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喧嘩と怒りは紙一重。

どうやら彼がしようとしたのは追いはぎでも略奪でもなく、ただ単に私の持っている懐中時計を見せてほしいと言う物だった。

……なら最初から素直にそう言えばいいものを、どうしてあんな勘違いされるような言い方しか出来ないんだろ…――って、私が言えた事じゃないか、絶対的に。

大事な所で誰かに気をつかって、全然素直な態度がとれないせいでアルトさん達に迷惑ばっかりかけてるのだから。


「て言うか、いくら何でも身ぐるみはげなんて言い方はおかしいような……」

「うるさい、他に言い方が思いつかなかったんだよ!いいから早くその服の下にある懐中時計を見せろ!」

「それが人に物を頼む態度ですか……まぁ、そう言うことならいいで――」


と、そう言いかけながら服の下にある懐中時計へ手を伸ばしたその時。ふと、あることに気付いた。

……この人、私の懐中時計なんか見て何する気何だろ?


(はっ!?もしかして!昨日の恨みを込めて懐中時計を真っ二つのバッラバラのボッロボロにする気じゃ――!)


私の頭の中では懐中時計を両手でバッキリ折っているこいつの姿が思い浮かんだ。

しかし、そこまで考えた所で、はたと考え直す。


(いやいや、さすがにそんな極悪非道の悪人みたいな人がいるわけ……)


いるわけ…………

私は目の前のそいつを上から下までじっくりと見た。

真っ赤な赤毛はハネていて、キッと睨まれているようにしか見えない目つきの悪い吊り目。身長もそれなりの高さがあって、そこそこしっかりした体格。しかし、それ全てが何故だか恐ろしい雰囲気を出している。

と言うか、どこからどうみても……


「悪人……」

「あぁあ?」


こ、この人に、大事な懐中時計なんか渡したら駄目だ!絶対ろくな目に遭わない!!


「絶対駄目!!」

「はぁあ!?お前今いいって言い掛けただろ!」

「うっ!た、確かにそう言い掛けたけど駄目になったの!!」

「なんだよそれは!」

「だいたいあなたもまともに頼んでもいないじゃないですか!文句言われる筋合いはありません!」

「い・い・か・ら脱げ!見せろ!!」

「イ・ヤ・だ!この変態悪吊り目!!」

「誰が変態だ!この年齢偽装ロリ!」

「私のどの辺がロリだ!どこからどうみても大人っぽい少女でしょうが!」

「はっ!自分の姿鏡で見てから物を言え!」

「それはあなたも同じだっての!その吊り目を鏡で確認してきなさい!!」


いつの間にか私達はお互いがお互いの頬をつねりながら、ぐぐっと睨み合っていた。抓られている頬はジンジンして痛いけど、ここで私が引いたら負けた気がして絶対嫌だ!

この人と喧嘩をする気はなかった筈なのに、気が付けば昨日と同じような口喧嘩が始まってしまってる。


「別にお前なんかに興味はねぇ、いいからその服の下に隠してる懐中時計を見せろ!」

「だ・か・ら、それが嫌だって言ってんですよ!あなたに大事な懐中時計を見せるなんて自殺行為でしかない!」

「いい加減年上を敬え8歳児」

「私とあんたは同い年ですよ!同い年!」


私は今年で16歳だから、下手すりゃ私の方が年上ですよ!年上だろうが年下だろうがこいつにだけは絶対下手したてに出たくない!


「それに人に物を頼むときは『お願いします』って言うのが正しいんじゃないんですか?」

「――っ!?……お」

「お?」

「お願いします!!」

「……えっ?」


突然言われた言葉にびっくりして、不覚にもパッと抓っていた手を離してしまった。

そんな私の様子を見たその人はキッと私を睨みながら文句を言った。


「んだよ、まだ何かあるのか」

「いや…本当に言うとは思わなかった」

「てめっ……!」


だって、この人の性格からしてそんな簡単に「お願いします」何て言うような人じゃない筈だし。

そこまでして懐中時計を見ようとするなんて……壊す訳じゃないのかな?

何でそんなに私の懐中時計にこだわるんだろう?


「いいから!言ったんだからさっさとお前の持ってる騎士団の懐中時計を見せろ!」

「あっ…そっか……」


さすがに、ここで見せないと言う訳にもいかないし、私は少し不安だったけど、素直に服の下から懐中時計を取り出して、手渡した。

銀色に輝いている騎士団の懐中時計をまじまじと見るその人を見ていた時。ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。

……騎士団?


「何で私の懐中時計が騎士団の懐中時計だって知って……」


見せたのなんてほんの一瞬だったし、だいたい私みたいな騎士団にいるはずのない女の子が騎士団の懐中時計を持ってたのを見たって、普通見間違いだと思うはず。なのに何で……?


「……そんなもん、俺が見間違える訳ねーだろ」


パチンと懐中時計の蓋を閉めると、私の目の前にそれを突きつけながら今までで一番怖い目つきで私を睨みながら深く、荒々しい声で言い放つ。


「なんでお前がコレを持ってんだ」

「な、なんでって……」

「コレはお前みたいな奴が持てるような物じゃねー筈だ」

「これは――!」


それは私が騎士団の団員だからなんだけど……でも、そんな事こんな怖い人に軽々と言っていいのかな?

しかし、その人はそこまで言い切るとそれまで強気で気が立っていた様子だったのに、突然何かを悲しむような、こらえるような……それでいて、怒りをぶつけるような様子で俯きながら呟いた。


「んでだよ……なんでお前みたいな弱そうな奴がコレを持ってんだよ!!」


弱そうな…奴……

その言葉に私はカッとなり、その人に対抗するかのようにキッと睨み返した。

私…私は……!


「私は弱くなんかない!!みんなを!大事な人達を守る為に私は戦ってるんだ!」


弱かったら何一つ守る事も、大切な物を失う事も、ただただ平穏でいる事も出来ない事を知ってるから。だから…私は弱くなんていられない!

なのに……


「私がそれを持ってるのは私が騎士団の団員だからだ!騎士団で大事な人達の役に立ちたくて!それと同じぐらい強くなりたいから、私はそこにいるんだ!!」


無意識に、服の裾をギュゥと掴みながら高ぶる激情を言葉にして溢れ出させた。

その人は一瞬だけびっくりした様子を見せた後、またさっきと同じように私を睨みながら真剣な声色で言った。


「……じゃあ、それがどこまで本当か証明してみせろ」

「証明……」


その時、ビュゥウッと雪の月の冷たく刺すような風が吹いた。

その風にうながされるようにそいつは私に背を向け、さっきまで休んでいた場所から何かを2つ取り出した。

そして、再び私の前に来るとその内の1つを私の足下に落ちるように投げた。


「お前が騎士団の…しかも王宮騎士団の団員だなんて俺は信じない」


それは、少し細身の…それでいて長さのある木の剣……木刀ぼくとうだった。

私と、あいつの2つ分……


「別に、信じなくたっていい。ただ…私を弱いと言わないで!」


私はその木刀を手にとって目の前に立つそいつに向ける。

相手は既に木刀を持って構えていた。

お互いがお互いを睨みながら一段と強く気を入れる。

戦って全てを証明する為に。




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