
もうバレバレですかこんちくしょう!!
こんなったら開き直ってやる!別に昔友達がいなかっただけで今は違うですからね!友達どころか親友だっていますもん!あなたとは違うんですよ!
あのミキを親友と言っていいのか些か疑問だけど!!
「お前マジで友達いないの?」
「だから元って言ってるでしょ!今はいます!」
「お前もぼっちか!」
「だから話を聞けぇえ!!」
バカ?バカなの?バカ何ですか!?
自分で元ぼっちって言っといてどうやったらその結論にたどり着くんですか!
しかも、何ですかそのキラキラと輝いた子供みたいな目は!何でさっきまでずっと仏頂面だったのにここに来て笑顔なの!?あなたの表情筋の働き所が分かりません!
て言うかちょっと不気味です!!
「はぁ、はぁ…ツッコミ過ぎて疲れた……」
「おい、8歳年齢偽装ロリぼっち」
「殺されたいんですか?」
いい加減私も本気でキレますよ?噴火しますよ?殺りますよ!?
「お前俺と協同しろ!」
「……はっ?」
※
これは違う。これでもない。こっちも……
「あぁくそっ!やってられっかこんなの!全然みつからねぇじゃねーか!」
「グチグチうるさいです。あなたが協同って言い出したんですから、文句言わずに働いてください」
あなたとごちゃごちゃやってるうちに時間も無いんです。昨日は昨日で川に落ちたりして結局何も出来なかったんですから。
「ニートにだってそれくらい出来ますでしょう?」
「誰がニートだ」
「あなたですが?」
「俺はニートじゃねぇ、浪人だ」
「つまりは無職じゃないですか」
「ニートと無職を一緒にすんな。俺は就職準備中だからニートじゃねぇんだよ」
どっちにしろ無職な事に変わりはないですがね。
まぁ、そんな事を言ったらまたうるさい小言をグチグチと言われそうなので黙っておきますが。
そう、話に聞けばこいつは就職に失敗した就職浪人と言うやつらしい。
しかも、その失敗した就職先と言うのがまた驚きで、何を隠そう王宮騎士団なのだ。私がこの世界に来る前の春に騎士団の試験を受けて、で落ちた。
そりゃあもうズタボロだったようなのだけど、その辺はこいつの最後のプライドが壊れてしまうので割愛。
「……てめぇ今なに考えた」
「えっ?いや、何のことですか?」
「バカにすんなよ!だいたいてめぇみたいな奴が騎士団にいるのがおかしいんだよ!!」
「いや…その辺には色々と事情が……」
「事情ぉ?」
「そ、そんな事、今はどうでもいいんですよ!いいからさっさと――」
多少所々に雪が積もっている川沿いの道。そんな所で2人しゃがんでぶちぶちと草を摘んでいく。
「制約通りさっさと働いてください」
「飽きた」
「働けニート」
「ニートじゃねぇって言ってんだろうが。こんな地味でいつ終わるかもわからないような作業なんざやってられるか」
「じ、地味とか言わないでください!私なりに真剣に考えた結果なんですよ!」
「はっ」
は、鼻で笑うなぁああ!
あなたこそその人をバカにしたような態度は何なんですか!悪いですか!何か問題がありますか!
「四つ葉のクローバーとか今時古いんだよ」
「っ!?」
自分でもやや感じていた事を言われてしまい、一気に顔が熱くなる。まるで、恥ずかしい秘密を暴露されてしまったみたいだ。
「頭の中まで幼いのかおま――」
「だ・ま・っ・て」
「……お前なんで赤面して――」
「うるさい!うるさい!うるさぁあい!いいじゃないですか!四つ葉のクローバー最高じゃないですか!ハッピーリーフですよ!」
「落ち着け……」
「誰のせいですか!誰の!」
私が思いついた唯一の考え。
ルウちゃんへの誕生日プレゼント。
押し花。
四つ葉のクローバー。
「それの――何が悪い!!」
ベタですよ、ベッタベタですよ!だからなんだってんだ!




