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私と親友は今日もおかしなようで。

フローリア家の玄関のでポタポタと落ちていた雫が凍ってるんじゃないかと思えるほど冷え切った体を軽くさすりながら当たりを見渡した。


(さて、どうしようか……)


今のこの状況、誰かに見られたらちょっとばかし厄介やっかいだ。

昔、ロリコン痴漢事件の時に怪我して頭に包帯装備で来た日なんてフレアさんやテナさん…発狂してたからなぁ……


「よし、とりあえずこっそり部屋に戻って――」

「戻って?」

「……」

「戻・っ・て?」

「き、着替えを済まして何事も無かったかのように隠蔽をしようと……」

「まぁ、どっちにしろリリアの部屋にはルウちゃん様が遊ぶ気満々でスタンバってるから、その作戦は根本的にアウトなんだけどさー……」


玄関の私からは死角になってた位置に座り込んで顎に手を当てて私を見ているミキ。

きっとその顔はどこぞの副団長に似て無駄な笑顔なのだろう。今はその笑顔が死ぬほど痛い。グッサグサ刺さる。


「で?何でリリアはこんな雪の日にずぶ濡れになって帰ってきてんの?」

「あー……えっと。も、黙秘権の行使を……」

「拒否する」

「容疑者の権利をあっさり否定!?」

「少なくとも、僕はご主人みたいに簡単に丸く収められる程性格良くないから」

「ストーカー行為の時点で精神病んでるしね」

「……兄さんよりマシだから。と言うか、僕が何だって?」

「イエ、ナニモ!!」


言葉ひとつひとつが妙に重たい。

くっ、どうやら今日のミキは一段と手強いようだ。バッサバッサと私の言い分が切り倒されていく。

いやしかし、何だろ?手強いと言うより今日のミキは何かが変だ。こう…全体的にピリピリしていると言うか……不機嫌?


「あのさミキ…まさかフレアさんと何か……」

「……」

「と言うか、ミキがこんな玄関先でうずくまりながら私を待ってたのって……」

「うぅ~……」


そんな呻き声を出したかと思うと、急にバッとさっきまでうずくまっていたミキが私の方に飛びついた。

思いっきり、全力で、全開で、半泣きで。


「リリアァアアーー!」

「って、慰めかぁあああああ!!」

「フレアに嫌われたぁーー!!」

「嫌われる訳あるか、このバカップル!」

「リリア酷い!ちょっとは慰めてよ!」

「2日に1回どころか、下手すりゃ1時間おきにやってくるような奴への慰めはもう無い!」


しかもミキとフレアさんの交代交代で来られた日には私はストレスで死にそうだよ!来るならせめていっぺんに来なさい!


「毒舌リリア!」

「なんとでも言うがいい」

「てか、リリア冷たっ!服も全部ずぶ濡れだし」

「慰めに抱きついてくる奴が言うな!」

「だってフレアが僕に向かってバカって叫びながら逃げてくんだもん」

「へっ?」


それは新パターンだ。基本、この2人のいざこざは、ミキのフリーダムな行動と言動にキャッチオーバーになったフレアさんが逃げ出してしまい、ミキが嘆きフレアさんがへこむと言うのが通常運転だ。

なのに今回そんなフレアさんがミキに対して『バカ』と叫ぶなんて……


「ミキ、フレアさんに何したの?」

「……別に何も?」

「まさかフレアさんに手を出したりなんて…ついに獣に成り下がったとか……」

「少しくらい僕の言い訳を信じようよ!」

「だって言い訳何でしょ?」

「うっ……ほ、本当に今回はそんな大したことはしてないをだってば」

「じゃあフレアさんがミキに『バカ』なんて叫ぶまで一体何したの?」


私がそう問い詰めると、ミキは分が悪そうに目線を逸らしつつもゆっくりと口を開いた。


「……てた」

「はっ?」

「フレアの寝顔を見てただけだよ!」

「嘘だね」

「断定早っ!?」

「フレアさんの寝顔なんてミキは腐るほど見てるじゃん」

「フレアは可愛いから見ても腐らない」

「それはともかく、さっさと本当の事を暴露しなって」

「だから本当の本当にフレアの寝顔を見てただけなんだって!」

「……その時のフレアさんの格好は?」

「ワイシャツ1枚」

「よし分かった。ミキが悪い」

「何でぇえ!?」

「いやぁ…さすがにそれは……」


私でも叫ぶような状況だし、なんだったら蹴り上げてるし。

ワイシャツ1枚で眠るフレアさんは確かに可愛いだろうし、綺麗なのだろうけど……それを人に、ましてや好きな人に見られたら、いくらフレアさんでも罵倒のひとつくらい出るだろう。


「――っと、総じて全てミキが悪いと言う訳」

「と言う訳じゃないって!これから僕どうすれば……」

「誠心誠意心からの謝罪をするしかないでしょ」

「寧ろ見てただけでとどまった僕をほめて欲しいくらいだよ」

「それを誉める人がいたらその人はただの変態だから」


反省する気が無い…と言うより自分が悪い事をしたという自覚がないのか。本当、ミキはフレアさんの事になると前が見えないんだね。恋は盲目と言うけれど、ミキの場合フレアさんを思いすぎるが為に現実に対して何か特殊なフィルターがかかってない?


「とにかく、ミキがちゃんとフレアさんに謝れば許してもらえるって」


なにせ、今頃フレアさんは絶賛後悔中なのだろうし。

てか、フレアさんまでもが私の所に来る前に解決してほしい。


「本当にちゃんと謝れば許してもらえるかな?」

「許してもらえる、許してもらえる。だから……」


ずぶ濡れの格好のままミキに泣きつかれて抱きつかれて、寒いは冷たいは服はベタベタで気持ち悪いはと良いことなしのこの状況。


「いい加減私を解放してほしいんだけど」

「あー…そうだった。とりあえずお風呂入る?」

「お風呂……」


ミキの言うお風呂と言うのが私とミキが計画中のアレの、事なのだとしたら……


「って、新しい奴完成したの?」

「まだ使ってみてはないけど、いい機会だし試してみる?」

「前みたいに有り得ないぐらいにまで温度上がらないよね?」

「今度の術式は大丈夫だとは思うけど……うん、保証は出来ない!」

「うわぁ、超不安」


大丈夫な事を信じる気もさらさらない神様に願いながら私とミキは玄関から歩き出した。

私とミキの友情と言う物は深いのか浅いのか若干分からない気もするが、今は気にしない事にしよう。




     ※




……しまった。


「懐中時計の事…忘れてた……」


あんなに物思いに走りながら来たって言うのに、ミキとのやりとりのせいで完全にすっぽ抜けてた。

シリアスムードはどこ行った。


「リリアー?着替えたー?そろそろルウちゃん様をなだめるのも限界で……どうしたの、そんなに青ざめて?」

「ミキ……助けて」

「はっ?」


私は懐中時計の事もあったので、ミキにはそれまでの経緯を話した。

騎士団が休みになったから特訓の後に川沿いまで行ったこと、そこであいつに出会ったこと、思いっきり口喧嘩をしたこと、そのまま川の中にダイブしたこと。そして……懐中時計が壊れしまったこと。


「はぁ…ご主人が聞いたら卒倒しそうな事のオンパレードだね」

「うぐっ!ア、アルトさんには内緒にしといて」


そんな話しを聞いたらアルトさんがブラックオーラ全開で怒ることは目に見えてる。

はっきりいってめちゃくちゃ怖い。


「それは分かったけど……んー…問題はこの懐中時計だね」


ミキは私が手渡した懐中時計を細かい所までじーっと見つめると、ひとつの結論を口にした。


「うん、やっぱりこれ壊れてないよ」

「えっ!?」


壊れてない……!

ミキのその言葉が私の心の中をぐるぐると動き回る。


「そもそも、この懐中時計はそう簡単に壊れる物じゃなかたった筈だよ。ご主人だってずっと使ってるんだし。ただ、川に落としちゃったせいで砂か何かが詰まって歯車の動きを止めちゃってるんだと思うよ」

「……」


壊れてる訳じゃない、要はその詰まっている何かを取り出せば懐中時計はまた動くようになるのだろうけど……


「ど…どうやって取り出すの?」

「…………さぁあ?」

「駄目じゃん!?」

「駄目だ!」


あぁあああああああー……!もどかしいっ!!あと少しで直るかもしれないのに!その方法が分からない!

一旦分解して…いや、元に戻せる自信が全くない。そもそもどうやって分解したらいいのかすら分からない。


「あっ!そうだ、リリア!」

「なに!」


唐突に何か閃いたのか、ミキは嬉しそうな笑顔で提案した。


「ご主人なら直せるんじゃないかな!」

「ご主人って…アルトさん?」




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